第3話 革命の主な近因

←人生 

←教授 

←助手 

人生
「近因ってか、第2話見る限り、もう革命起きてもおかしくないんじゃない?

教授
「そうだな。
 確かに今まで挙げた体制、制度だけでも、虐げられていた人たちが蜂起する理由としては十分なのかもしれない。
 どうしてルイ16世の時代に起きたのか? 切欠が在ったからに他ならない。

助手
「この切欠は次回取りあげます。

人生
「次回かよ。

教授
「ココではもう少しだけ、国民を圧迫、もしくは高揚させる原因になった事柄について話そう。
 それは14世、15世のツケだったり、突発的に起きた事だったり、徐々に広まっていった思想であったりと様々だ。
 絞って話すと大きく分けて3つ。戦争、凶作、啓蒙思想。ココではこの3つに限定して話す。

助手
「言うまでもありませんが、これらはあくまで大きな原因の代表的な例であって、
 原因となった全てではありません。誤解のない様お願いします。

人生
「戦争、凶作、なんて読むの?

助手
「“けいもう”思想です。

教授
「では順番に見ていこう。まずは戦争だ。
 ルイ14世と15世はとにかく数々の国に戦争を吹っかけ、あるいは参戦していった。
 まあ「積極政策」と言えば聞こえはいいが、そのくせ大方負けているのだから情けない。

助手
「戦争を仕掛ける・参戦する原因としては、領土の拡大はもちろんの事ですが、
 一家の利益や自分自身の利益の為、虚栄心の為、好きな女性の気をひく為など、個人的な理由も多く混じっていました。
 破れかぶれに戦争を引き起こしていたのも、この気が強いからである事は言うまでもありません。
 余談ですが、ルイ15世はお気に入りのポンパドール夫人の為に3600万ルーブルを費やしていたそうです。
 その額の大きさは、後述する当時の歳入から照らし合わせてみてください。

教授
「ファルツ継承戦争、ポーランド継承戦争、7年戦争、フレンチ・インディアン戦争──
 負け戦の例だ。加えて幾多もの戦争で、周辺諸国からも警戒される始末だ。

助手
「「継承戦争」というのは、王位の継承を巡った戦争です。
 例えばどこかの国で君主が亡くなった場合、「俺達の子孫や血筋の人を君主にしろ」と首を突っ込む戦争の事です。
 つけ入るスキが出来る絶好のチャンスなんですね。

教授
「ルイ16世の頃には、これらの戦争で借金は20億ルーブルにまでのぼっていた。
 ちなみに当時の歳入は5億だ。1年で入る金の4倍の借金をしていたという事だな。

人生
「でも日本の借金って4倍どころじゃなくね?

助手
「どちらも異常です。

教授
「ちなみにこんな形で国民も火の粉を浴びる事になる。
 戦争で負けても「はい負けましたすいません」では済まない。必ず何かを奪われたり、賠償金を支払わされたりするな。
 具体的には植民地を逆に奪われたりする。

人生
「植民地?

助手
「植民地というのは、国が武力で獲得した領土の事をいいます。武力に限りませんけどね。
 ちなみに植民地はあくまで一つの国です。支配されている国の一部ではありません。
 (フランスがベルギーを植民地にしようが、ベルギーはフランスの一部にはならない。あくまでベルギーはベルギー)

教授
「植民地が無くなるという事は、海外市場(要するに自国で作った商品を売りつける先)を失う事になる。
 さて、困るのは誰だ?

人生
「そりゃ、売りつける人だな。

教授
「そう、つまりブルジョワジー(商工業者)だ。
 自分の持ってる商品が売れなくなってしまう。すると彼らは当然金もなくなる。
 フランス国内にどんどん金が無くなっていく。さて、どうやって金を調達しようか。

人生
「これ以上調達する当てあるの?

教授
「いや、ない。あれば苦労はしない。
 なんとなく想像出来るかもしれないが、そこで国民に更に重い税を課す、という事だ。

人生
「そ、そんな!! 弱き者はいつも虐げられる運命にあるというのか!!

教授
「分かった分かった。

助手
「ちなみに勝ち戦もありますよ(例:オランダ侵略戦争)
 ですがトータルで見れば、圧倒的に戦果としてはマイナスだった、という話です。

人生
「そんなこんなでルイ16世の代に回っちゃったのか。気の毒に。

教授
「2つ目の凶作。その名の通りだが、革命への近因の一つだな。現に“切欠”は、この凶作の翌年に発生した。
 まぁこれは「凶作が起きたよ」という一言で事足りるんだが、
 味気ないので具体的な被害も一応少しだけ触れておこう。

助手
「引用元は「フランス革命史」(参考文献の欄を参照)

 「十二月の末には、セーヌ河がパリからル・アーヴルまでこおり、寒暖計は零下十八度以下にまでさがった。
  プロヴァンスではオリーヴの木が三分の一も枯れてしまい、残りの木々も、あと二年間は実がならないほどのいためられかただった。
  (中略)平原地方では、ローヌ河が二ヶ月間も氾濫した。一七八九年の春以来、いたるところに飢餓があり日ごとにひどくなっていった」

 (引用終了) 

人生
「パリってそんな寒い所なの?

助手
「いえいえ、現在のパリの平均気温は約5℃です。関東地方の日本より一回り寒い程度ですね。
 ちなみに「一七八九年」と言うのは、何を隠そう、革命のスタート「バスティーユ監獄襲撃事件」の年です。

教授
「まあ見れば分かる通り深刻な被害だったそうだ。
 どこのパン屋も群集に取り囲まれて食料をひったくりあったとか。仕事も全国規模で無くなり、各地の仕事場には誰も居なかったそうだ。

人生
「腹が減ってる時って例外なくイライラするしな。確かに原因としてはピッタリだ。

教授
「そして3つ目、啓蒙思想。これは大事だ。超大事だ。

人生
「どの位大事?

教授
「それはもう、その、大事だ。

人生
「なんて読むんだったっけ。

教授
「“けいもう”思想だ、1回で覚えろ。

人生
「いちいち難しそうな言葉使わなくてもいいのに。で、字面から全然想像出来ないんですがコレは一体。

教授
「難しそうな字面に負けず劣らず難しい。wikipediaにも色々ゴチャゴチャ書いてあるだろう。
 乱暴に言えば、「全てのもの・現象・秩序に対して、“理性”の上にたって考えようじゃないか的思想」だ。

人生
「wikipediaの文量からして偉い挑戦的に端折りましたね。

教授
「例えば「〜は神のおぼし召しなんです」とか「神がそう言ってんだよ」とかいう事がらに対して反論しようとする。
 でも「それは神の仕業じゃないんだよ」と言った所で、「じゃあ何なんだよ」と反論されたら成す術がないだろう。

人生
「そりゃそうだ。

教授
「だから宗教うんぬんからは離れて、合理的に、理性に基づいて物事を考えようじゃないかという思想だ。
 この場合、必然的に「全てのものは理性によって説明出来る」と仮定しなきゃダメだな? つまり神うんぬんには批判的だ。
 無神論とされる・・・というか、その考えが無神論へ導かれるのは当然だな。

人生
「あー、じゃアレ? さっき出てきた王権神授説にも批判的って事?

教授
「いい所に気がついたな。
 当然「王権は神から授かったものです」とする王権神授説も、理性に基づいて考えた時、批判の対象となったのは言うまでも無い。
 それと忘れちゃいけないぞ、上の説明では神に限ったように説明しているが、
 旧制度自体だって多くの不自然、不合理から成り立つ制度だ。これ自身も当然非難される対象だった。

人生
「まあ理性もって考えればそりゃそうだな。国の金の半分が人口の2%の為に使われてんだからな。

助手
「もちろん全ての哲学者が──根底で通じる所はあったにせよ、全く同じ思想を共有していた訳ではありません。
 ですが、この先に踏み込むと完全に哲学のお話になります。というより、私自身もイマイチ理解出来ていません。
 付け焼刃の知識で自滅は避けたいので、この場では割愛させていただきます。

人生
「無難だな。

助手
「フランス革命関連の本を一つ取れば大抵啓蒙思想は取り上げられていると思うので、興味がある方は是非ご覧になって下さい。

教授
「もっとも、啓蒙思想単体で理解しようとしても難しいから尚のこと頭が痛いんだ。
 さあ、一緒に大人しく素通りするとしよう。

人生
「ha-i。

教授
「一応、これがどのように伝わっていったのかだけは触れておこう。
 これらの思想(人名で言えばヴォルテール、モンテスキュー、ルソー辺りか)は、当初は大して浸透もしなかった。
 その本が読まれるとしても、インテリ層の市民とか、地方では知識分子にあたる人たち──司祭なんかがそうだな。
 その辺が関の山だったんだ。

人生
「あー待って、司祭って何だっけ。コレあったよな。

助手
「第二話参照です。第一身分に属してはいるものの、その中では身分が低く、
 ほとんど暮らしは農民と変わらない生活を送っていた人たちの事ですね。つまり第三身分寄りの人たちでした。

教授
「しかしこの時期から、爆発的に第三身分の層にまで広がっていく事になった。
 今言った司祭は説教壇から、そして進歩的なインテリは街頭に乗り出してこの思想を呼びかけた。
 元々不安は募りに募っていた市民達は一気にこの思想を吸収して、革命思想が人々共有のものとして広がっていったんだな。

人生
「いきり立ってきたな。

教授
「同じ第三身分でも、都市の労働者の方が早くから浸透し、目覚めていった。
 農民の方はなんというか、もう旧制度によって打ちひしがれていたんだな。啓蒙思想を取り込む、考える力すら衰えていたのだ。

人生
「気の毒に。

教授
「では革命に農民は参画しなかったのかというと、それは断じて違う。
 何故って、そもそも思想家たちが啓蒙思想を生み出したのは何を隠そう、農民たちの惨めな生活や悲しみ、望みなんだからな。

人生
「ちょっと意識したでしょ?

教授
「否定はしない。
 …ともあれこうして彼らは、国の財政の破綻や特権身分の横暴を知って、加えて自分たちの虐げられている現状を見つめて、
 なんとしてもこの不合理を取り除かなければならないと思うようになったんだな。

人生
「いいねえ、なんかもう革命引き起こしそうな気運じゃん。
 ・・・そういやさ、特権身分の横暴は分かるけど、どうして「国の財政の破綻」が国民に知れたの?

教授
「あぁ、当時国の財政を任されていたネッケルという人物が、「財政報告」というのを発表して今の国庫収支をぶちまけてしまったらしい。
 まあこの報告、いんちき説が浮上しているんだが、そこは大して問題ではない。ぶちまけてしまった事自体が問題だったな。

助手
「ちなみに“革命引き起こしそうな気運”というか、既に革命前から各地で暴動は発生していたんですけどね。

人生
「噴火前の火山活動みたいな感じね。

教授
「さて、そんなこんなで何か皮切りになるものがあればいつでも爆発してしまえた彼らだが、
 皮肉にも革命が動き出した原因は、旧制度の恩恵を受けている王政・特権身分同士のいざこざだったんだ。

人生
「え?

教授
「うん。

人生
「なんかまたムチャな増税とか法令にとうとう爆発ぼかぁこれ以上は耐えられんぞって訳でもなく?

教授
「いいや、お偉いさん同士の争いに付け入った形だな。

人生
「…自滅?

教授
「その自滅っぷりを次回見ていくことにしよう。


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