3.プラリア パート
☆「壮大な計画の片隅で」
「ええ、大歓迎ですよ。先ほど申しましたように、
砦が完成した暁には、一室をご自由に使って下さっ
てかまいません。今はまだ資材集めの段階ですけれ
どね。ではよろしくたのみます。」
計画の中心人物らしいその青年は、丁寧な口調で、
あっさりと山本正の計画=バームアンガー計画への
参加を認めた。もっとも、山本は青年の言葉をほと
んど聞き流していたのである。彼は、この計画がど
のようなものであるかすら実はさっぱり理解しよう
としていなかったのだ。彼にとって重要だったのは、
まず、この西域という場所が魔族の地に近い事、そ
れから砦の完成後に貰えるという一室、そして、参
加メンバー、といったものだけだったからである。
すんなりとこの計画に潜り込めたことで、自然と口
元がほころぶ。(これで俺の野望も一歩前進したぜ!)
そして、その数時間後、山本は、彼の戦利品、つ
ぶれた温泉宿の跡地に、ぼろ雑巾のように転がって
いた。
「く〜っ、こんな事じゃ、俺の野望は...。」
・・・果たして彼の野望とは一体?
彼の野望、その一つは、このフィア=メルトで行
われている、魔族との争いを、彼の溢れんばかりの
愛で終わらせる事である。もともと彼は召喚当時、
けけけ団に参加するか、アンガー砦に行くかでなや
んでいた程なのだ(ど〜いう二者択一だ、一体)。前
線に近いこの地に来たのも自然の成りゆきというも
のである。
そして、もう一つの野望とは!ずばり、ナンパで
ある。この計画に多数の美女が参加しているという
噂を彼は聞いていた。そしてその中には、彼にとっ
て気になる女性がいたのである。彼の脳裏に、けけ
け団に入ってすぐのあの頃の事がよぎる...。
けけけ団に入った山本が、まずいちばんに何をし
たかは想像するに難くない。そう、団員の女性に片
っ端から声をかけたのである。なにしろ、彼が気に
するのは、相手の種族と性別と緩やかな年齢制限だ
けである。団員の女性は彼にとっては全員が対象範
囲であった。そんなわけで、彼は女性団員に声をか
け、ナンパしまくったのである。もちろん、その中
には、かの小田原あづまもいたのである...。
「お嬢さん。」
呼びかけた声に振り返ろうとする彼女に、山本は更
に続ける。
「そこの、美しい髪のお嬢さん?」
山本の方に振り向いた彼女、あづまの頬が、心なし
かひきつっているように山本には見えた。まるで触
れてはいけない話題に触れてしまったかのような.
..。
「なんです?檀...」
あづまが全部言葉を言い終わらないうちに、山本は
彼女の言葉に重ねるように言う。
「シックで素敵な服ね、似合うぜ、ベイビー。」
「ええ、仏に仕える身ですから」
あっさり返すあづま。
(いかん。)
山本の言葉はあまり効果をあげられなかったよう
だ。山本家秘伝の軟派術の書、巻之二 第五章にもこ
う書かれている。曰、
「服や装飾品を褒めても、本人を褒めているわけで
はないから、女性はさほど喜ばぬので、決定打には
ならぬ。」
と。
では、どうしたらよい?この当時、山本は彼女の
事をほとんど知らなかった。なにしろ髪がヅラだと
いうことも知らなかった程である。山本は刹那の間
に彼のもてる知識を総動員して対応を考えた。彼女
は檀家を欲している事はさすがに彼も知っていた。
それならば、この言葉だ!この言葉しかない!!彼
はその言葉を解き放った。
「君のためなら俺は死ねる!」
「まあ、お葬式が出だせますのね。」
彼女の、語尾にハートマークが見えそうな声音に、
彼は手ごたえを感じた。しかし、次の瞬間、彼女の
顔か曇る。
「でも、ご家族の方に檀家さんになって貰わなけれ
ば、無縁仏になってしまいますわ。」
うっ、確かに。そこまでは考えてなかったぜ。そ
して、彼の家族は日本にいる...。彼は、心の中
で、「ま、参りました。」と土下座をすると、くる
っとあづまに背を向けて去って行った。背後から、
「あら、死んで下さるんじゃありませんの?そのく
らい気にしませんわ。」
というあづまの声とともに、石灯篭が降ってきたの
にも気付かないほどの敗北感を山本は味わっていた。
・・・石灯篭、当たんなくてよかったな、おい。
けけけ団にいたころの回想を終えた山本は、「こ
んどこそは!」と決意を新たにするのであった。
・・・話を元に戻そう。なぜ、山本は、こんな所
で転がっているのか、である。それは、Newアン
ガー砦建設の為の土地を手に入れる交渉で精魂つき
てしまったから、なのだが...。
そもそも、山本は口のたつ男である。特に、女性
を相手にした、特定の分野における交渉の能力につ
いては、他者の追随を許さない物がある。何故か勇
者相手には連敗続きの彼だが、こと木訥としたフィ
ア=メルトの住人が相手な場合は彼の能力が充分通
用する事は、みかんの娘といいとこまで行ったとい
う事実が立派に証明しているのである。それなのに、
なぜ、この様な寂れた土地しか手に入れられない、
という、言わば彼の能力の1.25%(当社比)しか
発揮されなかったかのような結果に終わってしまっ
たのであろうか?
計画の参加者の面々が山本の話術に注目したのは、
目のつけ所が良いと言える。山本への依頼にあこや
と静理という女性2名を当てたのも正解である。女
性の頼みを断る山本ではないからだ。彼に言わせれ
ば、あこやは、芯のしっかりした気の強い女(ひと)
、静理は、開けっぴろげでさっぱりした性格のお嬢
さん、と言う事になる。それならなにがいけなかっ
たのか...。彼女たちの頼み方に問題があったの
である。
「やってく・れ・る・よ・ネ」
と、鉄パイプを片手にドスをきかされたり、
「まー、たのむぜ。」ばん、ばん(←背中を叩く音)
とかされても、いまいち山本の勤労意欲はかき立て
られなかったのである。例えば、
「あたし、土地がいっぱいほしいわぁ。たくさん土
地を手にいれてくれたら、あたし、なんだってしち
ゃう。お・ね・が・い。」
とでも甘くささやいていれば、山本は、西の街の半
分くらいぶんどってきたであろうに。なにしろ、住
人の半分は女性だ(魔族だけど)。
兎にも角にも、バームアンガー計画という壮大な
プロジェクトは動き始めた。そして、それに参加す
る者のちっぽけな野望も。
(おしまい)
み:と、いうわけで、今回から参加させていただい
た、バームアンガー計画と、山本正との関わり
についてちょいと書いてみました。やっぱり、
何をやるにも動機やら目的があるはずだからね。
最後に、キャラを無断で使ってしまいましたプ
レイヤーさんの方々、済みませんっ。
af5k-myzw@asahi-net.or.jp 宮澤 克彦