第6話 三部会
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教授
「さて、遺恨は色々残してはいるものの、1789年1月24日、
「国王の隅々から名も無き民が、願いと要求を陛下の下まで寄せるよう!」という宣言で三部会選挙の公布がスタートした。
人生
「盛り上がりそうだな。
教授
「盛り上がったぞ。法律家やら司祭やらジャーナリストといった進歩的なインテリが、
一斉にパンフレット(自分の政治主張が書かれた)をばら撒き始めた。おかげで辺り一面パンフレットだらけ。
街頭演説も盛んに行われた。
助手
「当時出たパンフレットの一部です。
ミラボー「プロヴァンス人に訴う」・ロベスピエール「アルトワ人に訴う」
デムーラン「フランス人民への哲学」・トゥレ「善良なノルマンディー人へ訴える」
タルジェ「三部会への手紙」etc,,,
人生
「なんか色々と丸見えなタイトルだな。
教授
「大抵は自分の選挙区の人たちに対して訴えているだけだ、気にするな。
ついでにミラボーとロベスピエールという名前は後々出てくるから覚えておいてほしい。
人生
「積極的に努力します。
教授
「このパンフレットの中で、特に民衆を刺激した、そして一番有名な資料が、アベ=シェイエスの「第三身分とは何か」だ。
彼は第三身分に関して、冒頭に3つの問題を提起し、3つの答えを記した。
1、第三身分とは何か → 全て(Tout)
2、今までその政治的位置はいかなるものであったか → ゼロ(Rien)
3、それは何を求めるか → そこで相当なものになる事。
人生
「どういう事?
教授
「要するに、「人口の98%である第三身分はフランスの全てとも言えるのに、今まで政治的な力・立場はゼロだった。
これからはそれ相応の立場を求める」という事だな。要はアンシャン=レジーム(旧制度)の矛盾を突いたという事だ。
助手
「ちなみに当時、貧しい身分の中には文字が読めない人も居ました。むしろ層によってはそちらの方が多い位ですね。
(当時(1786〜1790)の読み書き能力は男子47.05%、女子26,86%)
この人たちも文字が読める人に読んでもらったりして、一段と全体の政治的関心・意識が高まったとされています。
教授
「あぁ、それと議員の選挙はどんな方法を使ってるかについてだが、ココでは割愛する。
「第一次選挙集会」だ「ディストリクト」だややこしいのでな。あまりココの趣旨には合わない。
「パリのフランス革命(参考文献参照)」に概要は載っているので、興味を持った方はそちらの方を参照してほしい。
人生
「「ディストリクト(district)」って「地区」って意味だよな・・・だったら日本語でそう言えよ・・・。
教授
「そう言うな。「戦後の体制」を「戦後レジーム」と言うようなものだ。
ただ、
「第一身分では、比較的第三身分の味方に近い司祭(第2話参照)が選ばれやすい仕組みであった事」
「家庭従事者や日雇い労働者などには選挙権が与えられなかった事」「出馬に約3ルーブル必要であったこと」
ぐらいは覚えておいて損は無いかもしれない。
人生
「2番目はアレか、メイドとかフリーターとかは無理って解釈していいのか。
教授
「大まかに言えば、な。
これに加えて3番目の「約3ルーブル必要だった」という篩(ふるい)で貧しい層は落とされた。
というか、出ようともしてなかったらしいけどな。第三身分は進歩的な人たちがいくらでも居たから問題ない。
いくら政治の関心は高まろうが、今の時代も一区に数千人も立候補はしないだろう。それと同じだ。
人生
「まあ、さすがに全員が全員「俺が議員になる」っていきり立つ訳ないか。
教授
「さて、選挙の結果は置いといて、この選挙期間中に発生した有名な事件を一つだけ挙げておく。
今言った「選挙権が無い人たち」が激怒して起こした事件だ。その名もレヴェイヨン事件。
人生
「地名?
教授
「人名だ。選挙期間中に──まあ第一次選挙集会というものがあったんだが、
そこに出席していた壁紙製造業者のレヴェイヨンという人物がこんな事を言ってしまったらしい。
「労働者の日給は15スーあれば十分だ」
人生
「スーって単位が分からないけど、まあなんか失言っぽいよね。
教授
「1ルーブル=20スーだ。そして当時の労働者の日給は平均1ルーブル。
内容も内容だが、何より凶作やら混乱やらで生活が苦しい時に、こんな事を言ってしまったのが問題だった。正に「言わなきゃいいものを」。
助手
「第3章で「凶作によりパン屋が襲われた」と言いましたが、それは当時のパンの値段が高騰していたからに他なりません。
この頃には14,5スーにまで上昇。日給と比較しても、かなり苦しい生活だった事が伺えます。
人生
「エンゲル係数漸増ね(エンゲル係数って言いたかっただけ)。
教授
「後にレヴェイヨンはこう弁解している。
「パンの値上がりを嘆き、15スーで暮らせた頃を懐かしんだものだ」と。
苦し紛れに見えるが、実はこれが本心だという説も強い。上記の失言も、何者かが発言を歪曲したんじゃないか、とな。
人生
「そう言われなきゃ絶対苦し紛れだと断定してたな。
なんでそんな説があるの?
教授
「彼はただの市民から壁紙製造業で成功した、まあ典型的な勝ち組ブルジョワジーなんだが、
その成功には王室の後ろ盾があったんだ。ひょんな事で王室に気に入られてな。
彼は企業の規模を拡大した時、一回労働者にストライキをされている。
しかしこの時、彼は王室に、まあいわゆる「ストライキ禁止令」みたいなものを求めた。まもなくそれは承認された。
こうしてストライキが起きようものなら「オレ様のバックにいる王の親衛隊が黙っちゃいねえよ」と圧力を掛けたんだな。
さてどう思う。
人生
「や、そりゃ反感買うわな。
教授
「そうだな。彼は職人たちから見れば羨望の的かもしれないが、同時に伝統的な手工業から見れば“外れ者”だった。
恨まれる理由は十分あったんだな。
そんな人に「15スーで十分」などと言われたら──“彼がそう言ってたと言われたら”、まあ想像出来るだろう。
何者かが発言を捻じ曲げたか、あるいは背びれ尾ひれが付いてセンセーショナルなニュアンスに浸透してしまったのか、なんて説もある。
助手
「彼は労働者に対してしっかり30スーから50スー、最低の者でも25スーは払っていましたしね。
人生
「ん、当時の労働者の平均日給って20スーだったんでしょ? それはちょっと多くね?
助手
「ああ、いえ、壁紙製造に携わるデザイン工や印刷工、版画工といった職には熟練した職人が必要なので、元々給料は高めです。
この給料は高くもなく低くもない、妥当なラインでしょう。
教授
「ルイ16世のいとこである、オルレアン公が絡んでいるんじゃないかという説もある。
元々ルイ16世とオルレアン公は仲が悪くてな。今の王政をぶちのめして自分が取って代わろうなんて野心が強かったようだ。
自分の豪邸(パレ・ロイヤル)の庭を解放し、カフェやら商店やら作って進歩派の溜まり場にさせていたとか。
レヴェイヨン事件に限っては、あくまで一説に過ぎないけどな。
人生
「いや、むしろ庭にカフェや商店を作るダイナミックな発想に驚いた。
教授
「その失言が本当かどうかはともかく、民衆がこれに激怒したというのは事実だ。
レヴェイヨンの胸像を作って、グレーヴ広場という所でその像に死刑宣告を与えて"殺した"んだとか。
人生
「やらしいな。御近所さんの国旗焼却みたいだな。
教授
「彼自身はバスティーユ監獄に逃げ、軍隊がこの騒ぎを追っ払ったそうだが、翌日にはますます多くの群集が集まって暴動を起こした。
彼の家に侵入して家具を壊した。軍隊を増やすも、勢いが止まらない。
あろう事か軍隊は大砲をぶっ放して400〜500人を殺してしまったそうだ。
人生
「おいおい結構死んだな…。そりゃ有名になるか。
教授
「労働者を初めとした層が爆発寸前・・・もとい、爆発してしまっている事がよく分かるエピソードだな。
そんな極限的な状況で、もちろん大きな期待も伴って、三部会は開催されたという事だ。
人生
「で、話は三部会に戻る訳だ。
教授
「よし、じゃあ選挙の結果だ。事細かに知る必要はないから、大事な部分だけ話しておこう。
助手
「選挙結果は以下の通りです。
第一身分 308名 内、下層僧侶(司祭)が205名
第二身分 285名 内訳、帯剣貴族が266名、法服貴族が19名 内、自由主義貴族十数人
第三身分 621名 内、貴族階級出身15名
有名所と言えば、第一ではタレーラン、第二ではラファイエット、
第三ではバルナーヴ、ムーニエ、バイイ、ミラボー、アベ=シェイエスといった所でしょうか。
余談ですが、第三身分ではミッシェル=ジェラールという方が唯一農民で当選を果たしました。
教授
「ちなみに全部重要だから、赤字装飾は断念した。
さて、思いついた所を挙げてみろ。
人生
「「司祭が多いな」、「第三身分に貴族階級出身者が居るのかよ」、「有名所が全然分かりません」、「ジェラールすげえ」。
教授
「一つずつ見ていこう。
第一身分の「司祭205名」というのは重要だ。もう何度も話しているが、僧侶身分の中では下級に当たる「司祭」、
彼らは生活も第三身分寄りの貧しい生活をしていた。第三身分の出身者だっている。大抵は第三身分の味方だ、これは大きい。
第二身分の「自由主義貴族十数名」だが、これも前に話したが「旧体制に疑問を感じている人達」だな。
先のオルレアン公(ルイ16世に取って代わるなんて野心はあるが)や、
有名所で挙げているラファイエットなんかが代表的な人物だ。特にラファイエットはこの先活躍するぞ、覚えておいてほしい。
第三身分の「貴族階級出身15名」というのは、ほとんど貴族階級から追放されたような人たちだな。
民衆の支持は強く、第三身分の枠で当選を果たした訳だ。「第三身分とは何か」で登場したシェイエスがこれに当てはまる。
有名所にある中で、第一身分のタレーランというのは・・・後のウィーン体制という所で活躍する人だ。
フランス革命に絞るのであれば、まあ忘れてしまっても構わない。
人生
「忘れよう。
教授
「第三身分にあるバルナーヴとムーニエは覚えているな?グルノーブルの時に活躍した人だ(第4話参照)。
バイイというのは、まあこれからすぐに活躍するから覚えられるだろう。名前もインパクトあるしな。バイーとも言う。
人生
「バイイイイイイイイ。
教授
「さて、後のフランスの歴史を考えると、この三部会で選ばれたのは“超”が付くほど豪華な面々が一堂に会している。
勿論、当時のフランス国民は知る由もないのだが。このタレントだらけのオールスターの中、三部会は1789年5月5日に開会式が行われた。
人生
「とうとう始まったか。
教授
「で、ここまで引っ張っておいて何だが、この三部会は一瞬にして第三身分に見切りをつけられる形となる。
人生
「え、
教授
「三部会の儀典長であるド=ブレゼ侯は、中央の大きな扉を左右に開いて特権身分を王の前まで案内した。
第三身分の議員に対しては、裏口の一枚のドアから入場させた。
第一身分の僧生(身分が高い人達)は、同じ第一身分の司祭(低い方)と一緒の席に座る事を快く思っていなかった。
身なりも第三身分は特権身分と比べてみすぼらしく、座る席も特権身分と比べて一段低い位置にあったそうだ。
停止していた1615年以来の雰囲気そのままに、「旧制度」があぐらをかいていた訳だな。
人生
「まあ、その辺は致し方が無いよな。
教授
「まあこれぐらいなら第三身分も予想ぐらいはしていただろう。しかしこの先が第三身分を大きく失望させた。
まず始まったのは、三部会開催が決まってからも相変わらず政治に無関心、趣味の狩りに耽けり、
ネッケルに一切を任せていたルイ16世の演説。
彼はもったいぶった口調で「あまりこの三部会に期待するなよ」と言い、「あくまで目的は国庫を満たす事だ」とした。
人生
「空気読めないな。
教授
「それと何より、第三身分の中で当時湧き上がっていた(ココではあまり触れていないけどな)憲法制定に関して
何一つ触れなかった事が、殊更がっかりさせる事になった。
助手
「少しだけ憲法制定に触れておきます。カイエ(第4話参照)に多かった不満の一つが「領主の持つ封建的な強奪権」。
領主がどれだけ土地の住民に無理を強いたかは、第2話の頭で少し触れています。
そして、この情勢に対応して憲法制定を目的とする「立憲クラブ」というものが作られ、僅かな時間に相次いで、小さな町にまで広がったそうです。
教授
「続いてネッケルの財政報告だ。これが3時間、数字だけをつらつら並べた、無意味なものだったとされているが。
そして、ネッケルも“ある事”には触れず、その結果、完全に第三身分に見切られてしまった。さて、ネッケルが触れなかった話題とは何だ?
人生
「予想だにしてなかった唐突過ぎる問題に対処が出来ません。
教授
「第5話で有耶無耶な書き方をして終えた事柄が一つあっただろう。思い出せ。
人生
「そんな事言われてもー………むりーあたしわかんなーい(>_<)
教授
「議決方法だ議決方法。「一身分一票」か「一人一票」かどっちにするか結局決まってないだろうが。
人生
「今それ言おうと思ってたんだよ。
教授
「結局ネッケルはどちらにするか、本番まで先送りにしてしまった。
もちろんこれは先送りにしても良い問題ではなかった。一身分一票制なら第三身分は人数が多くても完全に蚊帳の外。
彼らにしてみれば一番はっきりさせて欲しかった所だったんだ。これがトドメとなり、第三身分はすっかり失望してしまった訳だ。
人生
「え、三部会終了?
教授
「終了。
人生
「えー。ちょっと、どうすんの。
教授
「おいおい、第三身分がこれで落ち着いたと思うか。
一旦キリが良いからココで切るぞ。次回は、失望した第三身分がとった大胆な行動について取り扱おう。
助手
「乞う御期待。
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