TeaTime(11)
作成日:2001/04/23

山の手線沿線事情
(内回り編)

最近は通勤時に1区間だけ山の手線を利用します。今回は,この時のお話。

9時過ぎに仕事が終わって,やっと帰れるなぁと思いながら駅に。
ちょうど電車が着たので,階段を駆け下りて,ドアが閉まるタイミングを 見計らいながら,ホームを降車駅の階段のあるあたりに向かって早足で 歩いていきました。

ふと見ると,目標の電車のドアの前にキョロキョロ回りを見渡しながら, 落ち着かなそうに立っている男が一人。
他の乗客は既に乗り終わっていたので,すぐにピンときました。
そう,彼は電車に乗ったときに,ドアの一番前に立ちたかったのです。
混んだ電車だと,吊革に掴まるよりもドアとか座席の横にもたれかかった 方が楽だし,何より次の駅で降りるときは早く降りられるし。
まぁ何を隠そう,私も時々似たようなことはしてます,です。

その時は,あまりに彼の意図が見え見えに思えた(後で微妙に違うことが 判明したけど)ので,素直に電車に乗り込んで,1歩2歩...で吊革に 掴まって立つことにしました。

彼は,ギリギリまで外で待っていて,それから半分体を入れて,片手を ドアの上部に置いて,半身になって構えていました。
二十歳過ぎでラフな格好をしていたけど,学生には見えず,何となく パソコン・ソフトウェア関係のサラリーマンのように見えます。
車内は,そこそこ混んでいましたが,もちろん朝のラッシュ時の比では ありません。
そこまでやらなくてもなぁ...と思っていると,ドアが閉まって やっと発車です。

彼は,しばらく両手を顔の高さに挙げて,外を向いてドアに貼り付いて いました。
なんか妙な格好をしてるなぁとボンヤリ眺めていると,ボソッと一言。

誰もオレの場所を盗るんじゃネェ

春の気持ちよい風が吹き込んできていた車内が, 一瞬真冬に戻ったようでした。
私が立っていた位置は,彼から人一人挟んだ位置くらいだったので, 聞こえたのは私一人では無かったでしょう。
それが証拠に,あっという間に彼の周辺には20cmくらいの空間ができた くらいです。
実際,聞いた瞬間に,私も片足を半歩引いて,いくぶんドアから離れて 車内に視線を漂わせ始めた彼と視線を合わせないように,体の向きを 変えてました(ほとんど条件反射)。
こうなると,その視線も急に危ない人の視線に思えるから不思議。

まじな話,凶器でも持ち出したらどうしよう とか考えてしまった。
彼の隣にいた女性は,彼に背中を向けていたけど, 握り拳には力が入っていたように思えた。

と,そうこうしている内に,電車は減速して次の駅に。
開きかけたドアのすき間に押し込むように抜けていくと,がに股& へっぴり腰の妙な格好ながら,あっという間に階段を駆け上がって消えて 行ってしまいました。

それでも,凄いもので,彼が降りて駆け上がっていった瞬間,もう何事も 無かったかのように人が降車し始めて,思わず階段を駆け上がって行った 彼が,どっちの方向に走っていったかを確認してしまった。
あぁ私鉄に乗り換えたな,ラッキー。と思ったのは,きっと私だけでは ないだろう。

それにしても,同じ駆け出すにしても, 横須賀線の彼女とは大違い。
何となく寿命を計り直したくなる一瞬(いや一駅か)でした。


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