民話

オッスの王の声
The voice of the Liurai of Ossu


 100年ほど前のこと、オッスの王(リウライ)はマウベレの民が崇拝していたライフル銃を侵略者に贈り、この先二度と戦争に行くことはないと宣言しました。
 マウベレの森は聖なる寺院であり、秘密に満ちています。500年もの間、いろいろな国からやってきた人びとが、それらをまったく理解することなくこれらの土地を横切っていきました。よその国から来た人たちが、どれほど多くを見たり聞いたりしても、マウベレの民の内面や習慣を理解するにはいたりませんでした。それらを理解するためには、もっとよく見、よく聞かなければなりません。そして何より、声の放つ輝きを理解しなければならないのです。
 マウベレの民の秘密や企ては、幾世紀にもわたり、家族、神父、王や長老たちによって守られ、必要なときだけ明かされてきました。マウベレの民はこうしたことがらを知っており、時代を越えて語り継いできたのです。けれども、異国の者は誰一人、マウベレの歴史の奥深くまで見抜くことはできませんでした。
 そういうわけで、マウベレの民についてはほとんど知られることなく、またたくさんの秘密の本当の意味について、人びとにより明かされたことでさえ、完全に説明されることはなかったのです。
 オッスの王の行動もそうでした。
 およそ70年前、王はマウベレの民が崇拝していたライフル銃を侵略者に贈ることを決めました。慣わしとなっている儀式をすべて終えると、長老や神父たちに囲まれたオッスの王は何年もの間しまわれていた神聖な森から銃をもってくるよう言いました。それは2メートル半もある単式銃でした。王の行為は侵略者に一種の敬意を表しているように見えました。そして彼は実に謙虚な気持ちから言っているようでした。
 「われわれにはもう武器は必要ではない」
 「なぜだね?」侵略者がたずねました。
 「なぜなら、われわれはもう二度と戦争をしないからだ」
 王のことばを長老や神父たちが繰り返しました。
 「なぜなら、われわれはもう二度と戦争をしないからだ」
 他の王や長老、神父たちが確固たる口調でそれを繰り返しました。
 「なぜなら、われわれはもう二度と戦争をしないからだ」
 しかし、こうしたことばは常に森の中ではなく、森の外で発せられました。森の中では人びとはただ自由の歌を歌いました。
 今日でさえ、少年少女たち、そして男たち女たちは、森の中では自由の歌を歌います。そして人びとは今も、木々のざわめきとあいまって、オッスの王が自由の歌を歌っている声が聞こえると言います。

(訳:七芽なな)


出典:Cantolenda Maubere (The Legends of the Mauberes), Fundacao Austronesia Borja da Costa, Lisbon, 1988.


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