第11話 〜対外戦争会戦

←人生 「なんかフランスに行ってみたくなりました

←教授 「スイスやイタリアにする方が懸命だと思うけどな

←助手 「噂ですが、日本人にとっては色々大変だそうですよ、フランスは。

人生
「さてさて、またフランス国内で仲間割れを起こしてるとの事ですが。

教授
「ハナから仲間だったかどうかも怪しいもんではあるけどな。
 
憲法制定国民議会って覚えてるか?

人生
「忘れました。

教授
「素直だな・・・まあいい、この際ちょっと確認しよう。
 まずアレだ、
三部会が開催されたよな?

人生
「第一から第三まで出てたアレだな。

教授
「で、直に第三身分+αが脱退して作ったのは?

人生
「忘れました。

教授
国民議会だ・・・。この国民議会が憲法制定目的で名前を変えたのが、憲法制定国民議会だ。

人生
「やったようなやってないような・・・。

教授
「やった。第9話だ。

人生
「すいません。で、憲法制定したっけ?

助手
「してませんね。人権宣言はしましたが、アレは憲法ではありませんし。

教授
「で、ピルニッツ宣言から約半月後の9月14日、一応
1791年憲法という名前の憲法が制定された。

人生
「おっそろしく安直で親切なネーミングはこの際スルーするとして。
 何その“一応”って。憲法制定されたからいいじゃん。

教授
「まあそうなんだが、実はちょっと内容がおかしいっていうか、反動的っていうか。
 代表的な内容としては「25歳以上で一定上の税を納めた
男子制限選挙立憲君主制」といった所か。
 おかしいと思わないか? 特に、第9話で見てみた「人権宣言」と比較すると。

人生
「なんで?

教授
「アレだけ人権宣言で「自由だ自由だ」叫んでおいて、憲法では「男子限定、年齢制限、税金納入必須」だぞ?
 しかも未だに立憲“君主”制だ。ルイ16世は見限られたんだから、共和制にするべきではないのか?

人生
「そういやそうだな。随分革命と逆行してんな。

教授
「ちゃんと背景はある。説明しよう。
 まず、この憲法に大きく関与したのはブルジョワジーだ。

人生
「金持ってる人ね? 身分低いけどそのお陰で地位はあったっていう。

教授
「そう、それな。
 で、ブルジョワジーは今の革命に対して、現段階においては満足してるかどうか。どっちだと思う?

人生
「そういう聞き方をしてんだから満足してないんだろうな。

教授
「いや、満足しているんだ。

人生
「汚ねえ

教授
「言われは無い。
 ヴァレンヌ逃亡の件も含めて、宮廷の人達が力を失いつつあるのは分かるな?

人生
「まあ、お世辞にもあるとは言えないよな

教授
「このまま革命が進むと、政権を握るのは?

人生
「普通に考えれば市民・・・ていうか国民・・・かな?

教授
「そうだ。
そこまで行くとブルジョワにとっては“行きすぎ”なんだ。
 ただでさえ実質金を持ってる(=力を持っている)のはブルジョワだぞ?
 今、この辺でうまーく革命が停滞してくれれば、自分達がそこにのさばれるだろう。

助手
「正確には「力を失った“元”主とうまく妥協してやっていく」という表現がより適切です。
 とりあえず共和制まで行って欲しくない、でも専制政治だと主の力が強すぎる。
 主の力が弱い状態での「立憲君主制」が一番彼らにとってはオイシイという事ですね。

人生
「なるほど、今は国民側も王党側も微妙な立場だから、そこを突く訳か。

助手
「先程の人権宣言を無視した選挙制度。「人権宣言」と言う革命の結果に見事反動している、分かり易い例ですね。
 他にも反動的な項目はいくつか在りますが(未だに国王には一定の権利が与えられていたり)、割愛します。
 反革命的とまではいきませんが、革命にブレーキをかける憲法だった、とだけ覚えて戴ければ。

人生
「でもそんな憲法がよく採用されたな?

教授
「王党派からは「革命的過ぎる」、国民や共和主義者からは「革命色が薄すぎる」って批判を受けているけどな。
 それと、ピルニッツ宣言の影響が無きにしも非ず。
 あまりにも急進的だと外国から風当たりが増す。一応国王の面子も立たせておくって事だ。

人生
「なるほど。

教授
「さて話は変わって、憲法を決めたら次に決めるのは?

人生
「分かりません。

教授
「法律な。

人生
「批判はあるけど今の所万事上手く行ってんだから、
 法律もみんなで議論すればすんなり決まりそうだけどな。

教授
「そんな訳あるか…。フランス国民の大半、約2500万人がどうやって一つに纏まるんだ。

助手
「そもそも、今までも万事上手く行ってませんよ。
 決定事項だけココでは追ってますが、各地に目を通せば暴動程度は発生しています。
 農奴制も一応開放されましたが、貴族なんかはちょろちょろ反乱起こしてました。
 既存の制度で楽出来たんですから、当然と言えば当然なんですが。

教授
「さて、三部会、国民議会、憲法制定国民議会と来て次は
立法議会だ。法律を作るんだからな。
 
 議員は745名。
 右翼としては
立憲王政派フイヤン派(貴族・上層ブルジョワジー)。
 左翼としては
穏健共和派ジロンド派(中産市民・商工業ブルジョワジー)、
 
急進共和派ジャコバン派(下層市民・農民)。
 そしてどっちつかずの中央派。右翼、左翼、中央、大体それぞれ250名だ。

助手
「ちなみにジャコバン派の“下層市民や農民”ですが、
サン・キュロットという呼び方もあります。
 「キュロット」とは当時貴族の間で流行っていた半ズボンの事で、「それを穿いていない人」という意味です。
 元々貴族が庶民をバカにして使っていた言葉でしたが、身分制度に反対する意味で、後々庶民は自らこの言葉を使うようになりました。

人生
「フイヤンとかジロンドとか、またやたらかっこいい名前がついてるな。

教授
「非常に重要だ。混同するなよ。ここから革命終了までこの三派の名前は使われるから覚えておけ。
 尤も、立法議会は一年も続かずに解散してしまう訳だが。

人生
「一年続かなかったのに法律立てられたの?

教授
「いや、マトモな仕事はあまり出来ていない。
 外国の圧力が無視出来ないものになってきた事が一番大きな原因か。
 ちなみに問題。フイヤン・ジロンド・ジャコバンの中で、今一番ノリにノッてるのはどれだ?

人生
「今どっちつかずな情勢な訳なんだから、やっぱり真ん中のジロンド派?

教授
「いや、正解だが…考え方が危なっかしいぞ…。
 フイヤン派が台頭出来ない理由は何と無く分かるな?

人生
「王政でいいじゃんって言ってる連中の傍らで王様逃げようとするしなぁ。

助手
「ちなみに、ここまで散々活躍してきたラファイエットはフイヤン派に回っています。
 王様は居てもいいじゃないか、と。ブルジョワと立場が似てるんですね。元々彼自身も貴族でしたし。
 第10話のバスティーユ襲撃の際、司令官のラファイエットが市民を統率出来なかったのもこの為です。

人生
「あの一軍兵が調子乗った奴ね。

助手
「ラファイエットは、革命を進ませるとしたらもっと穏便に事を進ませたかったんでしょう。
 少なくとも、共和派と彼の立場は一緒くたには出来なくなっています。

教授
「それに王宮の者はこぞって亡命しているしな(亡命貴族(エミグレ))。
 自分達が擁護している人が片っ端から外国に逃げて戦争し掛けようとしているんだ。
 立場も無くなるのも無理は無い。

人生
「ジロンドとジャコバンの違いがイマイチ分からないんだけど。
 別に「穏健」と「急進」ってスピードが違うだけで、目指すものは同じなんじゃないの?

教授
「いや、そうとも言えないんだ。
 というより、そもそも私は“穏健”っていう響きがどうもしっくりこないんだが。
 「別の言い方があるんじゃないか」と時々思う事がある。

人生
「お前如きがそんな表立って疑問の声をあげるなんておこがましいにも程があるってか。

教授
「ここぞとばかりに大きく出たな。そういう事なんだが、まあそれはいい。
 ところで、外国からの圧力が強まってるって話はしたな?

人生
「立法議会がマトモに動けなかった一因ってか。

教授
「戦争も間近だ。特にオーストリアとは緊迫状態にあった。
 テュイルリー宮殿(ルイ16世達が居る所)はオーストリア陣営と内密に連絡を取り合っていたそうだ。
 外国から軍事介入させて革命を頓挫させようっていう狙いは、亡命貴族と同じだな。

人生
「おいおい、バレたらヤバ過ぎるだろそれ。殺されるんじゃないか。

教授
「さて、ちょっと難しい(けど面白い)んだが問題。
 ジロンド派とジャコバン派の大きな違いの一つに、
外国からの戦争を求めたか否かっていう要素がある。
 求めたのはどちらだ? 理由も据えて述べよ。

人生
「いや、そもそもどっちかが戦争したがってる事にびっくりです。

教授
「正解はジロンド派。ジロンド派ってどんな人達で構成されてた?

人生
「中産市民・“商工業ブルジョワジー”だな。

教授
「スクロールしたな…。
 この通り、ジャコバン派と違ってブルジョワが含まれている。
 ブルジョワの立場は先述した通り、これ以上革命が進めてもらっては困る訳だ。

人生
「このままジャコバン派が思いっきり革命を進められても困るし、
 外国の介入で力強い王権が復活されても困るって事だな。

教授
「では国民達が蜂起するか(正確には蜂起する事を許すか)、外国と戦争するか、二者択一を迫られる事になる。
 ジロンド派が選んだのは後者だ。

人生
「何故?

教授
「国民達が蜂起すると、王宮が転覆した後、実質的に力(金)を持っていたブルジョワに矛先が向けられるんじゃないかと懸念してたんだ。

人生
「 国民「王宮は潰れた! 次はお前らブルジョワの番だ!! この金持ちめ!!!」みたいな感じか。

教授
「その反面、戦争をすれば? とりあえず国民は“フランス国民”って事で一致団結せざるを得ないな?
 愛国心目覚めさせて、外国(この場合、亡命貴族や王党派も含むな)と戦って勝てばどうなる?

人生
「王権は転覆して、なおかつ愛国心による団結のお陰で自分達に矛先は向けられない、と。

教授
「なかなか巧いと思う。ブルジョワを含むフイヤン派にも主戦論が芽生え始める。
 しかしジャコバン派は反対した。
 「そんな信頼出来ない(亡命)貴族達に戦争を任せるのは危険だ」っていうのは
 ジャコバン派のリーダーの一人、ロベスピエールの言葉だ。
 反革命の奴らは国内にだって居るんだから、そっちから戦うべきだ、とな。

助手
「ロベスピエールは後々大暴れする人です。覚えておいて下さい。

教授
「「戦争によって苦しむのは誰か。金持ちではなくて貧乏人である」
 同じくジャコバン派のリーダーの一人、マラーの言葉だ。
 しかしジロンド(とフイヤン)派の主戦論の勢いが勝って、結局両国は戦争ムード一色となる。

人生
「分裂してる状態で戦争なんかしちゃって大丈夫かよ…。

助手
「加えて偶然、オーストリア皇帝のレオポルト二世(ピルニッツ宣言を行った人ですね)が逝去、
 彼は戦争に対して慎重論の持ち主でしたが、後を継いだのは血気盛んな24歳の
フランツ2世

人生
「あー

教授
「一方フランスでは、内閣が瓦解した後、勢いづいていた
ジロンド派が内閣を構成した。
 そして遂にジロンド内閣に無理強いさせられて、ルイ16世はオーストリアに宣戦布告した。
 1792年4月20日の事だ。

人生
「ココで遂にVS外国か。

教授
「次回は、主に戦争の流れについて扱っていく。
 国民が相手取ったのは外国だけではないんだけどな。


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