第18話 〜テルミドール9日のクーデター

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人生
「「フランス国内が偉い事になってるのに、独裁政治を行っているジャコバン派内部でも対立が起きてます大変だー」
 が前回のあらすじですね。

教授
「そんな所だな。
 ジャコバン派の中にも更に、大きく分けて3派に分裂していた。
ダントン派エベール派ロベスピエール派だ(名称は資料によって異なる)。
 公安委員会を仕切っていたのがロベスピエール派。ダントン、エベール両派の間を上手く取り持っていた訳だ。

助手
「それは同時に、非常に不安定だった事を意味しますが。

人生
「それはココで取り上げなかっただけで、前々から分裂してたとか?

教授
「んー、そうだな。突然分裂した訳ではないが、一気に顕著になってきたのはこの時期だ。
 一つずつ見ていこう。
 ダントン派というのは、どちらかというと
穏健派だ。外国と妥協するのも大事で、こう続いている恐怖政治も終わらせたいね、という立場だ。
 それと、キリスト容認派でもある。

助手
「反対にエベール派は
急進派
 外国との折衷案なんて無い、革命はどんどん進めるべきだ、という立場です。ですから当然、キリスト排除の方向ですね。

人生
「あー、もしかして16話でやってた最高なんたらとか理性なんたらとかって、この2派が争ってたから正反対の事がやってた訳か。

教授
「そういう事。最高存在の祭典と、理性崇拝だったな。民衆はどういった態度を取ったんだっけ?

人生
「確か「よくわかんねえっていうかお前ら何やってんだよ…」だっけ?

教授
「その通り。
 公安委員会(≒ロベスピエール)はムダに国民を混乱させる行いだとして、自身は信仰の自由の立場を明確にとった。
 もっとも、宣言したのは国民公会だけどな。

人生
「つまりダントン派の味方をした訳か。

教授
「同時に公安委員会は、エベール派に対して「無用な混乱を起こす野郎だ」として、態度を硬化させる。
 するとどうなる、必然的にダントン派の発言権が増す訳だが、ロベスピエール派にとって、これは良い事か、悪い事か?

人生
「え…? じゃあ良い事。

教授
「いや、悪い事だ。
 ダントン、エベール両派の間を上手く取り持っていた形でロベスピエール派が実権を握っていたんだぞ。
 片方の勢力が肥大する事は、すなわちバランスが崩れるという事。ロベスピエール派としても好ましくない状況だったという事だ。

人生
「なるほど。

教授
「そんな中で発生したのが、絶対王政の時期にフランスがお世話になっていたインド会社の汚職事件。
 この中にダントン派の議員(そしてダントン自身も)が多く関与していた事がバレてしまった。

人生
「すいません、汚職ってのがよく分かんないんですが。

助手
「自分の職という地位を、個人の利益の為に利用してしまう事です。この場合は事件自体が重要な訳ではないので大丈夫です。
 むしろ大事な事は、ダントン派の議員が関与していた事。つまり、ダントン派が逮捕される口実を作ってしまった事です。

人生
「あら、逮捕する気だったの?

教授
「この他にも色々と不正とか汚職があったんだが(しかもエベール・ダントン両派の議員が絡んでいた)、
 ともかく結果的には、ロベスピエールを初めとした公安委員会、保安委員会が結束して、
両派を逮捕、処刑してしまったんだ。

助手
「エベールはともかく、ダントンはロベスピエールの旧友でしたからね。ロベスピエールは処刑してしまうか迷ったそうです。
 牢獄から処刑場へ運ばれる途中にロベスピエール家の前を通った時、ダントンが

 「ロベスピエール、次はお前の番だ」

 と言い放った事は有名です。
 とは言え本人も、几帳面なロベスピエールが支配する恐怖政治下では長生き出来るとは思っていなかったそうですが…。
 ダントンは豪勢でエネルギッシュ、人望も厚かった反面、金銭・女性問題で多くのトラブルを起こしていたそうですからね。

人生
「ロベスピエールとしては成功なのかもしれないけど、それはそれで軋轢生まないのかね。

教授
「そう危惧する通りだ。
 より強固な力を手に入れた公安委員会、保安委員会は、更に強い政策を打ち出していく。
 革命裁判所で行われる裁判は
「無罪か、死刑か」のどちらかに絞られたし、弁明や弁解すらも排除してしまった。

人生
「もう一方的な断罪じゃん。

教授
「そうした強い革命裁判所の権力を笠に、民衆クラブの活動家なんかを片っ端から処刑していった。
 注意して欲しいのは、反革命家ではなくて、民衆クラブの活動家だ。あくまで
彼らは反革命家とは限らないんだ。
 究極的には「自分達の意向に沿わない奴らは片っ端から弾圧していく」という事だ。

人生
「戦慄が奔るな。

助手
「この頃が恐怖政治(テロル)の全盛期。
処刑者は2万人に上ると言われています。

教授
「右派(含、ダントン派)は革命裁判の強化に、左派(含、エベール派)はエベール派の処刑と“民衆クラブの活動家”への弾圧に
 それぞれ危惧を抱き、更にロベスピエール派との対立を深めていく事になる。
 そしてトドメはロベスピエール派(ひいては公安委員会)内部での分裂だ。
 こう強い態度を打ち出し続ければ、内部から不満が噴出する事も無理はないけどな。

助手
「例えば
サン・ジェストという人は当初ロベスピエール派に属していた人ですが、
 外国との戦争の勝利につれて、「今の政府は窮屈過ぎるんじゃないか」という民衆の声に同調するようになります。
 (この人は同調するようになっただけで、基本的にはロベスピエールの味方です)
 
コロー・デルボワという人は第17話で話した議員の一人で、職権を乱用してリヨンという地方で惨殺を行った人です。
 彼はこの後の処理を巡ってロベスピエールと対立しました。

教授
「先述した通りロベスピエールは元々
優秀で(1〜17話において、ロベスピエールがどのような活動をしていたか)几帳面な政治家だった。
 それ故にこうした公安委員会の雰囲気にも嫌気が差したのかどうか分からないが、突然公式の場(国民公会)に姿を見せなくなったんだ。
 ますます国民や反革命家の反感を買ってしまい、反革命家の運動が動き出してしまう。

人生
「…というと?

教授
「テルミドール(16話で話した共和暦だ)8日、ロベスピエールは久しぶりに公に姿を現し、「粛清されるべき議員が居る」と言った。
 先述したコロー・デルボワの通り、各地で悪事を働いていた議員達は戦々恐々、その名前を言うように要求したんだが、
 ロベスピエールはこれに応じなかったんだ。

人生
「後ろめたいヤツにとっては生殺しな訳か。

教授
「遂に不満(と言うには語弊があるが)が爆発した。
 翌日テルミドール9日、国民公会に出席したロベスピエールだが、その場では発言権が与えられなかったのだ。

助手
「国民公会の議長が反革命家とグルになって、発言権を認めなかったんです。何を隠そう、議長はコロー・デルボワ。

教授
「「暴君を倒せ」と叫ばれる中、ロベスピエールを初めとしたロベスピエール派の逮捕が決議、通過してしまう。
 パリのコミューン(16話で述べた通り、彼らは味方だ)が国民公会内に囚われたロベスピエール派を逃がすも、
 隊長のアンリオを初めとした国民衛兵と市役所(ココに立てこもっていた)で衝突。
 ロベスピエールはアゴを撃ち抜かれ、翌朝テルミドール派22人と共に革命裁判所に掛けられた。

人生
「まさか本人が掛けられる事になろうとは。

教授
「ロベスピエールと足並みを揃えていた
タンヴィルから死刑を宣告され、処刑。
 
テルミドール9日のクーデター(テルミドールの反動)。享年36歳。共和国樹立の為に奮起した男が、22人と共にココで従容と死を受け入れた。

助手
「反動と言う表現は何を隠そう、今まで進めてきた革命に対しての反動です。

人生
「何というか、なぁ。革命を熱心に推し進めてきた人が死ぬとはな。

助手
「難しいものがありますね。

教授
wikipediaでは、フランス革命の範囲はココで終了だ。

人生
「え? ココではブリュメール18日のクーデターまでって決めなかったっけ?

助手
「確かにココでもキリは良いんですが、ブリュメール18日まで扱うと尚の事キリが良いんです。
 それ以降はナポレオンの帝政に入りますからね。
 事実、多くの資料ではブリュメール18日まで取り扱っていますし、こちらでもそれに倣う事にしています。

教授
「という訳で恐ろしくキリが良いので一旦切ろう。
 次回は、反動を迎えたフランス国内がどういう方向へ向かっていったかを見てみる事にしよう。

人生
「想像出来ないな。

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