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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ1 エピソード8 / ヒッチャー Hitcher


 オープニング・トーク

(赤いカーテンの前に、ハワードとヴィンス登場)
ハワード:ハイ、番組へようこそ。私はハワード・ムーン、こちらはヴィンス・ノワーです。
ヴィンス:オーラーイ。
ハワード:今週、私は主役級のキャラクターを演じます。ですが、どうぞご心配なく。
     俳優ですから、いかなる感情も演じて見せます。
ヴィンス:見たけど、かなりパワフルだせ。
ハワード:ああ。ここで少し、お見せしましょう。
(なにやら演技)
ヴィンス:なにそれ?
ハワード:水夫の悲しみ。
ヴィンス:すごい、すごい。他は?
(ハワード、またなにやら演技)
ヴィンス:なにそれ?
ハワード:コーンウォール人の罪悪感。どうだ、気に入ったか。
ヴィンス:コーンウォール人の罪悪感?ぶっとんでるね。
ハワード:お前は演技できるか?
ヴィンス:演技?俺が?いや、無理。・・・と〜か言っちゃって、これが演技なんだな〜
ハワード:ひねったな。他に何かないのか?
ヴィンス:取って置きのがあるよ。
ハワード:やってみ。ビックリさせるやつな。
(ヴィンスがしゃがみこみ、立ち上がると老人になっている。ハワード、黙ったまま退場。)
ヴィンス(?):番組をお楽しみください。


 ズーニヴァース ロシアヒグマの檻の前

(フォッシルがお客を案内してくる。)
フォッシル:ちびっこの皆さん、ズーニヴァースめぐりの最後にお見せするのは、アイヴァン。
       もじゃもじゃカーペットのロシア人です。
お客:熊?
フォッシル:ああ…ええ。ラテン語で言えばね。さて、こいつはカーペットをやってる以上は暇なのですが、
       でも踊るのがだぁ〜い好きなのです!
       と、言うわけで本日はヴィンス・ノワーと、その卑屈なアシスタント,ハワード・ムーンをご用意しました!
(ハワードとヴィンス、キーボードとベースをもって控えている。)
ハワード:オーケー、曲目は分かってるな?
ヴィンス:うん。エレクトロ・ポップの定番な。
ハワード:違う、ジャズ・ファンクだ。エレクトロは先週やっただろう。だから今週はジャズ・ファンク!
フォッシル:おい、このクソ頭!さっさと始めろ。
ハワード:オーケー。
ハイ、私が作った曲を演奏します。スラップ・べース叙事詩みたいなもので、お気に召すでしょうか。
     簡単に言うと「こつぶ」という曲です。どうも。ワン、トゥー、スリー、フォー・・・
(スラップ・ベースの曲を、ハワードとヴィンスが演奏し始めると、檻の中の熊が暴れ出す。)
お客:熊がの機嫌が悪いようですが。
フォッシル:共産主義ですから!サーヴィス業を理解していないんですよ。
       ついでに、カーペット野郎は踊らないって事も分かっていない。カーペット野郎は食事もしない。
(熊、さらに暴れる。お客の子供たち、怖がって檻から離れる。)
フォッシル:怖がっておいでだが、ご心配なく。この檻は猛スピードのトラックをも止めてしまいますから。
(熊、檻を壊して、飛び出す。ハワードとヴィンス、お客たちは逃げ出す。フォッシルが逃げ遅れる。)
フォッシル:地獄に落ちろ!どいつもこいつも身勝手なー!
(熊に)殺さないで!私、レーニンだぁ〜い好き!
(ナブーが売店から吹き矢を吹いて、熊を眠らせる。ナブー、様子を見に店から出てくる。)
フォッシル:ナブー、きみは命の恩人だ!唇に情熱キッスをして御礼を…!
(ナブー、フォッシルの股間に吹き矢を打ち込む。)
フォッシル:ウッ!タマが!
(倒れる)


 新聞紙面

(動物園の飼育員、熊を動物刑務所に移送)


 動物輸送車内

(車に「動物輸送車」とある。ハワードが運転している隣りで、ヴィンスが雑誌を読んでいる)
ハワード:ああ、やれやれ。大きな道路に出たし、動物園からも飛び出せた。
      道に出ると、ふるさとに帰ったような気分がするよ、ヴィンス。血が騒ぐ。
      多分、俺が子供の頃は住まいを移動してばかりいたからだろうな。
      両親と一緒に暮らしていたけど、週末になると祖父母のところに行った。
      祖父母は40分くらい行ったウェイクフィールドに住んでいたんだ。
      思うに、その頃にある種の精神性を形成したんだろうな。放浪癖なんて言い方もあるけど。
      うん、いつもカラハリ砂漠の遊牧民なんかには、親近感を覚えるな。
ヴィンス:まさか。
ハワード:ん?そうだよ。
ヴィンス:うそつけ!
ハワード:本当さ。深いところで繋がっているんだ。
ヴィンス:あいつら、ボリウッド・バージョンのフォンズじゃん。
ハワード:お前、俺の話を聞いてたか?
ヴィンス:ええと…カラマリ
(=イカ)かなんかだっけか。俺、腹はへってない。
ハワード:あのな、おれは会話をしようとしてんの。何か意味のある会話がしたいんだ。俺が運転しているんだからな。
ヴィンス:何の話をしたい?
ハワード:だから、その…俺自身についてとか。自由な心をもっている…
ヴィンス:へえ。
ハワード:何者にもとらわれない。誰かが俺を小さな箱に押し込もうとしても、ぶち壊して自由を勝ち取る。
ヴィンス:誰が箱に押し込むわけ?
ハワード:俺の本能、ハワード・ムーンの…
ヴィンス:俺が聞いてるのは、お前を箱に押し込む奴の方だよ。
ハワード:その、だれかさ。だろう?しかるべき人だよ。
ヴィンス:そのこと、警察に相談した?
ハワード:そうじゃない、だから…何者かだよ。
ヴィンス:何の話してんの?
ハワード:だから、人を箱の中に閉じ込めてしまう人間の事だよ。
ヴィンス:だれもお前を箱に入れたりしないよ。お前、でかすぎるもん。
ハワード:この話はもう忘れよう。
ヴィンス:どうやって箱に入ったんだ?
ハワード:その話は終り!雑誌でも読んでろ。
ヴィンス:お前が話したいって言ったんじゃん。
ハワード:急に話し疲れた。アイヴァンの様子を見てくれないか?
(ヴィンス、背後の窓を開けて、中の熊の様子を見る。)
ハワード:どうしてる?
ヴィンス:退屈みたい。
(ヴィンス、読んでいた雑誌を窓から檻の方に入れる。)
ハワード:何やってんだ?
ヴィンス:は?読むかと思ってさ。
ハワード:ザ・フェイスを?
ヴィンス:うん。
ハワード:ロシア人の熊だぞ?
ヴィンス:だから?
ハワード:チェーホフを渡してやれ。


 引き続き輸送車の中

ヴィンス:何か食う?
(駄菓子袋を覗き込んでいる。)
ハワード:ああ。はらぺこだ。
ヴィンス:なんでもあるよ。コンガリスナックに、UFOクッキーに、イチゴ味の靴紐ガム…どれにする?
ハワード:食い物はないのか?
ヴィンス:あるよ。土星ジンジャー・ケーキとか。
ハワード:そうじゃない。ちゃんとした食い物だ。
ヴィンス:ネプチューン・ラムネなんかは?
ハワード:お前、米って聞いた事あるか?
ヴィンス:お米スナックならあるよ。な、ハワード。これ見ろよ。ほら。
     
(ヴィンス、細長い駄菓子を奇天烈なやり方で食べる。)亀の食い方。
ハワード:先が思いやられる…


 まだ輸送車の中

ヴィンス:ドライブ用のテープを編集してきたぞ。
ハワード:ああ、そう。
ヴィンス:これがベスト・オブ60年代、こっちがベスト・オブ70年代、そんで、これが…ゲイリー・ニューマン!
ハワード:だめ。ごめんだ。それは無し。
ヴィンス:はぁ?いいじゃん。
ハワード:金輪際ごめんだ。そいつには我慢ならない。
ヴィンス:なんで?
ハワード:運転しているのは俺だぞ。だから俺が好きな音楽を聴く。
ヴィンス:おいおい、ジャズじゃないよな。
ハワード:違う。こいつさ、相棒。ジャズ・ファンク!
ヴィンス:うへぇ…。ダブルで来たよ…最悪じゃん…
ハワード:ファンクの腹の底から響くグルーヴとジャズの合体による、知的音楽創造物だ!
ヴィンス:ファンク?
ハワード:融合体だ。
ヴィンス:ジャズの出来損ないじゃん。
(ハワード、自分のテープを再生する。すると、反復ばかりのジャズ・ファンクが始まる。)
ハワード:よく聴けよ。いいだろ?スラップ・ベースのソロが入ってくるぞ・・・ほら・・・ここ!…いや…反対の面だ。
     
(テープをひっくり返す)ああ。ここ、ここ。ここ、入るぞ。そう、ここ…!
     いや…ちょっと先送り
(早送りする)来るぞ、そう、…今だ。アーゥ!・・・違った。
     もうちょっと待った。来るぞ…次のところ、ああ、似た様なところで…
ヴィンス:へぇ…
ハワード:来るぞ、…まった、ええ…来るぞ!
(やっとスラップ・ベースが入ってくる)ワーオ!パワフルだろう?
ヴィンス:がーっかり!
ハワード:この親指使い!いいねー!
(背後の檻の中で熊が暴れ始める。)
ハワード:どうしたんだ?
ヴィンス:
(窓を開ける)アイヴァンがブチ切れたぞ!このスラップベースのせいだ!嫌いなんだよ!
ハワード:スラップ・ベースが嫌い?!
ヴィンス:嫌いなの!
ハワード:じゃぁ、何が好きなんだよ!

(画面、切り替わって、車内にはゲイリー・ニューマンの“Cars”が流れている。ヴィンスと熊がノリノリ。)
ゲイリー・ニューマン:♪車の中なら おれは心が休まる
               ドアロックもできちゃうし こうじゃないと生きてけない 車の中でなきゃ!
               車の中なら きみの声も聞こえる 車の中なら いつまでだっていられる♪


 相変わらず輸送車の中

(外は夕暮れ時を迎えている。)
ヴィンス:もうそろそろ着く?
ハワード:いや。まだまだ。
ヴィンス:ちょっと寝るわ。
ハワード:寝るんじゃない。
ヴィンス:いいじゃん。
ハワード:駄目!俺を楽しませなきゃ!
ヴィンス:楽しませる?俺に踊れとか言うわけ?
ハワード:ああ、何かしろよ。
ヴィンス:よし、いいのがあるぞ。きっと気に入る。見ろよ。
(ヴィンスが頭を下げてからもう一度顔を上げると、オープニング・トークに出てきた老人になっている。)
ハワード:引っ込めろ。
(ヴィンス、元に戻る。)
ハワード:二度とやるな。
ヴィンス:他のキャラも出来るよ。
ハワード:見たくない。何か物語りでも出来ないのか?
ヴィンス:物語?
ハワード:そう!
ヴィンス:何の話?
ハワード:お前が森で育った話とか。
ヴィンス:もう聞いただろう。
ハワード:もう一度聞きたいんだ。
ヴィンス:あっそ。いいよ。俺が子供だった時、森でブライアン・フェリーに育てられた。

     
(おちゃらけたブライアン・フェリーの歌声から、アニメーションが始まる。)
ヴィンス:素晴らしいところだった。魔法のような時代さ。
     俺はブライアンと一緒に森を歩き回るのが好きだった。俺らはいつも狩りをしたり、魚釣りをしたり。
     俺たちはバスの切符で出来た小さな家に住んでいた。ステキな所だ。でも、問題もあった。
     ブライアンはしょっちゅうコンサート・ツアーに出かけていたからね。
     それで、ブライアンはいつも俺を動物たちに託して行った。
     ある時、ブライアンは俺をヒョウのジャフーリーに託して行った。まったく頼りにならない奴だったけどね。
     ジャフーリーは俺のためにガゼルを仕留めた。ブライアンが徹底したベジタリアンなのを知ってたくせに。
     ジャフーリーは俺に柔らかくて美味しい肉を食わせた。腹いっぱいになると、眠たくなってしまった。
     ところが、俺がうつらうつらし始めると、薄汚れたコブラのカルーニーが、木の脇に素早くやってきた。
     奴が俺に言う事には、「眠ってはならぬぞ…!」俺は聞き返した。
     「どうして?どうなるの?」すると、カルーニーが応えた。
     「それは、サル軍団が、お前の顔を盗み取ろうと企んでいるからさ。」
     「え?どういう意味?」
     サルの王がその地位に相応しいように、人間の顔を欲しがっていたんだ。
     サルの王は俺の顔を見て、これこそ欲しがっていた顔だと大喜び。
     そもそもサルは刑事コロンボの顔を取ろうとしていたんだが、ぴったりくっついていたから駄目だったんだ。
     
(コロンボの声が「ああ、あと一つ…」と呟く。)
     とにかく、困った事にジャングルは酷く暑くて、その上俺は腹が一杯。すぐに眠くなってしまった。
ハワード:馬鹿!だめだよ!
ヴィンス:だろう?
(アニメーション終了。画面は社内のハワードとヴィンスに戻る。)

ハワード:寝ちゃだめだ!
ヴィンス:ほんと、馬鹿だよな〜
ハワード:それで、どうなった?
ヴィンス:続きはまた今度。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:もうおしまい。
ハワード:おしまいって何だよ。駄目だぞ、面白くなってきたところじゃないか。
ヴィンス:サーガみたいな冒険譚ってのは、こういう終わり方なの。
ハワード:はぁ?お前、アイスランド人かよ!駄目だってば、俺は話の結末を知りたいんだ!
ヴィンス:駆け足で話しすぎたから、今はここまで。
ハワード:物語の切り売りなんてして、お前何者だよ?ジョニー・セグメントか?
ヴィンス:まぁね。俺は語り部なの。お前、自分で完結させろよ。
ハワード:人から搾り取っておいて、宙ぶらりんの中途半端にするなんて、そうは行くか。
ヴィンス:俺はそういうスタイルなの!
ハワード:中途半端が?
ヴィンス:そ!絞りたて中途半端!
ハワード:お前、ビョーキだな。
ヴィンス:お前の語彙に良い栄養剤になったろう?
ハワード:間に合ってる。俺はプディングが食いたい。
ヴィンス:食いすぎ。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:語彙の食欲過多!
ハワード:だから…ああ、もう!
ヴィンス:まぁ、まぁ。
ハワード:ばっかみてぇ。どれくらい距離、行ったかな?
(ヴィンス、地図を取り出す。)
ヴィンス:地図を見ると、動物刑務所はここだろ。でも、フォッシルの言った道をたどると、あと6時間はかかる。
     ムダだな。どうして、近道しないんだろう。
ハワード:近道があるのか?
ヴィンス:次を左に曲がれば良いんだよ。
ハワード:森を抜ける道だろう?
ヴィンス:そう!
ハワード:大丈夫か?
ヴィンス:ばっちり!20分くらいで着けるよ。

字幕:6時間後…


 森の中

(すっかり夜になり、輸送車がライトをつけて、森の中に停まる。)
ハワード:俺たちゃ、一体どこに居るんだ?
ヴィンス:さあ。
(地図を見ながら)この道を行けば、時間の節約になるはずだけどなぁ。
ハワード:どの道だって?
(地図を覗き込む)
ヴィンス:この道さ。
ハワード:この細い、赤い道か?
(ハワード、地図の上から赤い靴紐ガムを摘み上げる。)
ハワード:そりゃ、このラズベリー味の靴紐ガムだ、バーカ!
ヴィンス:手伝おうとしたんじゃん!
ハワード:お前が何か手伝ったか?食べ物ともいえないような駄菓子ばっか持ってきて、きちんと完結しない物語を喋って、
     ゲイリー・ニューマンの全曲リストを持ってきて…
ヴィンス:なかなか骨が折れたぜ。
ハワード:骨の折れるゴミ同然!
ヴィンス:いいか、もうお前のイチャモンはたくさんだ。
ハワード:だから?。
ヴィンス:俺は降りる。
(ドアを開けて、車から降りる。)
ハワード:それでどうすんだ。
ヴィンス:歩くさ。
ハワード:どこを歩くんだ?ラズベリー街道か?ここは森だぞ?
ヴィンス:うっさいな。
(ヴィンス、外から車のドアを閉めてしまう。)
ハワード:俺なしじゃ5分と居られないくせに。
(ハワード、エンジンをかけて発車させる。ヴィンスがあわてて走り出し、窓を叩く。)
ヴィンス:ハワード!止めろ!ハワード、止めろったら、待って!
ハワード:はっはっは〜。
(車を止める。)ほらな?歩くなんて無理に決まってんだろう?俺から離れられないんだ!
ヴィンス:スカーフが車輪に絡まった。
ハワード:あっそ。
ヴィンス:
(スカーフを車輪から外す。)じゃあな。
ハワード:じゃあな。
(ハワード、車を発進させる。森に残ったヴィンスが歩き始める。そこには「死の森」というたて看板がある。)


 ナブーの部屋

(ナブーとフォッシルがソファに座ってお茶を飲んでいる。)
フォッシル:専門的に言うなれば、相手が親戚であれば「覗き見」というのは成立しない事になる。ナブー、もう一杯どう?
ナブー:いや、結構。
フォッシル:
(自分におかわりを注ぎながら)君は要らなくても、僕は居る。お茶だぁ〜い好き!
ナブー:
(カップの底を見て)なんて事!ハワードとヴィンスが危ない!
フォッシル:どうして分かるの?
ナブー:紅茶占いがそう言ってる。
(ナブーがフォッシルにカップを渡す。カップの底には、「ハワードとヴィンスが危ない」と、紅茶の葉でくっきち文字が形作られている。)
フォッシル:ナブー、これは大変だ!
(カップを放り出す)でも、良いこともあるぞ。二人っきりで居られるからね。
       ナブー、何所へ行くんだい?
ナブー:
(立ち上がって)ハワードとヴィンスを助けに行く。
フォッシル:一緒に行く!
ナブー:いや、結構。
フォッシル:行くよ、ナブー!君を守ってあげる!
フォッシル:いや、遠慮しておきます。


 夜の死の森

(ヴィンスが一人で、森を彷徨っている。そこに、白いタキシードを着た人影が現れる。)
ヴィンス:そこに誰か居る?
(果てしなく怪しいブライアン・フェリーが槍を持って現れる)
ブライアン:ヴィンス!私だ、ブライアン・フェリーだ!
ヴィンス:こんなところで!
ブライアン:よく来たな!
(ヴィンスとブライアン、手を取り合う。)
ブライアン:ヴィンス、我が子よ!何年ぶりだろう。でも、きっとお前が戻ってくると分かっていたぞ。
ヴィンス:ここ、ステキにしてるじゃん。気に入ったよ!
ブライアン:いや、まだまだ滅茶苦茶さ。お前が来てくれると分かっていたら、もっときちんとしておいたのに。
ヴィンス:このシダは新しいやつ?
ブライアン:イケアの家具さ。ああ、よく姿を見せてくれ。大きくなったな…!それが都会人の格好ってやつか?
ヴィンス:まぁね。
ブライアン:はは!変な格好だな!さあ、お前のご帰還祝いだ。宴会に音楽、猟犬殺し!
ヴィンス:俺、長居は出来ないんだよ、ブライアン。俺は都会人だからさ、仕事があるんだ。
ブライアン:仕事?
ヴィンス:そう。動物園のね。
ブライアン:動物園?動物園って何だ?
ヴィンス:気に入るよ。森みたいなものさ。ただ、動物を檻に入れておくんだけど。
ブライアン:いかん!動物たちを檻に入れるなんて、断じていかん!
(ヴィンスに掴みかかる)
ヴィンス:ただの一時しのぎだってば!興奮すんなよ!俺は歌手になりたいんだ、あんたみたいにさ。
ブライアン:しかし、お前は私の子供たちの中では一番音痴だが。耳の悪い馬のコルトでさえ、お前よりは上手いぞ。
ヴィンス:コルトか。コルトはどうしてる?
ブライアン:今、三枚目のアルバムを作ってる。
ヴィンス:本当?
ブライアン:実験的な作品だ。イーノがプロデュースしてくれる。
ヴィンス:ワオ!僕の親友、ヒョウのジャフーリーはどうしてる?
ブライアン:ジャフーリーは居なくなってしまった。この森に災いが起きているのだよ、ヴィンス。
       沢山の動物たちが消えてしまったのだ。バブー,ヤグー,そして緑色の魔人に連れ去られたのだ。
ヴィンス:誰?
ブライアン:悪魔そのものだと言う人も居る。またある者は悪魔のふりをしているだけの男だと言う。
       緑色のメイクをして…特殊照明を当てている。しかし、どれも下らん。奴はこの森のように実在しているのだ。
ヴィンス:でもとにかく、ブライアン…俺は行かなきゃ。相棒を探すんだ。ハワードって言うんだけど。
      ちょっと口喧嘩をしちゃって。無事かどうか…
ブライアン:彼が危険に晒されていると?
ヴィンス:多分ね。ハワードが危機に陥り俺が救い出す。それが番組の作りだから。
ブライアン:
(角笛を取り出す)この角笛を持って行け。危険が迫ったら、吹き鳴らすのだ。
       そうすれば私がフォルクス・ワーゲンのようにブォォォ〜ン!と駆けつける。
ヴィンス:ありがとう、ブライアン。お礼にこれを。
(ポケットからカセットテープを取り出す。)
ブライアン:ああ!
ヴィンス:聞いてみてよ。
ブライアン:これは?
ヴィンス:テープさ。俺のあたらしいデモ。新しいバンドなんだ。じゃぁ、また後でね。
ブライアン:ありがとう。気をつけてな、我が子よ!
(ヴィンス、立ち去る)
ブライアン:ああ…テープ…そうね。今どきはMP3だろう。こいつは時代遅れだな。
(ブライアン、テープを投げ捨てて、退場。)


 夜の闇の中を走る輸送車

(ハワードが運転しながら心の中でつぶやいている。)
ハワード:あー、やれやれ。やっと道が開けた。上手く行きそうだ。一人、夢を抱いてわが道を行く男
     そう、この俺 ― ハワード・ムーン。あれ何だ?ヒッチハイカーか?よし、乗せてやるよ。こんな暗い森の中だからな。

(画面、切り替わる。助手席に、緑色で片目に巨大なポロをつけ、ポロの模様のついた大きな箱を持った男が乗っている。ハワード、その姿に驚きながらも、平静を装って運転している。)
ハワード:あの…遠くまで行くのかい?…この辺りに住んでるの?そりゃ違うよな。こんな森の中…。
     こんなところに住んでいたらおかしいもんな…。
(ハワードが話しかけても、ヒッチャーはまったく反応しない。)
ハワード:その箱は?ああ、旅の道連れお菓子とか?ははは…。道連れお菓子とか言って…!俺の造語。
     そんなでかい箱にコマゴマしたお菓子なんて、変だよな。…あの…音楽でも聴くか。リラックスできるし。
     ラジオでもつけよう。
(ラジオをつけると、ザ・ドアーズのRiders on the stormが流れる)
ドアーズの音楽:♪その男を乗っけてやったら あんたきっと死ぬぜ スウィート・ママ…
          路上に殺人鬼…♪
(ハワード、ラジオを消す。)
ハワード:世の中には音楽が氾濫しすぎだな。はは…
(ヒッチャー、右手を箱の上に乗せる。その親指が異常に大きい。)
ハワード:そんな親指をしているって事は、なにか曰くがあるんだろう?
(ヒッチャー、突然すごいコックニー訛りで話し始める。)
ヒッチャー:ほほう、あんた俺の親指の話を知りたいってか?興味津々ってか?んん?俺のこの親指に!
      よかろう、話してやっか。俺ぁ、大勢居るヒッチハイカー一族の一人さ。
      どいつもこいつも、どえれぇ巨大親指ばっかだ。
      この手の親指ってったら、ヒッチハイカーにとっちゃ、チョーお役立ちアイテムさ!
      使い勝手の良さったら、あんた意味分かるだろう?
      それでも問題はあった。子供の頃は、俺の親指なんざぁ、ちっぽけなもんだった。
      ちっぽけどころか、まるでシュガー・パフ・シリアル一粒なみ!胸糞悪いったらありゃしねぇ!
      俺のおっかさんでさえ、アナコンダみてぇに恐怖に縮こまりやがった。
      「きゃ〜!何なの!?出て行ってちょうだい!なんてちっぽけな!最悪だわ!ぞっとする!
      さぁ、そのみっともない親指もろとも、ここから出てお行き!もう二度と家に寄り付くんじゃないよ!」ってな!
      しょうがねぇ、俺は家を出て行き、奇跡でも起こるのを待つしかなかった。
      俺ぁ、世の中を見回して、とうとう答えを見出した!みんな俺にマジック・シャーマンの話をしたんだ!
      只者じゃねぇ、スズメバチ野郎さ!そんじゃぁってな事で、俺ぁそいつを探し始めた。
      そうさ、どこへでも行った。俺ぁこの世界をくまなく探し回り、ハチの縞模様のシャーマンを捜し求めた!
      結局は、そいつ地元の小学校のゴミ箱に居たんだが、リンゴの芯のまわりをフ〜ラフラ飛び回ってな、こんな風に!
      俺ぁ親指を突き出して突っ立ってたんだが、ハチの野郎、親指に止まるや刺しやがった!
      まるでヤッてるみたいに、針で刺すんだぜ、差し込んだと思ったら抜いて、その繰り返しだ!
      うりゃぁ!どりゃぁ!もっと、もっと!うあ〜膿が出てきた、イテェ!黒魔術だ!
      俺ぁ、もう何がなんだか分からなかった。俺ぁ何日も頭がイッちっまったまんまだった。
      と〜ころが!俺が我に帰るともう親指がまん丸のマラカスみてぇになっていた!見よ、この巨大なプロポーション!
      「奇跡だ!」俺は叫んだ!「奇跡だ!おめぇはまさに魔法使いだ!どうお礼をしたら良い?!」
      すると、ハチはこう言った。「500ユーロな。」
      「500ユーロだとぁ?!びた一文くれてやるものか、この守銭奴!」
      俺ぁこの親指を振り上げて、あのチビっちゃいハチをぶっ叩いてうあった!
      するとあの虫けらの顔を見えた。奴が考えている事なんてお見通しだ!
      「うわぁ!この怪物は俺が創造してやったんだぞ!親指の創造主だ!」そうなると、俺は俺自身を殺す事になる。
      「我が創造せしめたケダモノが、我を殺さんとする!皮肉なもんだ!」
      今になって思うと、奴ぁそう思っていたんだろうが、とにかく昔のこった。
      今から思うと、ヤツぁ自分にクソぶちまけてたようなもんさ。
(ヒッチャー、また沈黙する。)
ハワード:このへん?
(突然、ヒッチャーがハワードの顎を掴む。)
ヒッチャー:車を止めろ!
ハワード:
(車を止める)殺さないで!
ヒッチャー:あぁ?
ハワード:殺さないで!いいものあげるから!
ヒッチャー:よう相棒。殺す気ぁねえよ。用足しだ、このタマネギ頭!(車から降りる)
ハワード:ああ…なるほど。
(ヒッチャー、茂みの中に入る。)
ヒッチャー:猛馬がごとき放水と行こうじゃねぇか。ふぅ〜う!
(ヒッチャー、とんでもない水量,水圧で用を足し始める。しかも黄色い。その水圧で、ヒッチャーの体が浮き上がり始める。)
ヒッチャー:いいぞ、ドンドン出て来い黄色いケーブルのようにな!すぐ戻るから待ってろよ。
(ハワード、車を急発進させる。)
ヒッチャー:こら!戻って来い!おい!


 走る輸送車の中

(ハワードが心の中でつぶやいている。)
ハワード:よし、これで良いんだ。わが身を守る為だ、はやく行かなくちゃ。
     俺はハワード・ムーン。アクション系だ。やる時はやる!
(ハワード、車を止めると車外に出て、前を周り、助手席から箱を持ち出して、森の中に投げ捨てる。運転席に戻ろうとするが、思いなおす。)
ハワード:
(カメラに向かって)中をちょっとだけでも見ずにはいられないだろう?見ようじゃないか。
(ハワード、箱の蓋を開くと、その中に吸い込まれてしまう。)


 森の中

(ハワードが吸い込まれてしまった箱の背後から、ヒッチャーの手下が二人現れる。音楽が始まると、ヒッチャーが飛び出してきて、ラップ系の歌とダンスが始まる。)
ヒッチャー:♪箱に仕掛けたワナにはまった いかれコックニーの仕業だぞ
        ここでお茶でもどうだい お茶を一杯 
俺はヒッチャー!記念撮影ヨッシャー!
真夜中にあんたの部屋に侵入 ポロから覗き込んで視界良好♪
手下たち:♪いかしてるねー!♪
ヒッチャー:♪俺ぁいかれたコックニー この傷口見ろよ
        俺ぁ切り裂きジャックを知ってるぜ ヤツがジャリの頃からな
        俺が切り刻みを伝授したのさ ヤツを切り刻んでやった
        あんたバナナも粉砕してやれ!
手下たち:♪まっぷたつ〜!♪
ヒッチャー:♪そのメロンは14シリングでどうだ♪
手下たち:♪合点だ! おれたちゃ笛吹き兄弟 笛吹きジャックにジャッキーだ!
        フロントガラスのように 夜を切り裂いてやる
        お前なんぞ 雨粒みたいにふき取っちまう
        ほら、小僧を困らせるんじゃないよ♪
ヒッチャー:♪そら すっこんでろ!
       悪夢の怪物舞台で楽しもうじゃないか 踊るガイコツ 白 青 黄色
       猫のようにすばしっこく 影から影に飛び移りれ
       俺たちにはち合えば スパっといかせてもらうぜ
手下たち:♪そうさ こんなふうにな!♪
ヒッチャー:♪俺ぁ呪われているんだ 黒魔術だって使えるぜ
        悪魔の力を駆使して メチャメチャにしてやる
       パワーと ポロと 悪魔の磁力で あんたの魂を吸い取るのさ♪
手下たち:♪こんな風にな!♪
(ヒッチャーと手下たち、ポーズを決める)
ヒッチャー:ああ、腰が〜!
手下たち:またかよ…
ヒッチャー:駄目、全然うごかない!
(手下たち、ヒッチャーを持ち上げて運び始める)
手下:足を持って。
ヒッチャー:いててて…
手下:大丈夫ですよ!


 夜の路上

(フォッシルとナブーがサイドカーを疾走させている。)
フォッシル:そんな訳で、ギリシャにはクリケットのバットを持ってかない方が良いんだ!
ナブー、つぎはどっち?
ナブー:信号を左。
(カップの底に茶葉でそう書いてある。)


 箱の中

(ハワードがライターの火をつけて、辺りを見回す。)
ハワード:もしもし?もしもーし!
(ヴィンスが現れる)
ヴィンス:よっ!
ハワード:わぁ!ああ…ヴィンス!
ヴィンス:よう、どうしたんだ。
ハワード:いや、大丈夫。オッケー、オッケー。お前、ここで何を?
ヴィンス:なんか変な男が出てきて、俺を箱の中に押し込めたんだ。
ハワード:なるほど。そいつ、見た目すげぇ怖くなかったか?
ヴィンス:怖い?なかなかスマートでイカしてると思うけど。
ハワード:俺たち、箱の中に押し込められたなんて、信じらんない。
ヴィンス:そうだな。お前、箱に押し込められないんじゃなかったっけ?
ハワード:あれはたとえ話!これは本物の箱だぞ!全然違う!
ヴィンス:えらくでかい箱だな。ちょっと声かけてみようぜ。もしもーし!
(突然、灯りがつく。そこは監獄になっており、ネオンサインに「動物刑務所」と書いてある。廊下の向うからヒッチャーが現れる。)
ヒッチャー:どうも!ようこそ、我が動物園、動物刑務所へ!ここにはありとあらゆる連中がおるぞ!
      例えば…ここにはナチ亀!清流を独占しようとするファシストだ!
      この左側のは、KKガチョウだ!お分かりかな?驚くのはまだ早い!
      我らが一番の大物はこいつだ!よく見ろよ、トレヴァー・ロビンソン!37回も駐禁切符を切られた馬車ウマだ!
      もちろん、全額未納。この悪魔パカパカ野郎め!
ハワード:俺たちをどうするつもりだ!
ヒッチャー:細切れにしてやるのさ!
(ナイフを取り出す)はっはー!俺はコックニー殺人鬼!
      あっちで切り裂き、こっちで切り裂き!いつも斜めの切り口を残すのだ!
      お前らを刻んで、私のサーカス団の動物たちに食わせてやる!しかし、私も無慈悲ではないぞ。
      最後になにか望みをかなえてやろう。それが俺の流儀でね。そう、お嬢さん。なにかあるかね?
ヴィンス:は?
ハワード:お前だよ。
ヴィンス:よし、まかせとけ。
(ヒッチャーに角笛を見せる)この角笛を吹いても良い?
ヒッチャー:構わんとも。
ヴィンス:見てろよ。
(ヴィンス、角笛を吹く)


 森の中

(ブライアン・フェリー、大音響で掃除機をかけており、気づかない。)


 動物刑務所

ハワード:だから?
ヒッチャー:ちょいと拝借するぜ。
(ヴィンスの手から角笛を取り上げる。)おお、良い角笛じゃないか。
       吹くかせてもらうぞ。
(高らかに吹き鳴らす。)


 森の中

(ブライアン・フェリー、笛の音に気づく。急いで森の中を走り出すが、道に出たところで、フォッシルとナブーのサイドカーに跳ね飛ばされてしまう。)


 動物刑務所

ハワード:すごいじゃん。
ヒッチャー:にぃちゃんはどうだい。切り刻まれる前になにか望みはあるかね?
ハワード:そうだな…。いつも思っていたんだが…死ぬ時は…その…スラップ・ベースを…でも、あんたは駄目だな。
      音楽には縁が無さそうだ。
ヒッチャー:言いおったな?この親指を何だと思っとるんだ?俺こそジャズ・ファンク・ムーブメントの代表者だぞ!
       まさにスラップ・ベースの第一人者だ!
       おお、そうだ!マーク・キングが第一人者だったが、我々は親指勝負をしたんだ。
       俺ぁヤツを地面に向かって打ち付けてやった。金髪のテント杭みたいにな!
       「レベル42ににでも戻って、身にあった仕事でもしてな!」
(ヒッチャー、その大きな親指でスラップ・ベースでジャズ・ファンクを奏で始める。ハワードはノリノリ。ヴィンスはうんざり。)
ヒッチャー:どうだ?イカすだろう、野郎ども!
(森の中では、輸送車の中で熊が暴れ始め、扉を開け放つ)
ハワード:あいつ、凄いぞ!
ヒッチャー:ファンクな気分になってきたか?!
(廊下に熊が飛び込んできて、ヒッチャーに襲い掛かる。すると、ヒッチャーの姿が消え、衣服だけが残される。)
ヴィンス:あれ、見ろよ!
ハワード:溶けちまった!
(パンツ一丁のヒッチャーが現れる。)
ヒッチャー:溶けるもんか、このタマネギ頭!俺はここだ!捕まえられるもんなら、捕まえてみな!俺ぁずらからるぜ!
(ヒッチャー、走り去ってしまう。)


 輸送車の中

(ヴィンスがハンドルを握り、ハワードが地図を見ながら助手席に座っている。)
ハワード:まさに、崖っぷち、危機一髪だったな。
ヴィンス:そうだな。さっさと動物園にもどろうぜ。
ハワード:お前、本当に運転の仕方知ってんのか?
ヴィンス:うん!簡単、簡単!
ハワード:だったらそんなにハンドルを振り回すな。道はまっすぐなんだぞ。


 エンディング・クレジット

(森の中で、大破したサイドカー。フォッシルとナブー、ブライアン・フェリーが地面にひっくりかえっている。)
ブライアン:このバカども!よくもその鉄のウマではねてくれたな!
ナブー:あんた、だれ?
ブライアン:ブライアン・フェリー。森の支配者だ。
ナブー:ブライアン・フェリーを見たことある?
ブライアン:ああ…うん。なんで?
ナブー:どっちかって言うと、テリー・ウォーガンだね。


(終)
 
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