3.プラリア パート
「都会の片隅で」
それは3年前、艶が水漣に来てまもなくのことだ
った。まだ仕事に慣れていない艶はその日、交替時
間が来た後も作業長に引き留められ、すぐには帰れ
なかった。だから、すっかり日が暮れた道を、一人
で寮へと向かっていたのだ。
「よう、ねぇちゃん。そこの工場の工員かい?」
ふいに、艶は声を掛けられた。声を掛けたのは若い
男の2人組だった。
「どうせ、たいして給料貰ってないんだろ。だった
ら、楽してもっと稼げる所を紹介するぜ。」
男達は、親切そうに言う。
「もっとカセげるトコロ...?」
艶の心はその言葉に動かされていた。仕事が辛いの
はかまわない、でも、今よりもっと稼げるなら、今
よりもっと仕送りが出来る。弟や妹も水漣によべる
かもしれない。お金...。
「あの、それはどういう...。」
迷った末の艶の言葉に、男達はにやりと密かに口元
を歪める。
「なぁに、ちょっとした客商売さ。簡単なもんさ。」
「でも、イマハタラいてるコウジョウやめるには、
イヤクキンをハラわなきゃいけないし...。」
「なぁに、すぐに日に数万圓稼げるようになるさ。」
「じ、じゃあ...。」
「待ちな!」
艶の声を遮るように、声がかかった。振り向いた艶
に見えたのは、男物の服を着た人物だった。暗くて
容姿はよくわからないが、声からすると若い女だ。
「なんだてめぇ。」
「こっちは親切で...。」
男達が口々に言うのを遮り、
「どうせ、娼館かなんかだろ。そんな奴らについて
ってみな、ぼろ雑巾のように絞られて捨てられるの
が落ちさ。」
「このアマ。」
「邪魔しやがって。」
相手が女一人とみてとって襲いかかろうとした男達
が突きつけられたのは...銃口。
「こう見えても探偵さ。」
女の言葉に、男達は、お決まりの捨てぜりふを吐いて逃げて行くことしかできなかった。
「おぼえてやがれ。」
「あたし、ハン イェンっていいます。」
「出稼ぎかい?水漣に来て間もないんだろ。」
「うん。あたし...ダマされるところだったの?」
「水漣にあるのは夢や希望だけじゃないってことさ。」
「...ありがとう。...あの...。」
「片瀬ほづみ。ちょうど通りかかって本当によかた。」
ほずみは寮まで艶を送り、去って行った。
「ん、どうしたんじゃ。」
ノースフロートへ向かう客船の甲板で物思いにふけ
る艶に、大木田組長が声をかける。
「なんでもないの。ちょっとムカシのコトをオモい
ダしてただけ。」
艶は明るく答えた。あたしがヤクザの愛人になった
と知ったら、あの人はどう思うかしら。
そんな艶と大木田組長を追ってほづみもノースフロ
ートへ向かっていることを艶はまだ知らない。
(おしまい)
み:この話は、今回と次回、協力を求められた片瀬
ほづみさんとは面識があったということにしま
しょうということで、知り合った時の事を想像
して書きました。たしかに、知り合いだったと
いうことにすれば、協力する動機ができてよい
し。イメージ違ってたらすみません。
ハ:あたし、イナカモノだったから。
あ:いまでもそうですな。
み:たしかに...。
af5k-myzw@asahi-net.or.jp 宮澤 克彦