第13話 〜ルイ16世処刑

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←教授

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人生
「先生、思わせぶりな所で切っといてアレですが、
 タイトルに思いっきりネタバレが仕掛けられてるのはどうかと。

教授
「断腸の思いで実行に移した。

助手
「分かりやすいですしね。見なかった事にして下さい。

人生
「分かった。俺の中ではルイ16世はまだ生きてる。

教授
「…さて国民公会は現在混迷を極めている。
 思わせぶりに終えた通り、「タンプルに閉じ込めてる国王と愉快な仲間達をどうするか」で揉めていた。
 ずーーっと王権の下で安定していた訳だからな。いくらルイ16世が政治的に無能な王だったとはいえ、
 いきなりスッパリと王権を消すのは苦労した訳だ。

人生
「まあ、確かにいきなり共和制だしな。気持ちは分かる。

教授
「フイヤン派と一部のジロンド派、つまり王政復活を求める人達ですら、
 誰を次の王にするかでオルレアン公だの、その子供にあたるシャルトル公だの候補が割れたそうだ。

助手
「オルレアン公と言えば、ルイ16世打倒の為に、パレ=ロイヤルを開放したりと暗躍していた人ですね。
 シャルトル公は後に「
ルイ=フィリップ」として王になります。フランス革命には関係ありませんが。

教授
「混迷を極めているとはいえ、ジャコバン派(共和派)にとっては問題なんて何一つも無い。
 さっさと王を裁けば良いし、このまま共和制を進めようとする人にとっては、後継者なんて関係無いからな(後継者なんて必要ない。
 勿論、民衆もそれを望んでいた。未だに飢饉は続いていたからな。

人生
「まだ凶作続いてんのか。

教授
「いや、1792年は特に問題無かったんだ。むしろ豊作だった位。
 原因は一連の戦争だ。大半の農民が戦争に駆り出されていたんだな。
 それにもう何というかお決まりだが、豊作であれば一部の搾取する人がそれを肥やす。
 今の所、結局何の解決にも至っていない、という事だ。

人生
「辛酸舐めまくってる訳だな。

教授
「ダラダラと2ヶ月間、国王の裁判は先延ばしされていたんだが、
 遂に民衆(の協会)の方から「さっさとやれ」と要求があった。
 それに続いてパリのコミューン(地方自治体)からも「それがパリ市民が望んでる事だ」と要求が来た。

人生
「まあ、当然の流れだよな。

教授
「で、遂に国民公会は動き出した。彼がどんな罪を犯したのか、リストにしたんだな。
 10日後にはそれに関する討論も行われた。

人生
「罪ってリストにするようなもんなのか。

助手
「よくある事ですよ。4,50の罪はザラです。

教授
「しかし事態は急変した。
 ルイ16世の趣味が錠前作りだった事は取り上げたな?(第4話)

人生
「インパクト強かったから覚えてるけど、何をいきなり。

教授
「彼に錠前作りを教えていた
ガマン氏が、ロランという男にこんな事をチクったんだ。
 「バレるとマズい書類を隠す為、私の手を貸してテュイルリー宮殿の壁の中に隠し戸棚を設けた」と。

人生
「我慢氏w

助手
「ガマン氏が告発したのは何を隠そう、保身の為です。隠蔽に加担している事になりますからね。
 今の内に自首しておけば、刑が軽くなりますから。

教授
「ロランは誰にも言わずに早速調べた。有った。持ち帰って、妻と一緒に調べた。
 そして国民公会に提出したんだ。

助手
「ちなみに
ロラン夫人はジロンド派の中心的人物の一人です。ジロンドの女王と称されていた位。

人生
「ジロンド派が、王が不利になる事したのか。

教授
「ジロンド派とは言え上下広いですからね。
 それに、密告したのに隠されたガマン氏がどう出るか分かりませんし、
 何より事が大きすぎます、ヘタな事は出来ません。
 600通以上の書類から出てきた事実は、いずれも議会を震撼させるものでした。

人生
「我慢氏wwwwwwww

教授
「ミラボーがルイ16世と内通してたって以前話したな? アレはこの書類でバレたものだ。
 他にも「屋根瓦の日事件(第5話)」で活躍したバルナーヴなんかも、王様に買収されていた。
 約10人の立法議会議員が買収されていた事実が白日の下に晒された。

人生
「それ結構バレちゃまずい事だよな

助手
「余談ですが、アンシャン=レジーム(旧制度)という言葉を初めて使ったのがミラボーです。
 ルイ16世宛に書いた手紙の中に記述が確認されたそうで。

教授
「ヴァレンヌ逃亡事件でルイ16世達をサポートしたフェルセン(第10話)って人が居たな。
 彼がマリー=アントワネットを初めとした多くの人と交わした手紙なんかも出てきた。
 極めつけは、1791憲法発足時の手紙だ。
 表でルイ16世は国民の熱狂的な喝采を浴びつつ憲法の宣誓を行ったが、
 
“その日に”オーストリア皇帝に対してフランスを裏切ろうとしている手紙を出していたんだ。

人生
「うわーーーーバレちゃいけない事を。

教授
「ジャコバン派は遂に国王の死刑を望んだ。
 この時ジロンド派は、
 「1791憲法以前の罪は恩赦で許されるし、以後の罪は憲法に「国王の不可侵」が定められてるし(ブルジョワ寄りの憲法だから)、
 罪になったとしても王位が廃止されたっていう立派な罰を食らってるじゃないか」と主張した。

人生
「ちょっと苦しくないか

教授
「そうは言っても、こう言うしかないだろう。しかしこの裏切りが発覚すると、ジャコバン派は
 「“その憲法を裏切った”んだから不可侵性は無効だ」と強く主張した。

人生
「眩しい位の正論だ。

教授
「結局、国民公会はルイ16世を審問する事に決定した。

助手
「この後もジロンド派は裁判阻止、責任転嫁の為にあの手この手で反対の声を上げました。
 ですが結局全て無駄に終わり、結局ジャコバン派を「独裁だ」と喚くだけの存在になってしまいました。

人生
「責任転嫁って?

教授
「「国王の裁判を、各県から集めた代表者でやれ」とか、
 「国王に対して出した判決を、フランスの全市町村団体に承認させろ」と言った具合に。
 こうすれば、結局手を下すのは市民達という事になりますからね。
 まあ「30000を越える市町村団体に承認させる」という考え自体、意固地になってる様子が伺えますが。

教授
「そんなジロンド派を他所に、12月3日、ルイ16世は遂に国民公会に召喚された。

 国民に対して反逆を行いましたか → やってません
 亡命貴族を庇って、金を与えましたか → やってません
 穀物などを買い占めましたか → やってません
 憲法を破り、また、その廃止を企てましたか → やってません

 こんな具合だ。

人生
「ひどいw

教授
「ルイ16世は弁護人を要求して、一応それは承認された。
 しかし頼んでも誰もやってくれない。

人生
「劣勢とかそういう次元じゃないしな。

教授
「すると王の元大臣を勤めていた
マルゼルブ氏が、自分から王の弁護に立ったんだ。
 補佐として法律家の
ド・セーズも弁護に回った。

人生
「漢だなー。

教授
「言われた事に対して片っ端から無罪である事を論証して、
 お前らがやってるこの裁判は、いつか歴史が判決を与えるだろうなんて言ってのけた。

人生
「勇気はあるな。

教授
「ジャコバン派は大激怒、「ただちに死刑に処するべし」と吼え、ジロンド派の先述した反論も退け、
 遂に年を明けた1月14日、3つの事項に関して
記名投票を行う事に決定した。
 
1、国王は有罪か 2、国民投票をすべきか 3、国王は死刑か

人生
「簡潔だけど、逆にまたそれが恐怖をそそるな…。

助手
「以下の票数は一説です。出所が色々あるので、資料によってまちまちだそうです。

教授
「翌日1月15日、まず一つ目の事項を採決された。
 749人中、716人が
有罪だとした。
 ちなみに他は欠席や棄権だ。「無罪だ」と言う人は見事0人だった。

人生
「いくらなんでもゼロは凄いな。

教授
「同日、二つ目の事項が採決された。
 参加したのは若干減って709人、286 VS 423で
否決だ。
 最後、三つ目については翌日に持ち越された。
 コレに関しては投票した理由を言わせる事にしたんだ。時間が掛かった訳だな。

人生
「酷。

教授
「そして来る1月16日、採決が行われた。
 賛成は387人、反対は321人、
国王の死刑は決定した訳だ。

助手
「ちなみに賛成派の中には「死刑に猶予を与えるべき」という人も居ました。
 言い出したのはメールという人物ですが、数十名がこれに倣っています。
 彼らを反対派に入れると、その差は僅差であるというのが有力な説です。
 361 VS 360の
一票差なんて所も。大抵はこの票数がメジャーなものです(wikipedia等)。
 真相は不明ですが、ともかく“死刑であった事”は確実です。

人生
「一票差だとすれば、本当に恐ろしい程ドラマチックな話だな。

教授
「ちなみに、ジロンド派の中心人物達の意見はバラバラ。
 立場がはっきりしない、何がしたいのか分からない、私利私欲の集団と言われる一つの原因だ。

人生
「投票した理由を言わせるんでしょ? 死刑に賛成した人は何て言い逃れたの?

教授
「例えば「(フランス国内の)内乱を避ける為」とか言って逃れたな。
 12話で王の一連の行動を厳しく批判する人の例にヴェルニオを挙げたが、この人もこの理由で白票を投じた。

助手
「この人に限らず、死刑に賛成した人達は、後に思わぬしっぺ返しを受ける事になります。

人生
「記名投票だから名前割れてるしなー。しっぺ返しって何だ。

助手
「それは、そう遠くない後程に。

教授
「さてこの5日後の1月21日、遂にルイ16世の処刑が執り行われる事になった。
 マリー=アントワネットを初めとした身内達との最後の別れを追えて、タンプル塔から約4km、衛兵に護衛されつつ革命広場へ馬車で向かった。 
 護衛された理由は?

人生
「王を助けようとする人が居たから?

教授
「正解。
 で、2万人が声を潜めて待ち構える革命広場に到着。
 ガンガン太鼓が鳴らされていたんだが、国王が力強い声でこう言った。

 「私は、私が告発された全ての罪に対して無実のまま死ぬ。私は、全ての敵を許す。
  私の血が、フランス国民にとって有益なものになる事を、神の怒りを静める事を切望する──」

 これ以降は、一旦止まった太鼓の音が再び鳴らされて掻き消されたそうだ。
 最後ばかりは国王らしい、堂々とした態度だったらしい。

人生
「ココだけ見ればかっこいいな。

教授
「1793年1月21日午前10時20分、
ルイ16世はギロチンによって処刑。享年38歳。
 国民は「国民万歳!」「フランス“共和国”万歳!」と絶叫したそうだ。所謂お祭り騒ぎ。

助手
「ちなみに、太鼓を鳴らして王の続きの言葉を消したのは
サンテールという人物。
 ヴェルサイユ行進にも8月10日事件にも参加し、国民衛兵司令官としてタンプル塔に閉じ込められた国王達を見張っていた人です。
 同じく余談ですが、遺体は
マドレーヌ墓地という所に埋葬されました。 既に92年の12月から遺言状を残していたそうです。

人生
「国王の裁判をダラダラ延期してた時か。覚悟はしてたんだな。

教授
「さて、あれだけ何とかして革命を押さえつけ、王を守ろうとした諸外国はどうしたか。
 
イギリスのピット首相によって結成されたのが、第一回対仏大同盟だ。
 メンバーはイギリス・オーストリア・プロイセン・スペイン・その他の国。
 それと忘れちゃいけない、各国の王党派だな。

助手
「その他の国 → サルディニア・ナポリ・ネーデルラント。
 「第一回」とある様に、この先大同盟は崩壊を繰り返しては何度も何度も登場します。
 その多くはイギリスの
ピット首相によるものです。そのしつこさによって、著者お気に入りの一人でもあります。

人生
「著者って誰?

助手
「貴方の分身です。

人生
「RPGみたいな事言わないで下さい。

教授
「一応第一回は1793年〜となってはいるが、
 その動き自体は、フランスが初めて勝った戦であるヴァルミーの戦いから動き始めていたようなものだ。
 ルイ16世が処刑された事を知って、さっさと同盟が組める訳ではないしな。

助手
「ヴァルミーの戦いに勝利した直後、
 ジロンド派が「ヨーロッパの国民に自由を与える」といった旨の事を宣言してしまったんですね。陶酔して。
 同じく諸外国国王に対して、より一層敵対色を強める宣言も出しています。

人生
「言わなきゃいいものを。

教授
「さて、国王の件は片付いた。片付いたとは言え、まだまだ国内事情は問題山積。
 次回はそこに絞って取り上げよう。

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