最近は通勤時に1区間だけ山の手線を利用します。今回は,この時のお話。
9時過ぎに仕事が終わって,やっと帰れるなぁと思いながら駅に。
ちょうど電車が着たので,階段を駆け下りて,ドアが閉まるタイミングを 見計らいながら,ホームを降車駅の階段のあるあたりに向かって早足で 歩いていきました。ふと見ると,目標の電車のドアの前にキョロキョロ回りを見渡しながら, 落ち着かなそうに立っている男が一人。
他の乗客は既に乗り終わっていたので,すぐにピンときました。
そう,彼は電車に乗ったときに,ドアの一番前に立ちたかったのです。
混んだ電車だと,吊革に掴まるよりもドアとか座席の横にもたれかかった 方が楽だし,何より次の駅で降りるときは早く降りられるし。
まぁ何を隠そう,私も時々似たようなことはしてます,です。その時は,あまりに彼の意図が見え見えに思えた(後で微妙に違うことが 判明したけど)ので,素直に電車に乗り込んで,1歩2歩...で吊革に 掴まって立つことにしました。
彼は,ギリギリまで外で待っていて,それから半分体を入れて,片手を ドアの上部に置いて,半身になって構えていました。
二十歳過ぎでラフな格好をしていたけど,学生には見えず,何となく パソコン・ソフトウェア関係のサラリーマンのように見えます。
車内は,そこそこ混んでいましたが,もちろん朝のラッシュ時の比では ありません。
そこまでやらなくてもなぁ...と思っていると,ドアが閉まって やっと発車です。彼は,しばらく両手を顔の高さに挙げて,外を向いてドアに貼り付いて いました。
なんか妙な格好をしてるなぁとボンヤリ眺めていると,ボソッと一言。『誰もオレの場所を盗るんじゃネェ』
春の気持ちよい風が吹き込んできていた車内が, 一瞬真冬に戻ったようでした。
私が立っていた位置は,彼から人一人挟んだ位置くらいだったので, 聞こえたのは私一人では無かったでしょう。
それが証拠に,あっという間に彼の周辺には20cmくらいの空間ができた くらいです。
実際,聞いた瞬間に,私も片足を半歩引いて,いくぶんドアから離れて 車内に視線を漂わせ始めた彼と視線を合わせないように,体の向きを 変えてました(ほとんど条件反射)。
こうなると,その視線も急に危ない人の視線に思えるから不思議。まじな話,凶器でも持ち出したらどうしよう とか考えてしまった。
彼の隣にいた女性は,彼に背中を向けていたけど, 握り拳には力が入っていたように思えた。と,そうこうしている内に,電車は減速して次の駅に。
開きかけたドアのすき間に押し込むように抜けていくと,がに股& へっぴり腰の妙な格好ながら,あっという間に階段を駆け上がって消えて 行ってしまいました。それでも,凄いもので,彼が降りて駆け上がっていった瞬間,もう何事も 無かったかのように人が降車し始めて,思わず階段を駆け上がって行った 彼が,どっちの方向に走っていったかを確認してしまった。
あぁ私鉄に乗り換えたな,ラッキー。と思ったのは,きっと私だけでは ないだろう。それにしても,同じ駆け出すにしても, 横須賀線の彼女とは大違い。
何となく寿命を計り直したくなる一瞬(いや一駅か)でした。