3.プラリア  パート

その1「ナンパ天国?」

「ここだな。」
  青年は、とある安宿の前で立ち止まり、手にした
メモと、宿の看板の文字を見比べる。メモには、崩
れさった総督府の代わりになっている仮の総督府で
聞いてきた、『彼女』の連絡先が書かれている。そ
う、これは、総督府が崩れさって数日たったころの
話である。青年は栗色の髪を撫でつけて整えると、
宿に入って行った。

  扉をノックする音でレイラは目をさました。ここ
は、小さな窓と、簡素なベッド、荷物を置く棚とそ
の上に置かれた洗面器があるだけの、安宿の質素な
個室。窓の扉を開け放つと、部屋に一筋の陽の光が
差し込む。日はだいぶ高く昇っているが、まだ午前
中だろう。再びノックされた扉に、
「ちょっとまちな。」
と声を掛け、急いで服を着る。
  扉を開けると、宿屋の娘が立っていた。7〜8歳
位だろうが、立派に宿屋の仕事を手伝っているよう
だ。
「なんだい?」
と問うレイラに、娘は、くすくすと笑いながら答え
た。
「あのね、お姉ちゃんにお客さんだよ。かっこいい
男のひと。」
「・・・わかった、すぐ行くから、ちょっと待って
てくれるように言って頂戴。」
そう言って、レイラが1シグルス硬貨を投げると、
娘は器用にそれを受けとめ、部屋を出て行った。そ
して、ぱたぱたと元気良く階段を駆け降りる音が聞
こえてくる。
「誰だろう?」
レイラには心当たりがなかった。とにかく、部屋の
外に置かれたポットを取って、中の湯を洗面器にあ
け、顔を洗うと、乱れた髪を直して、部屋を出た。

  レイラが階下に降りて行くと、そこには、こざっ
ぱりした格好の青年が、酒場の椅子に腰掛けて待っ
ていた。この時間、他に人影もないから、彼がレイ
ラを訪ねてきた客だろう。魔法使いのようだ。会え
ば誰かわかると思っていたのだが、まだ、レイラに
は相手が誰だかわからなかった。
  青年は、2階から降りてきたレイラに気付くと、
立ち上がってさわやかな笑顔でレイラに話しかけた。
「やあお嬢さん、ようやくまた会えたね。」
「え?」
全く彼の事を覚えていないといわんばかりのレイラ
の反応に、少しがっくりしながらも、彼、グレイス
・クロスは言葉を続けた。
「ほら、あの宿命石を取り返したときの...。」
「あ?ああ...。」
そう言われて、レイラはようやく思いだした。そう
いえば、エーラが奪った宿命石を取り戻した時、宿
命石を取り戻したころようやく追いついて、その場
でへばってた奴に取り戻した宿命石を押しつけたん
だったっけ。そんときの奴だ。
「ふぅん。じゃあ、あたいのこと、総督にチクった
のはあんたかい?」
「ああ、俺だ...。」
思わぬ問いと、鋭いレイラの目付きに、腰を引かせ
ながら答える。さらに、
「総督に報告すれば、キミを探し出してくれると思
ったからさ。」
あの時は追いつくまでがやっとで、せっかく美少女
がいたっていうのに何もできなかったもんな〜。グ
レイスは心の中でさらにつけ加えた。
「え、あっあたいを...捜し出す...ため?」
「そうとも、ぜひもう一度会いたいと思ってね。だ
から、賞金を受け取った時の連絡先を総督府で聞い
て、こうやってやってきたってわけさ!」
グレイスにしてみれば、レイラを探し出したのは天
下一のナンパ師を自認する自分が、美少女を前にし
てなにもできなかったという事実が我慢できなかっ
たからにすぎない。でも、レイラの方は、すっかり
顔を赤らめて、あらぬ方に視線をさまよわせ、とき
おり上目づかいでグレイスの方を見る。そんなレイ
ラの反応に、おや、これはこれは、最初はすれた娘
かと思ったけど、こりゃもしかしたら掘り出しもん
かも、と想いながら、グレイスはとどめとばかりに、
用意した花束を差し出しながらこう言った。
「お嬢さん、私と一緒に冒険をしませんか?」
グレイスの豊富な経験が彼にこう告げる『おちた』
と。


「お嬢さん、一緒にお茶でも...。」
「グレイスっ、あたいというものがありながら、他
の娘にちょっかいだすのかい!」
しまったぜ。後悔先に立たず。最近はすっかりナン
パがやりにくくなってしまったグレイスは思った。
敗因は、レイラがエーラとアサシンズナイフで切り
合っているのを、間に合わなくて見ていなかった事
かもしれない。ともあれ、グレイスはまだレイラに
なにもできないでいる...。

                                    (おしまい)

み:と、いうわけで、レイラが、どういう経緯で今
    回からグループ「水無月」に入れてもらうこと
    になったかを想像して書いてみました。
    さて、この号はプラリアは豪華2本だて。では
    2本目をどうぞ。


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