第9話 〜人権宣言公布

←人生

←教授

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人生
「さて遂に革命スタートしちゃいましたが。

教授
「バスティーユ陥落後のルイ16世だが、さすがにこれには国民に屈服した。
 騒動のきっかけとなったネッケルのクビを取り消し、再び彼を呼び戻した。
 更にはパリ市庁にまで出かけて、国民との和解を計ったんだな。

助手
「当時国民側は
 「バイイをフレッセルに代わり、パリの市長に任命する」
 「
国民衛兵(ガルド・ナシオナール)を創設し、ラファイエットが司令官になる」事を決めました。
 また、ラファイエットは、当時の市民軍がつけていた赤と青の記章(記念としてつけていた印)に
 ブルボン家(ルイ一家もこの類)の白を加えた、三色からなる
帽章(帽子みたいなもの)を
 
国民衛兵のシンボルにする事を決定しました。お気付きかと思いますが、これがフランスの国旗の由来です。

 


人生
「また随分適当な図ですね(図でもないけど)。

教授
「ルイ16世はパリ市庁において、これら全てを受け入れた。そして市長バイイから受け取った帽章を被ったんだな。
 ここで「王様万歳!」という声が沸き上がった。

人生
「おお、なんだかんだいってみんなルイ16世の事見捨ててないじゃん。

助手
「性格自体は温厚で善良な方だったそうですしね。

教授
「“見捨ててない”とはニュアンスが違うと思うが、王政がまだまだ根強く残っていたのは事実だな。
 このままルイ16世が素直に動けば、王政が続く可能性もあったと思うんだが…。

助手
「あ、ちなみにルイ16世の側近もしくは貴族は、事を見限り、一斉に亡命を始めました。
 彼らを
エミグレ(亡命貴族)と呼びます。
 彼らの中には、後にシャルル10世となる王の弟、アルトワ伯なんかも含まれていました。
 (シャルル10世は、フランス革命内においてはさほど関係の無い人物です) 

人生
「そいつらは国外に逃げて終わり?

助手
「いえいえ、彼らは外国に親族が沢山居ます。
 ですからいつか外国と手をつないでフランス革命を潰しにかかり、自分たちの威信を取り返しにくるでしょう。

人生
「外国がそんな協力してくれるの?

教授
「一番最初にお話しましたが、
旧制度は当時のヨーロッパからすれば“当たり前の”制度。
 今はルイ16世が支持されていますから大丈夫ですが、
 今後ルイ16世に何かあったら──例えば処刑されたりしたら、周辺諸国の君主はどう思いますか?

人生
「なに! フランスでルイ16世が殺された?! フランスでは一体何が起こってるというのだ!!
 くそ、次は私の番だろうか、私の国民は革命に触発されないだろうか…!!

助手
「そういう事です。革命を快く思っている国なんてそうそう居ませんよ。この“国”っていう言葉は、その国の上層部を指してるんですけどね。
 農民と言った身分の低い者達は、このフランス革命に触発されて、後々各地で色々革命起こすんですが。

人生
「なるほどね。曲りなりにも旧制度で安定はしてんだから、そっちの国でいざこざ起こすんじゃねーよと思ってる訳か。

教授
「さて、ルイ16世の行方に関してはひとまず置いておこう。
 バスティーユが襲撃されてはい、終わりという訳にはいかない。その余波は都市・農村にまで広がった。
 都市では、打ち壊すまでの流れ、打ち壊す対象、規模、抵抗があるかないかの違いはあるものの、
 大抵はバスティーユと同じような“革命”が各地で相次いだんだ。

人生
「そりゃ士気も高まってるだろうしね。

教授
「市民軍が形成されたり、バスティーユのような地方の城や要塞は大体差し押さえられてしまった。
 それと、知事(第1話参照)の制度も廃止されたな。

人生
「各地で色々似たような事があったんですね。

教授
「そう片付けてもまあ問題は無いんだが、そう片付けられない、大きな変化をもたらしたのが農村の方だ。
 「国民議会成立成功!」「バスティーユ監獄陥落!」といったハッピーなニュースが飛び込もうが、
 農村が抱える問題を解決に導く事がらは一切ない。先の2つが行われた所で、凶作がなんとかなるものではないしな。
 更には都市から浮浪者や貧民が作物を泥棒、強盗していく。おまけにトドメは封建制度だ。
 封建制度については第2話を参照してほしい。

人生
「お前に収める税なんかもうねえよ!!

教授
「当初からずーーっと“暴動”自体は起きていたんだが、これもバスティーユ陥落で遂に“革命”が起きた。
 各地で農民は桑や鎌や銃で武装し、自警団を作って領主の館に吶喊、領主を監禁した。
 そして封建制度に関わる資料(台帳など)を村の広場で片っ端から焼き払い、領主の館にも火がつけたそうだ。

人生
「積年の恨みを晴らした訳だ。

教授
「この動きに対して
憲法制定国民議会(憲法制定の目的で、「国民議会」から名前を変えた)
 遂に封建制の廃止を決議した。長い間農民を苦しめてきた制度が、遂にココで廃止を迎えたんだな。

助手
「これに強く賛成したエギヨン公爵(彼自身土地は沢山持っていたんですが)の賛成演説の一部です。

 「民衆は、何世紀もの間、頭にのしかかっていた重荷を振り落とそうとしている。
 かれらの蜂起は、たとえ罪に値しても、いままで耐えてきた苦悩によって免ずるべきものではあるまいか」

教授
「要するに?

人生
「「今ここで罪になるような事をやっても、今まで耐えてきたものから考えればチャラにすべきだろ」

教授
「そういう事だ。さてココで廃止になった制度だが、
 
免税特権領主裁判権・十分の一税農奴制“条件付きで”年貢の廃止の5つだ。

人生
「条件付きってのが一つ異彩放ってますが、例の如く一つずつ見るんですね。

教授
「例の如く一つずつ見てみよう。
 まず一つ目・二つ目の免税特権と領主裁判権。これはどちらも第2話で述べたな。
 今で言えば「消費税や所得税もろもろ払わなくていいよ」という免税特権と、
 農民に対しては領主が裁判権を持つという領主裁判権だ。この2つがまず廃止された。

人生
「なるほど。

教授
「続いて十分の一税。その名の通り、作物の十分の一を教会に収める税だ。
 司祭・僧生・牧師の生活費とか、教会の維持費なんかに使われるんだな。

助手
「旧約聖書に「土地に植えたものは何でも、その十分の一は神のものだ」と書かれてあり、
 これが十分の一税の由来ではないかとされています。8世紀には既に存在していた税なんだとか。

教授
「次の農奴制だが、農民の中の「
農奴」という、まあほとんど奴隷に等しかった層を解放するという制度だ。

助手
「農民約2100万人中、約100万人が農奴だったとされています。

教授
「そして最後の“条件付きで”年貢の廃止という奴だが・・・。
 今ココで「農奴制が廃止された」と言ってきたが、コイツのせいで本当の意味での廃止には至っていない。
 その名の通り「年貢を廃止」するんだが、その条件というのは
「20〜25年分の年貢を収めた人だけ」というものだ。

人生
「え? 1年分納めるだけでも相当苦労してたじゃないの??

教授
「その通り。という訳でこの「年貢の廃止」を成しえた人はほとんど居なかった訳だ。
 もう少しだけ、封建制度は腰を据える事になる。まあコレはフランス革命中に、いずれ完全に廃止されるんだがな。
 それは後のお楽しみだ。

人生
「まあ別にお楽しみって訳ではないけど。

教授
「そこは大人しく「楽しみだ」とでも言っておけ。
 続いては
人権宣言(人間および市民の権利の宣言)だ。憲法制定国民議会から発布されたモノだな。重要だぞ。
 起草者は
ラファイエットら。全17条から成り、「旧制度の死亡証明書」とまで言われているものだ。

助手
「ここで簡単にラファイエットについて触れておきます。
 14歳にして軍隊に入った彼は、アメリカが独立革命を起こした時に助けを求めてフランスにやってきた
 ベンジャミン=フランクリンという人の考えに賛同。自費で船を買い、義勇兵としてアメリカへ渡しました。この時19歳です。
 彼はアメリカでも大活躍を果たし、アメリカの独立を間近で見ました。米史にもその名を残しています。

人生
「アメリカとフランスって遠くない?

助手
「遠いですよ。

教授
「さて問題。お陰で彼はこの「人権宣言」を書くにあたって、アメリカ独立に関係したある資料の影響を強く受けている。
 それは何だ?

人生
「アメリカ史ノータッチなんですけど。

教授
「正解は
アメリカ独立宣言。まあ、無難な有名所だな。
 人権宣言は先に言った通り17条だ。対して長くないから、ココで要約だけ全部載せてしまうのもありだな。
 噛ませ犬、この文をお前らしくアレンジして読んでみろ。

人生
「はいはい。えーと(前文省略)

 第一条  人はみんな自由で、権利においては平等です。共同の利益にならない差別はいけません。

 第二条  人は自由で、平等で、安全で、圧制へも抵抗出来るという、
        人が生まれながらにして持っているとされる権利(自然権)を持っています。

 第三条  全ての主権の元は国民です。どんな団体も人も、国民が元としない権力を使ってはいけません。

 第四条  自由とは、他人を傷つけない程度であればどんな事にでもなりえるものです。
        よってこの権利の行使は、他の人たちが同じ権利を受け取れなくなる以外に限界はありません。
        ただしこの限界は法律によっては定められます。

 第五条  法律は、社会に有害な奴でなければ何かを禁止はしません。その“何か”は妨げられる事はありません。
        どんな人でも、法律が命令しない行為を強制してはいけません。

 第六条  法律はみんなの意思なので、全員が、もしくは代表者を通じて法律の制定に関われます。
        法律は全ての人に対し同一のものでなければいけません。

 第七条  どんな人も、法律が決めた場合、もしくは法律に従った形式じゃない場合は訴えられたり逮捕されたり拘束はされません。
        自分の思うがままの命令を発行したり執行したりした人は処罰されます。
        ただし法律によるものなら全員ただちに従いましょう。抵抗したら有罪です。

 第八条  法律は厳正で、必要とされる刑罰でなければ定めてはいけません。
        どんな人も、犯罪より先に定められ、発布されて、適用された法律では処罰されません。

 第九条  どんな人も有罪と言われるまでは無罪です。
        逮捕が必要だという場合でも、その体を確保する為に必要じゃない強制は何でもしてはいけません。

 第十条  どんな人でもその意見について、それが宗教的でも、法律で定められてる公を乱さない限りは迫害されません。

 第十一条 考えや意見の自由な伝達は、最も大切な権利の一つです。よって誰でも自由に言論や出版は出来ます。
        ただし法律で定められた場合は、この権利には責任も伴います。

 第十二条 みんなの権利を保障するには、公の権力が必要です。
        この権力はみんなの利益の為に作られなきゃいけません。任せられた人が自分の為に使ってはいけません。

 第十三条 権力を保つため、税は必須です。みんなの間で、その能力に応じて平等に税は払わなければなりません。

 第十四条 みんな自分、もしくは代表者によって税が必要かどうか確認し、
        税の額や税をかける基準や税を集める期間を決める権利を持っています。

 第十五条 社会は、全ての役人に対して、その行政の報告を求める権利を持っています。

 第十六条 権利が保障されず、権力の分立(日本で言う三権分立)が決まっていない社会は憲法を持ちません。

 第十七条 所有権は侵せません。どんな人でも法律通りに公が確認を必要としない限り、
        もしくは正しく事前の補償のもとでない限りは奪われません(≒正しい手続き踏まないと奪われませんよ)。 

助手
「出来るだけ簡素に説明しようと努力はしましたが、いかんせん表現力語彙力に乏しく、
 これ以上の明快な説明は今の技量では出来ません。御容赦を。

人生
「それって俺が言うべきセリフじゃないんですか…。

教授
「ココから何が読み取れるかとかあんまり好きではないんだが…ともかく、どう思った?

人生
「え?

教授
「コレ見て。

人生
「えー、まあ…何か、ありきたりだな、と。

教授
「いや、それでいいんだ。確かに第一条とか、現代の何処の憲法を見てもありそうな決めゼリフだな?
 でも当時の旧制度から見れば、この文章は相当革新的な事を言っているじゃないか。当時は階級社会だったんだぞ?

助手
「要するに、現代にまでその考えが継承されている、近代世界の重要な政治宣言の一つなんです。
 夏目漱石さんも「天は人の上に人をつくらず。人の下に人をつくらず」と明治時代、19世紀後半に仰っていましたね。
 正にこの「人権宣言」、もしくはアメリカの「独立宣言」等の精神です。
 現代の思想に、大きな影響を及ぼした事だけ分かって頂ければ結構です。

人生
「俺の上に人なんて吐いて捨てる程居ると思うけどなあああああああああああああ!!!!!!!!

教授
「脱線するからそういう愚痴は別の機会にな。
 それと序に言っておくが、
権利ばっかり触れておいて"義務"に対する記述が一つも見当たらない、なんて批判がある。

人生
「言われてみれば、確かに都合がいいな。

教授
「いや、でもこの宣言が公布される目的を考えてみろ。
 別に理論的、普遍妥当的な正しさに適った宣言、というよりは、その当時の"要求"に応じた物に過ぎない訳だからな。

人生
「要求って?

教授
「代表的な物は、三部会で提出する事になっていた「陳述書」だな。
 「こんなに悲惨なんだから何とかしてくれ」 そう言った国民の要望・期待に見事お答えしたのがこの人権宣言だ。
 それ以上でも以下でもない。ただ当時においては、それが革新的だったって事だ。

人生
「「これから作っていけばいい」って事か。なるほどね。

教授
「次回は、その「これから」に向けての動向を見ていく。「人権宣言」の次は「憲法」だ。
 が、その前にナリを潜めていた"あの方"の周りが慌しくなる。

人生
「あの方?

教授
「次な。

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