<現地レポート>

東ティモールの体感的物価状況

文珠幹夫


 インドネシア軍と民兵の焼き討ちから2年が経過した。マイナスからの出発と言われた人々の生活の一端を物価から少し見てみようと思う。3週間程度の短い滞在であったが、できる限り東ティモール人経営の店で買い物し、食堂で食事をした体感的東ティモールの物価状況である。体系的に調査したわけではないので、その辺りを考慮しながら読んで欲しい。

巷はまだルピア

 最初に、東ティモールで通用している貨幣の話をしておく必要があると思われる。 UNTAETは米ドル使用令を出し、ルピアの使用を禁止した。ホテルや外国人がよく利用する店、レストランでは米ドルの支払いであるが、東ティモールの大多数が利用する店や食堂ではほとんどがルピアの支払いである。ドルの支払いも受け付けてくれるが、東ティモール人がドルの支払いをしている姿を見ることはほとんどない。また、為替レートの情報がほとんど伝わっていないためか、ドルで支払おうとすると戸惑った表情をされる。

値上がり

 東ティモールの誰に聞いても、物価は大変上昇したと答えが返ってくる。農産物以外はほとんど輸入品と考えられる。農産物の一部も輸入品である。インドネシア不法占領時代はそれらはインドネシアから入ってきていた。2年前、住民投票以前の物価はインドネシア(西ティモールなど)のそれとあまり変わらないと感じられた。インドネシアも物価は上がっている。米の値段で見ると、2年前は1kgで2000-2500ルピアであったが、現在、東ティモールでは5000ルピアである。なお、インドネシア・バリ島では3000-3500ルピアである。
 公共料金の一つ小型バス(ミクロレット)の乗車料金は500ルピアから1000ルピアになっていた。首都ディリではタクシーが増えた。ほとんどが白タクだ。料金は近距離(3kmくらいまで)1ドル、ちょっと遠距離2ドル(3〜6km)の2種類。ルピアで支払うと70%くらい高くなるのは不思議である。さらに遠方へ行くのは交渉次第。他の代表的公共料金、電気、水道代は現在のところ無料である。なお、電気料金は近々徴収するとの話が出ている。但し停電、断水は日常茶飯である。


二重経済構造

 2年前には見られなかった現象がある。特に首都ディリで経済の2重構造ができあがっていたことである。UNTAETの職員を含め外国人向けの店と東ティモール人向けの店の間に明らかな差異が見られた。UNTAETの外国人職員の給与などの経費は欧米並である。それを当てにした商店やレストランが多数出現していた。経営者の多くはオーストラリア人かシンガポール人である。品揃えはまずまずで、贅沢を言わなければ大抵のものは揃う。品物はシンガポールやオーストラリアからの輸入品がほとんどである。野菜や果物も輸入品であり、総じて値段は日本で買うのとほとんど変わらない。家電製品は韓国製品が多く、中には日本メーカー名の製品もあったが、(ラベルを調べられなかったが)製造国はおそらくマレーシアと思われる。レストランのメニューは日本のレストラン並とは行かないがかなりの種類がある。値段は焼きめし程度は3ドルからあるが、5ドルから10ドルくらいである。なお缶ビールは2ドルである。いずれにせよ一般の東ティモール人には手の出ない価格である。ちなみに就業している東ティモール人の給与は1ヶ月100-150ドル程度である。
 一方、東ティモール人向けの店や食堂では外国人の姿を見かけることは少ない。食堂での品目は少ない。東ティモール人がよく食べているミー・バッソ(肉団子の入ったラーメン)は5000ルピア(70円弱)程度である。おかず3品(肉料理、魚料理、野菜料理)とご飯で15000ルピア(200円)
くらいである。東ティモール人の支払いを見てい
ると5000-10000ルピア(70- 130円)くらいである。おもしろいのは食堂の価格がUNTAET本部の近くがやはり高く、遠ざかるに従い価格が下がることである。ディリの周辺部と比較すると1.5倍程度の開きがあった。パンやピサン・ゴレン(バナナの天ぷら)などは1ヶ1000ルピア(13円)であった。
 商店の品物はインドネシア製品か中国製品が多く見られた。日用雑貨、例えばサンダルは7000ルピア(90円)程度である。品質はあまり良さそ
うには見えなかった。東ティモール人も不満を口にする。野菜や果物など食料品の品揃えも貧弱であった。東ティモールで活動している友人のWが「東ティモールの市場にワクワク感を覚えない。熱帯地域の市場では熱帯性フルーツが山のように積まれているのが普通だが、東ティモールの市場では、バナナやパパイヤ、マンゴ、アボガド、スターフルーツといった果物が申し訳程度においてあるだけである。野菜を見ても種類は少ない」と語ってくれたが、本当に品目、量ともに少ない。価格は小ぶりのバナナ一房(8本程度)で3000ルピア。野菜は一山(物によるが500g程度)5000ルピア程度である。農業生産の回復が芳しくないのかもしれない。しかし、バウカウなど農業生産が比較的ましと思われる地域では、ディリより種類もあり量も多く値段は2割程度安く感じた。

さて、これからは?

 全般的に2年前と比較すると1.5倍〜2倍程度の物価上昇を感じた。失業率の高さを考えると東ティモールの人々の日常生活は大変だと思われる。ホームレスやストリート・チルドレンは私の見た限りでは見受けなかった。
 この10月からUNTAETは部分撤退を始める。まず25%程度撤収するらしい。外国人向けの商店、レストラン、ホテルなどは需要が激減する。本来なら東ティモールに落ちると思われた金を、言葉は悪いが、かっさらって東ティモールを去るのであろうか。いずれにせよ二重経済は解消に向かうであろう。★


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