かたちをもち始めた東ティモール政治
NCメンバー一覧表付き

 国民参議会(NC)における議論が進行するにしたがって、東ティモールの政治勢力がかたちづくられてきている。それは過去の歴史をひきずっている。政党登録が始まった今、見え始めた政治地図とはどのようなものだろうか。

松野明久


国民参議会(NC)

 国民参議会は36議席あり、2000年10月20日にセルジオ・デ・メロ特別代表によって任命された際には2議席(専門職代表と政党代表1議席)が空席のまま34人でスタートした。(現在どうなっているかは確認できない。)34人が何を代表しているかは代表者一覧をみていただきたい。13人が県、6人が民間団体、3人が宗教団体、12人が政党を代表している。
 7つの常任委員会をもちそれぞれ(1)予算・財政、(2)政治、(3)外交・防衛、(4)インフラ・経済、(5)内政・社会、(6)司法・警察・緊急支援、(7)規約・手続きとなっている。
 政党代表が全体の3分の1しかいないので、議論が政党ベースで進んでいるとはいえない。県・民間団体・宗教団体代表がどの政党に近いのかもよくはわからない。しかし今の段階では大きく分けて3つの方向がみえる。フレテリンとそれに近い勢力、社会民主党とそれに近い勢力、統合派などその他の勢力の3つだ。

フレテリンとそれに近い勢力

 フレテリン(東ティモール独立革命戦線)の議長はルオル。副議長のマリ・アルカティリは経済担当大臣をつとめる。他にダビド・シメネスが有名。独立運動のパイオニアとして知名度はナンバー・ワン。しかし1988年以降、シャナナの下で抵抗勢力は脱政党化の道を歩みそれが東ティモール民族抵抗評議会(CNRT)を生みだしたが、その過程でフレテリンの主導権は徐々に低下した。そのことをフレテリンは快く思っていない。
 現在、フレテリンの分派が2つある。
 ひとつは、フレテリン初代党首で「東ティモール民主共和国」(1975年に独立宣言)大統領だったフランシスコ・シャビエル・ド・アマラルのグループだ。アマラルは1976年、フレテリンが山中で抵抗運動を続けていたときにインドネシアとの交渉を主張して党首の座を解任され、その後インドネシアに捕まって(あるいは投降して)統合派のスポークスパーソン役もつとめた経歴があるが、まだカリスマ的人気がある。4月には新しい政治グループを立ち上げる予定だ。(名称は「フレテリン-ASDT」かティモール民主党(PDT)になるらしい。ASDTは1974年に設立されたフレテリンの前身「ティモール社会民主協会」。)しかし、マリ・アルカティリはこうした分派行動に警鐘を発している。
 もうひとつはCPD-RDTL(東ティモール民主共和国擁護人民委員会)。総コーディネーターはアントニオ・アイタハン・マタク。1975年の独立宣言を正当な自決権行使とみなし、住民投票にも反対、その結果も受け入れないという主張をもつ。(フレテリンは住民投票には賛成した。)ラディカルな民族主義グループといえるが、CNRT支持者と暴力的事件をおこしたり、シャナナやセルジオ・デ・メロに暗殺予告を発するなど活動がおだやかでない。こうした反平和主義的な傾向から、インドネシア軍との関係が噂されている。しかしリーダーのひとりクリスティアノ・ダ・コスタは1987年に東ティモールから亡命し、翌年国連人権委員会で証言した青年活動家で、現在インドネシア軍から指示を受けて活動しているとは考えにくい。ただ国民党(PNT)のアビリオ・アラウジョがこのグループの支援者といわれ、アラウジョも全面的には否定していない。アラウジョはかつてフレテリンの海外代表部長(リスボン)をつとめていたが、サンタクルス虐殺後インドネシア派に寝返り、住民投票では自治派(つまり独立反対)を自称した。
 フレテリンと直接的関係はないが、系譜としては近い社会党(PST)は、党首アベリノ・コエリョ・ダ・シルバが参議会メンバーとなっている。アベリノは理論家として地下組織の中でも一目おかれる存在だったが、ジャワでの爆弾製造事件に関与したとして追われる身となりジャカルタのオーストリア大使館の中に長く保護されていた。(爆弾製造事件はその後インドネシアの法廷で全員無罪放免。)彼は抵抗運動がCNRTとなって脱政党化・脱イデオロギー化していくのに対抗して、「ティモール社会主義協会」(AST)を立ち上げて、独立運動の理論武装を主張してきた。ただしCNRTの主流派からは分派行動とみなされる傾向があった。

社会民主党(PSD)とそれに近い勢力

 マリオ・カラスカラォンが総裁。ジョゼ・ラモス・ホルタも結党に参加している。基本的方針は中道勢力の結集にあり、もとをたどればラモス・ホルタが1974年の時点で構想していたフレテリン・UDT連合にその基本コンセプトがある。そういう意味でCNRTの主流派を引き継ぐことになりそうだ。マリオ・カラスカラォンはもともとはUDTの指導者でインドネシア占領下で第3代州知事をつとめたが経済通で知られる。事務局にはUDTの若手指導者でCNRTのヨーロッパ代表をつとめたザカリアス・ダ・コスタがいる。つまりかつてのUDTリベラルがむしろ主流をしめる。したがってUDTを吸収する可能性もあるだろう。
 国民参議会にはアジオ・ペレイラがいる。アジオはオーストラリアのシドニーに拠点をおくNGO、東ティモール救援協会(ETRA)の事務局長をつとめたが、それは同時にCNRTの広報担当でもあった。フレテリンからCNRTに移ったという点で、シャナナやラモス・ホルタに近い。
 社会民主党に近い勢力はUDT(ティモール民主同盟)だ。インフラ大臣をつとめるジョアォン・カラスカラォンはUDT党首。マリオは彼の兄。また辞任したシャナナのあと国民参議会議長になったマヌエル・カラスカラォンはその兄だ。この3兄弟は合流する可能性も大きい。

統合派などその他の勢力

 かつては統合派だったグループも国民参議会に参加している。和解を推進したい国連が参議会に含めたものの、制憲議会で実際に議席を獲得できるかどうかは難しいところだ。リーダーに個人的忠誠を誓う人たちの集まりだといえる。
 まずコタ(東ティモール戦士協会)。1974年にアポデティから分かれてジョゼ・マルティンスがつくった政党で、インドネシア軍に利用された以外、意味ある政治勢力だったことはない。ジョゼ・マルティンスはすぐにインドネシアを裏切ってその後ポルトガルに長く住んだが、1997年に久しぶりにインドネシアに行ったとき、謎の交通事故死をとげている。現在、かつては統合派でインドネシア国内人権委員会の委員をつとめたことのあるクレメンティノ・ドス・レイス・アマラルが指導者で、国民参議会も彼がメンバーになっている。
 次にアポデティ(ティモール人民民主主義協会)。インドネシアとの統合を訴えた政党としてよく知られているが、これからは統合を主張するとはないと言明している。参議会メンバーはロレンティノ・ドミンゴス・ルイス・グスマォン。
 さらに労働党(トラバリスタ)も復活している。これもコタと同じでインドネシア軍に利用されただけのグループだった。詳細はわからない。
 東ティモール人民戦線(BRTT)の参議会メンバーはサルバドル・シメネス・ソアレス。BRTTは住民投票の際、統合派の統合組織としてフランシスコ・ロペス・ダ・クルスを代表としてつくられた。CNRTとのバランス上急ごしらえでつくられた団体で、現在勢力をもっているとはいいがたい。ロペス・ダ・クルスもインドネシアに逃避したまま戻ってこない。サルバドル・シメネスは新聞「スアラ・ティモール・ロロサエ」(東ティモールの声)の社長。
 国民党(PNT)は党首がアビリオ・アラウジョ、参議会メンバーがアリアンサ・コンセイサォン・デ・アラウジョ。アラウジョの個人的追随者が中心の政党。ただしアラウジョはビジネスマンとしてスハルト大統領とも親しかったので資金的には潤沢なようだ。国民党は「第三の道」と称して、独立ではなく、さりとてインドネシアのいうようなかたちだけの自治でもない、本当の自治をめざした統合派としてアピールしたが、東ティモール内で支持を広げた形跡はない。
 統合派ではないが、キリスト教民主党(UDC)が誕生し、参議会にメンバーをひとりおいている。プロテスタント教会牧師で東ティモール問題について論客のひとりだったアルリンド・マルサルも指導者に名を連ねている。カトリックが大半をしめる東ティモールではプロテスタント教会はマイノリティーで、しかもインドネシアの手先といったイメージをもたれているため、支持を広げるのはむずかしそうだ。

シャナナは?

 シャナナはまだどの党に入るか明言していない。それどころか、大統領選には出馬しないと繰り返し言明し、3月28日には、国民参議会議長および参議会メンバーの職を辞任してしまった。参議会を中心とした政治的議論に辟易したのだろう。
 シャナナの国民的人気は疑いようのないものであり、大統領選に出ればおそらく勝利するだろう。ただ、CNRTの指導者たるシャナナの政治的立場はその主流派がつくったといえる社会民主党に近い。
 結局、現在ある政治勢力の大きな対立軸はフレテリン対社会民主党であり、これに社会党やUDTがどうからむかによって地図ができあがることになる。この対立軸はこれまでの独立運動内部における路線をめぐる論議をそのまま反映している。簡略化していうと、フレテリンかCNRTかという問題だ。
 東ティモールの中では1988年末のCNRM(マウベレ民族抵抗評議会[CNRTの前身])の結成、シャナナのフレテリン脱退、ファリンティルのフレテリン離脱といった抵抗運動の脱政党化、脱イデオロギー化、国民化が進行し、シャナナはそのリード役となった。海外ではこうした動きはラモス・ホルタ、アジオ・ペレイラによって代弁されたが、リスボン、オーストラリアを中心に活動してきたその他のフレテリンやUDTの亡命政治家たちはこうした変化をなかなか受け入れることができず、CNRMの存在を快く思わなかった。
 CNRMはフレテリンの幹部がフレテリンを離脱してつくったわけだから、とくにフレテリンのCNRMに対する感情は複雑なものがあった。律儀なマルクス主義者であったはずのアビリオ・アラウジョはのちにスハルト大統領に急接近して統合派に寝返るが、その動機のひとつにフレテリンを侮辱した(と彼が感じた)シャナナとラモス・ホルタのフレテリン脱党があったと言われている。アビリオは統合派になったことで、マリ・アルカティリら他のフレテリン幹部によって党を追放された。しかし、海外のフレテリン幹部のシャナナやラモス・ホルタへの対抗意識は根強く残った。
 現在、CNRTは総裁がシャナナ、副総裁がマリオ・カラスカラォン、ジョゼ・ラモス・ホルタとほとんど非フレテリン系で独占されている。CNRTはいずれ解散するが、そうなった場合、その主流派は社会民主党に流れる可能性が高い。
 ただし社会民主党は都市エリート層を主たる基盤としているようなイメージがある。マリオ・カラスカラォンやラモス・ホルタといった有能なエリートは国際的基準も理解しており、そのことで国連のパートナーとしての役割をうまく果たしている。しかし、独立後政治の「東ティモール化(ないしは土着化)」は確実にやってくる。そもそも都市人口が少なく、中間層の成長もおぼつかない東ティモールで、村落部を含めたどれだけの人に支持されるか、改めて問われることになるだろう。
 一方、フレテリンは1975年の独立運動世代にはかなりな支持者がいると思われるが、インドネシア占領下で育った若い世代には、フレテリンの急進的路線がインドネシアの介入を招いたとする見方もある。選挙権が17才からある東ティモールでは若者の票はかなり大きな意味をもつ。基本的には無党派が多い彼らの動向が注目されるところだ。★


国民参議会代議員一覧
2000年10月20日時点

●13県代表

1. Francisco Martis (Aileu)
2. Alexandrino Xavier de Araujo (Ainaro)
3. Manuel da Costa Pinto (Baucau)
4. Lucia Pina (Bobonaro)
5. Maria Odete P. Faria (Dili)
6. Egidio Maia (Ermera)
7. Albino da Silva (Lautem)
8. Jesuinha da Oliveira (Liquisa)
9. Aguida Alves do Rego (Manatuto)
10. Adriano Corte Real (Manufahi)
11. Ana Paula Sequeira (Oecussi)
12. Maria Nunes (Suai)
13. Joaquim dos Santos (Viqueque)

●7民間団体

1. 実業界
Manuel Viegas Carrascalao
President of ACAIT (Commercial, Agricultural and Industrial Association of East Timor)

2. 農業界
Maria Teresinha Viegas
ETAVFA (East Timor Agriculture, Veterinary, Fishery and Forestry Association)

3. 労働団体
Eusebio Guterres
Head of LAIFET (labour organization)

4. 専門職団体(空席)

5. 学生・青年組織
Gregorio de Cunha Saldanha
President of OJETIL

6. ティモールNGOフォーラム
Aniceto Guterres
Founder and Director of Yayasan HAK

7. 女性ネットワーク
Milena Pires
Member of Executive Committee of Fokupers, co-founder of REDE (East Timorese Women's Network)

●3宗教団体

1. カトリック
Rev. Mgr. Jose Antonio da Costa
ディリ教区司教代理

2. イスラム
Imam Muslim
バウカウのイスラム教徒コミュニティ

3. プロテスタント
Maria de Fatima Wadhoomall Gomes
Head, Evangelical church, Assembly of God Church

●政党

1. Kay Rala Xanana Gusmao*
2. Agio Pereira (PSD)
3. Alexandre Magno Ximenes (UDC)
4. Avelino Coelho da Silva (PST)
5. Clementino dos Reis Amaral (KOTA)
6. Laurentino Domingos Luis Gusmao (APODETI)
7. Maria Angela Freitas (Trabalhista)
8. Salvador Ximenes Soares (BRTT)
9. Alianca Conceicao de Araujo (PNT)
10. Cipriana Pereira (Fretilin)
11. Jose Estavao (pro-autonomy)
12. Maria Lacruna (UDT)
13. (空席)

*3月28日に辞任。


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