第5話 〜三部会開催決定(後編)
←人生
←教授
←助手
人生
「で、三部会っていうワードが出てきたけどコレって何なの?
助手
「1615年以降廃止されていた議会の事です。これを復活するように、高等法院は要求したんですね。
教授
「ちなみに、廃止した1615年というのは、ルイ14世就任のもうちょっと前の頃だ。どうして廃止されていたか分かるか?
人生
「分かりません。
教授
「「絶対王政が始まったから」だ。王様が好き勝手やればいい制度に議会なんて必要ないだろう。
人生
「あ、なるほど。
助手
「議席ですが、第三身分、第二身分、第一身分、それぞれ約300人、1/3ずつ議席を分け合っていました。
教授
「さて問題。第三身分にとって、この議席は有利か不利か。
人生
「政治的発言権が無いって言われてんのに、ちゃんと1/3の議席貰ってんでしょ?
いいんじゃないの?
教授
「逆だ。
単純に考えてみろ。第三身分にとっては、第一も第二も敵だぞ? 両方特権身分なんだからな。
これでは第三身分が何を訴えようが、どの道、特権身分に反対されて否決されるだろう(300対600)。
人生
「そうか、このままじゃ勝てないか。
教授
「まあ、そんな事は問題ではないけどな。
爆発寸前の国民に、政治的な発言権を与えてしまった事が問題だったのだ。
人生
「どういう事?
教授
「例えば、お前は餓死寸前の100万人の内の1人だ。しかしその苦しさを訴える場すらない。
人生
「お腹空いたな。
教授
「するとお前たちの身分も巻き込んだ議会が発足されるという。そしてお前は100万人を代表して議会に臨んだとする。
人生
「おお、責任重大だ。
教授
「目の前には自分たちの飢餓の原因となった、煌びやかな身なりをふくよかな体に包んだお偉いさん方が居らっしゃる。
お前はお前たちの苦しい生活を懸命に訴える。で、改善を願う。否決される。報告に戻る。
それを聞いた99万9999の人たちはどう思う? 「議会で決まったんだから仕方がない」と引き下がるか?
人生
「あぁ・・・なるほど。
教授
「だろう。国王はそれを認めようとはしなかった。
段々と調子に乗ってきた高等法院に対し、国王側の人物であるラモワニョンという人物が司法改革に乗り出した(ラモワニョンの司法改革)。
第5話で話した「高等法院が認めないと、王や大臣の法令や命令は一切無効になる」という伝家の宝刀を奪おうとしたんだな。
これを高等法院に「さあ認めろ」と突きつけたら、今度はドーフィネ州のグルノーブル高等法院がこれを拒否した。
人生
「「今からお前の手首を切るから、認めるサインをして下さい」と言ってるようなもんだしな。
教授
「あろう事か国王はこれに対し、グルノーブルに軍隊を派遣してきた。強制的に認めさせる為だな。
これに対して現地の農民が抵抗した。一人の老人が傷ついたのを皮切りに民衆の怒り爆発。
屋根に登って瓦や石を国王の軍隊に投げつけて追い払ってしまった。これを「屋根瓦の日事件」と言う。
人生
「てきとーなネーミングだな。暗記するには助かるけど。
助手
「この先「〜の条約」とか「〜の戦い」といった類の名前がバンバン出てきますが、
大抵はそれが結ばれた、もしくは会戦された地方の名前が採用されています。
おかげで「パリ条約」といった有名な地名の条約は十数種類も重複しているんですよ。wikipediaで検索してみて下さい。
教授
「ところで、今説明した屋根瓦の日事件、どこか違和感を感じないか?
人生
「すっごい流して聞いてたんですけど。
教授
「何でもいいから言え。
人生
「んー……敢えて言うなら、そんな簡単に軍隊なんか追い払えるのかって事ぐらい。
教授
「あ…なるほど、そう来たか。鋭いな。
引き出そうとしていた答えとは違うが、確かにそれは尤も疑問だ。
それなら逆に質問、軍隊ってどんな人たちから構成されているか分かるか?
人生
「王様の味方って事だから、まぁ特権身分で楽させてもらってる方の人たちか。
教授
「いや、違う。さっき“帯剣”貴族とか言った仰々しい名前の人たち、まさにこの身分だ。
人生
「法服貴族に位を金で奪われて対立している、歴史はあるけど金はない(つまり大半は苦労が絶えない)人たちの事だったな。
教授
「そうそう。ではこの人たちはどうやって金を調達しているのか? そもそもどこに就職しているのか?
それが軍隊という職だ。彼らにとって、軍隊というのは格好の就職先だったんだな。
助手
「法服貴族が台頭してきた頃の1781年にはセギュール勅令という法令が発布されました。
これは「軍の将校に就くには、4代遡っても貴族じゃなきゃダメだよ」といった内容です。
従来の「軍隊」という良い就職先を法服貴族に潰されないようにとられた、いわば帯剣貴族に対する救済ですね。
人生
「歴史はあるから、帯剣貴族だけが就職出来るって事だな。
教授
「そんな訳で、旧体制に疑問を持つ自由主義的な思想を持つ人たちが増えていた、もしくは法服貴族よりは多かった訳だ。
なみに今後活躍する第三身分寄りの貴族は大抵コレだと考えてもらっていい。
ただし、旧体制に疑問を持つだけであって、今の君主(王)に反対と言ってる訳ではないぞ。ココは覚えておいてほしい。
人生
「って事は?グルノーブルに来た軍隊はそんなに多くなかったって事?
教授
「多いかどうかはさておき、王が軍隊を満足にコントロール出来ていなかったのは事実だ。
ディジョン、レンヌ、そして今言ったグルノーブル(全部地方の名前)なんかは、ほとんど動かなかったらしい。
助手
「当時の、ある軍隊の司令官ランジュロン候は、
「軍隊は国家の敵に向かって進軍するものであって、市民に向かってするものではない」と宣言したそうです。
人生
「かっこいいね。
……で、「屋根瓦の日事件」に関して引き出そうとしていた方の答えって何?
教授
「あぁ、そうだった。
いくら印紙税廃止を訴える高等法院を支持したとはいえ、元々は特権身分の特権廃止の為に国王側は躍起になっているんだぞ?
それって国民側にしてみれば国王側につくべき話ではないのか?
人生
「なるほど。そう言えばそうだな。特権廃止を高等法院が認めようとしないから軍隊送ってる訳だよな。
……何か別の企みでも第三身分にはあったとか?
教授
「いいぞ、その通り。そしてその思惑は成就した。
この事件の後に、グルノーブル郊外のヴィジルの城館で“非公式の”地方三部会が行われたんだ。
ここで一旦第三身分と高等法院(特権身分)は結束をした。そして同時に次の事も決まった。
「第三身分は他の身分の2倍の代表者(議席)を持ち、三部会の議決の方法は身分別ではなく全体の多数決にする」
「全国三部会が召集させるまで、第三身分は租税は一切支払わない」
人生
「特権身分の方も随分妥協したな。
教授
「2倍の代表者を持ち、一身分一票の議決方法(従来はこの方法だった)を多数決の方法にすれば600人 VS 600人になる。
加えて第二話でも述べた通り、第二身分にも第一身分にも第三身分寄りの層はあるのだ。これで勝機が見えた。
2番目の「租税を一切支払わない」というのは、これは決まったというより、第三身分同士でこう誓った、というニュアンスだな。
人生
「それにしても、こうなる事を見越して軍隊に抵抗したんだったら、なかなか第三身分も賢いな。
教授
「一応第三身分にもブレインは居たらしい。バルナーヴという人物だ。ついでに、その同士のムーニエ。
彼は王政批判のビラを撒いたし、非公式の地方三部会で決めた事がらを提案したのも彼だった。
助手
「フランス国内(特に第三身分と特権身分の結束により焦った王政)が混乱する中、ここで第三話でお話した凶作が襲来。
もはや誰が何をやっても、国内を纏めあげる事が出来なくなってしまいました。
教授
「そこでルイ16世は再びネッケルを就任させようとしたんだが、ネッケルは就任にあたって、いくつかの条件を出してきた。
そしてその中に「三部会の召集」も含まれていた。
ここで一気にネッケルの人気が絶頂に達する。とうとうこれにルイ16世は折れて三部会の召集が決定したんだ。
人生
「なんか・・・全身分VS王室みたいな感じがするんだけど。これじゃ団結してね?
教授
「団結していたら悪いか。
人生
「えーだって面白く無いだろ。そもそも打倒すべき奴らって、むしろ特権身分じゃないんかい。
教授
「別に特権身分を優先的に打倒するぞなんて気運はないが、まあ確かに目の仇にしてる奴と結束してるのは不自然だな。
というかハナから団結なんて言うほどの結束ではない。利害が一致していたから一緒に動いただけの話だ。
最終的にお互いは何を目標としているか、考えてもみろ。
人生
「第三身分は今の旧体制を打ち破る事だな。特権身分は自分たちの特権を守るため・・・だよな。
教授
「間逆じゃないか。それに殊更、第三身分にとっては呉越同舟なんて悠長な事を言ってる場合ではない。
団結なんて一分一秒でも出来る仲ではなかったんだ。
というわけでこの団結、早くも亀裂が入った。事の発端は何を隠そうネッケルだったんだが。
人生
「またお前か。
助手
「ネッケルは当時大手のテルッソン銀行という所の番頭(長)という、いわば上層のブルジョワジーに属する人でした。
加えて大蔵大臣クラスの役職の下に王室入りも果たし、いわば特権身分の頭みたいな存在だったんですね。
教授
「さて、この話は一旦置いといておこう。
三部会には、身分毎に自分たちの不満や現在の苦痛を記したカイエ(陳述書)というモノを提出する事になっていた。
議員を通じて今の民情を反映させようとしたんだな。
人生
「いい事考えるな。
助手
「ちなみに第三身分のカイエは約6万。読み書きが出来る割合は大して高くなかったので、
代わりに書いたのはもっぱら市民のインテリ層だったそうです。ですので啓蒙思想を色濃く残す資料でした(第3話参照)。
このカイエは当時の暮らしを知る資料として、現在も非常に重宝されています。
教授
「話は戻って、このカイエ、ネッケルに対して重要なモノに成りえたと思うか?
人生
「そう聞いてんだからNoなんだろうな。
教授
「こ、姑息だな。その通りなんだが……。
別にネッケルにしてみれば、苦しい財政さえ何とかなればいい。
当時、市民農民がどのような暮らしをしていたか、その点に関しては無関心だった訳だ。
助手
「停止していた1615年は第一、第二、第三身分共300人だったのに対し、
とりあえずネッケルは第三身分だけ、その倍である600人にする事を決定しました。第三身分の圧力・攻撃を受けて、ですが。
人生
「あれ、それってどっかで決まってなかったっけ。
助手
「グルノーブルで取り決めた事はあくまで“非公式”。王室の人間は関わってすらいませんでしたからね。
教授
「しかし、ネッケルは決定をグズグズと引き延ばしてしまった事がある。
グルノーブルでは一応そう決めた、「議決方法は身分別議決方法(一身分一票)ではなく多数決」という事だ。
「グルノーブルでは「一人一票の多数決にしようねー」って決めたらしいけど、従来は身分別だったし・・・どーしよ」 こんな具合だな。
そもそも真剣に考えようとしなかったって説もあるが。
助手
「すると“パリの”高等法院が「議決方法は身分別にすべきだ」と訴えてきました。
人生
「ちょっと待て、“高等法院と”第三身分で決めたんじゃないのかよ。
助手
「要するに裏切りです。手のひらを返してきたんですね。
教授
「第三身分の人たちは怒り狂った。勿論、グルノーブル地方の人々なんかは尚更だな。
このように、三部会が始まる前から結局第三身分は他の特権身分とは敵対していたという事だ。
結局、お前が描いた形で三部会はスタートする訳だな。
人生
「いいねぇ、やっぱ第三身分単独でドカーンとやってくれなきゃね。
教授
「さて、次回は三部会選挙スタートからバスティーユ監獄襲撃──革命のスタートまでを取り扱おう。
大丈夫か? ついてきているか?
人生
「ついてきてないと言ったら?
教授
「いや、別に。
人生
「頑張ります。
次へ
戻る