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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ1 エピソード6 / Charlie チャーリー


 オープニング・トーク

(赤いカーテンの前に、ハワードとヴィンス登場。)

ハワード:ハイ。番組へようこそ。私はハワード・ムーン。こちらはヴィンス・ノワー。
ヴィンス:オーラーイ。
ハワード:今週は、みなさんに素敵なお知らせがあります。私の特別な友人が出演してくれるのです。
     偉大なる俳優が、このショーに出演する事を承諾してくれました。
ヴィンス:サイモン・マクファーナビーじゃないの?
ハワード:そう、サイモン・マクファーナビー。わが国の演劇創造の代表する最高の役者だ。
ヴィンス:彼が作ったなんかちっさいネタかなんかを、入れ込めると思ったから引き入れたんだろう?
ハワード:そうかもな。お前に何が分かる?
ヴィンス:そうは行かないと思うな…
ハワード:彼はその場しのぎの仕事はしないんだ。だから入ってもらった。
ヴィンス:へぇ。どうしてそんな事をしたんだ?
ハワード:なに?
ヴィンス:見た目が変じゃん。木製人間みたいでさ。栃の木の実みたいだ。
ハワード:何言うんだよ。もうここに来てるんだぞ。黙ってろ。
(カメラに向かって)サイモン・マクファーナビーです。
(右手からサイモンが入ってくる。頭部がどう見ても木の実。)
サイモン:ハイ。
ハワード:お元気ですか。
サイモン:おかげさまで。
ハワード:今日もきまってますね。
サイモン:ありがとう。
ハワード:ええ…そう、存分に演じていただけるでしょうか。
サイモン:抑えた演技ではあっても、秋の雰囲気を上手く表現できると思う。
ヴィンス:ほらね。
サイモン:んー?
ハワード:それで…とにかく、あなたがこのショーに出てくださる事は本当に素晴らしい事です。
     ご一緒に仕事が出来て光栄です。本当に共演を楽しみにしていました。
サイモン:どうも。じゃあ、行ってワンダをつかまえてくるよ。
ハワード:了解です。
(サイモン、右手に退場する)
ヴィンス:頭をお酢につけたら?
(サイモン、戻ってくる)
サイモン:なにか?
ハワード:ただ、ダベってるだけです。
サイモン:ああそう。オーケー。では、また。
(サイモン、再度退場)
ハワード:
(ヴィンスに)お前、なにやってんだよ。もう、あっち行ってろ。
(ヴィンス、左手に退場)
ハワード:番組をお楽しみ下さい。
(右手に退場しながら)サイモン、サイモン!
(カーテンが開いてオープニング・テーマ、スタート)


 ハワードとヴィンスの小屋の前

(ヴィンスとハワード登場。ヴィンスはポンチョを着ている。)
ヴィンス:来いよ、ハワード。元気出して、仕事に集中!
ハワード:俺は飼料のバケツを運んでるだけだぞ、どうやって集中しろって言うんだ?
ヴィンス:動物園で一番良い仕事だぜ。はい、アワ・ヒエの配給でーす!
(ヴィンス、ネズミの飼育箱に勢い良く飼料を放り込み、ネズミの悲鳴が聞こえる。)
ハワード:おまえ、どっかおかしいんじゃないのか?
ヴィンス:なんで?
ヴィンス:四六時中、上機嫌。何もかも楽しいんだな。ピーナッツを見れば、今日は良い日になりそうだ。
     大豆を目撃!これはヴィンス・ノワー祭り!俺はその程度じゃ駄目だな。
ヴィンス:ポンチョのお陰だと思うな。ポンチョを着ていながら、落ち込んじゃうだなんて、そっちのほうが無理だね。
     ソンブレロ(メキシコのつば広帽)があれば、もっと良いね。だろ?ポンチョとソンブレロの最強コンビ!
     ハッピー一直線!お前も一枚持てよ。
ハワード:俺をハッピーにするなら、メキシコの衣装だのアワ・ヒエ配給よりも、もっと他の事が必要だ。
(ベンチに腰掛ける。)
     なぁ、ヴィンス。この動物園は俺には小さすぎる。俺はもっと壮大な世界の男だ。
     俺の心の歯車を刺激するような、何かが必要なんだ。俺がなりたいものって分かるか?
ヴィンス:なに?
(ハワードの隣りに腰掛ける)
ハワード:作家になるんだ。
ヴィンス:作家になりたいとか言うけどさ、ペンも持たないじゃん。
ハワード:ペンなんて必要ない。
(自分の頭を指差す。)
ヴィンス:ふうん。
ハワード:そうさ。俺は奥の深い思想家なんだ。俺は小説家になれるよ。
ヴィンス:俺も小説書く。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:「チャーリーの本」さ。
ハワード:「チャーリーの本」?
ヴィンス:そう!
ハワード:絵に書いてたピンク色のやつ?
ヴィンス:そう。それがチャーリー。


(チャーリーのアニメーションが始まる。)

ヴィンス:チャーリーは凄いぞ。百万もの噛み終わった風船ガムで出来ているんだ。凄いだろう?
     1976年の夏の日、チャーリーはアリス・クーパーのコンサートから家に帰ろうとしていた。
     ところが、チャーリーは路上で溶け始めてしまった。
     ロサンゼルスはえらく暑くて、ピンク色の水溜りみたいに溶けきっちゃった。
     幸運にも、そこにエリック・フィリップスが現れた。黒魔術なんていじっている、地元のワニだ。
     エリックはチャーリーを可哀想に思って、2本のフライパン返しで地面からチャーリーをはがしてやった。
     エリックはチャーリーを古いオタマジャクシに溶かし入れ、魔法の絨毯に飛び乗った。
エリック:ハッハー!しっかりつかまってろよ、チャーリー!
ヴィンス:行き先は、アラスカ。エリック・フィリップスはチャーリーを固めなおす事にした。
     ところが、この這いずりモノの冷血漢、なにを血迷ったかチャーリーを掃除機の形に固めてしまった。
エリック:そんなつもりじゃ…
ヴィンス:チャーリーはそれほど驚きもしなかった。そして辺りをブンブン走り回り始め、イヌイットたちを吸い込んでしまった。
     あっはっは…あ〜あ、でもイヌイットの人たちは全然構わなかった。
     チャーリーのおなかの中はピンク色で、温かかったから、気に入ってしまったんだ。出て行くのもお断り。
     そしたら、チャーリーは「イカすね!」と言って、勢いでハイカラ金槌やロウに火をつけてしまった。
金槌:俺は燃やされるだけかよ!
ヴィンス:とばっちりは、イヌイットの人たちに。あっという間に窒息してしまったんだ。酸欠だったんだな。
     チャーリーはパニクって、小さなイヌイット弾丸を、ワニのエリックの目にめがけて発射した。
エリック:
(凍った池に転落)恩知らずー!
ヴィンス:そうしたら、エリックの緑色のアソコが凍り付いてしまった。
     チャーリーはその氷で飲み物を飲むと、エリック・フィリップスの魔法の絨毯を失敬して、シアトルに向けて出発した。
     チャーリーは罪の意識に苛まれた。50人ものイヌイットを、無駄死にさせてしまったんだから。
     そこでチャーリーは残りの人生を、ブーツや、ピーナッツ、トランペット、スパナなどに、
     ちょっとしたヘアカットを施してやる事についやしたんだ。

(アニメーション終了)


ハワード:そりゃ小説じゃない。無駄ならくがきだよ、ヴィンス。
ヴィンス:小説だよ。中編小説。
ハワード:クレヨンで書いたんだろう、バカ。
ヴィンス:だからなんだよ。俺は新しい流儀なの。
ハワード:新しい流儀。
ヴィンス:そう!
ハワード:俺はちゃんと出版される本の話をしているんだ。
ヴィンス:出版したよ。自費出版。
ハワード:コピーを取って、スーパーマーケットにある、ウィータビックス・シリアルの箱の中に紛れ込ませるんだろう?
     そんなの、出版じゃない。俺は現実の人間を描きたいんだ。現実の出版、実在の登場人物だ。
ヴィンス:チャーリーは実在だ。
ハワード:チャーリーの話はやめないか?いいか、チャーリーは実在じゃない。
ヴィンス:実在だ。
ハワード:実在しない。もう、よせよ。
ヴィンス:おまえ、チャーリーにびびってるんだろう。
ハワード:びびってない。
ヴィンス:なんでびびるわけ?
ハワード:びびってないってば。
ヴィンス:びびる事ないのに。
ハワード:チャーリーになんかびびってない!
ヴィンス:チャーリーはいつでも、そばに居るんだぜ。
ハワード:はぁ?
ヴィンス:チャーリーはいつだって俺らと一緒に居るんだ。
ハワード:黙れ。もうやめろ、いいな?俺はヤツが嫌いなの、分かっているだろう。
ヴィンス:チャーリーはお前が好きだぜ。
ハワード:なんだそれ、チャーリーが俺を好きなのか?
ヴィンス:チャーリーはお前のこと、おかしくて面白いって。
ハワード:はぁ?べつに俺はおかしくない。
ヴィンス:どうだか。
ハワード:俺は真面目だぞ。
ヴィンス:チャーリーはお前が寝ている間に来て、お前を観察している。
     お前のベッドの脇から覗きこむんだ。「おーや、おや!」
ハワード:チャーリーの話は終り!
ヴィンス:お前、チャーリーとどう接すれば良いのか、わかんないんだろう。
(ハワードとヴィンス、ベンチから立ち上がって、ネズミの飼育箱に餌を入れる作業を再開する。)
ハワード:よし、テクノ・ネズミの様子を見よう。どうしているか…
(ヴィンスが飼育箱の一つを開けると、中では激しいテクノ音楽が響いている。ヴィンス、中からネズミを掴み出す。)
ヴィンス:すっかりイッちゃってる。
ハワード:具合でも悪いのか?
ヴィンス:スピード1グラムと、LSD2グラムですっかりキメちゃったらしい。
ハワード:ああ、もう!癒し小屋に入れとけ。早く。
(ヴィンス、ネズミを癒し系の曲が鳴っている箱に入れて、扉を閉める。)
ヴィンス:水飲んどけよ!


 ズーニヴァース オフィス前のベンチ

(ハワードとヴィンスがベンチに腰掛けて話している)
ハワード:今のうちに言っておくよ、ヴィンス。俺が有名人になったら、この動物園を出る。
     上流階級に溶け込み、上流の生活を送るんだ。
ヴィンス:俺はどうすんの?
ハワード:連れて行ってやるよ。俺と一緒に来れば良いだろう。
ヴィンス:いいね。
ハワード:俺は作家としてその執筆活動が注目される。だから、洗濯みたいな、ありふれたことに体力を浪費したくない。
     ゴミだしとかさ。だから、お前が俺に代わってそれをやるわけ。俺の補助だな。
ヴィンス:馬鹿言え。冗談じゃない。
ハワード:俺の付き人になって、お茶を入れたり、必要な時に俺にペンを渡したりするんだよ。
ヴィンス:ゴルフのキャディーみたいに?
ハワード:作家向けキャディーだな。いいだろう?
ヴィンス:真っ平ごめん。
ハワード:絶好の位置だぞ。俺がアイディアを思いついたら、すかさずバイロウ・ボールペンをシャキーン!と差し出せる。
ヴィンス:お断りだ。
ハワード:車輪つきの筆記用具キャリーなんていいじゃん。俺の後ろに控えてさ。チェックの可愛い服着て、変な帽子。
ヴィンス:チェックの服なんて着ないぞ。
ハワード:じゃぁ、なにを着るんだ。
ヴィンス:そりゃポンチョさ。
ハワード:お前がそうしたきゃ、それでも構わないけど。
ヴィンス:どーも。俺、これからランチ食べに行くよ。ナブーがチリを作るんだ。お前も来る?
ハワード:いや、俺はちょっと読書がしたいんだ。
ヴィンス:へぇー。ここでギデオンの観察でもするんじゃないのか?
(少しはなれたところに、ミセス・ギデオンがコブラをかかえて他の飼育員と話している。)
ハワード:いいや。小説の為の下調べをするだけだ。
ヴィンス:へぇ。
ハワード:ああ。
ヴィンス:ま、気をつけるんだな。そのうち彼女から苦情が出るぞ。
(立ち去る)
ハワード:また後でな、スピーディ・ゴンザレス。
(ハワード、手に持ったゴーリキーの本を開くが、表紙に開けられた穴からミセス・ギデオンを覗き見る。背後の窓が開き、フォッシルが顔を出す。)
フォッシル:何やっているんだ、ムーン?
ハワード:読書を。
(本に目を戻す。)
フォッシル:ほほう?あの黒白の連中の事で、ちょっと問題があるのだ。
ハワード:誰ですって?
フォッシル:あいつらだ!黒い目の中国人で、棒っ切れを食べてるヤツらだよ。
ハワード:パンダ。
フォッシル:「おおーう!ぼくちゃん、ハワード・ムーン!本も読めるし、動物園の動物の名前は全部知ってるんだ!」
       …そう。パンダ。
ハワード:なにが問題です。
フォッシル:実のところ、これは内密の話なのだが、ベインブリッジが言うには、
       男のパンダが女のパンダにキスをすると、子供のパンダが出来るそうだ!
       そうしたら、来客がどっと増えて、金儲けが出来るというわけ。
ハワード:はぁ…それは繁殖というやつですね。
フォッシル:そう、イチャイチャってやつ!
ハワード:飼育されているパンダの繁殖は難しいですよ。ご存知だとは思いますがね、フォッシルさん。
フォッシル:ああ、しかし私に考えがあるぞ、物知りさん。
       いいかね、男のパンダは女のパンダにキスもしようとしない。そうだな?
       そこでだ、お前に男のパンダの格好をしてもらう。それで女のパンダに接近するわけだ。
      
 (映画「男と女」のテーマを歌う)♪ダーラーラ〜ダリラリラ〜♪男のパンダは嫉妬をするだろう。
       そうなったらヤツは行動あるのみ、それ行けー、エイッ!山ほど赤ちゃんが出来るぞ。
ハワード:私が知る限り、最も下品で、いやらしくて、屈辱的で、危険を伴う話ですね。
フォッシル:ありがとう、気取り屋さん。
ハワード:
(カメラに向かって)パンダの格好をしてそんな事をする男なんて、絶対に有り得ない。


 ズーニヴァース 屋内飼育室の廊下

(ヴィンスがパンダの着ぐるみに、パンダ耳をつけ、顔を白黒に塗っている。)
ヴィンス:なんだって、俺がこんなことするわけ?
ハワード:お前なら動物と話せるからさ。行くぞ。
(ハワードとヴィンス、廊下を歩いてパンダ室に向かう。二人の背後で、ミセス・ギデオンが歩いているのが見える。)
ヴィンス:変な格好!
ハワード:良く似合う。
ヴィンス:俺、パンダには見えないよ。
ハワード:パンダはド近眼だ、ヴィンス。俺の素晴らしい計画だから、大丈夫。
ヴィンス:俺はどうすれば良いわけ?
ハワード:パンダ室に入って、チーチーと一緒にちょっとエロチックなダンスをする。
     そうすりゃ、フーフーが嫉妬する、はい、オッケー!
ヴィンス:それで、フーフーが嫉妬したら?
ハワード:ドアをノックしろ。俺が出してやるから。
ヴィンス:分かった。で、お前はどうするの?
ハワード:俺は廊下で待ってる。
ヴィンス:ギデオンの後をつけ回すんじゃないの?
ハワード:いや、ここで昼飯を食ってる。
(手に持った細長いサンドイッチを見せる。)よし、始めよう。
     
(パンダ室のドアを開ける。)さあ、行け!
(ヴィンス、パンダ室に入る。ハワード、ドアを閉めると、廊下のベンチに腰掛け、サンドイッチを食べようとする。しかし、サンドイッチには望遠鏡が仕掛けられていて、ハワードはそれを覗いてミセス・ギデオンの姿を追う。やがてミセス・ギデオンが外に出て行き、ハワードは彼女の後を追う。パンダ室のドアの覗き窓から、ヴィンスが外を伺い、ガラスを叩く。)
ヴィンス:ハワード、ハワード?
(ハワードが居ない事に気づいて、焦る。)ハワード、ハワード!!
     
(背後からパンダに押し倒される。)ぎゃー!!


 ズーニヴァースの一角

(ミセス・ギデオンが読書をしているところに、ハワードがやって来る。)
ハワード:おや、今日は。ミセス・ギデオン。
ギデオン:どなた?
ハワード:ハワード・ムーン。この動物園で働いています。
ギデオン:どうして目の周りにパンくずをつけているの?
ハワード:ああ、これは…
(目の周りを拭いながら)私とヴィンスでゲームをしたんですよ。パンくず目玉と言って…。
     お互いの目にパンくずを押し付けあうゲームです。その…勝つと、熊手がもらえる。
     ああ、良い本ですね。私も好きですよ。
ギデオン:これ、お読みになった?
ハワード:ええ、二回。最初は単行本で、二回目はペイパーバックで。
     その…
(本を覗き見て)ジョナサンという登場人物には、興味をそそられました。彼は素晴らしい。
ギデオン:連続殺人鬼に?
ハワード:ええその…まあ、我々はみな、精神的などこかで殺人とつながるものがあるという意味で…。
     心の中ではみな殺人を犯したりする。
ギデオン:何の話をしているの?
ハワード:ええ、その…私もそうですが、作家というものはそう言うもので…
     つまり、人間の精神世界における、闇の部分を、常に考え合わせねばなならないわけです。
ギデオン:あなた、作家なの?
ハワード:ええ、時によってはね…その、書くことが大好きなのです。
     その…私にとっては、抑えがたい衝動なのです。書くことは、ドラッグのようなもので、
     体を切れば、インクが血となって流れるでしょう。…いや、そう書いたんです。私の文章の一つです。
ギデオン:あなた、ヴィンスのお友達よね?
ハワード:ええ!
(我に返って、走り出す。)
ギデオン:彼って、本当に可愛いわよね…


 屋内飼育室の廊下

(ハワードがゴミ箱を蹴り倒しながら突入してくる。急いでパンダ室のドアを開けると、ヴィンスと雌パンダが、ロマンチックな雰囲気のテーブルセッティングで、楽しく食事をしている。)
ハワード:どうなっているんだ?
ヴィンス:あいつを、嫉妬させているところ。
(ヴィンスが指差すと、ガラスで仕切られた隣りのパンダ部屋から、雄のパンダがアピールしている。)
ハワード:オーライ。もう嫉妬したから、行くぞ。
ヴィンス:馬鹿言え!彼女、あいつには興味ないんだってさ。ケダモノだから。
     あいつ、彼女がどうして欲しいかなんて全然理解していないんだよ。上手くやるのなんて無理さ。
ハワード:オーケー、ヴィンス。あいつは嫉妬してる。やる気満々。こっちに入れて良い時期さ。
     自然の成り行きに任せるべきだ。来いよ。
(ハワード、ヴィンスの腕を取って連れ出そうとする。)
ヴィンス:やめろってば!ヤツをここに入れて、俺と彼女の名誉を傷つけるなんて、そうはさせないからな!
     俺はお膳立てが完了したばかりだぞ!
ハワード:おまえ、おかしくなったな。行くぞ。
(ヴィンスを引っ張る)
ヴィンス:離せ!俺たち二人、相性抜群なんだから!
(雄パンダに)なに見てんだよ!(雌パンダに)すぐに、電話するから!
ハワード:
(雌パンダに)ごめんね!(ヴィンスを廊下に放り出して、ドアを閉める)


 夜 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワード、パイプをくわえながら、タイプライターを打っている。ヴィンス、ソファに寝そべって「月刊パンダ」を読んでいる。ハワード、隙間風が気になって立ち上がり、部屋を見回すとドアをしっかり閉めて、またタイプを再開する。)
ハワード:
(自分が打っている紙面を見ながら)ははは…ああ、やれやれ…
(再び隙間風の音がするので、ハワードが立ち上がって辺りを見回す。机上のラジカセのスイッチをオフにすると、風の音が止む。ハワードがまたタイプライターを打ち始めると、またもや隙間風の音がする。ハワード、立ち上がって部屋を歩き回る。そしてヴィンスの読んでいた雑誌を取り上げると、ヴィンスが口笛で隙間風の音を出している。ハワードが手でヴィンスの口を塞ぎ、止めさせる。)
ハワード:やめろ!
(タイプライターの前に戻る。)
ヴィンス:上手いだろう?本当の風みたいだ。
ハワード:ああ、俺の思考を暴風でかき乱しやがった。
ヴィンス:ほかの真似もできるよ。
ハワード:そうか?じゃぁ、霧は?
(ハワード、タイプにもどる。ヴィンス、バナナを食べ始める。)
ヴィンス:ハワード?ハワード。ハワード、ハワード、ハワード!ハワード、ハワード、ハワード!ハワード!
     ハワード?ハワード、ハワード!
ハワード:もう十分だろう!
ヴィンス:バナナに黒い点々があるじゃん。これってタランチュラの卵?
ヴィンス:お願いですから、死ぬまで話しかけないで下さい。
ヴィンス:お前の小説はどうなの?
ハワード:サルの嫌がらせのせいで、何も出来ないでいる天才についての話だよ。
ヴィンス:ありがちな失敗だね。
ハワード:そうか?
ヴィンス:悪い人物に焦点を当てた方が良いよ。そうだな、サルだ。
     サルを誰よりも愛しているのに、別れなきゃならないとかね。サルは酷い事だっ、て思うのさ。
ハワード:そうか?ミセス・ギデオンはそうは思わないだろうな。
ヴィンス:ミセス・ギデオン?
ハワード:ああ。
ヴィンス:ああ〜。要するに、そういう事かよ!
ハワード:なに?
ヴィンス:お前、ミエミエじゃん!彼女が作家好きだから、書くってわけだろう?
ハワード:いいや、俺は元から作家なんだ。
ヴィンス:へーえ?
ハワード:そうさ。俺が知的だから、彼女も俺に興味を持つ。彼女も知的だし。
ヴィンス:本当?
ハワード:ああ。俺と彼女が一緒になるとしたらな、ヴィンス。それは必然さ。でも、信じられない事になるだろうな。
     だろう?俺と彼女は、毎晩詩の会に出かける。二人ともパイプなんてふかしてさ。
     どんなにちょっとした間であっても、俺たちは知的な問題について昼夜問わず議論したりする。
ヴィンス:うーわ、最悪。俺は頭の弱い女の子が良いな。パステル調の感じで、ピラピラした服で踊っているような女の子さ。
ハワード:対等でありたいとは、思わないのか?
ヴィンス:そうね!それで、お前の作品はどれくらい出来たわけ?
ハワード:ああ、もう出来上がる。もうすぐな。近代小説においては、文章量は問題じゃないんだ。文章の質が問題になる。
ヴィンス:それで、どれくらい書けたの?
ハワード:一文。しかし…
ヴィンス:はぁ?!一文だけ?
ハワード:どこか可笑しいか。ハイセンスなものだぞ。見りゃ分かる。この文章を、ハミルトン・コルクに送るんだ。
ヴィンス:誰、それ?
ハワード:出版社の人だよ。ハミルトン・コルク。この一文を送るんだ。
ヴィンス:たったの一文になんか、興味持つかなぁ。
ハワード:お前、分かってないな。とても哲学的な人だから、彼が本を出版するとなれば、一文で十分なんだ。
     だから、これを送る。上手く出来てる。読んでみてくれよ。
ヴィンス:遠慮する。
ハワード:読めよ。
ヴィンス:忙しいの。
ハワード:なんで?見て欲しいんだったら。
ヴィンス:いやだよ。
ハワード:なんで?
ヴィンス:そんな気分じゃない。
ハワード:何言ってんだよ。ほら、読んでみろよ。馬鹿言ってないで、ほら。
(ハワード、タイプライターから紙を外して、ヴィンスの前に出す)
ヴィンス:だって、お前だって自分の事わかってるだろう?
ハワード:どういう意味だ?
ヴィンス:お前、批評なんて受け付けないだろう。
ハワード:そんなことない。さあ、読んでみろよ。どう思うか、教えてくれ。
ヴィンス:
(仕方なしに文章を読む。)うん、良いじゃん。凄いよ。
ハワード:そうか?
ヴィンス:ただ、ここだけは…
(ハワード、突然不機嫌になって、室内のいろいろな物をヴィンスに投げつけ始める。ヴィンス、慌てて外に飛び出す。)
ヴィンス:
(カメラに向かって)あいつ、いかれてるよな。ひでぇイカレポンチ!(屋内飼育室に向かって歩き出す)
     信じらんねぇ。あいつ、感情の制御に問題があるんだ。ナブーに見てもらったほうが良いな。
     ナブーなら解決してくれる。ナブーは本当に凄いよ。何でも引き受けてくれるんだから。そんじゃ、またね。
(ヴィンス、頭にパンダ耳をつける)
ヴィンス:
(カメラにむかって)何か文句あるか?俺には、個人的な仕事ってのもあるの!
(ヴィンス、パンダ室に入っていく。中では、赤い照明に東洋風のロマンチックな音楽がかかり、チーチーがおめかしして待っている。ヴィンス、閉めたドアの窓から、カメラに向かって出て行くように促す。)


 朝 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワード、反故にした紙が山になっているテーブルで寝込んでいるが、ドアを叩く音に目を覚ます。)
ハワード:どうぞ!
(ハミルトン・コルクが入ってくる。)
コルク:ハワード・ムーンかね?
ハワード:ええ。
コルク:私だ、ハミルトン・コルクだ。君の文章を読んだよ。全く素晴らしい!力の旅路のようだ!
    さぁ、本を出版し、有名な作家になるのだ!
(画面がゆがみ、場面はドアのノックに戻る。)
ハワード:どうぞ!
(ハミルトン・コルクが入ってくる。)
コルク:ハワード・ムーンかね?
ハワード:ええ。
コルク:私だ、ハミルトン・コルクだ。ヴィンス・ノワーを探している。
(ヴィンス、横になっていたソファから飛び起きる)
ヴィンス:俺がヴィンス!
コルク:君のチャーリーの本を、ウィータビックスの箱の間で見つけたよ。あれこそ、力の旅路!出版しようと思う。
    そして、君は有名な作家になるのだ!
ヴィンス:わぁお!
ハワード:こっちが夢だよね?
コルク:いや、さっきのが夢。
ハワード:嘘だーーーーーー!!!!
コルク:本当なんだな。


 ナブーの売店の中

(看板には「動物園精神科医 取り込み中」とある。ハワード、ソファに横になり、その向かいにナブーが座っている。)
ナブー:君の問題は、あきらかに嫉妬だよ。
ハワード:なんだって?
ナブー:ヴィンスに嫉妬しているのさ。
ハワード:なんで俺があいつに嫉妬するんだよ。
ナブー:ヴィンスは成功しているし、素敵な髪型もしてる。その上、偉大な作家だ。君にオファーは来たかい?
ハワード:俺は作家だ。
ナブー:それを裏付けるものがない。
ハワード:作家街に行ったことがある。
ナブー:怒りがあるから、批評を受け入れられないんだ。
ハワード:よくそんあ事が言えるな!
(怒って飛び起きる)
(ナブーが「子猫さん写真」を出すと、たちまちハワードの怒りが収まる。)

ナブー:さぁ、この樽から顔をだした子猫ちゃんたちの写真を良く見て。
ハワード:ああ…
ナブー:この子達を見て。おだやかで、幸せそう。左の子がフィリップ。
ハワード:フィリップ…
ナブー:フィリップの目を見て。
ハワード:可愛いおめめ…
ナブー:怒りを感じたら、このフィリップを見るんだ。
ハワード:この子の顔を見るんだな。
ナブー:そうすれば、君の怒りは収まり、海のように穏やかになる。
(写真を下ろす)
ハワード:ありがとう、ナブー。
ナブー:159ユーロ。
ハワード:159ユーロだとぉ?!
(ナブーがまた子猫の写真を出すと、ハワードの怒りが収まる。)
ハワード:ああ…ははは…カワイコさんめ…。
(ナブーに金を渡して、出て行く。)


 ハワードとヴィンスの小屋

(ハワードが小屋に入ると、ヴィンスが鏡に向かってパイプをくわえている。)
ハワード:よう。
ヴィンス:よーう!どう?
ハワード:上々。お前、俺のパイプで何してるんだ?
ヴィンス:借りるよ。今夜、パーティがあるんだ。お前は招待されていないから、パイプを借りても良いだろう?
ハワード:
(写真を見て、怒りを抑える)ああ、構わないよ。何のパーティ?
ヴィンス:出版記念パーティだよ。ディクソン・ベインブリッジが企画した。
     ハミルトン・コルクも来るんだ。いよいよ俺も、有名人だ。
ハワード:
(写真を見ながら)俺も嬉しいよ。
ヴィンス:まったく、悪夢だよ。ギデオンが付きまとってきてさ。
     彼女、ここにやってきちゃ、俺にお菓子なんて作ろうとするんだぜ。どうすりゃ良いんだよ。
(ハワード、写真を額にホッチキスで打ち付ける。)
ハワード:ウー!ああ、こりゃいいや。
ヴィンス:なぁ、ハワード。俺、ギデオンには興味ないよ。
ハワード:彼女には近づくな。
ヴィンス:大丈夫だって!
ハワード:誓うか?
ヴィンス:誓うよ。
ハワード:ミック・ジャガーに誓え。
(ヴィンス、小屋の一角にある「ミック・ジャガー祭壇」に、ミック・ジャガー流の誓いを立てる。ハワード、憂鬱な様子でテーブルにつく。)
ヴィンス:おい、ハワード。元気出せよ。
(ハワードの額から写真をはがす。)
ハワード:アウッ!
ヴィンス:大丈夫だって。俺に考えがあるんだ。お前も俺と一緒にパーティに来いよ。
     考えてもみろよ、ハミルトン・コークはお前の文章をまだ読んでないんだぜ。
ハワード:ああ。
ヴィンス:俺が口ぞえしてやるからさ、彼にお前の文章を見せれば良いんだ。気に入ってもらえば、俺たち二人とも作家だ。
ハワード:良い考えだな。
ヴィンス:イケてるだろう?
ハワード:でも、俺は招待されていない。
ヴィンス:心配すんなって。お前がもぐりこめるよう、手は打ってあるから。
(カメラに向かってウィンク)


 パーティ会場となった夜のズーニヴァース

(電飾で飾り立てられ、華やかなパーティが開かれている。ヴィンスの元に、女性がサインをもらいに来る。)
ヴィンス:鉛筆!
(チェックのベストに帽子のキャディー・スタイルをしたハワードが、ゴルフバッグに筆記用具を入れて現れる。)
ヴィンス:HBを。
(ハワード、鉛筆をヴィンスに渡す。)
ヴィンス:宛名は?
女性:「ジャッキーへ」で、お願いします。
ヴィンス:
(ハワードに)これ、2Bだ。
ハワード:だから?
ヴィンス:HBって言ったろう。これじゃ軟らかすぎる。
ハワード:分かったよ。
(鉛筆を取り替える)
ヴィンス:これだと、ジャッキーのバッグのなかでグシャグシャになるだろう。
ハワード:ほらよ。威張るな。
(ハワードがヴィンスから離れて歩いていくと、パイプの載った盆を持ったナブーに声を掛けられる。)
ナブー:パイプはいかが?
ハワード:結構。自分のパイプがある。
ナブー:もっと大きいのはどう?
ハワード:いいや、これで結構。分かったか?
ナブー:ほら。子猫さんを思い出して。リラックス。
ハワード:ああ。
(子猫の写真を取り出して、気を落ち着ける。)
ナブー:海のように穏やかに。それ、うまく効いてる?
ハワード:ああ。効いてる。
ナブー:もっと強力なのが欲しければ、前掛けをつけたカワウソがあるよ。
ハワード:いや、前掛けは結構。子猫さんで十分だ。ありがとう。
(ハワード、立ち去り際に子猫の写真をバッグに入れ損ね、落としてしまう。)
(高らかなファンファーレと共に、巨大なパイプを持ったベインブリッジが登場する。)

ベインブリッジ:ヴィンス!会えて嬉しいぞ!
(ナブーに)あの本で、この動物園をすっかり有名にしたな!
フォッシル:ベインブリッジ、それはナブー。こっちがヴィンスです。
ベインブリッジ:
(ヴィンスと握手する)ヴィンス、素晴らしい本だ。素晴らしい。(コルクに)おお、コーキー!
コルク:ベインブリッジ!これは、これは!最後に会ったのはいつだった?クラカトーアで、62年か!
    たしか、あそこに何日か一緒に居て、縛り首を見物したな。
コルク:そうだ、彼女はあがいていたなぁ?死にたくないとでも言いたげだったが。はっはっはっは!
ベインブリッジ:素晴らしい結婚式だった!
コルク:いやいや、まったく…
ベインブリッジ:ちょっと静かな所で話せるか?
コルク:うむ。
(ベインブリッジとコルク、密談を始める。ハワードが離れたところからヴィンスを呼ぶ。)
ハワード:おい、ボードレール先生!ちょっと来いよ!
ヴィンス:なに?
ハワード:お楽しみだな?
ヴィンス:うん!
ハワード:俺は楽しくない。いつになったら俺にチャンスをくれるんだよ!
ヴィンス:大丈夫だって。タイミングを見ているんだ。
ハワード:今こそ、その時だろう。動かなきゃ。
ヴィンス:オーケー。お前、あの一文、持ってるか?
ハワード:ああ。
ヴィンス:よし、行こう。
ハワード:オーライ。
(ヴィンス、ハワードを連れてコルクとベインブリッジが話している所に向かう。フォッシルとミセス・ギデオンも寄ってくる。)
コルク:ああ、ヴィンス!
ヴィンス:どうも。こいつは俺の相棒のハワード。彼も作家なんです。
コルク:何か?
ハワード:あの、あなたなら一文を読んだだけで、本を出版できるかどうか、判断していただけると思いまして。
コルク:その通り。
ベインブリッジ:私たちは彼を「ワン・センテンスのコルク」と呼んだものだ。
ハワード:その、私も一文書いたのです。あなたに読んで頂きたくて。
コルク:そりゃ一文だけなら、ちょっと見ただけでアドバイスできると思うが。…ゴルフについての話ではないよな?
(ベインブリッジ、ギデオン、フォッシルが笑い出す。)
ハワード:
(怒りをこらえながら)違います。
(ハワード、一文を書いた細長い紙をコルクに差し出す。コルク、それに目を通す。ギデオンが、脇から覗き込んでいる。)
ヴィンス:よし。お前、子猫の写真は?
ハワード:えっ?
ヴィンス:子猫の写真を…
ハワード:
(バッグのポケットを見る。)落とした!
ヴィンス:俺が探して来てやる。
(立ち去る)
コルク:ハワード?
ハワード:はい?
コルク:これは…いけるよ。
ハワード:えっ?
コルク:うん、素晴らしい。
ハワード:そうですか?
コルク:うむ。
ハワード:その…気に入っていただけましたか?
コルク:ああ。気に入ったよ。
ハワード:ああ。…本当に?
コルク:うむ。
ハワード:何か付け加えたりは…
コルク:いやいや。
ギデオン:でも、一つだけ…
(ハワード、思いっきりギデオンを蹴り倒してしまう。ギデオン、倒れたまま動かない。)
ハワード:ああ!すみません!
ベインブリッジ:フォッシル、こいつをつまみ出せ。
(フォッシル、背後からハワードを捕まえて、引きずっていく)
ハワード:ギデオン!そ、そんなつもりじゃなかったんだ!あの、その、ただ…!
     済まない、ギデオン!ギデオン!愛しているんだ!ギデオーン!!
ベインブリッジ:あいつ、女の顔を殴りとばしちまったぞ!


 引き続き ズーニヴァースのパーティ会場

(ヴィンス、コルク、ベインブリッジ、フォッシルが談笑している。)
コルク:正に、君が主役の一日だったな、ヴィンス。
ヴィンス:ええ。
コルク:編集上の小さな修正点について話したいのだが。
ヴィンス:修正って?
ベインブリッジ:名前だよ。
ヴィンス:彼はチャーリーだ。
ベインブリッジ:そうじゃない。作者の名前だ。ヴィンス・ノワーではなく、ディクソン・ベインブリッジに変更だ。
ヴィンス:それじゃ、あんたが書いたと思われる。
ベインブリッジ:飲み込みが良いな、馬鹿め。
ヴィンス:そうはいくか。
ベインブリッジ:そうかね?お前は、著作権手続き(copyright)をしたかね?
ヴィンス:写し(photocopied)はとったけど。
ベインブリッジ:お前はヌケ作だな!フォッシル、こいつを追い出せ。
ヴィンス:チャーリーがこの事を知ったら、怒り狂うぞ。お前の所にお礼参りに来るからな。
ベインブリッジ:こいつはチャーリーが実在だと思っているぞ。バカバカしい!ごきげんよう!
ヴィンス:お前、風船ガムのグチグチャ悪夢を見るからな。
ベインブリッジ:ごきげんようだ!
(ヴィンス、立ち去る)
コルク:上手くやったな、ベインブリッジ。お前の最初の小説だ。まぁ、どうやったのかは知らないが。
ベインブリッジ:自分で自分のパイプをふかしたくないヤツも居るって事さ。はっはっはっは!
(突然、雷鳴がとどろく。動物園の門が開き、全身ピンク色のガム怪人が二人、入ってくる。激しいヘヴィメタ・ロックが始まり、パーティーの出席者たちは否応なく踊らされる。)
ガム怪人:♪チャーリーがやってくる チャーリーがやってくる 風船ガムのチャーリーがやってくるぞ
       チャーリー!(雷鳴と共に、巨大風船ガムお化けのチャーリーが登場)
       風船ガムのグチャグチャ悪夢のように お前の風船なんて潰してやる
       チャーリー! ピンクのミスター最後の審判!
       俺のガムはとってもジューシー!
       お前の心臓 精神 あばら骨も 魂も ガムでグルグルにしてやる
       グチャグチャ べたべたにしてやるぞ!♪
(二人のガム怪人がパーティ会場をめちゃめちゃに破壊し、大きなガムでコルクとベインブリッジを縛り上げてしまう。そこに、チャーリーが大きな口を開けて迫って来る…)


 朝の穏やかなズーニヴァース 屋内飼育室の廊下

(鼻に絆創膏をつけ、両目の周りが真っ黒になったミセス・ギデオンが、廊下を歩いている。その姿を、ドアの窓越しに雌パンダが見ている。ミセス・ギデオン、ガラス越しにパンダと手を合わせ、心をかよわせる。)


 ハワードとヴィンスの小屋の前

(ハワードとヴィンスがベンチに腰掛けている。)
ハワード:信じられない。ミセス・ギデオンがあんなふうにパンダと駆け落ちするだなんて。
ヴィンス:そうだな。
ハワード:何がいけなかったんだ?
ヴィンス:お前が、彼女の顔を殴ったからだろう。
ハワード:ええ、その通りですよ。
ヴィンス:馬鹿だよな〜。
ハワード:お前、なんだってそんなに楽しそうなんだよ。駆け落ちしたのは、お前の大事なパンダだろう?
ヴィンス:そうね〜。
ハワード:考えても見ろよ。お前は愛するパンダを失い、本の件も台無しだ。なのに馬鹿みたいに上機嫌。
ヴィンス:ポンチョを着てるからさ。間違いないね。ポンチョを着ていて、落ち込むなんて無理。
     安心しろよ、ハワード。お前をびっくりさせるプレゼントがあるんだ。ほら!
(もう一枚のポンチョを取り出す。)
ハワード:
(興味なさそうに)ああ、すごいね。
ヴィンス:ほら、ほら!
(ハワードの頭からポンチョを着せる。)
ハワード:…全然効かない。
ヴィンス:2分待てよ。

字幕:2分後…

(ハワードとヴィンス、ポンチョにソンブレロを被り、陽気なメキシコ音楽に乗って元気良く踊っている)


 エンディング・トーク

(赤いカーテンが閉まり、その前にヴィンスが登場する。)
ヴィンス:ハイ。今夜の番組をお楽しみいただけたでしょうか。とりわけ…
(サイモン・マクファーナビーが入ってくる)
サイモン:君の演技にとても感銘を受けたよ。君、私が新しく創造した舞台に興味はないかい?
      夢遊病についての作品で、「オータム・マグネッツ」と言うのだが…
ヴィンス:いいね。
(ハワードが入ってくる。)
サイモン:君は理想的な主役だと思うんだ。
ハワード:どうかしましたか?
サイモン:ヴィンスの演技に感銘を受けたと言っていたところだよ。
ハワード:そうですか。
ヴィンス:俺、「オータム・マグネッツ」に出るんだ。
ハワード:そりゃ良かったな。
サイモン:この公演では、ツアーを組んでいて…
ハワード:
(サイモンの肩を叩く)あの。俺は親切心であんたをこの番組に招待したんだが。
     あんた、演技ってものを何だと思っているんだ?この木の実野郎!
(サイモン、ハワードに頭突きを食らわせ、ハワードは瞬時に倒れる。)
サイモン:私を怒らせないことだな、若造。
(ヴィンスに)
     それでだね、最低限度の定額払いになるが、非常に効率は良いのだよ。
(サイモンとヴィンス、話しながら退場。)


 
エンディング・クレジット

(子猫さん写真)


(終)
 
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