第2話 階級社会

←人生 「赤字と青字の基準って何ですか?

←教授 「いや、特に。

←助手 「目に障る人は、反転して下さい。

人生
「さて、階級社会です。
 日本においても格差の深刻化が叫ばれている中ですが、果たしてフランスにはどんな格差があったのでしょうか。楽しみですね。

教授
「いっくらフランス革命が「国民が王政を引っくり返したバイタリティ溢れる大事件」とは言え、
 まさか国民全員が同じ志を持っていたとは考えられないだろう。考えられないよな?

人生
「はい、勿論考えられません。

教授
「よし、ココでは具体的な階級・格差について紹介しよう。
 分かりやすい反面、誤解されやすいので注意してほしい。

助手
「まずは単語や数値から先にご紹介します。以下の図をご覧下さい。

第一身分・・・
聖職者 約13万人
第二身分・・・
貴族 約40万人
 →
全国土の30〜40%を所有国庫収入の50%を年金として受給免税特権
  この優遇されっぱなしの二つの身分を
特権身分と呼ぶ。
第三身分・・・平民 
約2450万人(内、農民が約2100万人、市民が約350万人)
 →政治的発言権ゼロ・領主と国家への重税

教授
「どんな感想を持った?

人生
「赤字と青字だらけですね。

教授
「本当は全部重要なんだけどな。で、どんな感想を持った?

人生
「いや、だから赤──

教授
「どんな感想を持った?

人生
「えーと、その、特権身分いいなぁって思いました。

教授
「いい感想だ。
 第一・第二身分には相当量の特権が与えられている事が分かるな?
 国中の3〜4割の国土を、たった2%の人で占められているんだ。
 国の歳入の半分が2%の人達の娯楽に使われたら、現代では考えられもしない異常な事態だろう。
 そんな国もあるけどな。北○○、とか。

人生
「バレバレです。

教授
「免税特権というのは、今で言う消費税や所得税といったものが一切免除される特権だ。

助手
「政治的発言権がゼロというのは、重要な役職を全て特権身分が独占していたからに他ありません。
 第三身分の方にある“重税”というのは、自分の地域の土地の持ち主(領主)に支払うお金と、
 それとは別に国へも税金を払わなければいけなかった、という事です。

人生
「ガソリンに消費税がかかってるようなもんか。

教授
「そういう事。

助手
「ちなみに、ひどい時は生産物が1/10しか残らなかった時もあったとか。

人生
「こってり搾られてんなぁ。

助手
「他にも、領主の持つ「水車」や「パン焼きかまど」や「ぶどう酒製造の圧搾機」の使用が“義務付けられ”、強制的に使用料を払わされたり、
 相続人のない農民の財産も領主は取り上げる権限があったり、裁判権を持っていたり。
 15世紀からは狩猟権まで持ち、農民は害虫を殺すコトすら許されず、
 一日中太鼓や鈴を鳴らさなければいけないハメになったという話を、ルソーという人物が残しています。

人生
「革命が起こる位なんだからヒドいんだろなとは思ってたけど、期待通りに相当ひどい訳だ。

助手
「フランス国民の実に98%を占めるのに政治的発言権はゼロ。後に、ある人がこれを訴える事になりますが、
 これが
アンシャン=レジームの矛盾と呼ばれる内の1つでした。
 こんないびつな体系をしている以上、探せば矛盾はいくらでも出てくるものですが、列挙するとキリが無いのでココでは割愛します。

人生
「OK、ココまでよく分かったよ。

教授
「調子良さそうだな。何が分かった?

人生
「こっから第三身分が特権身分をガバっと引っくり返す、エキサイティングでエキゾチックな革命を起こしてくれるって訳だな?

教授
「いいぞ、お前は今、「噛ませ犬」として最高級の輝きを見せている。

人生
「そんな事だろうと思いました。
 でも、どう見ても第三身分が起こしそうな雰囲気なんだけど。

教授
「まあ、この内のどれだと言われれば、確かに革命の主役は第三身分だ。
 しかしそれは第一、第二、第三身分と区切った場合での話。
 こう考えてもみろ、いくら全人口の2%とはいえ、特権身分には一応53万人も居るんだぞ?
 全員が全員同じ境遇を受けていると思うか? 現状に満足していると思うか?

人生
「要するに、その中でも上下居るって事?

教授
「その通り。後々のイベントの関係上、この三身分に分けた方が非常に分かり易くはある。
 というか、実際フランス国内でも、この三身分に分けられている節はあった。
 しかし各身分を1つの同じ身分として、“ひいては同じ立場として”一括りしてはマズいぞ。

人生
「貧富の差?

教授
「結果的にはそうだが、身分の差があるから貧富に差が生まれたんだ。
 この身分の差っていうのは聖職者・貴族・平民の事を言ってるのではなくて、各階級の中に更に分けられた身分の事だ。
 まあともあれ上から一つずつ説明していこう。聖職者にはどんなイメージがある?

人生
「えー、やっぱり教会とかで両手組みながら「おお 神よ! この者たちに ひとときの休息を あたえたまえ!」とか言ってたり?

教授
「大体そんなイメージを抱くものだろう。
 それを実際にやっているのは身分の低い、田舎の司祭とか助祭とかいう地位に居る人だけだ。
 大司教・僧侶貴族辺りは、それこそ金を頭から浴びる堕落した生活を送っていたのが実情だな。

人生
「夢壊してくるね。

教授
「勿論、さっき話した「全国土の〜を保有、収入の半分を年金として〜」みたいな特権も、
 そういう身分の低い人達には回ってこなかったらしい。結局一般市民と殆ど変わらない生活を送っていたんだな。
 今の旧制度を呪う事に関しては、大して庶民に劣っていなかったというオチだ。

人生
「全部が全部「旧制度ばんじゃーい」って事でもなかったって事だな。

教授
「第二身分の貴族にも全く同じ事が言える。
 大きな土地を持っていた大諸侯と呼ばれる者達は、それこそ前回話した通り中央の重要な職について豪勢な生活を送っていた訳だが、
 田舎に留まらなければならなかった領主(これも貴族)はそういう訳にはいかなかった。
 土地を持っている立場を利用して庶民に横柄に振る舞いはしたものの、実際は中央へ行った人達に対して妬みの視線を送っていた訳だ。
 土地はあるとはいえ、政治的にも経済的にも実力は無くなっていた訳だからな。

助手
「絶対王政が確立すればするほど、基本的に
封建制度で成り立っていた領主たちの力は失われていくものですからね。

人生
「ちょ、ちょ、ストップ。封建制度って何ぞや?

助手
「国王が諸侯に自分の持ってる土地を管理させる事を認める代わりに、諸侯が国王に対して忠誠を誓う制度です。
 早い話、「オレの土地管理させてやるから忠誠誓え」といったものですね。

人生
「“忠誠を誓う”って?

助手
「国や時代によってまちまちなので、こんな便利な言葉を使っているだけです。
 「オレは忠誠誓ってるよー」という信条を体現するのに、選択肢なんかいくらでもありますしね。戦闘に参加したり、税金納めたり。

 それと、補足ですが、さっきからゴチャゴチャに使っている「領主」と「諸侯」という言葉。
 領主階級の一つに「諸侯」というランクがあるだけの話であって、ココではほぼ同義語と考えてもらって大丈夫ですよ。

人生
「なるほど。で、なんで絶対王政が強まると領主たちの力が弱まるの?

助手
「えっと、これより前の時代に
大航海時代というのがあったんです。
 その名の通り航海が盛んに行われるようになった時代なんですけど、国と国との間の貿易が盛んになり、商工業者が喜びました。
 新しい市場、要するに自分の商品の売りつけ先が増えたからです。
 ただ、その為に商工業者は“国の大きな後ろ盾”が必要になります。
 国が一つに纏まっていた方がなにかと商売はスムーズに、安定して出来ますからね。

人生
「あー、だから諸侯がうじゃうじゃ居るよりは、王様一人が強い力を持つ制度の方が助かるのか。

助手
「そうです。
 例えばスムーズに安定して行える例の一つですが、何か商品を運ぶ時、ルートに諸侯が管理する土地があると、
 そのような土地がある毎に「ココは俺の領土だ! 通行代払え!」といった因縁を延々と受けます(下図参照)。



人生
「あいかわらず すばらしいずですね。

助手
「商工業者は身分こそ低いものの(第三身分ですから)、カネ──つまり力は持っていました。
 力ある者たちがそのような制度を鬱陶しく感じるんですから、当然自然に、徐々に淘汰されていきます。

人生
「第三身分の分際でやるねぇ。

助手
「こうした背景もあって、革命近くには封建制度(=諸侯)に全盛期程の力は無くなっていました。
 とはいえ「国民は“領主と”国家への重税に苦しむ」とお話した通り、領主の力は依然、強く居座り続けています。
 ↑の方に書いてありますが、まだまだ理不尽な、がんじがらめの封建制度に苦しんでいたようです。

人生
「OK、封建制度については一応少し分かった気がする。

教授
「話が逸れてしまったが、大丈夫か? 先へ行くぞ?

人生
「本題を忘れました。

教授
「さっさとログ見て思い出せ、「貴族の間にも貧富の格差はあった」という話だ。

人生
「あーそうだそうだ、田舎に留まらなきゃいけなかった領主も勝ち組貴族層を指くわえて見つめてたって奴か。

教授
「そんなところだな。
 それに対して宮廷に居る大貴族は王の狩りのお供をしたり、
ベルサイユ宮殿で贅沢三昧の生活を送っていた訳だ。
 あまりに贅沢なものだから、借金までしていたそうだ。

助手
「ベルサイユ(宮殿)がフランスの中心都市であるパリからは遠く離れた所に位置している事は覚えておいて下さい。

人生
「借金て・・・。「国庫収入の50%を特許身分が年金として支給」ってのを見たばっかりな気がしたんですけど。
 金ならいっくらでもあるんじゃないのかい。

教授
「いや、そんな次元の話ではないらしい。小話程度なら少し調べればごまんと出てくるぞ。
 映画なんかも目の付け所だな。映画「マリー・アントワネット」あたりからも垣間見ることが出来るんじゃないか?
 興味がある人は見ておくといい。

人生
「その言葉って、絶対見ないフラグだよね。

教授
「私も予定調和のつもりで言ってるから、どうとでもない。
 ではココで問題、貴族はどこから借金をした?

人生
「えー難しいってー。

教授
「少しは考えろ。助手がほぼ答えに近いヒントを出してくれたばかりだろう。

助手
「以下の問題の回答を記入の上、こちらの宛て先にまで御応募下さい。
 問題:今回西川さんが訪れた国は、オーストラ○ア?
 ヒント:今回西川さんが訪れた国は、オーストラリアです。

人生
「(あぁ、よくあるよねそういうの)
 …えーと、商工業者?

教授
「正解。今し方話した通りだが、商工業者ってのは「身分が低い」けど「金持ち」だ。借り手としてはこの上なく適したステータスだな。
 ちなみにこれ以降、商工業者は
ブルジョワジーと呼ぶ。重要単語だから、是非覚えておいてほしい。
 というか、
ブルジョワと言えば耳にしたこともあるかもしれないけどな。

人生
「確かに金持ちに「このブルジョワめ」って吐くのは聞いた事あるような気がする。

助手
「今は少し差別的なニュアンスが含まれているそうですからね。

教授
「さて最後、第三身分はどうだろう。ココも内部で分裂しているんだろうか?

人生
「この身分はさすがに一致団結しているだろうと思うけど。主役だし。

教授
「と言いたいところだが、残念ながらココも皆が皆「革命が出来たらおっぱじめたい」と思っている訳ではない。
 さて、実はココにも既に書いてあるんだが、現状を維持してもらわないと困るのは誰だ? そして何故だ?

人生
「「誰だ?」の所から分かんねえ…。

教授
「ヒント、革命が起きると貴族たちが没落してしまうぞ。貴族に没落してほしくないのは?

助手
「ヒント、今回西川さんが訪れた国は、オーストラリアです。

人生
「じゃあブルジョワジー?

教授
「正解。第三身分ではその辺りの人しかまだ話していないしな。

人生
「分かった、じゃあアレだ。金貸してるからだろ?

教授
「そういう事。金を貸している相手が没落しては困るだろ? 折角貸した金が返ってこないのだからな。

助手
「まるで国○○金ですね。

教授
「ブルジョワジーは貴族や国王を盛り立てて、どうにかして人民から金を絞り上げなければならなかった。
 位はないものの、ほとんど金融貴族といっても差し支えない立場だな。

助手
「とはいえ、貴族たちに貸していたのはあくまで上層のブルジョワジーです。
 大金持ちのレベルでないとさすがに王家相手にお金なんて貸せません。
 それを含めて考えると、多くのブルジョワジーは第三身分の大多数と足並みを揃えていると考えても大丈夫です。
 ちなみに当時のブルジョワジーの力ですが、フランスの輸出額の観点から見れば、ルイ15世の時代からルイ16世にかけて2倍強。
 (1720年に1億600万円 → 1788年に3億5400万) 急速に力をつけている事が裏付けされるデータです。

教授
「平民の約2450万人の間にも多少の軋轢はあったとはいえ、それでも着実に不満は蓄積していた。
 というより、この状況ではむしろ爆発寸前という表現の方が正しいかもしれないな。
 それに加えて聖職者や貴族の中にも、第三身分の肩を持つ人達が居たという事をココでは覚えてもらいたい。

助手
「もう少し色々な身分内部でのズレ(
法服貴族や帯剣貴族の関係etc)もあるんですが、
 今回はこのぐらい理解していただければ十分です。ちなみに法服VS帯剣に関しては後にちょっとだけ触れます。

人生
「貴族の中にも色々違うのか。

教授
「面倒だな。

助手
「さて、第3話に移りましょう。
 次回は、具体的な革命の近因についてお話します。

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