第57会期国連人権委員会

議長声明でインドネシアに要請


議長声明

 ジュネーブで開かれていた53ヶ国政府で構成される第57会期国連人権委員会は、4月20日(金)、東ティモールについて「議長声明」(Chairman's Statement)を採択した。
 議長声明は決議よりは弱いが、当事国も合意しているので実効性が期待できるという考え方がある。ただし東ティモールに関して、インドネシア政府が議長声明を決議より尊重したという形跡はとくには見られない。いずれもほとんど実行されないからだ。
 議長声明は、とくにインドネシア政府に対して次のように述べている。

・インドネシア政府が行っている人権侵害調査の具体的ステップを歓迎する。
・提起されている臨時人権法廷が被疑者を裁判にかけるよう要請する。
・臨時人権法廷のキャパシティ強化のため国連人権高等弁務官事務所と行なっている協力を歓迎する。
・UNTAETとインドネシア政府が協力する必要がある。
・昨年9月6日のUNHCR職員殺害と東ティモールの国連への攻撃を非難する。
・インドネシアの裁判が国際基準に適合することを期待する。
・民兵の武装解除・解散を要請する。
・難民が自由に帰還を選択できる環境を保証し、難民登録が国際基準にそって透明なものであるよう要請する。

 今回の議長はアルゼンチンの外交官、レアンドロ・デスプイだった。彼はかつてアルゼンチンが軍事政権下にあったとき亡命し、20年近くも海外で人権問題に取り組んできた良心派外交官だ。国連人権委員会の非常事態に関する特別報告者を長年つとめた。東ティモール問題はなじみの問題だったはずだ。
 議長声明は、臨時人権法廷でちゃんと容疑者を裁くようにと「釘をさした」と解釈できるが、現状をみるとほとんど実行しそうにない気配のインドネシア政府に対することばとしては「現状容認」のシグナルとも受け取れるあいまいさがある。

ジュリアナ・ドス・サントス

 シャナナ・グスマォンの妻、カースティ・ソード・グスマォンは今回の人権委員会で、西ティモールに誘拐され民兵の性奴隷にされている16才のスアイ出身の少女、ジュリアナ・ドス・サントスの問題について陳述した。このことは議長声明には反映されていない。カースティによると、インドネシア側はフォローアップするとしながら、何の返事もないという。(別記事を参照)

日本での外務省申し入れ

 日本ではNGOが集まって外務省に申し入れを行った。(申し入れは次ページ)
 申し入れを行った3月14日、外務省南東アジア2課の担当者も、これまでインドネシアが時限をくぎってやるといってやれてない実状はみとめざるをえないと言っていた。しかし、1999年の人道に対する罪をさばく「臨時人権法廷」の訴追は4月には始める予定だとのインドネシア側の言い方を引用した。もちろん今となっては、これもまた例によってインドネシアが公言して実行できなかったことのひとつになってしまいそうだ。★

(松野明久)


国連人権委員会(第57会期)東ティモール問題に関する要請


河野洋平外務大臣殿

 昨年(2000年)4月25日、国連人権委員会第56会期は、一昨年(1999年)の住民投票前後における東ティモールの状況に関して、基本的人権及び国際人道法に対する侵害の体系的な調査の必要性を確認しながらも、インドネシア政府から東ティモールで犯された「人道に対する罪」の処罰を同国内で行う姿勢が示されているとして、その進捗を見守るという議長声明を発表しました。しかしながら、この、「人道に対する罪」の裁判に関するインドネシア政府の動きは、現在に至るまでほとんど進展を見ていません。UNTAET(東ティモール暫定行政機構)のセルジオ・デ・メロ代表と東ティモール暫定外相ジョゼ・ラモス・ホルタ氏も、今年の2月23日、ジャカルタを訪問した際にこの問題について警告を発しています。
 こうした状況に鑑み、私たちは、日本政府が、国連人権委員会のメンバー国として、まもなく開催される国連人権委員会第57会期において、東ティモールにおける人権状況に関して発言を行なう際に、また、東ティモールに関する決議あるいは議長声明が採択される際に、以下の点を提案するよう、ここに要請します。

1. 東ティモールにおける「人道に対する罪」と「戦争犯罪」を裁く国際法廷の設置

 国連はインドネシアによる東ティモール占領を認めてこなかったのであるから、インドネシア占領下においてインドネシア軍や警察によりなされた人権侵害は元来国際問題である。また、一昨年東ティモールで犯された「人道に対する罪」と「戦争犯罪」を、インドネシア政府が体系的に裁くことは、インドネシア軍の妨害や保守派が大勢をしめるインドネシア議会の反対等により実質上不可能になっている。さらに、インドネシア側はインドネシアとUNTAETの相互了解覚書に基づきUNTAET司法当局が要請している「犯罪人引き渡し」も拒否している。
 こうした事情を踏まえ、また、昨年1月に公表された国連東ティモール人権調査団の報告書は国連及び国際社会の責任のもとでの国際法廷設置を勧告していること、及び、コフィ・アナン国連事務総長及びメアリー・ロビンソン国連人権高等弁務官が「インドネシア政府による体系的な捜査、訴追、処罰が失敗したときには国際法廷の設置を考慮する」と述べていることを想起し、東ティモールに関する国際法廷の設置を働きかけること。

2. 西ティモールにいる東ティモール人難民の速やかな帰還

 西ティモールに残された10万人とも13万人とも言われる東ティモール人難民の帰還は、昨年9月にUNHCR職員が殺害されて以来、ほとんど停止した状態にある。国連は民兵の武装解除と難民キャンプからの撤退を求めているが、インドネシア当局は、すでに民兵は公式には解散した、治安は回復したと繰り返すのみで、民兵の武装解除と解散を進めていない。けれども、昨年11月西ティモールを訪れた国連安保理訪問団は民兵の存在が依然として難民帰還の障害となっていると報告している。
 こうした状況に鑑み、西ティモールにいる東ティモール人難民の自由かつ速やかな帰還を実現すべく国際的な努力を促すよう働きかけること。
 また、インドネシア政府に対し、西ティモールの難民居住区をはじめインドネシア領内で活動する東ティモール人民兵の武装解除と解散を強く求め、犯罪者の逮捕を含め、難民の自由かつ速やかな帰還及び移動を実現する条件を整えることを要請すること。

3. 国際社会の責任明確化

 インドネシア占領下の東ティモールにおいてなされた「人道に対する罪」及び「戦争犯罪」の調査訴追にあたって、大規模な人権侵害に関与していたインドネシア政府及びインドネシア軍に資金や武器、外交的援助を提供した諸国の責任明確化も進めるよう積極的に働きかけること。
 東ティモールを巡る過去及び現在の人権侵害を国際的な枠組みにおいて調査・解明し、責任者を不処罰のまま放置しないことは、四世紀にわたる外国支配から解放されようやく国家建設に着手する東ティモールにとってのみならず、移行期の困難に直面しながら民主化をめざすインドネシアにとってもきわめて重要です。
 日本政府は、一昨年の第1回「東ティモール支援国会議」の議長国として、またその後の「支援国会議」を通して、東ティモールへの積極的な支援をアピールしてきました。新世紀にあたり、新たな一歩を踏み出そうとしている東ティモールへの支援の一環として、人権侵害に対して正義がもたらされるよう貢献することにより、日本政府もまた新たな一歩を踏み出されることを心から期待します。

2001年3月14日

東ティモールに自由を!全国協議会
 札幌東ティモール協会
 仙台東ティモールの会
 東京東ティモール協会
 名古屋YWCA東チモールを考える会
 東ティモール支援・信州
 大阪東ティモール協会
 東ティモールの声を聞く会〈岡山〉
 善通寺東チモールと連帯する会
 呉YWCA東ティモール問題を考える会
 下関・東チモールの会
 アジアと日本(私たち)の関わりを見つめる会〈大分〉
 東ティモールと連帯する長崎の会
 日本カトリック正義と平和協議会

賛同団体:
 N-WIP(ながさき女性国際平和会議)
 市民外交センター
 社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
 アムネスティ・インターナショナル園田グループ
 カトリック正義と平和横浜教区協議会
 カトリック浦和教区「正義と平和協議会」
 日本インドネシアNGOネットワーク
 インドネシア民主化支援ネットワーク
 平和の手
 ピースネットニュース
 財団法人大阪キリスト教女子青年会(大阪YWCA)
 APECモニターNGOネットワーク
 日本カトリック司教協議会東ティモールデスク
 日本キリスト教女子青年会(日本YWCA)
 アジア太平洋資料センター


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