季刊・東ティモール 1号(October 2000)
裁判の行方
インドネシア検察庁は、昨年の東ティモールでの人権侵害事件の容疑者を発表した。しかしウィラント国軍総司令官(当時)、ザッキー・アンワル少将といった責任者はそのリストからはずされた。インドネシアに果たして裁判はできるのか。
19人のリスト
9月1日、インドネシア検察庁は19人の容疑者リストを発表した。今年1月に提出された国内人権委員会東ティモール人権侵害調査委員会の報告は33人の取り調べが必要だと勧告していたが、それから比べるとかなり少ない。この容疑者リストには元国軍総司令官ウィラント大将、ザッキー・マカリム少将、民兵組織「アイタラク(棘)」のリーダー、エウリコ・グテレスは含まれていなかった。
アスマラ・ナババン国内人権委員会事務局長は、兵士たちはウィラントに事前に知らせることなく行動をとることはありえないはずだとして、このリストに失望を隠さない。調査委員会の委員をつとめた人権活動家ムニルは、このリストを出して国際社会の反応をみようというつもりだと分析した。
国連東ティモール暫定行政機構のセルジオ・デ・メロ代表は、さらに容疑者が発表されるものと理解していると言い、シャナナ(CNRT総裁)はインドネシアには時間を与えるべきだとしてひとまず歓迎のコメントをした。しかしジョゼ・ラモス・ホルタ(CNRT副総裁)はエウリコ・グテレスが含まれなかったことに不満を表明し、マリオ・カラスカラォン(CNRT副総裁)も不十分だとコメントした。
9月4日の「テンポ・インタラクティフ」によれば、東ティモール人権侵害合同調査委員会の事務局長をつとめたアドリアヌス・メリアラは、検察庁が発表したリストにウィラントが含まれていなかったことに驚いたという。委員会が検察庁に出した最初のリストにはウィラントが含まれていた。それをどういう理由でか、マルズキ・ダルスマン検事総長がはずした。ダルスマン検事総長は、ウィラントもまだ容疑者となる可能性があることを示唆し、内外からの批判を一時的にかわそうと試みた。
憲法修正条項
ところでインドネシアの国民協議会が行った憲法第28条の修正条項、すなわち新しく発布される法律は過去にさかのぼって適用できない、いわゆる遡及的非適用の原則について、被告将校たちの弁護団長をつとめるムラディ元法相は、弁護団としてはこの憲法修正条項をもって主張しない、裁判はこのまま行われるべきだと述べた
エウリコを追加
10月2日、エウリコ・グテレスが19人の容疑者リストに追加された。同時に元ディリ県軍司令部司令官トリアトノ准将と2人の民兵もリストにのった。これで容疑者は合計23人になった。
検察庁によるこの事件の調査は法律にしたがえば10月17日までに完了しなければならず、もしできない場合、ケースそのものをあきらめなければならない。検察庁は17日に調査を終了しその後分析しているとのことで、次週に裁判スケジュール、容疑者などをすべて発表すると言った。しかしその週にはついに発表されなかった。
引き渡し要請
10月11日、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)はエウリコ・グテレスの引き渡しを求めた。昨年4月5日のリキサ教会襲撃事件、4月17日のマヌエル・カラスカラォン宅襲撃事件に関連して国連が彼を手配したからだ。インドネシアとUNTAETは容疑者引き渡しについて覚書を交わしており、これにもとづいた要請だが、インドネシア政府は引き渡しを拒否した。
インドネシア国内ではエウリコを英雄扱いし、引き渡しを拒否するよう呼びかける政治家がいた。アミン・ライス国民協議会議長(国民信託党総裁)、アクバル・タンジュン国会議長(ゴルカル総裁)の2人がその筆頭だ。
とくにアミン・ライスはエウリコはインドネシアの英雄であり、彼を引き渡すことはインドネシアが自分で自分を卑しめる行為にほかならないと述べている。
(松野明久)
|第1号の表紙|