自衛隊派遣問題

反対の意見

松野明久

 今年6月半ば、防衛庁は東ティモールでの国連PKOに自衛隊を参加させる意向であることを明らかにした。それからすでに4ヶ月。日本の中で、東ティモールで、さまざまな意見が出された。反対意見も当然出た。しかし政府は10月22日、600人規模の施設大隊の派遣を決定し、11月にも準備開始を指示する予定だ。


全国協の申し入れ

 東ティモールに自由を!全国協議会は7月16日、派遣反対の申し入れ書をたずさえて防衛庁をたずねた。申し入れは、平和主義にもとづき、憲法論議が十分でない事実をふまえて「自衛隊の海外派遣そのもにに同意できない」と述べた上で、東ティモールへの派遣にとくに反対である理由を次のように提示した。

(1)現行PKO法の下では、紛争当事者の停戦合意やPKOへの承認が必要だが、日本政府は紛争当事者を特定する意思と能力を欠いている。
(2)上記紛争当事者の停戦合意とPKOへの承認、それへ日本が参加することの承認を要求したPKO法第3条がみたせない。
(3)コストを考えたら、自衛隊より民生支援を優先すべきで、その方が東ティモールにとって有益だ。
(4)東ティモールに対する戦争責任を明らかにしていない。謝罪、賠償、補償のいずれも行わないで軍隊を派遣するのは非道徳的だ。

 応対した防衛庁運用局運用課国際協力室の竹丸道雄氏は、紛争当事者の特定と停戦合意の有無を明確にすることは必要だが、それを行うのは内閣府PKO事務局が調査役となり政府として総合判断が下されると語った。独立後の東ティモールPKOの「仮想敵」は何かという質問に対しては、まだ国連からの正式な要請もないので研究していないとのこと。さらに(1)に関して、住民投票の際UNAMET(国連東ティモール派遣団)に派遣された日本の文民警察官は、投票結果発表後騒乱が起きたとき、他国の警察官に比べていち早く撤退を決めさっさと帰国してしまったが(結果発表は9月4日、彼らの撤退は5日)、日本は本気で東ティモールの治安維持に貢献する気はなく単なる実績づくりのために派遣したのではないかとの質問に対しては、要員の安全確保は国連の指揮権をこえて日本が判断を下す権限をもつ問題なので、今後も緊急時には独自の判断で要員の引き揚げを行うことがあるとの返答だった。
 全国協議会とは別に、アジア太平洋資料センター(PARC)が中心となってまとめた日本の団体・個人の声明、日本のカトリック3司教によるベロ司教とマヌエル・カラスカラォン国民参議会(NC)議長にあてた書簡が、自衛隊の東ティモール派遣に反対している。

PKO法第3条

 日本が(自衛隊だけではない)国連PKOに協力するにあたっては、その中立性を保つためにPKO法3条で参加条件を規定している。3条1にいわく、日本がPKOに参加できるのは「武力紛争の停止及びこれを維持するとの紛争当事者間の合意があり、かつ、当該活動が行われる地域の属する国及び紛争当事者の当該活動が行われることについての同意がある場合」だ。ただし、「武力紛争が発生していない場合においては、当該活動が行われる地域の属する国の同意がある場合」とされる。
 東ティモールの国連PKOで、紛争当事者とは誰か?
 一方は東ティモールあるいは国連暫定行政そのものだろうが、もう一方は反独立派民兵かインドネシア軍だろう。いずれにせよ、政府は防衛庁の返答にある「紛争当事者の特定と停戦合意の有無を明確にする必要」がある。それをやらないと、第3条はみたせない。しかし、反独立派民兵組織が停戦合意を明確に表明したとも、国連PKOを認めたとも聞かない。
 9月10日、ジャカルタを訪問した中谷元防衛庁長官はハムザ・ハズ副大統領らと会談し、自衛隊の東ティモール国連PKO参加についてインドネシアは歓迎するとの返事をもらった。果たしてこれは、紛争当事者としてのインドネシアから承諾をもらったということなのか。(それとも単に利害国の一つとしてのインドネシアから外交的承認をとる必要があったということなのか。)もしインドネシアを紛争当事者とみなすのであれば、必要なのは東ティモールとの間の停戦合意だが、こちらはムードとしては理解されるが、正式なもの(平和協定など)はまだない。この辺のあいまいさが日本外交のあやうさで、結局副大統領の口頭での返事で「停戦合意」と「みなす」つもりなのだろうか。
 もし、政府がインドネシアは紛争当事者ではないというのなら、反独立派民兵組織と交渉しそこから停戦合意、日本のPKO参加承認を取り付けなければならない。第3条はそれを要求している。第3条はダテに存在しているのではなく、日本の中立性・平和主義を実現する手続きなのだ。

東ティモールのNGO

 シャナナは7月13日、毎日新聞に答えて「日本がPKFに部隊を派遣するなら歓迎する。日本からの派遣を拒む理由はない」と語った。しかしその時、彼は「インドネシア派の民兵、つまり独立に反対する者たちがインドネシア側に存在する。したがって東ティモールの治安維持には当分の間PKFが必要だ」と述べている。シャナナは明らかに反独立派民兵を紛争当事者とみなしている。(常識的にはそう考えるのが自然だろう。)
 ラモス・ホルタにいたっては8月22日、共同通信に対して自衛隊を歓迎すると語り、東ティモールは第二次大戦中の日本軍のやったことを問わない、とまで付け加えた。
 もちろん「派遣を拒む理由はない」わけではない。8月29日付けで東ティモールの12団体が小泉純一郎首相・田中真紀子外相あてに、派遣反対の声明を出した。反対は日本国憲法9条にもとづくものではなくて、東ティモール人として第二次大戦中の日本軍の行為にかんがみてのことだと断った上で、以下の4項目をあげている。

(1)日本は第二次大戦中に東ティモールでしたことについて認めるべきだ。
(2)派遣には反対だ。自衛隊の東ティモールPKF参加は過去の傷を呼び覚ます。派遣よりも大戦中の苦悩とインドネシア占領下の犠牲をいやすためにこそ予算を使うべきだ。
(3)東ティモールの現在の治安状況からして自衛隊派遣は必要ない。
(4)国境の治安問題は政治的にこそ解決すべきで、日本はインドネシアと東ティモールの関係安定のため果たすべき外交的役割がある。PKF強化は西ティモールの住民の反発を呼ぶ。

 これにはヤヤサン・ハック(人権)、サヘ解放研究所(民主主義)、フォクペルス(女性)、エトウェイブ(女性)、学生連帯評議会(民主主義)、GFFTL(女性)、ラオ・ハムトゥック(モニタリング)、ハブラス(環境)といったよく知られたNGOが名を連ねている。
 日本軍の残虐行為はそれなりに人びとの記憶にある。とくに各地に慰安所をつくって若い女性を慰安婦にした歴史は、他のアジア諸国の例とたがわず、東ティモールでも深い傷となって残っている。日本はそのことについて何もしていない。そうした歴史で傷を負った人たちはもはやかなりな高齢だし、今の東ティモールの指導者たち(政治的、経済的、文化的)とつきあっている分にはそうした声を直接に聞くこともないだろう。しかし、それはそうした声が「ない」ということとは違う。
 東ティモールのNGOの声明は、日本の憲法9条のことは言及しない、としている。東ティモール人がものを言うのに日本国憲法9条を持ち出すのは確かに難しいのだろう。しかし、私が声明に参加したある団体のリーダーと話をした時、自衛隊派遣問題について、「自分たちはもう軍隊はうんざりなんだ」と聞かされた。私の方から話を切りだしたわけではない。そうした気持ちが彼らに強いのだろうと思う。それが項目(4)に上がっている。軍事的にではなくもっと外交的に政治努力で問題を解決できないのか、という思いは東ティモール人のこれまでの経験からして当然のことだ。インドネシアの軍事侵略・占領をあそこまでほったらかしにしておいて、今さら軍隊派遣で東ティモールの平和に貢献しようなんて。この24年間の紛争の経緯と国際社会の反応(とくに日本の)を知っている人には「ウソ!」としか思えない。項目(4)は、憲法9条を持ち出してはいないけれど、その理念と一脈通じる論理ではないかと思う。もっと本当はやれること、やるべきことがあるんだ、ということだ。

施設部隊ならいいのか

 ラモス・ホルタはNGOの声明に対して、自衛隊が派遣するのは工兵隊で今ちょうどパキスタン部隊がやっているような道路修復などを行うのだと反論した。しかし、これでは東ティモールのNGOが出した4点のいずれにも答えていない。日本の戦争責任については、戦闘部隊か工兵隊かで違いはでない。(3)についても、もしラモス・ホルタが治安の改善を認めるなら、道路工事などますます民間業者にやらせればいいということになる。
 中谷元防衛庁長官は9月26日(時事通信)「同国(東ティモール)の平和のために何ができるか真剣に検討していきたい」と述べた。日本がこれまで東ティモールの平和など眼中になく、インドネシアとの関係悪化をさけるために東ティモールを犠牲にしてきたことは誰もが知っている。それを反省もしなければ、精算もしない。本当は東ティモールの防衛などする気はないが、実績だけはつくりたい。それを受け入れさせるために援助をたくさんする。まさにお金で人の意見を買う行為。これを恥ずべきことと言わないで、何と言うだろう。★

(注記)東ティモールのNGO声明の日本語訳はアジア太平洋資料センターのホームページで読むことができる。http://www.jca.apc.org/parc/
 また、東ティモールに自由を!全国協議会の申し入れは、次のロロサエ情報ホームページの「全国協」のコーナーで見ることができる。http://www.asahi-net.or.jp/~gc9n-tkhs/


情報活動販売ホーム5号の目次