第17話 ジャコバン独裁 政治編

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←教授

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人生
「はーい政治編でーす

教授
「第16話でちょろちょろと「独裁政治が行われていた」と書いたが、文字通りの意味だ。

人生
「文字通りって、国民は認めるのかそんな事。

教授
「勿論だ。ジャコバン派の支持基盤は、パリのコミューンを初めとした民衆だぞ。

人生
「よく分からん…。

教授
「独裁政治(=恐怖政治)が成立した背景について説明しよう。
 まず、公安委員会が9月14日、他の委員会のメンバーを国民公会に提出する事にしたんだ。

人生
「はぁ。

教授
「続いて国民公会は、戦時非常処置を行う権限を公安委員会に委ねた。コレは10月10日の事だ。
 第16話で私が
 「国民公会が「今はまだ平和な時じゃない。平和が訪れるまでは革命的な姿勢であるべきだ」という事で
  この憲法は“平和な時”が訪れるまで施行が延期される事に決まったんだ」と言ったな?
 これが正にこの事だ。実際、ココから急に処刑者が激増した。実際この6日後の10月16日、マリー=アントワネットも処刑された。

人生
「おい、なんか呆気ねえ。

教授
「恐怖政治とか独裁政治とか言われると身構えてしまうかもしれないが、
 結局は「憲法が存在しない上での政治」という事でそう呼ばれているだけだ。
 別に国民も支持するとか認めるとかいう訳じゃなく、成り行き上そうなった訳だな。

人生
「そうは言ったって支持基盤がその、さっき言った「パリのコミューンを初めとした民衆」なんだから、
 やっぱり支持受けなきゃやっていけなくない?

教授
「そうだな。
 そしてこんな強い姿勢で政治をやっていく上、内外に亀裂が生じてくるのは最早必然だった。

助手
「内外の内は「ジャコバン派の中で」、外は「フランス国内の中で」という意味です。

教授
「今回は“外”の亀裂を見ていこう。

人生
「お願いします。

教授
「まず初めに──というか、もうジャコバン派の独裁政治が崩壊するようなニュアンスになってしまってはいるが。
 崩壊の理由は2つ。先程話した内外の亀裂だ。まずは外の亀裂を見ていこう。

人生
「外ってのは、フランス国内って事だな。

教授
「第16話を初めとして、色々な法律や政策が実行されてきたな?

人生
「激動だったなぁ。

教授
「そうすると、当然得をする人も居れば、損をする人も居る。
 例えば16話で話した「封建制度の無償廃止」。これで農民は自分の土地を手に入れて保守化をした、という事だったな?

人生
「もうこれ以上革命は進んで欲しくない! ってヤツだったかな。

教授
「コレは全員が全員土地を手に入れた訳ではない。
 そもそも解放されるべき土地を元々持っていなかった人も居たし、
 国営化された土地は競売に掛けられる訳だが、ココでもやっぱり金持ちに有利な方式が取られたんだ。

人生
「ああ、そこで農民の間にも“亀裂”が生じると。

教授
「そういう事だ。
 それと16話では触れていなかったが、
ギルドというものが廃止された。

助手
「ギルドというものが一体何なのか、何故廃止されたかは、下の図を御覧下さい。



人生
「色々と言いたい事があるんですが。

助手
「留めておいて下さいね。

教授
「でもどうだ、自由主義経済になると、そりゃ大企業のブルジョワは良いとして、中小企業はどうだ、奴らに立ち向かえるか?

人生
「そりゃ力も無いし、難しい話だわ。

教授
「そういう事。ここでまた一つ亀裂が

人生
「生まれちゃった訳だ。

教授
「続いては地方とパリとの亀裂だ。
 独裁政権っていうのは国が一丸とならなければ成しえない事は、何と無く分かるな?

人生
「“独”裁だし、そりゃみんなが明後日方向向いてちゃダメだな。

教授
「敷衍していけば、
中央集権の制度じゃなければならない事になるな。
 中央っていうのはドコだ?

人生
「パリか。

教授
「そういう事。つまり地方はパリと歩調を合わせなければいけない事になるが、ここで一つ問題が生じる。
 中央(=パリ)では、力を持っている公安委員会が地方への指令を一日に60程作っていたとされている。
 (「国民公会は、戦時非常処置を行う権限を公安委員会に委ねた」と先述した通り)

人生
「60って! 地方に伝達出来るのかよ。

教授
「しかも公安委員会は12人しか居ないんだ。
 出張もしばしばあるし、国民公会や
ジャコバン・クラブ(その名の通り、ジャコバン派のクラブ)へ演説に出かけていたりもする。
 …まぁそんな少人数で60もの指令を作っている事自体、現代では考えられない事だが、そこは置いといてだな。
 これを地方に余す所無く伝達するにはどうすればいい?

人生
「誰かにやってもらう?

教授
「そう、地方へ議員を派遣するんだ。

助手
「議員という名称は、別に何かの、国民公会だのといった議員という事ではなく、「議員制度」の議員という事です。

教授
「これが大体60名程居て、1人が1〜2地方を担当する事になった。
 とは言え1人じゃ中々事もスムーズに運べない。さあどうしようか?

人生
「やっぱり誰かに助けてもらう?

教授
「自然だな。今度は現地で協力してくれる人を探した。
 しかし現地の自治体は“古くから”居る役人ばかりで、要するにジャコバンの独裁体制に対して快く思っていない人ばかり。
 中々協力は仰げなかったようだ。さあ、どうしよう。

人生
「そりゃ、えー、どうしましょう。

教授
「という訳で最終的に行き着いた先が、ジャコバン・クラブから協力者を探す事だ。
 ジャコバン派が集うジャコバン・クラブだから、当然、手を貸してくれるハズだな?

人生
「そうだな。ていうか初めからジャコバン・クラブを頼りにすれば良かったのに。

教授
「しかしコレも上手くいかなかった。
 確かに手を貸してはくれるんだが、多くの者が“議員”という権力を持つ人と一緒に行く事によって地方でデカい顔をしたがる、
 いわゆる野心家だったんだ。もしくは議員に媚び諂(へつら)ったりな。

人生
「あぁ、そう来たか。

教授
「そんな人たちが地方の政治へ密接に関わってくるんだから、マトモに機能しなくなるのも自明の理。
 議員が地方で行き過ぎた事をやってしまう事もあれば、あるいは何も出来なかった所もある。
 そんな混乱の最中、パリからは次々に新たな指令・法令が届いてくる。
 地方の行政とパリとの間に(勿論地方同士とも)亀裂が生じてしまう訳だな。

人生
「えらいこっちゃ。

教授
「そこで公安委員会は約60人居る議員の中から特に無能な、あるいは過激な事を仕出かした21人をパリへ呼んだ。
 パリへ呼ばれるという事は、要するに裁判に掛けられてギロチンの餌食になるという事だが、
 21人は抵抗する。殺される前に公安委員会を潰してしまえ、ロベスピエールをギロチンに掛けてしまえと、反独裁政治に回る訳だな。

助手
「反独裁政治=反公安委員会=反ロベスピエールですね。

教授
「以上の通り、フランス国内における亀裂に関しては理解して戴けたと思う。
 次回は独裁政治を執り行っているジャコバン派内の亀裂だ。ココで遂に空中分解を起こす事になるんだが…。

人生
「待て待てちょっと待て、反独裁政治=反公安委員会ってのは分かるけど、何でそれが反ロベスピエールになるの?

教授
「当初、事実上の政府として成り立っていた公安委員会のトップに君臨していたのがロベスピエールだったんだ。
 次回詳しく話す。

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