TeaTime(17)
作成日:2002/03/29

恐怖の相鉄線
(沿線事情:酔っ払い編)

終電の数本前くらいから、相鉄線は本数が少なくなり、それに反比例するように乗客は朝の通勤時間帯並に混んでくる。
その日は運良く座れたため、乗り過ごさないように気をつけながら、ひと時の安眠を得ようと準備を進めていた...が、その時、足元の危ない男性が前に立ち止まった。
肩から掛けていたショルダーバッグを両手で持ち、しばらく狙いをつけるように頭の前方に掲げ(横から見ると、拝んでいるように見えるんだろうけど)、危なげに網棚に半分投げ込むように置くと、両手で吊革を掴むと大きくため息をついた。
どこからどう見ても酔っ払いである。おまけに近くだと酒臭い。
こっちは仕事で遅くなっているのに...

目元(顔全体もだけど)は赤くしきりに咳込んでいる。
時々、口をモグモグと動かしている。やばいかもっ
一瞬、以前の情景が頭を過ぎった。
ゆっくりと体全体を両手を中心に動かしているその姿は、何かの奉納の踊りのようだ。
やがて電車は走り出す。一瞬、正気に戻ったかなと胸を撫で下ろすが、その内に、また怪しい踊りが始まりだす。
電車が揺れると、その振動で膝が落ちる。前のめりになった顔が30cmくらいのところまで近づく。
その状態で口が少し動いたので、臨戦体制になり、半分こっちの腰が浮く。 実に怖い。

揺れる度に、何度も同じようなことが繰り返される。こちらは慣れるどころか、今度こそ、と思うと気が気でない。
その内に、あまりに揺れる(8割方自分が揺らしているんだけど)ので更に気持ちが悪くなったようで、顔色がどす黒くなってきた気がする。 怖すぎる。

そこに、更なる追い討ちが。
あまり大きな揺れではなかったのだけど、揺れた瞬間に片手が外れたのだ。
凶器は勢いよく振り下ろされ、顔の10cm以内を通り過ぎていった
速過ぎて見えないくらいだった。顔が引きつってくる。
その間にも、男は何やら口をモグモグ。

そんなに危険な状況だったら、席を立てばいいだろう思うでしょう。
席を立って座らせてしまえと。
でも、動けないし、動かない。別に金縛りにあった訳ではなく、なぜかそんな時は意地になるものです。
ただ、その男の一瞬の変化を見逃さないように、全身の神経を張り詰めさせていたのでした。
何だろう、これは。ただ酔っ払いに席を譲るのが悔しかっただけなのか。
悲惨なリスクの割に、10分間程度座っていられるという報酬の、何て小さいこと。

こちらが席を立つ前に、隣の席の男性が駅で降りた。
酔っ払いは人を掻き分けるように、その席を確保した。男は崩れるように座り込むと、また口をモグモグ...
もしかして、その動作は癖か?

やがて、電車が降りる駅についたので、その確認はできなかった。

勝ったのか。恐怖に打ち勝ったのだろうか。
ただ、その恐怖の源が、確実に終点まで乗り過ごしていくことは確実だろう。

いずれにしても、かなり虚しい...


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