Marston Vale 探鳥旅行

 イギリスは、バード・ウォッチングの発祥地だそうであり、バード・ ウォッチングの月刊雑誌も複数発行されている。その名もずばり「Bird Watching」 という雑誌を買ってみたのだが、バードウォッチング好適地の紹介などがなされて いる。このうち、ケンブリッジから比較的近く、公共交通機関で行かれる Marston Vale という所に行ってみることにした。Stewartby 湖という湖があり、水鳥が 見られるそうである。

 ケンブリッジから比較的近い、とはいえ、けっこう行くのはたいへんそうである。 まず、ベッドフォードというところまでバスで行き、そこから列車に乗り、 Stewartby で下車することになる。バスと鉄道の時刻表を引っ張り出してきて、 入念に計画を練る。ベッドフォードのバス・ステーションと鉄道駅との距離も、 地図で調べる。容易に歩けそうだ。

 そういうわけで、12 月 27 日に実行した。ケンブリッジ発 9 時 15 分の、 X5 という番号のついた オクスフォード行きのバスに乗る。定刻の約 1 時間後、ベッドフォード到着。 ここから駅への道は、案内もしっかりしており、容易に発見できた。距離も 思っていたとおり、近かった。

 Stewartby 往復の切符を、窓口で購入。なんと発音するかわからなかったので、 紙に書いて見せ、「ステュワートバイ?」と聞くと、「ああ、『ステュービィ』ね」 と言われた。字面からはわからないものである。この駅には、自動改札による 改札口があった。改札を設けるかどうかは、鉄道会社の方針によるらしい。 ここでは、Thameslink という鉄道会社が主に運行しているが、これから乗るのは Silverlink という会社が運行する、Bletchley というところが終点のローカル線で ある。1 時間に 1 本しかなく、しかも接続が悪いため、しばらくホームで時間を つぶすこととなった。Thameslink の、ロンドン行きの列車が頻繁に発着している。 また、ときどき、Midland Mainline のインターシティが、轟音とともに通過して 行く。これは、とてもディーゼル列車とは思えないスピードだ。最高速度は、時速 200 km と聞く。

 やがて、目的の列車の発車時刻が近づくが、列車はまだ入線してこない。いやな 予感がしていると、そのうち「11 時 12 分発の Bletchley 行きは、不運なことに 運休となりました」という放送が。「不運なことに運休 (unfortunately cancelled)」だって? この国の列車運行は、 やっぱり運(fortune)に頼っていたのか、ちょっとそんな気はしていたんだよな、 などと、怒りを通り越して笑ってしまった。

 いくら鉄道好きの僕でも、さすがに 1 時間後の次の列車を待つのにホームで 待つのはこたえる。駅員に「運休になっちゃったんだけど、次の列車を待つしか ないのか」と尋ねると、「こちらへどうぞ」と、改札口を出てタクシー乗り場へ 案内してくれる。代行輸送をタクシーで行うらしい。いや、なんでも言ってみる ものである。じっと待っていたら、時間を大幅にロスするところであった。 タクシー料金は、鉄道会社持ちであった。

 Stewartby 湖のほとりでタクシーを下車。大きい湖である。カモメ類や 大型カイツブリ類が多いが、かなり遠いところにおり、手持ちのコンパクトな 双眼鏡では、同定はかなり大変であった。さすがに、日本からフィールドスコープを 持ってはこなかったし、こちらで買うと、かなり高いのだ。湖畔には、カラ類が 多く居る。遠くのフィールドには、ツグミ類が群れている。それにしても寒い。 足もとの水たまりは、氷が張ったままのものがあり、気温は 0℃ くらいしか ないのでは、と思われる。ぐるりと湖を一周して、forest centre という建物に 向かう。ここにはりっぱなレストランがあり、温かい昼食を食べることができた。

 午後は、さらに南方の湿地を歩く。湿地だけあり、足もとはかなり悪い。泥に 埋まり、靴が脱げそうになったことが何度かあった。しかし、歩いただけの収穫は あった。こちらに来て、初めてオナガガモを目にした。双眼鏡を持った近くの人に 「オナガガモがいますよ」と声をかけたら、かなり真剣に探していたので、 こちらでは珍しいのかもしれない。ハシビロガモも、ここイギリスでは初めて 見かけた。

 湿地帯を一周すると、もう陽は暮れかけている。12 月の陽は、本当に短いのだ。 Stewartby 駅に向かう。発車予定時刻の 25 分くらい前に、駅に着くことができた。 駅は非常に小さく、日本の無人駅のようである。ホームで待っていると、本当に 列車がやってくるのかと不安になってくる。というのも、ホーム端に踏切があるの だが、ここの遮断機、というか、遮断のための柵が、線路を遮断する ような位置にあるのだ。四つあるこの柵は、地面に立った棒を支点として直角に 可動するようにできており、その位置により、線路、あるいは道路のどちらかが 遮断されるようになっている(下図参照)。とても自動で動くようには見えず、 あたりに人も見えないので、まるで「列車は当分走りません」と宣言しているかの ようだ。腕木式の信号機も、両方向ともに停止を指している。「もしかして今朝、 『運休』と言っていたのは、今日のすべての列車についてではないか」などという 考えが頭をよぎる。それならば、タクシーによる代行輸送などという、 「手厚い」処置も説明がつくではないか。ここからベッドフォードまで 歩くとしたら、えらいことだぞ。

crossing
手動の遮断「柵」の図。左は自動車通行時、右は列車通行時の状態を示す。

 かなり不安になっていると、ホーム脇の小屋から、ひょっこりと職員らしき人が 現れる。ベッドフォードに行くのかと尋ねるので、そうだと答えると、あと 20 分ほどで列車が来る、とのこと。おお、やはり列車は来るのか、よかったと、 安堵する。しばらく待っていると、遠隔操作とおぼしき放送がホームの スピーカーから流れる。反対方向の、Bletchley 行きの列車が運休となり、 タクシーによる輸送になるとのこと。しかし、こんな駅でどうやってタクシーに 乗れというのか、などといぶかしんでいると、果たして一台のタクシーが止まり、 運転手氏と先ほどの職員氏とで、なにやら会話している。どうやら、鉄道会社が 各駅にタクシーを派遣して、旅客を拾っているらしい。こちらをときどき見ながら 話しているのは、たぶん、「あの乗客は反対方向だから」などと言っているので あろう。ということは、Bedford 行きの列車はちゃんと来ると期待される。

 予定時刻が近づくと、ホーム脇の小屋から、呼び出しのベルのような音が 聞こえた。先ほどの職員氏が小屋から出てきて、踏切の柵を道路を遮断する位置に 動かす。続いて、小屋の脇のてこ(レバー)を操作すると、腕木式の信号機が 「進め」を示した。ほどなく、列車のヘッドライトが近づいてくるのが見えた。


【付録】Marston Vale で本日見られた鳥

 英名、学名、標準和名の順に示してあります。標準和名は、判明した物のみを 示します。

  1. Great crested grebe Podiceps cristatus カンムリカイツブリ
  2. Cormorant Phalacrocorax carbo カワウ
  3. Mute swan Cygnus olor コブハクチョウ
  4. Mallard Anas platyrhynchos マガモ
  5. Gadwall Anas strepera オカヨシガモ
  6. Pintail Anas acuta オナガガモ
  7. Shoveler Anas clypeata ハシビロガモ
  8. Pochard Aythya ferina ホシハジロ
  9. Tufted duck Aythya fuligula キンクロハジロ
  10. Goldeneye Bucephala clangula ホオジロガモ
  11. Kestrel Falco tinnunculus チョウゲンボウ
  12. Coot Fulica atra オオバン
  13. Lapwing Vanellus vanellus タゲリ
  14. Black-headed gull Larus ridibundus ユリカモメ
  15. Common gull Larus canus カモメ
  16. Great spotted woodpecker Dendrocopos major アカゲラ
  17. Robin Erithacus rubecula
  18. Song thrush Turdus philomelos ウタツグミ
  19. Redwing Turdus iliacus ワキアカツグミ
  20. Blackbird Turdus merula クロウタドリ
  21. Great tit Parus major シジュウカラ
  22. Blue tit Parus caeruleus
  23. Long-tailed tit Aegithalos caudatus エナガ
  24. Magpie Pica pica カササギ
  25. Jackdaw Corvus monedula ニシコクマルガラス
  26. Rook Corvus frugilegus ミヤマガラス
  27. Starling Sturmus vulgaris ホシムクドリ
  28. Chaffinch Fringilla coelebs
  29. Siskin Carduelis spinus マヒワ
  30. Bullfinch Pyrrhula pyrrhula ウソ

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