転宅 |(スウカイナ7 目次)| (運命)|

転宅



薦田 愛 (ゲスト)
くちばしをもたないまま樹上に暮らす
暮らすことになりました
帰り道の公園にあるこの樹は
常緑樹ではない
枝のささくれる季節をどう凌いだらよいのか
くちばしのぶんのギャップを埋める術は確立されているのか
ほかにもくちばしのないともがらはいるのか
思い巡らす間もなく
ふりそそぐ声
しらないことばを束ねた感嘆符にうたれ
目を合わせてしまった
翼に黄色い紋様のあるくちばしの鋭い彼と
会った
会ってしまって
ここにいる
ここ
横切るときふいに見上げる位置に
見上げるさき風の在り処のうつろだった位置に
揺れる
揺れて
着衣の裾がふやみにはためくので
揺れる樹上に彼といて目を合わせている
合わさる目を捩って傾げる彼の項に密生する艶やかな羽根をつくろいたい
けれど
差し入れるくちばしのない
つくろうことのできないわたしは
雨気をふくむ空を仰ぎ
いかずちのかたちにくちびるをひらき
彼を呼ぶ
しらない名前を
はげしくきしむわたしのしらないわたしの声で
揺れるわたしの枝と彼の枝の間にある見えないけれどそこにある何か隔てるものを鉤裂き
にしたい
払い除けたい
あらくはずむ剥き出しの息づかいで
ふるえるくちもとをぬぐう羽根のない剥き出しの指で
掴まる枝へ
指し示す声
彼の
しらないことばで紡がれるささめごとへとわたしを
うながす
誘うまなざし向ける翼の紋様広げる彼と
結び合えない
わたしの目の底に映る疑問符をほどくことができない
まだ
わたし
暮らすことになりました
眩む高みのここ
落葉樹の樹上立つこともできません
まだ
揺れるふたしかな位置
ないくちばし寂しい一羽のわたしのまま
目を合わせて彼と
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