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民話


戦士を弔う歌

The Song of the fallen warriors


 遠い昔から、マウベレの民は、戦死した敵の戦士の頭をきりおとすことを、戦の習わしとしていました。しかし決して、勝った側が負けた側の生き残りをそうした、ということではありません。
 何世紀にもわたって、マウベレの民の地はいくつもの王国に分断され、お互いに戦争をしていました。そして、戦士が敵の手におちると、この頭をきりおとす儀式が行われました。
 戦死した者の頭をきりおとすのです。マウベレの民は、決して、首狩り族だったのではありません。
 頭をきりおとす習わしは、降伏や休戦のあと、勝利を祝うためのものではありませんでした。それにはもっと深い意味があったのです。それは死んだ敵の戦士に対してなされた宗教的な儀式でした。
 そのころ、マウベレの民は、頭を魂の宿るところだと信じていました。もし戦死者の頭がからだにくっついたままだと、その人の魂は未来永劫、うち捨てられたままになると考えられていたのです。頭をきりおとすことは、愛情、尊敬、そして信仰からくる行為だったのです。
 儀式は厳粛に行われました。戦士は足をひらいてすくっと立ち、できるだけ高く刀をふりかざします。そして、ころがって土埃にまみれたりしないよう死者の頭をおさえながら、力強い一太刀でからだからきりおとしました。そして、彼はその頭を洗い、太陽の方に顔を向け、くすぶる炎の上にかざしました。
 ご詠歌と踊りが、儀式をもりあげました。
 和平が結ばれると、それまで戦っていた者たちは、戦死した相手の戦士の頭をそのリウライ(王)のもとに届けました。それもまた厳粛な儀式としてとりおこなわれ、勝ち負けを誇示するものではありませんでした。
 むしろ、こうすることで、死んだ戦士に永遠の安寧がもたらされると信じられていたのです。死者の名前が唱えられ、荘厳な祈りが詠唱されます。
 「魂に幸あれ!」
 「魂に幸あれ!」
 他の島々にまでこだまするよう、人びとは繰り返し詠唱しました。
 「魂に幸あれ!」
 「魂に幸あれ!」

(訳・七芽なな)


出典:Cantolenda Maubere (The Legends of the Mauberes), Fudacao Autronesia Borja da Costa, Lisbon, 1988.


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