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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ2 エピソード1 / イェティ召喚 Call of the Yeti


 共同部屋の居間

(ヴィンスが次々に衣装を変えて、ボロに見せている)
ヴィンス:これはどう?
ボロ:いいね。
ヴィンス:これは?
ボロ:それもいい。
ヴィンス:これなんて旅行にいいじゃん?
ボロ:すごーく、イカす。
ヴィンス:ファンキー・イヌイットなんてどう?
ボロ:すごくいい。
ヴィンス:このケープは?
ボロ:先週もそんなんじゃなかった?
ヴィンス:一応入れておこうか。
(ハワードが入ってくる。)
ハワード:ヴィンス、準備できたか?
ヴィンス:ばっちし!そのふた山に絞り込んだぞ!
(ヴィンスが指差すと、居間の一角に衣装の山が出来ている。)
ハワード:冗談だろう?森の小屋に行くんだぞ?
ヴィンス:それで?
ハワード:しかも一週間だけだ!
ヴィンス:そりゃそうだけどさ。
ハワード:もっと絞り込めよ。このネクタイなんて、必要かよ?
ヴィンス:うん!使い道の多いアクセサリーだぜ。だろ?ベルトに、小学生に、ランボー!
ハワード:じゃぁ、この17世紀風の飾り襟は?
ヴィンス:いいか?スチュアート朝時代のファッションが、これから流行るはずなんだよ!
     だから置いていくわけにはいかないよ。
ハワード:大自然の中に飛び込むんだぞ?流行なんて知るもんか!
ヴィンス:誰かが動物の写真を撮ってて、俺がバックに写り込んでいたらどうするんだよ!
     インターネットの威力は今や想像以上で、あっという間に広まっちまう。
ハワード:ヴィンス、もっと経済的に考えろよ。俺みたいに。見よ、この成りを!多目的有効活用ツィード・スーツ!
     必要な物は、全てポケットに収まっているんだ。
ヴィンス:ふーん。じゃぁ、泳ぐ時はどうすんの?
ハワード:ファスナーを外せばトランクスだけになる。
ヴィンス:そりゃ、お前はそれで良いだろうさ?スタイルってもんが無いんだから。
ハワード:よせ。俺はファッションの流行に振り回せれるのは、真っ平ごめんだ。
     ファッションがどうであれ、このハワード・ムーンは、自分自身であり続ける。
ボロ:洋服雪崩警報!
(衣装の山が崩れて、ハワードを押しつぶしてしまう。)
ハワード:とにかく!
(衣装の山から脱出)スーツケース一つにしろ!
(ヴィンスにスーツケースを投げてよこす。)


 ナブーの寝室

(ハワードが入ってくる。)
ハワード:ナブー、準備できたか?
ナブー:もうちょっと。ターバン、青いのと赤いの、どっちが良いと思う?
ハワード:知るか!今すぐ出かけるぞ!まったく、どいつもこいつも!俺が書いた旅程表見たか?
ナブー:落ち着きなよ。休暇に出かけるんでしょう?リラックスした方が良いじゃん。
ハワード:旅程表の打ち直しだ。
ナブー:そっちはどうなの。荷造りできた?
ハワード:出来てる。必要な物は、この服で完全にカバーしてるんだ。多目的有効活用ツィード・スーツ。
ナブー:泳ぐ時は?
(ハワード、スーツのファスナーを全て外し、トランクスだけになる。)
ハワード:満足か?さっさと準備しろ!
ナブー:見なきゃ良かった…


 居間

(ボロがトランクに大量の衣装を押し込もうとしている。)
ヴィンス:オーケー、ボロ。いいか?
ボロ:いいよ。
ヴィンス:よし、行け、ボロ!押し込め!
(ボロ、力いっぱい衣装の山を押し付け、トランクに入れていく。)
ヴィンス:モンキー・パワー発動だ!頑張れ!
ボロ:もう少し…!
ヴィンス:最強霊長類の称号ゲットだ!背中で押し込め!もうちょい!もーぉちょい!頑張れ!
ボロ:よっしゃぁ…!
(衣装を押さえつけて、トランクのふたを素早く閉める)早く、早く!
ヴィンス:いいぞ!
(トランクのロックをする。)退避!
(ヴィンスとボロ、慌ててトランクから離れると、ソファの陰に隠れる。トランクの中で衣装が爆発音を立ててうごめくが、やがて収まる。)
ボロ:やったね。


 車の中

(夜の道。車が町を離れて行く。ハワードが運転し、脱いだまま。ヴィンスが助手席。ナブーとボロが後部座席に座っている。)
ヴィンス:あのスーツ、どうして着直さないんだよ。
ハワード:ファスナーが壊れた。
ヴィンス:大自然生活なんて嫌いだ。ユーロ・ディズニーランドにも行けないじゃん。
ハワード:俺はもう二度と「グーフィー・ハウス」で夏をすごすのなんてごめんだ。森の奥深くに、山小屋を予約したんだ。
ヴィンス:そりゃ結構。
ナブー:僕はうれしいな。
ヴィンス:へぇ。
ナブー:手近な所で買出しが出来る。シャーマンだから、旅費は経費として請求できるしね。
ハワード:いいじゃん。
ボロ:どこで山小屋の情報を?
ハワード:グローバル・エクスプローラー誌に小さな広告が出てたんだ。俺が購読してる雑誌だよ。
ヴィンス:グローバル・エクスプローラー?
ハワード:非常に参考になる。
ヴィンス:あの手の雑誌は嫌い。すすけた悪夢だね。一回読んでみたけど、人を混乱させて嫌な感じ。
     こいつは知ってる?
(雑誌を取り出す。)チークボーン誌だ。
ハワード:知らん。
ヴィンス:最新の情報を載せてる雑誌だよ。最先端だぜ、3時間ごとに発行しているんだから。
ハワード:あっそ。
ヴィンス:本屋じゃ買えないんだ。ニンジャが配達してくれる。
ハワード:そうか。グローバル・エクスプローラーだって最新情報が載ってる。
     こいつに載ってる写真はどれも、人間の人生とあらゆる瞬間に永久なる関連性を持っているのさ、ヴィンス。
     そのうち、俺も表紙に載るつもりだ。
ヴィンス:南国の風土病症例として?
ハワード:いいや。俺の撮った写真でだ。
ヴィンス:写真って何だよ?
ハワード:いま、写真集を作っているところさ。そのうち見せてやる。
ヴィンス:へぇ、お前今度は写真家かよ?
ハワード:左様でございます。
ヴィンス:ジャズの詩人じゃなかったっけ?
ハワード:お前は知らないだろうけど、俺は色んな事ができるの!俺の才能は多岐に渡るのさ、ヴィンス。
     人呼んで、万能の天才!
ヴィンス:盆栽の間違いだろう。
(*注)
(車と平行して走ってきた忍者が、ヴィンス側の窓を叩く。ヴィンス、窓を開ける。)

ニンジャ:チークボーンです!
(ヴィンスに雑誌を渡す。)
ヴィンス:どうも!

(*注)この部分の会話は、元は以下の通り。
I span the genres, Vince.They call me the Genre Spanner.
俺の才能はあらゆるジャンルに渡る(span)んだ、ヴィンス。人呼んで、ジャンル・スパンナー!(ジャンル飛び越え人)
They call you the Spanner.
(工具の)スパナの間違いだろ。



 夜空の月

ムーン:月から詩をお送りします。
     ニール・アームストロングが僕の顔の上を歩く
     バズ・オルドリンも僕の顔の上を歩く
     あとひとり宇宙飛行士が来て やっぱり僕の顔の上を歩く
     みんな僕の顔の上でよく見てってよ お月様からのお願い … はは…


 森の中の山小屋

(ハワード,ヴィンス,ナブー,ボロが入ってくる)
ハワード:見ろよ。どうだ?
ヴィンス:ここ、物置き?
ハワード:違う、ここが寝起きするところだよ、ヴィンス。

     
わぁお…見ろよ。本物の狩人小屋だろう?(ゴリラの頭部剥製を発見する。)ああ…ごめん、ボロ。
ボロ:これは、チンクォだ…。俺の友達だった。子供の頃、俺たちは森で一緒に遊んだものだった…。
   俺の父さんが注意して言った。「あまり遠くへ行ってはいけないよ。森の端の方には、狩人たちが居るからね。」
   でも、チンクォは好奇心が旺盛だった。彼はいつも言っていた。
   「ボロ、お願い。お願いだから、森のはじっこへ行かせてよ。」何度も、何度も…。
   そしてとうとうある日、俺はチンクォの頭をちょん切ってやった。…お茶飲む?


 夜の山小屋の中

(ハワードが暖炉に火を起している。)
ハワード:いいぞ…。上手く行きそうだ。燃え盛る火に、一杯のお茶。他に望む物なんてないだろう?
(ヴィンスとナブー、ボロがテーブルについている。)
ヴィンス:MTVは?
ハワード:そういうのとは、しばしのお別れだよ、ヴィンス。都会の騒音とはおさらばだ。耳をすませろよ、何が聞こえる?
ヴィンス:お前の脳細胞がぶっこわれる音。
ハワード:静寂だよ、ヴィンス。大自然の音だ。
ヴィンス:たいくつ!
ハワード:そう来ると思った。旅程表の3ページ目を見ると分かるが、
     俺が野生動物に関する小さなレクチャーをする事になってる。
     
(三人にレジメを配る)お前さんたちを、より精神的な世界にご招待と言うわけだ、オーケー?
(ハワード、上機嫌でレクチャーの準備を始める。)
ボロ:
(ナブーに)いやな予感がする。
ナブー:冗談じゃない。ずらかろう。
ヴィンス:まった、どこ行くんだよ?
ナブー:シャーマンのお仕事。
ヴィンス:一緒に行っても良いだろ?
ナブー:駄目。ハワードと一緒に居なきゃ。
ヴィンス:バカ言え!あいつ、すっかりイッちゃってる!
(ハワード、いそいそと「水生植物」を飾りつける。)
ナブー:ハワードを見てよ。すかりやる気満々なんだから。きみ、放っておけないでしょう?
ヴィンス:
(ためいきをつきながら)ありがたいね、まったく!
(ナブーとボロ、外へ出て行こうとする。)
ハワード:二人とも、何やってんだ?
ナブー:買出しに行ってくる。
ハワード:夜の10時だぞ?それにレクチャーを聞き逃しちまう。
ナブー:一番良い時間なんだよ、他に誰も来ないから。
ハワード:もう…
ナブー:なにか買ってくる?
ハワード:いや、要らない。
ナブー:フクロウのくちばしを買ってきてあげようか。欲しければだけど。
ハワード:フクロウのくちばし?何のために?
ナブー:まぁ、言うなれば男としての元気が出るもの。わかる?
ハワード:間に合ってます。
ナブー:本当?その年で?
ハワード:要らないって言ってるだろう?
ナブー:買ってきてあげるよ。ヴィンスと二人で居残るわけだし。
ハワード:行くならさっさと行けよ!
(ハワード、ナブーとボロを外へ押し出す。)
ハワード:
(ヴィンスに)ええと…どこまで言ったっけ?
ナブー:
(窓の外から)やったね、二人っきり!
(ハワード、カーテンを乱暴に閉める。)
ハワード:
(ヴィンスにノートを渡す)オーケー。始めようか。
ヴィンス:なに、これ?
ハワード:ノートを取るの。間で質疑応答をはさむからな。
ヴィンス:あいだで?
ハワード:左様でございます。
ヴィンス:お前、気は確かか?
ハワード:お静かに。さて。まず、カエルのライフ・サイクルから始めよう。カエルは両生類だ。
     卵を産むが、これを「スポーン」と呼ぶ。やがてオタマジャクシが孵り…
(中略)…活動停止…(中略)
     冬眠期間…
(中略)…そしてヒグマは、アメリカ熊とは違って、3ヵ月半ほどの冬眠期間を取る。
     ヒグマは明確に三ヵ月で…ノートにとってあるよな。この二種類の熊の違いは、非常に興味深く…
(ヴィンス、ノートに「誰か俺を殺してくれ〜」と落書きしている。)
ハワード:ブラック・ベアと呼ばれるアメリカ熊にも、ブラウン・ベアと呼ばれるヒグマみたいに茶色いのもいるし、
     そのブラウン・ベアが…黒い…!そういう訳!あははは…
(外から窓を開ける人影が現れる、雷鳴が轟く。)
ヴィンス:わぁ!
ハワード:ギャー!
(コディアック・ジャックが入ってくる。)
コディアック:こぉ〜りゃこりゃ!見〜つ〜け〜た〜ぞ〜!!
ハワード:近寄るな!俺はカンフー教室に行ってるんだぞ!
ヴィンス:一回だけじゃん!
ハワード:うっさい!
コディアック:落ち着かんか!私はコディアック・ジャック。この小屋のオーナーだぞ。
        あんたらがうまくいいテルか、見に来たんだ。
ハワード:コディアック、ハワード・ムーンです。今朝、電話で話したでしょう。
コディアック:何でだって?
ハワード:電話ですよ。
コディアック:あー、あー。モシモシ棒ね!今朝、あんたの声が引っかかってたな!
ハワード:どうも、ハワード・ムーンです。
コディアック:ハロー。
ハワード:よろしく。
コディアック:それから…へ…ロォ〜ウ…お名前は?かわいこちゃん?
ヴィンス:ヴィンス…
コディアック:ステキな名前だ。
ハワード:ちょうど今、野生動物についてのレクチャーをしていたところなんだ。
     ここに居ても構わないし、参加されてもいいですよ。
コディアック:おお、そうかい?
ハワード:ええ!
コディアック:あんたは野生動物についてどれくらい知識があるのかね、都会にぃちゃん?
ハワード:そう…この大きな本を読んで。
コディアック:本か!ケッ!まったく、どいつもこいつも!いいか、言わせてもらうがな。
        こんな本なぞ、グリズリー(巨大熊)が襲ってきた時には、何の助けにもならんぞ!
(本を窓の外に放り投げる。)
        経験こそが全てだ。あんた、巨大ヤギのキンタマに引っ掛けられて、地面を引きずり回された事があるか?
        一日もすりゃe-Bayで買えるとでも?
ハワード:いいや。
コディアック:白鳥に睡眠薬を盛られて、目が覚めたらカンクーンだったなんて経験があるか?
ハワード:いいや。
コディアック:サイのティー・パーティに行ったことがあるか?私はあるぞ!パーティなんて言えたもんじゃない!
ハワード:だろうね。
コディアック:私はあらゆる動物たちと戦ってきた。そして、ヤツらを仕留めたのだ!
(壁の剥製を一つ一つ指差していく)
        あれも殺し、あれも殺し、あれも…殺した!
ハワード:まぁ、俺も…いくらかはぞっとするような経験をしていますよ、ええ。
コディアック:ほほう?証明する傷痕があるかね?
ハワード:心の傷?ええ。
コディアック:そうか?これを見ろ!
(傷痕を見せる。)1973年にムースにか見つかれた痕だ。心の傷などあるものか。
        こっちを見ろ!ヌーの角に引き裂かれ、ぱっくり開いた痕だ!自分の靴紐で縫い合わせたのだ!
ヴィンス:そう、凄いね!これ見る?
(おなかの火傷の跡を見せる)ヘア・アイロン!ヘア・スタイリスト,ニッキーー・クラーク!
      一番熱いのならこれ!酔っ払って、アイロンの上で寝ちまったんだ。

コディアック:こいつぁ、目の保養…
ヴィンス:なぁ、もう出てってくんない?俺、寝るから。
コディアック:ああ、これは大変失礼をば!勿論です!また別の機会にお会いできると良いですな。
(コディアック、ヴィンスの手にキス(?)をして、小屋から出て行く。)
ハワード:なんだありゃ。
ヴィンス:変態。
(コディアック、戻ってきて扉を開ける。)
コディアック:
(ハワードに)旦那、一杯一緒にやらないか?それから、ポーチで煙草でも一服いかがかね?
        男と男の語らいってことで。
ハワード:もちろん、お付き合いしますよ。
(ヴィンスに)俺とジャックは、この大自然について語り合ってくるよ。じゃぁな。
ヴィンス:あっそ。好きにしろよ。


 森の中

(ナブーとボロがカートを押して買い物をしている。)
ナブー:あれ、取ってくれる?ボロ。
(ボロ、木から枝と葉を取る。)
ボロ:オーケー、三つで2ユーロね。
(森の中には、「シャーマンズベリー」というマーケットの看板がかかっている。)


 夜空の月

ムーン:そして宇宙飛行士がやってくると 彼らは金槌と羽根で実験をしました。
     どちらが先に落ちるか見るためにね。それで、あの…知ってるかしらん
     月の地表では、同時におっこちるんだよ〜。色々試していましたよ。
     ビーチボールに、洗濯バサミ、マグネットとか…チキンのちっちゃな絵とか…。
     どれも結果は一緒。そんな訳で、月ではどれも同時に落ちるんですよ〜


 山小屋のポーチ

(ハワードとコディアックが森と月を眺めている。)
コディアック:綺麗な眺めだろう?
ハワード:そうですね。こんな風景を見ると、いかに人類が取るに足らないちっぽけな存在であるかを、思い知らされますよ。
     でもその一方で、我われ人類が万物と繋がっていたという事実を、喪失してしまった事も、分かるような気がする。
コディアック:私がどう考えているかお分かりかね?ちっぽけな動物どもは、みなタマなしだ。
        ところで、ちょっと質問があるのだが。あんたがた二人は、ここに新婚旅行で来たのかね?
ハワード:いや、ジャック。あんたは、ちょっと電話の内容を勘違いしたみたいだね。
コディアック:ほほう。では何しに?
ハワード:俺は野生動物の写真を仕事にしていまして。今、ちょうど写真集を作っているところなんです。
コディアック:ああ、絵が出てくる箱ね。
ハワード:そういう訳。心血を注いでいます。
コディアック:なるほど。私にお手伝いができるな。
ハワード:なんです?
コディアック:まぁ、あんた一人の企みでは、こっから森に行って、
        運が良ければせいぜいシマリスか、コケのきれっぱしぐらいしか、撮れないだろう。
        しかし、私は未だかつて人類が目にしたことも無いような生き物が居るところを知っておる。
        あんたがそれを写真に撮れば、有名になれるぞ。メジャーな雑誌の表紙を飾れる。
(ハワード、「グローバル・エクスプローラー誌」の表紙を飾る自分の姿を思い浮かべる。)
コディアック;地図を見るかい?パイニー・リッジにある、その生き物のねぐらへの案内だ。
ハワード:見せてもらえますか?
コディアック:いや、そうは行かんよ、そうは…
ハワード:行かない?
コディアック:そう。私がお前さんにやる以上、あんたも私が欲しいものをくれなきゃな。
ハワード:何を?
コディアック:分かるだろう?男がひとりこんな森のなかで過ごしていると、欲しくなる物は…
ハワード:あ、ジャック。悪いけど。無論、俺は自由主義者ではあるけど、その点に関しては受け付けないんだ、悪いね。
コディアック:あんたじゃない、色ボケ頭!あそこの、イカシたあのコの話をしてるんだ!
        男としちゃ、当然だろう?こんな所じゃ、あんなキュートで、セクシーなお姫様にはお目にかかれないからな。
        大抵は、あんたみたいな日に焼けたおっさんタイプばっかりだ。
ハワード:いいか、そんなことできるわけが無いだろう?ヴィンスは俺の友達だ。だから、もうここまでだ。
コディアック:ほう。そりゃ残念だ。あんたが写真に撮りたいんじゃないかと思ったのだがねぇ、あの伝説のイェティを…
(ハワード、小屋に戻ろうとしていたが、足を止めてコディアックの方に振り返る。)
ハワード:何分あれば足りる?


 森の中のジャーマンズベリー

(レジで、ナブーとボロがお会計をしている。ナブー、女性店員が置いた商品を持ち上げると、袋から水が漏っている。)
ナブー:これ、最初からこうなってました?
女性店員:すみません、破れちゃったわ。
ナブー:ボロ、他のジャガーの涙を取ってきて。そのへんにあるから。
ボロ:オーケー。
(ボロ、森の中に戻り、すこし迷う。)
ナブー:角と、蹄のところだよ!
ボロ:ああ、分かった。
(レジに、カートを押しながら、シャーマンのバリーがやってくる。)
ナブー:やぁ、元気?バリー。
バリー:元気だぁよ、ナブー。なぁん年も会ってなかったねぇ。ありゃぁいつだっけか?
    ウィッカム洞窟でさぁ。ひでぇ夜だったよなぁ?
ナブー:ああ、あの時はすっかり興奮していたからね。ターバンの中に吐いちゃって、きみは店じゅうめちゃくちゃにしちゃった。
バリー:俺の誕生日だぁったからさぁ。しまいにゃ、すっかりドラッグでグ〜ダグダよぉ!
    そぉんで、ミック・ジャガァー・ドラッグに手ぇ出したり、安物を2回も食らったりしてなぁ!

    とぉころでさぁ、お前さん、最近はどうしてんの?
ナブー:自由契約でやっているんだ。
バリー:いんまも、ボロと?
ナブー:うん、そこに居るよ。物を取ってきてもらってる。
(バリー、振り返って森の中のボロに手を振る。)
バリー:よぉう、ボロ!
ナブー:きみの使いの精は?
バリー:こぉいつ、クリッシー。
(懐から、コウモリを取り出し、ナブーに渡す。)
ナブー:いいじゃん。たしか、黒猫とやってただろう?
バリー:前はねぇ。色々頑張ってぇ、アップグレードしたんだぁ。
ナブー:僕もアップグレードしたいな。
バリー:できるよぉ。クリッシーは小ぃさいけど、最新情報をゲットしてきてくれぇんだぁ。
(ボロが戻ってくる。)
女性店員:ポイントカードは?
ナブー:ボロ、持ってる?
ボロ:ごめん、忘れてきた。
ナブー:
(バリーに)分かるだろう?50魔法の絨毯マイルくらいのものかな?
バリー:アップグレードしなよぉ。
ナブー:じゃぁね、バリー。
バリー:そぉだ、ナブー。ちょいといいかい?もぉし俺があんたなら、今夜は家にこもるねぇ。森は避けるこぉったぁ。
ナブー:そうなの?
バリー:どぉやら、今夜はイエティの繁殖日らしぃんだわぁ。
ナブー:今は冬眠中だろう?
バリー:そぉんだけど、25年ごとに出現すんだわぁ。子孫を残す為に、オスを探し回るのさぁ。
     たぁいした自由恋愛主義だわぁ!特に、パイニー・リッジにゃ近づかんこぉったぁ。
ナブー:どうしてそんなこと知ってるの?
バリー:クリッシーさぁ!最新情報ゲットだぁ!電波受信機があっからなぁ。
ナブー:どうして言ってくれないのさ、ボロ?
ボロ:嫌な予感がするって、言ったじゃん。
ナブー:詳細を知らせてよ。じゃぁね、バリー。
(ナブー、ボロと共に退場。)
バリー:
(女性店員に)さぁてと、別嬪さん!ここ、何時に終わるのぉ?


 森の奥

(懐中電灯を持ったハワードが一人で現れる。写真を撮り始めると、やがて何かにつかまり、茂みの中に引き込まれてしまう。)


 山小屋

(ヴィンスが鏡に向かいながら、ヘア・アイロンを使っている。)
ヴィンス:
(鼻歌)♪だめだよ〜お願いだから行かないで〜…♪
(ノックの音がする。)
ヴィンス:どうぞ!
(コディアック・ジャックが入ってくる)
コディアック:ど〜も!今晩は〜!
ヴィンス:なんか用?
コディアック:ああ、その…お花を持ってきました!
(野草の花束を差し出す。)私が摘んできたんです。
ヴィンス:ハワードはどこ?
コディアック:
(ヴィンスに迫りながら)ああ、うまくやってるよ。ちょっとパイニー・リッジへ散歩に行っているんだ。
        少しの間、二人っきりにさせてくれてね。
ヴィンス:何食ってんの?
コディアック:フクロウのくちばしだよ。おひとつどうだね?
ヴィンス:いや、結構。
コディアック:いいムードになるよぉ…
ヴィンス:いいムードって何だよ。
コディアック:きみみたいなコと、私のような老いた山男が二人きりとなれば…
ヴィンス:近寄るな!
コディアック:愛してるんだよ、ヴィンシー!
ヴィンス:おかしんじゃねぇの?!近寄るなったら!
コディアック:愛してるよ、可愛いヴィンシー!!
(小屋から男の叫び声が響き渡り、それに驚いたナブーとボロが中に駆け込んでくる。すると、ヴィンスがヘアアイロンでコディアックの鼻を挟み、煙をあげている。コディアック、絶叫。)
ヴィンス:思い知ったか!ニッキー・クラーク!一番熱いのならこれ!
(コディアック、小屋から逃げ出す。)
ナブー:一体、どうしたの?
ヴィンス:知りたいか?もうすこしであのアブラギッシュ・アダムズにヤラれるところだったんだぞ!
ナブー:ハワードは?
ヴィンス:パイニー・リッジに散歩にいったとかなんとか…
(ナブーとボロ、顔を見合わせる。)
ヴィンス:何だよ。俺の顔に何かついてるか?


 森の中に停まった車の中

ヴィンス:ナブー、ハワードは大丈夫かな?
ナブー:ハワードがイェティに捕まる前に、駆けつけてやらないと。
ヴィンス:俺たちが間に合わなかったら、イェティはハワードをどうするつもりだろう?
ナブー:こわくて言えない。
ヴィンス:そっか。とにかく、急いでパイニー・リッジに行かないとな。
ナブー:よし、早く行こう。
ヴィンス:うん。…俺、運転できない。
ナブー:僕だってできないよ。出来るんじゃなかったの?
ヴィンス:お前が出来ると思った。
ナブー:そっちこそ!
ボロ:バカばっか…
ヴィンス:空飛ぶカーペットは持ってきてる?
ナブー:ハワードが持ってこさせてくれなかったんだよ。「スーツケース一つ!」とか言って。
ヴィンス:うわぁ、どうしよう?
ナブー:ボロは?
ヴィンス:たのむよ、ボロ。ケツの穴引き締めて、いっちょ転がしてやってよ。
ボロ:ボロは運転できないの。
ヴィンス:冗談だろ、なんで?
ボロ:ボロは免許停止中。
ナブー:いつから?
ボロ:昔のことだ…そう、あれはチンクォだった。
   ティーンエイジャーになった俺たちは、よく一緒に町へドライブに出かけたものだった。
   俺の父さんが注意して言った。「スピードを出しすぎちゃいけないよ。
   A49号線にはスピード違反カメラが設置されているからね。」
   でも、チンクォはすっかりその気だった。まったく危険な男だ。チンクォはいつも言っていた。
   「お願い、ボロ。お願いだから、もっとスピードを出させて。」
ヴィンス:分かった、分かった。それでヤツの頭をちょん切ってやったんだな?
ボロ:うんにゃ。足をちょん切ってやった。アクセルを踏めないようにね。
ナブー:チンクォの話はまだ続くの?ボロ。ハワードに追いつかなきゃいけないんだよ?
ヴィンス:どうしよう?パイニー・リッジへは歩いたら5時間かかるよ。
ナブー:タクシーとか?
(ニンジャがやってきて、窓をたたく。ヴィンスが窓を開けると、「チークボーン」を手渡す。)
ニンジャ:チークボーンです!
ヴィンス:ああ、どうも!最新号だ!あ!スチュアート朝風飾り襟のリバイバルブーム到来だってよ!
     言ったろう?やったね!
(ニンジャに)ねぇ、きみ。車の運転できるだろう?
ニンジャ:できるよ。
ヴィンス:やった!


 森の中を疾走する車

(ニンジャが猛スピードで車を走らせ、ヴィンス、ナブー、ボロはかなりびびっている。)
ボロ:スピード違反カメラ!
(ニンジャ、スピードを緩める。しかし再び猛スピードで走り始める。)


 森の奥,パイニー・リッジ

ヴィンス:ハーワード!ハワード!
(ヴィンス、ナブー、ボロが森の中でハワードを探し回っている。やがて地面に巨大な足跡を発見する。)
ナブー:まずいな。ボロの足もでかいけど、これはまた…
(何か化け物の唸る声が聞こえる。)
ボロ:やべぇ。
(大きなイエティが複数現れ、ヴィンス,ナブー,ボロを取り囲む。)
ナブー:落ち着いて!僕はシャーマンだ!イェティの対処法は学習済みだよな、ボロ!
ボロ:え?
ナブー:苦手な物があるはずなんだ。何だっけ?
ボロ:チーズ?
ナブー:違う!
ボロ:リップスティック?
ナブー:違う!
ボロ:4番コネクター?
ナブー:違うったら!そうだ、鏡だ!イェティは自分が映った姿を怖がるんだ!鏡さえあれば…!
ヴィンス:大きさは?
ナブー:えっ?
ヴィンス:
(ナブーに次々と鏡を差し出す)手鏡?姿見?メイク用?
ナブー:やった!貸して!
(ナブー、鏡の一つを、1匹のイェティの眼前に突き出す。一瞬、イェティの動きが止まるが、鏡に映った姿に、見入っている。)
ナブー:いや、もしかしたら鏡が苦手なのはユニコーンだったかも。
イェティ:残念でした!
(鏡を放り出す。)
(再び、イェティたちが三人に襲いかかろうとする。三人が絶叫すると、突然ハワードの声が聞こえる。)

ハワード:カラマルー!
(ネイティブ・アメリカンの生活に溶け込もうとした行き過ぎヒッピーのような格好の、ハワードが現れる。)
ハワード:カクーラ、パント、タチーカ、サクーロ、ファント!
ヴィンス:お前、殺されちゃったかと思ったよ!
ハワード:なんと?彼らにかい?とても穏やかな人たちだよ。
ヴィンス:お前、どうかしたのか?目つきがへんだよ。妙な格好だし、ハワード。
ハワード:ハワード…おおそうだ、思い出したぞ。執念深く、いつも自分自身と葛藤していた。
     ハワードはもう居ない。私は、パセリだ。
ヴィンス:パセリ?一体、どうしたんだよ。
ハワード:心を解き放ったのだ。
ヴィンス:そりゃ良かったな、パセリ。さぁ、行こうぜ。
ハワード:おやおや、なにをそんなに急き込んでいるのかね?さぁ、心を落ち着けて。今やここが我が家だ。
ヴィンス:森の中だぞ?!
ハワード:来なさい、見せてあげよう。
ヴィンス:お前、頭がおかしくなったんだ!
ハワード:最初は私とても拒んだ。しかし今や、森の息吹が私の心を吹き抜けてゆく。きみの心の中をも吹き抜けるであろう。
(ハワード、癒し系のような、穏やかなサイケデリック・ミュージックのような歌を歌い、イェティと踊り始める。)

ハワード:♪さぁ、おいで 俗世のことなど忘れて 大自然の驚異を見回してごらん
      恐れる事など無い すべてがここにある
      だから自分だけの友達も家族も 必要ないのさ みんなが家族なのだから
      さぁ、おいで 人生に必要な全てが分かるよ すべて簡単なこと 現実なんて無意味なのだから
      私の瞳をみて 未来が見えるよ 私の瞳を見て 君の魂が見える
      すぐに仲間になれる すべてがここにあるのだから…♪

ヴィンス:
(ナブーに)あいつ、どうかしちまってる!
ナブー:分かってる、トランス状態だ。これは儀式なんだ。僕らをつかまえて繁殖行動をするまえに、必ずこうするんだ。
(ボロがハワードと一緒に踊り出す。)
ヴィンス:ボロ、どうしたんだ!?
ナブー:ああ、ボロに伝染しちゃった。いいかい、ヴィンス。これはイェティの魔法なんだ。
     ヒッピーのたわごとに耳を傾けちゃ駄目だ。きみは、パンク!パンクのままでいるんだ。
     ジョニー・サンダースのことを考えて。
ヴィンス:分かった。
ナブー:ミックとキースも。壁になってもらえる。
ヴィンス:オーケー、でもナブー、お前はどうするんだ?
ナブー:心配しないで、僕はシャーマンだよ。精神は城壁級さ。
(ナブーも一緒になって踊り出してしまう。やがて、ヴィンスも歌に加わる。四人揃ってネイティブ・アメリカン風の服装と髪型になる。しまいには四人とも白いベッドに入り、歌を口ずさみ続ける。イエティがそれを取り囲み、花びらを撒いている。そこに、猟銃を持ったコディアック・ジャックが駆け込んできて、一発発射。四人とも我に返る。)
コディアック:命が惜しくば逃げろ!
ハワード:俺、どうなってるんだ?!
ヴィンス:
(鏡を見て)ギャー!おさげ髪になってる!
ナブー:ターバンは?!
(そこに、イェティ・クィーンが現れる。)
コディアック:クィーン!とんでもないインラン女だ!逃げろ、ヴィンシー!私が守ってやる!
(ハワード、ヴィンス、ナブー、ボロが逃げ出す。)
コディアック:来やがれ、このアバズレ!
(コディアック、猟銃をクィーンに向かって発射するが、弾が出ない。)
クィーン:アバズレ?
(銃を放り出したコディアックに、イェティが襲い掛かり、ベッドに押し倒してしまう。)
コディアック:わ、わ、わぁー!!ぎゃー!あ、もっと左、ああ、そこ!ヴィンス、まだメルアド教えてもらってなーい!


 森の中

(イェティ・クィーンがハワード、ヴィンス、ナブー、ボロを追いかけ、四人が必死で逃げる。)
ハワード:わぁ、待ってー!
(途中で、シャーマンズベリーを駆け抜ける)
女性店員:
(店内放送をかける)守衛さん、7番通路にお願いします。


 山小屋

(四人が山小屋に駆け込んだ少し後に、クィーンが入ってくる。四人とも壁の剥製のふりをするが、ボロがくしゃみをしてしまい、クィーンに気づかれる)
ボロ:ごめーん。
(クィーンが四人に襲いかかろうとするが、床に置いてあった「トランク地雷」を踏みつけ、爆発する。クィーン、屋根をつきぬけ、森の向こうまで吹っ飛んでしまう。)
クィーン:ひょぇぇぇ〜!ビヨヨョョ〜ン!!!


 町へ向かう車の中

(ハワードが運転し、ヴィンスが助手席、ナブーとボロが後部座席に座っている。)
ナブー:
(本を見ている)モルト・ローフ!
ヴィンス:はぁ?
ナブー:モルト・ローフだってば!
ヴィンス:何のこと?
ナブー:イェティが嫌いなものだよ!
ハワード:いいタイミングじゃないか、ナブー。
ヴィンス:良いこともあったよ。軍隊式のダイエットになった。来年は「グーフィー・ハウス」に行こうな?
ハワード:俺は結構。
(車と平行に、昔の探検家風の男が走ってくる。運転席側の窓を叩き、ハワードに雑誌を手渡す。)
ハワード:ありがとう。
探検家:ごきげんよう!
ハワード:新しいグローバル・エクスプローラーが届いたぞ。ははは!
(表紙を見る)信じらんねぇ。
(ハワード、雑誌をヴィンスに投げてよこす)
ヴィンス:「ヴィンス・ノワー、イェティ発見」だってさ!やったね。
(探検家が助手席側を走り、窓を叩く。ヴィンス、窓を開ける。)
探検家:どうも!うちの女房のために、これにサインしていただけますか?
(雑誌を手渡す。)
ヴィンス:いいよ。
探検家:「アランへ」ってお願いします。
(ヴィンス、サインをして雑誌を探険家に戻す。)
ヴィンス:どうぞ。
探検家:ありがとう!
(ハワード、突然ハンドルを切って、探険家を跳ね飛ばす。)
ハワード:あ〜らら…


 エンディング・クレジット

(四人が車内で相変わらず歌っている。)


(終)
 
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