第16話 ジャコバン独裁(文化編)
←人生 「ところで、何でフランス革命なんですか?
←教授 「いや、特に他意は無いが。
←助手 「ユダヤ教の歴史でもやりますか?
人生
「大変意味深なタイトルですが、これは一体なんですか。
教授
「ジャコバン派独裁の機関は1793年6月2日〜1794年7月27日だ。
期間こそジロンド派の時代と大差無いが、話す事はジロンド派程多くはない。
という訳で16章では、ジャコバン派独裁時に芽生えた──もしくは誕生した、文化的側面を中心に取り上げる事にする。
助手
「もったいぶった事言ってますが、要するに「2つに分けるから時間軸ちょっとズレます」という事です。
教授
「一々確認する必要の無い様に最大限配慮はしているが、どうしても気になる人は年表の方を参照してくれ。
人生
「はーい。
教授
「ココで取り上げる事を先に並べておこう。以下は全部93年の出来事だ(御覧の通り、話の流れ上、多少前後しているからな)。
6月の憲法制定 → 7月の封建的特権無償廃止 → 9月の最高価格令 → 8月の徴兵制
→ 10月の革命暦導入 → 10月のメートル法導入 → 6月の理性崇拝・最高存在の祭典 以上。
さて、まずは憲法だ。今の憲法は?
人生
「1791憲法だな。ブルジョワ寄り、反革命寄りの。
教授
「そうだ。ジャコバン派が政権を握った今、当然この憲法は時代に即していない。
という訳で93年6月に、憲法の改正が行われた(公布は8月)。1793憲法だ。
国民投票の結果は、賛成が180万、反対が1万7000。
人生
「相変わらず凄まじいネーミングセンスだな。
教授
「別に共和国一年憲法だのジャコバン憲法だの、呼び方は色々あるけどな。統一性があるし、こちらの方がいいだろう。
内容は人権宣言に即した、極めて民主主義的、平等主義的な内容だな。
権利の平等、国民主権、男子普通選挙(普通選挙に戻った)、エトセトラ。
助手
「一つ1791憲法との違いを挙げるとすれば、権利の平等に財産権が含まれた事でしょうか。
それまで1791憲法では財産権を「不可侵」としていましたが(当時はロベスピエールも賛成でした)、
今回は他の権利と同様、「他人の権利を守られる為には制限される事だってある」とされています。
財産が不可侵にされたって、財産を持っていない貧民には何ら関係ありませんからね。むしろ有害でしょう。
教授
「何故?
人生
「そりゃ、金持ちの財産の不可侵性が保障されている訳だしなぁ。
教授
「その通り。
この憲法、民主主義の原点とされて、
ソビエト憲法だのワイマール憲法だの日本の憲法にも強く影響を与えている歴史的な憲法だ。
何が面白いって、この憲法自体は結局施行されずに終わったんだからな。いわば幻の憲法だ。
人生
「え?
教授
「国民公会が「今はまだ平和な時じゃない。平和が訪れるまでは革命的な姿勢であるべきだ」という事で
この憲法は“平和な時”が訪れるまで施行が延期される事に決まったんだ。
結局後にジャコバン派も没落するから、遂に施行されず仕舞だった。
助手
「裏を返せば、「一時的に憲法無しで、権力を握る機関が作った法律だけで政治が行われる」という事です。
つまりは独裁政権。この宣言が、事実上恐怖政治のスタートと言えるでしょう。
人生
「恐怖政治?
助手
「詳しくは17話で。
教授
「続いては7月に行われた、封建制度の無償廃止が実施された。
人生
「あれ、コレやらなかったっけ?
教授
「よく覚えていたな。14話でクロポトキンが提議した「フランスが抱える3つの大問題」の内の2つだ。
14話の繰り返しになるから割愛しよう。ただ重要な点が一つ。コレで農民はどうなった?
人生
「どうなったって・・・喜んだ?
教授
「それはそうだ、自分達の土地が与えられて、晴れて自作農になったんだからな。
質問を変えよう、“革命に対して”農民はどう考えるようになった?
人生
「まぁ、やっぱり…ますます応援したくなる…だよな。
教授
「逆だ。自分の土地を貰ったんだから、感謝はする反面、
後は超強力な政権に守られればいい訳で、これ以上ヘタな事をして欲しくなくなったんだ。
要するに保守化だな。折角手に入れた土地を、また取られるんじゃないかと戦々恐々としてたって事だ。
助手
「後にナポレオン政権がスタートするんですが、
彼が民衆に大歓迎されたのも、このような背景が一枚齧っていたと考えられます(「超強力な政権に守られたい!」という意思に馴染んだ)。
人生
「なるほどね。
教授
「ちなみにクロポトキンが提議した問題の3番目である最高価格令も、9月に施行された。
これも14話で話した通り、「闇市の発生」等で長期的に見れば失敗なんだが、
一時的に経済統制が図れたという意味では成功した。アッシニア紙幣の価値が回復したんだな。
助手
「長期的に見れば失敗というのは、要するに再び紙幣の価値が暴落したという事です。当たり前の話ですが…。
人生
「とりあえず、そのクロポトキンさんが提議した奴は全部やった訳ね。
教授
「そういう事だな。続いて前後するが8月の徴兵令。
17話では国内の政治事情を中心に取り上げ、外国からの脅威(戦争)には殆ど触れていない。
何故なら、この徴兵令が功を奏したからだ。
ジロンド派が30万人程徴兵しようとした事は覚えてるな? アレは何故失敗したんだ?
人生
「あれ、なんでだっけ?
教授
「参加が市民から強いられたブルジョワが、適当にやる気の無い奴とっ捕まえて金払って身代わりにさせたんだ。
お陰でやる気の無い金目当ての奴ばかりが徴兵されて、兵の質が全体的に非常に悪かった。
人生
「そうだそうだ、代理人立てられたからだな。
教授
「という訳で、ジャコバンの独裁政権は分け隔てなく全員に対して徴兵を実施したし、それが可能だった。
数字で見れば一気に100万ちょっとの兵が生まれたって事だな。
ヨーロッパ屈指の人口を誇るフランスだ、これは強力な武器になった。
人生
「壮大な作戦だな。
教授
「更に、既存の兵士と新規に招集された義勇兵を一緒くたにした。
コレが巧く作用して、義勇兵の革命に対する情熱と、既存の兵士の軍事知識・実体験が巧く合わさった。
助手
「この兵制改革が、皮肉にも百戦百勝で唸るナポレオン政権の土台にもなっています。
人生
「兵を増やすのはともかく、武器は間に合うのか?
教授
「最優先課題だな。公安委員会はパリに200を越える兵器の製造工場を造らせた。
鉄砲も大砲も火薬も豊富に作られたし、兵士の制服も立派になったそうだ。
それと、いわゆる士官学校が(これよりもう少し後に)設立された。軍事的な教育を施す為だな。
徹底的に行われた兵制改革が功を奏し、フランス北部の国境で次第に勝利するようになってきた。
人生
「それで外国との戦いが鎮圧してったって事か。
教授
「そういう事。外国に対する軍事的な脅威は一先ず収まったんだ。
まあ、フランス国内に対しても徹底的に弾圧は行われたんだけどな。それは次の章に回すとして・・・。
続いては、えーと、革命暦だな。別名共和暦とも言う。
人生
「ていうか今までフランスは何暦だったの?
教授
「グレゴリウス暦だ。今日本で使われてる、それだ。
なんでわざわざ革命暦なんかに変えたのかというと、心機一転という気持ちも無くはないだろうが、
一番大きな理由はキリスト教を否定する為だな。
人生
「何で否定する必要があったんだ?
教授
「旧制度ではキリスト教がフランスの体制、国民の生活に深く根付いていたからな。
王権神授説とかあっただろう。それに第一身分だった聖職者なんかも正にそれだ。
今までも度々聖職者に対しては厳しい法律が施行されていたからな。聖職者基本法(第15話)とか。
人生
「あのー、聖職者を選挙で選ぶって奴か。
助手
「革命暦ですが、1年を12ヶ月に分けています。
グレゴリウス暦の9月22日から始まり、月名はそこからヴァンデミエール(葡萄月)、
ブリュメール(霧月)、フリメール(霜月)、ニヴォーズ(雪月)、ブリュヴィオーズ(雨月)、
ヴァントーズ(風月)、ジェルミナール(芽月)、フロレアール(花月)、プレリアール(草月)、
メシドール(収穫月)、テルミドール(熱月)、フリュクチドール(実月)です。
人生
「あー、ブリュメール18日のクーデターってココから来てるのか。
教授
「そうだ。尤も、1806年(すなわちナポレオンの時代)に廃止されるんだけどな。
人生
「どっかの漫画に使われてそうなネーミングだ…。
教授
「さもありなん。
続いて同時期の10月に採用されたメートル法だが…まぁ、これは言わずとも分かるな?
人生
「メートル法ってフランス革命の時期なのか。やるな。
教授
「外国は勿論の事、当初はフランス国内でも躊躇されたんだが、後々普及されるようになった。
まぁ、そんな程度でいいだろう。
フランス革命中にメートル法が生まれたという事を、頭の片隅にでも置いてもらえれば十分だ。
さて、このセクション、ラストは理性崇拝・最高存在の祭典だ。
人生
「今まで見た中でもトップレベルで意味が分からないんですが。
教授
「コレはどっちもジャコバン派が行った物だが、やってる事はほとんど正反対だ。
というかこの時期、“ジャコバン派”で一括り出来なくなってきているんだけどな。
それは第17話に回すとして。
人生
「分裂したジャコバン派が、それぞれやった事?
教授
「そうだ。理性崇拝というのは、すなわち理性を第一に崇拝するという事だ。啓蒙思想に似ているな(第3話)。
これも即ち反キリストだ。キリスト教を礼拝するんじゃなくて、自分達の理性を崇拝しろと言っているんだからな。
人生
「それは分かったけど、じゃあ“最高存在の祭典組”はなんで↑と逆の事をしたんだ?
革命暦で言ってたけど、反キリストってジャコバン派が目指す一つじゃないのか。
教授
「宗教の勢力を恐れたんだ。ヨーロッパ諸国の多くはキリスト教だしな。国内だって宗教勢力は存在する。
だから最高存在の祭典で、逆に今度は礼拝の自由を強調したんだ(最高存在ってのは神の事だ。カトリック公認語)。
人生
「なんとかフォローした訳だ。
教授
「当時残された絵を見れば分かる通り、最高存在の祭典も人間理性の崇拝も大々的に行われた。
しかし民衆の反応は意外と冷ややかだったんだ。何故か? 単純だ、イマイチよく分からないからだ。
人生
「確かに…。
教授
「豪勢に行われて、確かになんか凄い事やってるのは分かるんだが、
だからと言って何か心に訴えかけるようなものは何一つ無かった。というか、逆に「何やってんだよお前ら…」みたいに反感を買った。
これがジャコバン派の没落を早める一因にもなったんだな。忘れちゃいけない、既に恐怖政治は行われていた訳だしな。
人生
「だから恐怖政治って一体何・・・。
教授
「次回は、本話で述べた事が行われている一方でジャコバン派は何をしていたのか、
どうなっていたのか、政治的な面の話に移る。
人生
「いや、だから恐怖政治って。
教授
「大人しく次を見ろ。
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