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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ3 エピソード6 / 金縛り / The Chokes Up 1/1/2012


 ベルベット・オニオン

(楽屋にザ・ブラック・チューブズの面々が集まっているところに、ヴィンスが入ってくる)
ヴィンス:それで、今夜のことはもう決まった?
ジョセフ:ああ、感謝してるよ。この一週間でちょっと問題が。
ヴィンス:どうかした?
トム:うちのヴォーカルがゴリラに運河へ突き落とされた。
ヴィンス:ゴリラに?ダルストンで?
ジョシュア:そうらしい。命は助かったんだけど。その後、車のなかでどっかの妖術使いにヤラれまくって。
ファリス:しかも12回。
ジョシュア:それっきり。
ヴィンス:まじで?そりゃ大変だったな。それでどうするんだ?新しいヴォーカルを連れてこれる?
ジョセフ:いや、まだ。歌抜きの曲をやるしかないな。残念だけど。
ヴィンス:俺にいいアイディアがある。ぶっとんではいるだろうけどさ、俺だってギグは見に行くんだぜ。俺も歌えるんだ。
     歌詞は全部知ってるし、こないだなんて、フォトショップ使ってジャケットのパロディまで作ったんだぜ。
     まぁちょっとした偶然でお前さん達のシンガーのところに、俺の顔はめちゃったりして。
     
(自分の顔がセンターに収まったジャケットを見せる)
     まぁ、色々大変だったみたいだけど、どう思う?オーディションはフイにしたくないだろ。
トム:ヴィンス、お前はいい奴だし、見た目もイカしてるけど…サッカーやってる?
ヴィンス:うん。なんで?
ジョシュア:その脚、ちょっとマッチョ過ぎるな。このバンドは細い脚がポリシーでね。
ヴィンス:おいおい変なこと言うなよ、俺の脚は十分細いぜ。
ファリス:いや、もも肉ドラマーってところだな。
(バンドメンバーも同意)
ヴィンス:待てよ、いけるって。いいヴォーカルになれるし、最高だぜ。
リース:じゃぁ、こうしようヴィンス。これが入れば…
(ファリスが極細パンツを出す)ギグに出してやる。
ヴィンス:わかった。かなり太めじゃん。ちょろい、ちょろい。
(パンツを受け取る)
     じゃぁ、今夜、ギグでな。じゃぁ、ネヴィルの家族に、俺からのお見舞いを伝えといてくれ。
ジョセフ:ネイサンのこと言ってんのか?
ヴィンス:どうでももいいよ。
(退場)

 オープニング

 ナブティック

(ハワード、テレビを見ている)
ナレーション:スペインでの生活。自殺するのも自由。
(字幕:ユルゲン・ハーベマースター制作)
     続いては、デンマークのアヴァンギャルド映画ドキュメンタリーを7時間にわたってお送りします。
ハワード:やったね。
(機械音と物が壊れる音がする。ヴィンス、電動車いすで店内を動き回っている)
ハワード:それ、ぜんぜん役に立たないぞ。
ヴィンス:なんだって?
ハワード:車いすなんて使ったところで、今夜までに脚は細くならないぞ。頭おかしんじゃないか。
ヴィンス:わかんないだろ。どっちにしても、サイズダウンしなきゃ。なんとしても、この極細パンツをモノにするんだ。絶対に。
ハワード:なんで断らなかったんだよ。
ヴィンス:どういう意味?
ハワード:お前はサッカー選手みたいに筋肉質の脚なんだからさ。悪いことじゃないだろ。
     ヴァン・モリソンになるのに重要なことじゃない。彼は筋骨たくましいケルト人として、トップまで這い上がったんだ。
ヴィンス:ヴァン・モリソンを持ち出すのはやめてくれるか?ありゃ赤毛のヅラかぶったニックナックだぞ。
ハワード:なんでそんなもの履かなきゃならない?
ヴィンス:バンドに入るためさ!バンドは極細パンツがポリシーなの!俺をからかってないで、テレビでも見てろよ。
     楽しみなんだろ。俺の方がイカした夜になるけどな。
ハワード:それはどうかな。ほかにすることもあるし。
ヴィンス:お前にやることなんてあるのかよ。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:ハワード・コンクレークの家に行くんだろ。あいつのケツにケータイでも突っ込んで、鳴らしてれば?
ハワード:誤解だ。
ヴィンス:そうかい。
ハワード:レスターがよくない。あいつ、電話の上に座ってしまったから、
     俺が架けてみて、どこにあるか分かったってだけだ。あいつはハチにやられたって思ってたけど。
     トラウマになってる。
ヴィンス:あっちはどう言うかな。
ハワード:妙なことってのはあるもんだ。
ヴィンス:なんで一緒に来ないんだよ。俺のショーだぜ。絶対凄いって。
ハワード:俺はそうは思わないな。俺はどうするか知ってるか?
     ユルゲン・ハーベマースターが、彼の最新作について話すのを見に行くんだ。
ヴィンス:誰だって?
ハワード:ユルゲン・ハーベマースターだよ。知ってるか?
     こんにちのデンマーク・アヴァンギャルド映画を唯一牽引する人物だ。凄いぞ。
     彼の前の作品知ってるか?白鳥の死体にカメラを14個くっつけて、スーパーマーケットに投げ込んだんだ。
     とんでもない長さだった。
ヴィンス:見たことない。お前、「ビバ!ラブ・バグ」見たことあるか?
ハワード:こうゆうのは、お前には分からない「文化」ってやつだな。
ヴィンス:俺のショーだって、文化とやらでいっぱいだぞ。
ハワード:ブラック・チューブズが文化か?細いパンツ履いた連中が吠えてるだけだろ。
ヴィンス:音楽だけじゃないぞ。キャバレーのショーみたいなのが、また見直されてるんだよ。
     色々バラエティに富んだモノが見られるんだ。女の子のダンスとか、役者とか。
ハワード:役者?誰を連れてきたんだ?
ヴィンス:カニのサミー。
ハワード:カニのサミー?冗談いってんのか。
ヴィンス:あの世代では最高の俳優だぞ。
ハワード:ホンモノを連れてこいよ。あれはクズだ。
ヴィンス:どこがクズだよ。今じゃハリウッドだぞ。
ハワード:カニはやめたのかよ。
ヴィンス:やめたの。今じゃホンモノの舞台指向だ。
ハワード:目ん玉が棒の先にくっついてんだぞ。
ヴィンス:そうさ。あれが強みになってる。あいつの一人芝居、「欲望という名の電車」を見たか?
ハワード:いや。
ヴィンス:あのコワルスキーは凄かった。サミーを見た後に、マーロン・ブランドなんて見られたもんじゃない。
     12回もアンコールがあってさ。服を脱いで、観客の中に投げ入れたんだ。
     それを俺がキャッチしたわけ。見ろよ
(妙に丈の短い服を見せる)そのうち、値が上がるぜ。
(ボブ・フォッシルが入ってくる)
フォッシル:やぁ、ヴィンシーちゃん!よう、ハワード・ムーン。息するだけでも悪臭がするな。調子はどうだ?
ハワード:絶好調さ、フォッシル。何もかも順調だし、それに…
フォッシル:つまんなーい。おい、この手のジャズ・レコードまだ売ってるのか?
     ぼくに言わせれば、こんなしょーもない円盤はクズだな。
ハワード:ああ、それなら良く売れてるよ。おかげさまで。
フォッシル:おやおや。ぼくちゃん、ハワード・ムーン!穴の空いた喋る円盤のことならなんでも知ってるよ!
     
(ヴィンスに)よう、ヴィンス。脚の方はどう?
ヴィンス:悪くないね。3サイズは落ちたよ。あと2サイズ落ちれば、あの極細パンツが履ける。
フォッシル:すんばらしい!バンドのヴォーカルになったら、ぼくをマネージャーにしてね!
     きみはぼくの秘蔵っ子!お風呂のお供、おしゃれアイテム!
     ところで、ポスター持ってきたんですけど。
(「ヴィンスのエレクトロ・サーカス」のポスターを見せる)
ヴィンス:イカすね。
(冷笑するハワードに、フォッシルが応戦)
フォッシル:聞いて。カニのサミーを見に、大物映画監督が来るんだってさ。どっか、良い控え室あるかな。
ヴィンス:ゲストはもう一杯なんだよ。その監督、なんて名前?
フォッシル:ジューぅゲン・ハーベマースター。
(ハワードがぶっ倒れる)
ヴィンス:わかった。なんとか追加しておくよ。まかせろ。
フォッシル:うん。よろしく。じゃぁね。
(退場)
ハワード:やぁ、ヴィンス!お茶でもどう?
ヴィンス:はぁ?
ハワード:お茶とサンドイッチかな。
ヴィンス:いらん。
ハワード:いやいや、俺の言いたいこと、分かってないだろ。
ヴィンス:分かってる。
ハワード:今夜、クラブのショーに入れてくれよ。
ヴィンス:へぇ、まじで?おどろきだな。
ハワード:俺が、ちょっと荒削りながらの演技を見せれば、サミーなんて吹っ飛ぶぞ。
     それを見たユルゲンが、最新プロジェクトに俺をだしてくれるさ。
ヴィンス:演技なんてできないだろ。
ハワード:そう思うか?よし、これってどう思う?
(ハムレットに分したハワードの写真を見せる)
ヴィンス:なんだそりゃ。
ハワード:ハムレットに分した俺だ!知らんのか。
ヴィンス:実際にハムレットなんてやったことないくせに。
ハワード:そりゃそうだけど。でも、それっぽく見えるだろ。
ヴィンス:そんなの、写真合成使っただけだろ。変なの。
ハワード:だから、その…時間をくれよ。ただの短い出番でもいいんだ。
     ユルゲンの作品に出るのは、俺にとって一番の夢なんだぜ。頼むよ。
ヴィンス:お前の一番の夢って、頭にボクシング・グローブをかぶるって、あそこの毛を堪能するんじゃなかったっけ。
ハワード:わかった、わかった。四つ目の夢だよ。頼む。
ヴィンス:学校で、お前が演技したのは見たことあるけどさ。覚えてる?アラジンをやったじゃん。
     お前がジーニーでさ。金ぴかのズボンはいたまま、フリーズしてたじゃないか。
     それでお前を「ミスター・フリーズ」って呼ぶことにした。9歳にしてあれだもん。
     校長先生がお前にヘッドロックかけてた。
ハワード:大昔の話じゃないか。いついかなる時でも演技はできる。見てろ。
ヴィンス:誰かがその場に居て見てる限りは、無理だってば。
ハワード:いや、出来る。
ヴィンス:観葉植物があるだけでもパニクるくせに。
ハワード:観葉植物にも俺の演技の良さが分かるさ。
ヴィンス:助けてやりたいけど、だめ。今夜は俺のショーなんだから。
     お前がステージでフリーズしたら、ポストみたいになったお前を運び出すのは確実に俺だからな。
ハワード:もうフリーズしないってば。あれは子供だったからだよ。今やすっかり大人になって、解き放たれたんだ。
     自分をリラックスさせられる。ユルゲンのために、ちょっと俺に一つや二つ、自由演技させてくれれば良いんだよ。
     な、頼む。じゃぁ、セリフ一つでもいいよ。
ヴィンス:わかったよ。
ハワード:やった!
ヴィンス:じゃぁ、オーディションしなきゃ。
(ハワード、瞬く間にフリーズする)
ヴィンス:どうかした?ハワード、フリーズしてんの?おーい、わかった、オーディションはなしだ。
ハワード:
(フリーズが解ける)オーケー、オーケー。
ヴィンス:本番は大丈夫なんだろうな。
ハワード:あれは、ジョーク、ジョークだってば。はははは…
ヴィンス:そりゃいい。じゃぁ、休憩開けの後半全部な。
(ハワード、再びフリーズする。そこへ、ボロが入ってくる)
ボロ:よう、ヴィンシー。インターネットで見たんだ。脚を細くする、すげぇアイディアをゲットしたぞ。
ヴィンス:まじで?
ボロ:任せろ。ついてきな。
ヴィンス:やってみよう。さぁ、行くぜベイビー!
(ボロとヴィンスが部屋から出て行く。フリーズしたままのハワードの視線の向こうのテレビでは、ユルゲン・ハーベマースターが自分の作品について語っている)
ユルゲン:「医者とペン」は、私の初期作品の一つだ。これは、苦痛と怒りの発露だ。
     言うなれば、この映画は陽気で、コメディ要素すらある。
(1972年 ユルゲン・ハーベマースター監督作品「医者とペン」いかにもなアヴァンギャルド映画で、医者が肉に「電話しろ!」などと喚いている)
ユルゲン:ハハハ…自由でいいね。
(相変わらずフリーズしているハワードを、ナブーが見ている)
ナブー:ハワード?
ハワード:た、す、け、て…
(ナブーが一発殴ると、フリーズが解ける)ありがとう。
ナブー:どうしたの?
ハワード:どうしたって…ただ、演技ができないんだ!
ナブー:まぁ、そうだろうね。ハワード、演技っていうのはさ、モチベーションの問題だよ。
ハワード:そうかね。
ナブー:ぼくがヴォルテールの「キャンディード」をやっや時のこと、覚えてる?
ハワード:そんなことしてたのか。
ナブー:そうだよ。メガ・ボウル
(ボーリング場)で働く前は、フランスの古典劇をやってたんだ。
     あるシーンで、ひどく怒らなきゃいけないことがあってね。
ハワード:そのとき、どうしたんだ?
ナブー:自分の人生の中で、一番トラウマになっていることを思い出すんだ。一番の怒りを感じた時さ。
     ぼくの場合、ピートがぼくのトレーニング・ウェアを盗んだときで、
     怒り狂ったんだ。あの時の感情を呼び起こして、そのシーンに用いたんだ。
(ナブーの古典劇)
相手役:デヴォアくん、今夜のきみの振る舞いは、実に見るに堪えない。
     私はきみを叩きのめす自信があるが、その前に弁明をしたらどうだね。
ナブー:そんなん知るか!俺のトレーニング・ウェアどこやったんだよ!仕事に必要なんだぞ!
     靴下だけはいて、メガ・ボウルに行けって言うのかよ?!

ハワード:参考になったよ、ナブー。
ナブー:誰にも言うなよ。

 夜空に月

月:ぼくもちょっと役者をやってたことがありましてね。昼ドラの「ホーム&アウェイ」に出たんです。
  ぼくの役はキャロル。

 ファービーズ・バー

(ハワードがやってくる)
バーテンダー:やぁ、最高の夜だね。
ハワード:やぁ。
バーテンダー:何にする?
ハワード:ウィスキーをたのむ。
バーテンダー:なんだか世界の全てを背負い込んだみたいな顔だな。ひどく落ち込んだとき、俺ならどうすると思う?
     隣りの家に乱入して、そいつんとこのネコをとっ捕まえて、首をひねってやるのさ。
     クイっとやって、もうちょいクイクイっと、そんでもうちょっと捻ったら、さらに蹴りを入れて、
     地面にたたきつけ、さらにさらに首をひん曲げて…
ハワード:いいから、ウィスキー。
バーテンダー:ただいま。
(ハワードの隣りに老人モンゴメリー・フランジが座る)
フランジ:何か嫌なことでも?
ハワード:ああ。よく分かったな。
フランジ:どうした?
ハワード:ステージに立てることになったというのに。しかも、大監督が見に来るんだ。
     それなのに、俺には演技ができない。ただ…演じることが出来ないだけなんだ!
フランジ:そりゃけっこう。
ハワード:フリーズして、固まっちゃうんだ。舞台恐怖症なんだよ。
フランジ:金縛りだな。かな縛りん。かなシバラーってところか。
     ははは、多くの優秀な俳優達が、金縛りを乗り越えてきたもんさ。
     ジョン・ギルグードに、リチャード・ハリス、ピーター・オトゥール。みんな金縛りに苦しめられた。
     そのことについてギルグードと話したとき、彼は自分自身に怒っていたな。
ハワード:ギルグードに会ったことがあるのか?
フランジ:あいつは私の代役をやっていたことがあってね。あんにゃろうめ。
ハワード:あんた誰だ?
フランジ:あそこに私の写真があるだろ。
ハワード:ええ、そんな!あんた、ポール・ウェラーか!
フランジ:その隣だ。
ハワード:
(相変わらずザ・ジャムの写真を見ている)え、ブルース・フォクストン?
フランジ:その隣りに掛かってる写真だってば。
ハワード:モンゴメリー・フランジ!
フランジ:ええ、おん前に。
ハワード:あなたはあの世代では最高の俳優だ。
フランジ:ありがとう。
ハワード:でも、すっかり姿を見なくなってしまって。一体どうしたんです?
フランジ:悲しいお話さ。こんな話できみを退屈させたくない。
     あれは1976年のことだ。私の全盛期と言っていい。全てが私にとって上手くいっていた。
     どのレビューも夢見心地でな。私はある役が欲しかった。本当に、本当に欲しかったんだ。
     何ヶ月も準備に費やした。しかし他の役者にその役をかっさらわれてしまった。
     自信を喪失し、そのうえ妻を失い、何もかもが地に落ちてしまった。
     悲しみから逃れるためにスタイル・カウンシルでベースを弾くようになった。それ以来、俳優業はしていない。
ハワード:モンティ、俺にアイディアがある。
フランジ:なんだ。
ハワード:あんたは最高の役者で、俺には稽古が必要だ。俺を鍛えてくれないか?
     俺を金縛りから解き放ってくれ。役者として鍛え上げて欲しいんだ。
フランジ:だめだめ、私にはもう無理だ。好意は嬉しいが、いや、駄目だ。
ハワード:今頃、サミーは舞台のために準備万端なんだろうな。
フランジ:誰が?
ハワード:カニのサミーさ。
フランジ:なんだと?サミーか!畜生、カニのサミーめ!あんなやつ大嫌いだ!
     あの野郎が私の役を奪い、さらに私の妻と逃げたんだ。
     ああ、あいつを殺してやりたいと思わなかった日はない!あんなやつ叩きのめして、お鍋に放り込んで、
     ホッカホカになったところを食ってやる!なんてこった!それで、あいつが今夜、あんたと共演するのか?
ハワード:俺の競争相手さ。
フランジ:つまり、お前さんを金縛りにならないように鍛えやれば、サミーに復讐できるってことか?
ハワード:まさに、そうなる。
フランジ:こうしちゃおれん、さぁ行くぞ!
ハワード:どこへ?
フランジ:我が秘密の演技力訓練の森さ!

 ナブティックの裏庭

ボロ:オーケー、これで間違いないぞ、ヴィンス。
(ヴィンス、怪しい「引き延ばし機」に繋がれている)
ボロ:取扱説明書によると、レベル10以上にはするなって。
ヴィンス:オーケー。
ボロ:でも、ギグはあと1時間で開始だ。だからレベル42で行くぞ。
ヴィンス:よし、分かった。頼むよ、ボロ。
(ボロ、ジャズ・フュージョンバンド、レベル42っぽいベースを弾き始める)
ボロ:オー、イェー!カモン!
ヴィンス:ボロ、マーク・キングの物まねしてないで、俺の脚、細くしてくれる?
ボロ:ごめん。
ヴィンス:アホか。

 モンゴメリー・フランジの秘密の演技訓練の森

フランジ:さぁ、我が演技道場へやってきたぞ。役者になるのは容易ではない。
     時として、独りで30分や35分、演じきらねばならない。休憩なしで!いや、ちょっとあるか。
     でも、さらに30分はある!やれるか?
ハワード:もちろん。
フランジ:本当に?
ハワード:ああ。
フランジ:本当にやりたいか?
ハワード:やりたい。
フランジ:いや、しかし本当なのか?
ハワード:命をかけて!
フランジ:よろしい、しかしモノにするには、もっともっと必要だ。
ハワード:可能かな?
フランジ:さぁ。

フランジマーク:演技とは!

フランジ:さぁ、はじめに。
(ハワードの服を指摘する)こりゃなんだ?サッカーの監督でもするつもりか?
     テリー・ヴェナブルズのつもり?違う、違う、違う。演技にふさわしい服装ってものがある。タイツだよ。
ハワード:タイツですか。
フランジ:お前さんが、タイツ姿で、茂みを跳ね回るのを見てみたいもんだな。
ハワード:タイツは持ってきてないんだけど。
フランジ:偶然にも、私が持ってる。その木の裏だ。着替えてこい。心配するな。覗かないから。
(でも覗く)

フランジマーク:感情表現!

フランジ:さて、ハワード。役者として、感情をレイザービームのように素早く感情を引き起こさなければならない
     いいか、では私が今からきっかけをやろう。苦しみ!悲しみ!エクスタシー!MDMA!喜び!嫉妬!
     梯子がない状況!梯子をさがせ!みつけたぞ!カーペットがなくなった!こりゃ誰だ?梯子は?
     ズボンが足首にひっかかったチビのジョニーか?あいつに訊こう!奴に立ち向かえ!
ハワード:お前が俺の梯子を壊したのか?
フランジ:違うぞ、口じゃない、鼻で表現するんだ!鼻で物語るんだ!
(ハワード、やってみるが…)
フランジ:この役立たず!…休憩だ。リコリス飴と、濃いブランデー、産業世界のアバズレでもいただくか。
     ところでジョン・シムって野郎は何モンだ?

フランジマーク:ジョン・シム!

フランジ:レッスン49。アニメーション。お前の目の前にある物、何に見える?
ハワード:えんぴつ。
フランジ:えんぴつ?いやいやいや!いいか、これはナイアガラの滝だ。カモメだ。クエスチョンマークの形をしたチーズだ!
     お前が望む何にでもなるのだ!さぁ、やってみろ。
(えんぴつをハワードに渡す)ほら!
ハワード:無理だよ。ほかの何にもならない!ただのえんぴつじゃないか、このじじい!
フランジ:そうとも!真実を見いだしたな!そう、今やお前は立派な役者だ!そして私はコブラのごとく強くなった!

フランジマーク:偉大なるコブラ!

フランジ:オーケー、ハワード。彼らがお前の観客だ。
(ハト、ニワトリ、カラス、フクロウ、etc.)
フランジ:ハムレットの一節をかましてやれ。
(ハワード、さっそくフリーズ)
フランジ:やるんだ、ハワード。成果を見せてやれ。私が教えてやった技巧を尽くすんだ。ハワード?
     なんだよ。これ今まで見た中でも一番ひどい金縛りだな。こうなったらどうにもならん。
     あれをやるしかないな。苦しみ!
(叫びながら、ハワードの胸に手をあてる)
ハワード:解けた。ああ、自由になったぞ。
フランジ:そうだろう。
(フリーズしてる)
ハワード:モンティ、きみが俺の金縛りを癒やしてくれたんだ!
フランジ:逆に私がなった。さぁ、はやく行け。
ハワード:オーケー!
フランジ:あのチビ・ピンク野郎のサミーに、演技力をみせつけてやれ!
ハワード:ありがとう。
フランジ:行くんだ。
ハワード:最後に質問があるんだ。
フランジ:何だ?
ハワード:サミーがあんたから奪った役って何だったんだ?
フランジ:カニの役さ。…確かに、あいつの方が体格的に有利だった。
     でも、お前は私のカニの演技を見たことがないだろう。
(カニの演技を始める)
     見ろ、これほどのカニを見たことがあるか?凄いだろ!ああ!

     
やるんじゃなかった!心臓発作が!(倒れる)

 ナブティック

ヴィンス:この極細パンツを、何が何でもはくぞ。絶対に。
(ハワードが自信満々で入ってくる)
ハワード:ハワード・ムーンだ。役者をしてる。なんなりとお申し付け下さい。俺は出番は?前半?後半?
ヴィンス:プログラムにちょっと問題があってさ。
ハワード:それで?
ヴィンス:お前の出番なし。
ハワード:ジョークだな。からかってるんだろ。
ヴィンス:だって、前にお前を見たとき、こんな風に固まってるし、しかもどっか行っちゃうし。
     一体どこ行ってたんだよ。ずっと電話してたんだぞ。
ハワード:ええ?俺は演技力を総合的に発展させていたんだ。
ヴィンス:そんなこと、俺が知るわけないだろ?
ハワード:まったく、ありがたいね。
(フォッシルが入ってくる
フォッシル:ヴィンシー!ぼくのかわいこちゃん、準備はいい?はっはー!よう、ムーン。なんだ、それ。
     ゲイ・パーティのゾロのつもりか?
(ハワード、無反応)よろしゅう帰りで。さぁ、行こうぜ!
ヴィンス:そうだな。この極細パンツを持っていかなきゃ。行こうぜ。
フォッシル:まった。歩いて行くのは無理だよ。5分もかかるんだよ。ずいぶん痩せ細っちゃったんだろ?
      ぼくが青いお馬さんになって、おんぶしてあげるよ。
ヴィンス:オーケー、悪いなハワード。お前さえ良ければ、来週のプログラムに組み込んでやるよ。
ハワード:あのな、ユルゲンが来るのは、今夜だぞ。今夜だけなのに。チャンスを逃すのかよ。ありがとうよ。
フォッシル:お口チャック、ゾロ!今夜のヴィンスは忙しいの!歌って、パンツ履いてなんだからな。
     お前なんてお呼びじゃない。てんてこ舞いなんだからな!
ヴィンス:じゃあな。
(フォッシル、ヴィンスを背負って出て行く)
ハワード:あのな、そのパンツは本当にきついからな!ほんと、アホみたいに見えるぜ!せいぜいうまくやれよ!
     ああ…言ってやった。
(店の陳列品に)なんだよ。俺が帰ってきたんだぜ。

 ヴェルヴェット・オニオン

フォッシルの声:ようこそいらっしゃいました!カムデン市長、ヴィンス・ノワーです!
(ヴィンス、ローリング・ストーンズの「ロックンロール・サーカス」でのミック・ジャガーのような格好で登場)
ヴィンス:オックスオード・サーカスなら、みなさんもお聞き及びでしょう。ピカデリー・サーカスもね。
     今夜は、みなさんに私がヴィンス・ノワーのエレクトロ・サーカスをお送りしましょう!
     では、オープニング・アクトをご紹介しましょう。彼はかつてテニスの審判でした。
     しかし今、彼はフォーク・ソングの伝説となる夢を叶えるべく、審判をやめたのです。
     レイディース&ジェントルメン、ステージに登場するフォーク審判に盛大な拍手を!
フォーク審判:♪ぼくはひげで彼女をしばりつけ 立ち並ぶ石の間を歩いた 
     ぼくらの試合は日没に それでレモンジュースを飲むことにした♪

 楽屋の通路

館内放送:ブルー・マッケンロー・グループ、出番まで10分。出番まで10分です。
(奥から、フォッシルがユルゲン・ハーベマースターを連れてくる)
フォッシル:階段に気をつけて。おい、このすっとこどっこい。あと10分だぞ。
     大物アヴァンギャルド監督のお通りだ。さぁ、ここがサミーの楽屋です。
ハーベマースター:ありがとう。
(字幕に、「ユルゲン・ハーベマースター」)
フォッシル:ねぇ、新作の出演者を探してるってきいたよ。あのね、ぼくも役者やってたの。なかなかやるんだ。みてよ。
ハーベマースター:きみにはまったく、何も感じないね。私の作品には向いてない。
(楽屋に入る)

 楽屋
(カニのサミーが水槽に入っている)
サミー:やぁ、きみか。
ハーベマースター:サミュエル。とうとう会えたな。元気そうじゃないか。
サミー:ああ。なんとかやってる。
ハーベマースター:言いたいことがあったんだ、サミー。過ぎたことは過ぎたことだ。
サミー:そうかい?
ハーベマースター:サミー、お前をクビにしたのは、飲んでいたせいだ。
サミー:ああ、ちょっと飲んでたな。
ハーベマースター:ああせざるを得なかったんだ。お前が急に襲ってきたりするから。俺の家まで燃やして、
     その上うちの女房の耳を引っこ抜いて俺に送りつけたりして…笑えないぞ。
サミー:まじ、笑える。
ハーベマースター:とにかく、ただ伝えたかったんだ。お前がまともになって嬉しいよ。今夜はしっかり見させてもらう。
サミー:任せろよ。
ハーベマースター:それから、私の最新作についても話したいんだ。
(出て行く)
サミー:バーイ。あほんだら。

 ステージ

ヴィンス:レイディース&ジェントルメン、彼らをご紹介するのは、私にとっても大変嬉しいことです。
     エニグマのナブーと、素晴らしき相棒、ボロが、世界のマジックを披露します!今週はどこのだ、ナブー?
ナブーの声:エジプト。
ヴィンス:レイディース&ジェントルメン、エニグマのナブーに盛大な拍手を。
(ナブーとボロ登場。ボロ、ノリノリで踊る)
ナブー:ボロ。
ボロ:なに。
ナブー:もういいから。
ボロ:ごめん。

 楽屋

ヴィンス:
(ドアから顔を出す)みんな、準備はいいか?
ブラック・チューブス:ああ。
ヴィンス:楽屋、サミーと一緒で良かったか?
リース:大丈夫だよ。
ヴィンス:こいつどう?問題ない?
ファリス:電話してるみたいだけど。
サミー:
(電話をしながら)バカゴスどもがのさばりやがって…
ヴィンス:なぁ、サミーの調子が上がらないようだったら、水槽にジュースの素を何個か放り込んでやってくれ。
(出て行く)
サミー:おい、シザーハンズの兄ちゃんたち。ビールでも飲まないか?一杯やりたいね。
ジョセフ:サミーにはもっと強いのがいいんじゃないか?
サミー:持ってねぇのかよ、この役立たず。
(ブラック・チューブズ、水槽にアルコールを注ぎ込む)
サミー:ああ、こりゃいいや!

 ステージ

(箱の中に観客の女性を入れるナブーとボロ)
ナブー:恐怖の剣、ナンバーワンを取って。
(箱の中に剣を突き刺す)ナンバーツー。(さらに剣を刺す)
     そして、最後の剣だ、ボロ。
(3本目を刺すと、中から悲鳴が聞こえる)
ナブー:3本とも、偽の剣だよね、ボロ?
ボロ:偽の剣って?
(幕が閉まる)

 楽屋

(サミーが水槽の中でぶつぶつ言っている中、ブラック・チューブズがさらに怪しい物を水槽に入れる)
リース:サミーがおかしくなってきたぞ。
(サミーが暴れ始める)
ブラック・チューブス:逃げようぜ。
(水槽が割れ、サミーが脱走。通路でブルー・マッケンロー・グループに襲いかかる)
サミー:いくぜ、かかって来い!

 ヴィンスの楽屋

フォッシル:かなりの下痢ピーな事態になっちゃったみたい。サミーがぶっとんで暴れ出してる!
ヴィンス:パニクるなよ。ブルー・マッケンローを出しといて。
フォッシル:そうしたいんだけど、みんなサミーに殺されちゃったんだよ!
     いまや血で真っ赤のレッド・マッケンローなんだから!ねぇ、観客は役者が出てくるのを待ってるんだよ。
     誰か、心当たりある?
ヴィンス:一人、ある。

 ナブティック
(電話が鳴る)
ハワード:もしもし。ハワード・ムーンです。
ヴィンス:よう、ヴィンスだ!サミーがいかれちゃってさ。どんどん人をちょん切りやがる。役者が必要なんだ。
     出来るだけ早く来てくれるか?
ハワード:
(電話を切る)さぁ、劇場へ!

 ステージ

(観客達は、サミーコール。そこへ、タイツを履いたハワードが登場する。まさに演技を始めようとしたその瞬間、ハワード、金縛りになる。すると、観客席の向こうから、フランジの姿が現れる)
フランジ:ハワード、ハワード!お前ならできる!分かっているはずだ、お前は偉大なる役者だ!
     えんぴつを思い出せ、ハワード。えんぴつだ!
(ハワード、突然動きだし、絶叫して観客達を圧倒し、ステージに倒れ込む)
ハーベマースター:
(立ち上がって拍手)ブラボー!
(観客達、総立ちでハワードに拍手を送る)
ハーベマースター:なんという激しさ!なんという怒り!
(字幕:ユルゲン・ハーベマースター」カメラに向かって)
     
まさにこの時、私は次のプロジェクトに必要な男を見いだしたと、気付いたのであります。彼だ、間違いない。

 ヴィンスの楽屋

(ハワードが入ってくる)
ハワード:なにやってるんだ?
(ヴィンス、ボロにむりやりズボンをはかせてもらっている)
ヴィンス:見りゃ分かるだろ。ボロがズボンを履くのを手伝ってくれてるんだ。
ハワード:あっそ。もう帰るって言いに来たんだ。ユルゲンが、彼の作品で、俺に役をくれるってさ。
     こっちの舞台には戻れないから。構わないだろ?
ヴィンス:俺はぜんぜん。俺も店には戻らないから。このパンツさえ入れば、あとはブラック・チューブズ入りだからな。
ハワード:そっか。じゃぁ、手紙出すよ。
ヴィンス:うん、俺も出すから。
ハワード:じゃぁな、負け犬。
(出て行く)
ボロ:うーん!
ヴィンス:頑張れよ、ボロ。あともう少しだってば!もうちょっと、あと少し!
(ボロ、むりやりファスナーを閉じる)
ボロ:入ったぞ。
(ヴィンスの顔を見る)わぁ、どうしよう。
ヴィンス:なに?どうかした?
ボロ:あ、いや…別に。

 ステージ

フォッシル:さぁ、お待たせするのはここまでです。ステージにご注目、ヴィンス・ノワーとブラック・チューブス!
(ヴィンスとブラック・チューブズが登場するが、ヴィンスが頭が巨大化しており、そのままぶっ倒れる。)

 ナブティック

(二週間後、店内でヴィンスがボロ、ナブーとテレビを見ている)
ヴィンス:信じらんない。あいつだって大して細い足じゃないじゃん。
(テレビ画面では、サミーがブラック・チューブスのボーカルに収まっている。ハワードが入ってくる)
ハワード:やぁ、みんな。
ヴィンス:どうしたんだよ。ユルゲンと一緒に行っちまったんだろ?
ハワード:なんて言うのかな。ユルゲンは俺に金も名声も、国際芸術館の一切合切をも提供するって言ったけど、
     でも思ったんだ。「俺にそれが必要か?」って。そして気付いたんだ。
     俺が必要とするものは、全てここにあるじゃないかって。俺がいない間、どうしてたんだ?
     俺に替わる奴なんていないだろ?
ボロ:アダム!
(店の奥から、髭に帽子の男が出てくる)
アダム:なに?
ナブー:かえって来ちゃった。あんた、クビね。
アダム:ありゃま。
(出て行く)
テレビ:おならに一発即効♪
ヴィンス:なにこれ?
テレビ画面のハーベマースター::こんにちは。ユルゲン・ハーベマースターです。
ハワード:なぁ、テレビ消そうぜ。
ヴィンス:いいじゃん、ちょっと見てみようぜ。
ハーベマースター:私がアヴァンギャルド映画と作るときは、しばしば放屁症に悩まされます。これは非常に辛い。
     まるでおなかの中であわてんぼうのカニが右往左往しているようです。
(ハーベマースターの腹の中)
カニに分したハワード:俺はおならを起こす、怒れるカニだぞ!
ヴィンス:おやおや、我らがヒーローじゃないか。おまえ、おならってわけか。いい仕事してんじゃん、ハワード。
ハーベマースター:この苦しみを解消するには、これ。おならに一発即効!
(エンディング)


(終)
 
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