<自衛隊>

東ティモールに派兵された自衛隊の現況

文珠幹夫


 毎回、自衛隊を海外派兵するとき、日本の市民団体や国会で大きな議論となり、反対・抗議運動が起こる。政府は自衛隊をなんとしても海外、特にアジアへ派兵する既成事実を積み重ねることを目的として画策してきた。日本政府はアジア諸国への侵略・植民地支配への謝罪・賠償問題、第2次大戦の敗戦後処理を不十分なまま放置してきた。その上でのPKOを理由にした自衛隊海外派兵は物議をかもしてきた。特に東ティモール派兵はPKO5原則に抵触するとの議論があった(季刊・東ティモールNo.5参照)。さらに過去における日本政府の東ティモール敵視政策も問題であった。それらは既号(No.5,7)で議論されているので、ここでは、自衛隊が東ティモールで何をしているのかを記しておきたい。
 2002年4月、自衛隊は東ティモールに上陸した。2004年3月までの2年間東ティモールでのPKO・PKF活動に伴う道路補修などを行うことになった。既に2001年外務省付きという身分で数名の自衛隊幹部が東ティモールの状況を調査に来ていた。
 また、2002年4月には政府連絡調整事務所ができ、外務省、防衛庁とは別に内閣府が直接PKO、PKFの情報収集を行い始めた。自衛隊の大部分は陸上自衛隊施設部隊であるが、輸送に海上自衛隊、航空自衛隊も一部参加している。但し海上自衛隊や航空自衛隊は東ティモールPKOとは別の指揮系統に入っている。
 派兵部隊は半年交代である。現在は2期目の部隊が東ティモールに派兵されている。
 派兵数は680名。展開状況は以下の表の通り。
 本部はディリの中心部から西方へ10kmほど離れたタシトル地域にある。昨年独立式典が行われた会場の西隣である。日本から運ばれたとおぼしきコンテナ類が多数置かれている。ゲートの前には小銃を持った兵士が数名警備している。日中は30度をゆうに超えるが、ヘルメットと迷彩服を着用している。他国の兵士に比べて律儀に見える。対応は、かなり警戒をしているが丁寧である。もし、説明を受けたければ、事前に予約すれば敷地内のプレスルームとおぼしいところで説明を広報自衛官から受けることができる。昨年、4月に会った第1次派兵隊隊長の小川一等陸佐は「見学されたければ、何時でも来て下さい。ご案内します」とのことであった。
 自衛隊PKO業務の年間予算は約60億円。ちなみに東ティモール政府の国家予算は約7千万ドル(約85億円)である。自衛隊の活動は「自己完結型」で、基本的に東ティモール人と協力したり、雇うことなく全てを自前で行う。60億円/年の予算は、かなりの部分が自衛官の人件費と生活費と考えられる。自衛隊が東ティモールから去った後、道路などは残るが、120億円のかなりの部分は東ティモールに残らず、東ティモールのGDPには貢献しないと思われる。


首都ディリ本部管理中隊                第1施設中隊    約340名
ボボナロ県マリアナ地区(インドネシア国境中央付近)  第2施設中隊    約110名
コバリマ県スアイ地区(インドネシア国境南側付近)   第3施設中隊    約110名
オエクシ県(インドネシアに囲まれた飛び地)      第4施設中隊    約110名
他 司令部要員                                 10名


 なお、東ティモールPKFの構成を簡単に記しておく。東ティモールPKFは治安維持(5個歩兵大隊)、航空支援群、兵站支援群、施設群からなる。2004年までに順次撤退する。その中で、自衛隊はPKF後方支援業務を担当する施設群に属し、治安維持活動に必要な道路、橋梁などの維持、補修を行う。また、UNMISET(国連東ティモール支援団)の指示により民政支援事業(Civil Military Affairs)の一部(大部分は道路等の補修・整備)を行う。道路の補修は(東ティモール全土の)6.7%を担当するらしい。 ボボナロ県ではパキスタン軍の後を引き継いで道路補修(マリアナの南北)を行っている。コバリマ県では道路補修(ディリからアイレウとアイナロを経てスアイまで)を行っている。シンガポール軍PKFの飛行場改修とスアイ空港(ヘリ用)整備もしている。
 オエクシ県では韓国軍(約440名)と共同し、PKF宿泊施設建設と道路補修(オエクシ市内とボボメトからハミンまで)、市場補修を行っている。自衛隊はヨルダン軍の後を引き継いでいる。バングラデッシュ軍も活動している。オエクシへはインドネシア側がしぶっているため、陸路から入れない。韓国の民間船により軍事物資が運搬されている。なお、韓国軍は3ヶ月に1度LSTが韓国から派遣され軍事物資を補給している。
 その他、給水場の工事をディリ・コモロ地区(3,200t/日の内100t/日分)とスアイ(170t/日の内60t/日分)で行っている。また、ラウテン県(東部)の橋梁を補修。リキサ県(西北部)ではグラロア河の橋と河川の修復。ディリでカメア川の修復とクリストレイ・ビーチの道路障害物撤去(不発弾処理)。ディリ・ヘリポートの修復、オーストラリア大使館とアメリカ大使館の土嚢設置(“テロ”対策)。これは昨年オーストラリア大使館への脅迫があったことにともなうものだ。
 自衛隊が持ち込んだ車両数は281両、各施設あたり95両が配備されている。車両の内訳は、小型ドーザー(5トン)9台、中型ドーザー(11トン)7台、油圧ショベル10台、トラッククレーン(20トン)5台、運搬車(幅2m)やパケットローダー等である。これら機材、車両は撤退時東ティモールに引き渡される。そのための機材、車両の教育をリキサとディリで2002年12月21日まで行い、終了したとのことである。但し、補修部品供給を行うかは不明である。
 今回の派兵にあたって政府・防衛庁は東ティモールに軽機関銃10丁を持ち込んだ。これも国会で問題となった。現在その軽機関銃は、ディリに4丁、マリアナ県、コバリマ県、オエクシ県に各2丁配備されている。
 カンボジアなどの自衛隊PKO派兵では様々な不祥事が生じたと噂されていた。その轍を踏まぬためか、今回の派兵では、東ティモールに「気を使っている」のではと思えることがある。ボボナロとスアイに展開している施設中隊には禁酒令が出ている。ディリ市内には「夜の商売」を生業とする外国人が入り込んでいる(昨年10月には国外追放になった者も出てきた)。その場所を事前に調べていたらしいとの噂もある。また、近隣の人々と「交流」をはかっているとか、敷地内の草むしりなど簡単な作業をさせたり(労働契約などをせずに行ったため問題となった)している。しかし、その一方で東ティモールで活動している日本のNGOメンバーの写真を撮影したりと、諜報活動とおぼしきこともしている(上の写真参照)。
 今後も、自衛隊の活動を慎重にウオッチして行きたい。★


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