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アヤシゲ翻訳 テレビシリーズ2 エクストラ/ ザ・ブーシュ-ツンドラ The Boosh-Tundra (パイロット)


 オープニング・トーク

(ハワードとヴィンス登場)
ヴィンス:ハイ。番組にようそこ。俺はヴィンス。こっちのイカレたにいちゃんは、ハワード・ムーン。
(ハワードの肩に触る)
ハワード:ハイ。触るな。
ヴィンス:ジョークが大好き。こいつはいつもこうなんだ。
ハワード:ジョークじゃない。俺には触るな。二度と触るな。今も、コーラを買うときも、一生触るな。
(二人で顔を見合わせて)
ハワード&ヴィンス:ははーん?!
(ヴィンス、ハワードに触る)
ハワード:触るんじゃない。
(ヴィンス,むっとしながら離れる。)さて。私におまかせです。
      私をお知りになりたいのでしたら、まずは、パワフルな俳優である点をおさえてください。
      細かい演技も、値千金。どうぞお楽しみに。
ヴィンス:さらに、あるシーンでは俺が羊の足の姿で登場します。
ハワード:それ、無し。
ヴィンス:あるだろ。
ハワード:俺が脚本を書き換えた。
ヴィンス:一番良いところなのに。
ハワード:いいから、Oに行けよ。
(オープニング・テーマ,スタート)


 動物園・ズーニヴァースの一角

(フォッシルが拡声器を使いながら、客を案内している。)
フォッシル:皆さん、ボブ・フォッシルのヴーニヴァースへようこそ。
       私がボブ・フォッシル。つまり、このズーニヴァースは私のものであります。
       さて、あそこにはカニと、ヤマネコの展示場があります。あちらをご覧下さい。
       完璧なる調和を取って生きています。まるでスティーヴィー・ワンダーの歌のよう。ご参考に。
       こちらにには、成長不足のカバ。ジロジロみるな!恥ずかしがっているだろう!
       よーし!アッチへ向かうぞ、野郎ども、もう日が暮れるからな!
       目を逸らせ!動物どもはみんなスッポンポンだぞ!


 ゴリラの檻

(怪しいゴリラが二頭檻の中に居るが、一方は読書中。一方は携帯電話をいじっている。客がやってきて、録音解説が流れる。)
解説:この、自然にあふれた居住環境にあるゴリラをご覧下さい。
(二頭のゴリラ、持ち物を置いて、ゴリラっぽい仕草をはじめる。)
解説:霊長類は、タカ、もしくはホモの蛾とはかなり違う分類をされております。
   時速5,000マイルで飛び、唾液と木を凍らせて作った毒薬で人間を殺害します。
   霊長類はありとあらゆる音楽に反応しますが、メインは70年代ロック。
(ヘヴィなギタープレイが流れると、それに合わせてゴリラが踊り始める。客がいなくなると、一頭はノリノリだが、もう一方はやる気をなくして、音楽を止めて、マスクを取る。)
ハワード:もうウンザリだ!
ヴィンス:どうかした?
ハワード:サルの着ぐるみだぞ。
ヴィンス:そうだよ。
ハワード:どうして動物園に本物の動物が居ないんだよ。俺は熟練飼育員だぞ。
ヴィンス:俺は好きだけど。入れ込んでみろよ。
ハワード:お前はそうだろうよ。こっちの身にもなってみろよ。お前にとっちゃどんな事だって、大したこと無いんだろう?
     ピーナッツを見れば良い一日になりそうだ。畑なんてみようものなら、ヴィンス・ノワー祭りだ!
     俺はそうは行かないぞ。俺はもっとスケールの大きい男なんだ。夢想家であり、陰謀家であり
ハワード&ヴィンス:ジョニー・ビーマーの小型版!
ハワード:分かってるだろうが。俺の働きを。
ヴィンス:大したもんだ。
ハワード:だろう。
ヴィンス:リラックスしろよ。
ハワード:無理。
ヴィンス:どうして?
ハワード:あいつを見ろよ。
(檻の外を指差す)
ヴィンス:誰?
ハワード:ディクソン・ベインブリッジだ。
(二人の向こう側で、ベインブリッジがタカを手にとまらせ、それを客が囲んでいる)
ハワード:見ろよ、ブラブラしやがって。あいつ、まだここに来てから2週間だぞ。それなのに、もう主任飼育員だ。
     いったいこれからどうなるんだ?
ヴィンス:動物園のトップになるんじゃん?
ハワード:恐らく、そうだろうな。でも、俺のポジションだったはずだぞ。
ヴィンス:そうだったな。
ハワード:あの野郎、俺の宇宙船をかじりやがった。
ヴィンス:仕事を取られただけだろ。
ハワード:俺のイカヅチを奪ったんだ。俺にないものって何だよ?
ヴィンス:ひげ。
ハワード:
(ヴィンスに向き直り、自分の口ひげを指差す)俺のここにあるのは、何だと思う?
ヴィンス:よせよ。ひげじゃないだろ。カプチーノの泡じゃん。
ハワード:言ったな、この野郎。すくなくとも、これはモカだからな?分かったか?
     俺のモカを笑いものにするんじゃない。(Don’t be mocking my mocha.)こうするのに、ひと月かかるんだ。
ヴィンス:ふうん。ひと月?
ハワード:そうだ。
ヴィンス:まじかよ!そいつにひと月かよ!
ハワード:そう。
ヴィンス:ベインブリッジのを見ろよ。銀色の蹄鉄みたいだ。1時間ででっち上げるんだろうさ。
     俺、見たぞ。壁に寄りかかって、力を発するんだ。ヌォオォ〜!…ハワード?

(アナウンスが響く)
フォッシル:フランス人の皆さん、ライオンに煙草をやるのは、やめてください。禁煙中なんです。


 ハワードとヴィンスの部屋

(ヴィンスが外から入ってくる)
ハワード:フォッシルの所に行って話してきたか?
ヴィンス:うん。
ハワード:何て言った?
ヴィンス:お前が行った通りさ。
ハワード:ベインブリッジとじゃうまく行かないって?
ヴィンス:ああ、言ってやった。
ハワード:もう一度言ってみ。
ヴィンス:いいよ。再現してやる。
(立ち上がる)まず行ってだな、やる気満々、アドレナリンどくどく!
     ドアがあっても、開けずに、ドカーン!と蹴りこんでやった。ところが戻ってくるんだ。
     スプリングが仕掛けてありやがる。俺は外にはじかれちまった。
ハワード:もどって入ったんだろう?
ヴィンス:もどって入った。
ハワード:なるほど。
ヴィンス:あったかくしたライビーナ飲んだからな。
ハワード:なるほど。あの構えをしたか?
ヴィンス:もちろん。
ハワード:やって見せてやったろ?両足を開き
ヴィンス:腕は縮めて。
ハワード:トガリネズミ・スタイル。
ヴィンス:そう!
(二人で謎の動きを始める)
ヴィンス:トガリネズミ!『うわぁ!なんて短い腕だ!』そこへ、ひと掻きかます!
ハワード:俺のお得意さ。俺が作り上げたんだ。
ヴィンス:天才!発明したの、おまえ?
ハワード:沢山あるなかの一つさ。
ヴィンス:すげぇな。
ハワード:まぁな。
ヴィンス:この動きを応用したんだ。トガリネズミの連続攻撃!あいつの目にも留まらぬ速さ!
     一体何が起こっているのかも、理解してなかったな。ヤツは、こんなんなって…俺いってやったんだ。
     『おい、聞けよヨタ野郎!』
ハワード:ヨタ野郎?
ヴィンス:そう!
ハワード:つかみはばっちり!
ヴィンス:だろ。こういうときは、いつも言ってやるのさ。
ハワード:すごいぞ。
ヴィンス:『いいか、このヨタ野郎!俺もハワードも、もうウンザリだ!
ハワード:
(ヴィンスの肩を掴んで)俺の名前は出してないよな?
ヴィンス:ないよ。
ハワード:あっそ。
ヴィンス:とにかく…『俺はもうウンザリだ。一体どうする気だ?ベインブリッジだよ。
     あいつややってきて、ちょっとしかたたないのに。どでかい髭なんてくっつけやがって。
     もう主任飼育員だなんて。一体どういうことだよ。動物も全然いないし。どう説明するんだ?』
ハワード:フー!
ヴィンス:な?
ハワード:それで、フォッシルはなんだって?
ヴィンス:そうしたら…『ああ〜!スズメバチに刺されちゃいました〜!』
ハワード:…お前、あいつと話してないだろう?オフィスの近くにさえ行ってないだろう。
ヴィンス:オフィスがどこにあるのかも知らないもん。
ハワード:
(椅子に座りなおす)全然おもしろくも、おかしくもないぞ。こいつは冗談じゃないんだ。
     俺こそ、主任飼育員であるべきじゃないか。
ヴィンス:分かってるよ。
(ハワードの隣りに座る)
ハワード:そうさ、俺のポジションであり、俺の権利だ。ベインブリッジなんかより、長くここに居るんだからな。
     だから主任飼育員は俺であるべきだ。
ヴィンス:そうだな。
ハワード:俺が主任飼育員なら、お前も一緒にだ。
ヴィンス:いいね。
ハワード:俺の相棒になれるんだ。すごいじゃんか。
ヴィンス:そうだな。…相棒?
ハワード:手下かな。そんなところだ。
ヴィンス:なるほど。
ハワード:俺と、お前。いいじゃん。俺がお前をトレーニングしてやれば…その…何かしらにはなれるさ。
ヴィンス:お前のレーニングなんかいらないよ。俺には天賦の才能があるんだから。
ハワード:そりゃ…
ヴィンス:動物と会話出来るんだぜ。モーグリみたいにさ。
ハワード:知ってるよ。別に秘密でもない。お前にその才能があるから、俺が雇っているわけだ。
     でもヴィンス、ヴィンス、こっち見ろよ。時々思うんだが、お前その才能を無駄にしているぞ。
ヴィンス:どういう意味?
ハワード:動物がゲイリー・ニューマンなんかに興味あると思うか?
ヴィンス:ゲイリー・ニューマンの話なんてしてないよ。
ハワード:してる。見たぞ。
ヴィンス:してないって。
ハワード:その上、コスプレまでさせて。
ヴィンス:してない。
ハワード:ライオンにアダム・アントの格好させただろう。
ヴィンス:俺がしたんじゃない。
ハワード:お前じゃない?
ヴィンス:ライオンが自分でしたんだ。
ハワード:はぁ?将校の肩章を自分でつけるか?
ヴィンス:ゲイリー・ニューマンって言えばさぁ…
ハワード:その話するな。俺、ゲイリー・ニューマンには興味ない。
ヴィンス:いいじゃん。ゲイリーはただのにぃちゃんじゃないんだぜ。
     いいか、ゲイリーはただのポップ・スターじゃなくて、パイロットのライセンスを持ってんだぜ。凄いじゃん。
ハワード:ああそう。
(放送でフォッシルの声が聞こえる)
フォッシル:業務連絡。新しい主任飼育員のディクソン・ベインブリッジが、メイン・ホールでレクチャーを行います。
       北極圏への最近の探検についてです。全ての従業員は参加するように。
       お前らもだぞ、ハワード・ムーンと、ヴィンス・ノワー。


 ベインブリッジのレクチャー

(従業員たちがベインブリッジの公演を聞いている。フォッシルは最前列で熱心に拍手し、最後列にハワードとヴィンス。ハワードはウンザリした表情。)
ベインブリッジ:私は山の岩棚から転落したが、狼が居た為に大怪我にはならなかった。
          狼は私に襲い掛かったが、幸運にも私は髭にピストルを隠し持っていた。
ヴィンス:だろうね!
ベインブリッジ:私は発砲したが、狼は怪我を負っただけだった。そしてヤツは私の手を取った
(ベインブリッジ、右手で左手を指差す。手に噛み付いたという意味か)
ハワード:へえ、結婚でもしたのか。
フォッシル:おい!お前ら、何考えているんだ?!パリジャンの離婚訴訟か?
       これぞ、現実の、生けるアクション・ヒーローだぞ!アクション・マンだ!いいか、よく聞け。
       このレクチャーのあとで、私のオフィスに来い!とにかく、静かにしてろ!
       
(ベインブリッジに)続けて、ハチミツ・ポットちゃん。
ベインブリッジ:気にしないで。坊やたちには、坊やたちのお楽しみがあるのさ。
         聞くところによると、ハワード・ムーンは髭を生やすのに一ヶ月かかるそうだな。
フォッシル:おっつきさんが、ひとつきで髭!無理無理!
ベインブリッジ:私は十ヶ月って所かな。狼との戦いの後、私は「エッグ・オブ・マントゥンビ」の探索に出かけた。
         とてつもない価値の小学生の頭くらいはある、巨大なサファイアだ。
(スライドに、巨大サファイアと子供の頭部写真)
フォッシル:でっかぁい!
ベインブリッジ:ママとでも呼べ。多くの者がエッグ・オブ・マントゥンビを探そうとしたが、みな失敗に終わった。
         有名な冒険家ビッギー・シャックルトンほど、エッグの近くまで迫った者はない。
         しかし、見るも恐ろしい氷の化け物によって、凍死させられた。そいつはブラック・フロストと呼ばれている。
(スライドにブラック・フロストの像)
フォッシル:ワァオ、フロッシー!
ベインブリッジ:今の今まで、エッグは私の追跡をかわしてきた。しかし、私は北極圏へ戻る。
         名声のためではない、ビッギー・シャックルトンのためだ。
         凍てつく北極圏に取り残され、打ちのめされ、バイソンに踏まれたサクサク・スナックのようにされてしまった。
         湿っぽくなるのは好きじゃない。歌おうじゃないか。
(朗々とボニー・タイラーの“トータル・エクリプス”を歌い始める)
       ♪見回せば いつでも孤独を感じてしまう 貴方はきっと来ないでしょう
        見回せば 目を上げても落ち込んでしまう
        今夜は あんたが必要 どんな時もあなたが必要なの
        あなたこそ全て そう、私たちは永遠に抱き合うの♪
(途中からフォッシルが変なダンスをしながら加わり、二人で大熱唱。従業員もノリノリ。ヴィンスも楽しそうだが、ハワードが無理やり連れ出す。) 


 フォッシルのオフィス

(机でフォッシルがベインブリッジの写真を見ている。横に、ナブーが突っ立っている。そこに、ドアをノックする音がする。)
フォッシル:わぁ?!いや、入れ!
(ハワードとヴィンスが入ってくる。)
ヴィンス:よう、ナブー。
フォッシル:ナブーに話しかけるんじゃない。忙しいんだ。
ハワード:何やってるんだ?
フォッシル:ナブーがすることを、お前が知る必要もなかろう。ナブーは神秘の人だ。そして沈黙の人。
       自分自身の法則で生きる。あと、ぼくの頭にパーマもかけてくれる。
       こうして我々が話している間も、沢山の仕事をこなしているのだ。楽にしていいぞ、ナブー。
(ナブー、無反応)
       さて、よく聴け。いいか、もう二度とベインブリッジのレクチャーを妨害するんじゃない。
       それに今日、ゴリラの展示室でテータイ電話で何やっていたんだ?
ヴィンス:テータイ電話?
フォッシル:じゃがぁいも、ジャガーがイモ!知るか。
ヴィンス:俺、新しい機種を買ったんだ。見てよ。
(ハワードは止めようとするが、ヴィンスは携帯をフォッシルに見せる。)
ヴィンス:着メロを20曲から選べるんだぜ。80年代のスタンダード・ナンバーばっか。
フォッシル:おお、すごいじゃないかヴィンス。そういう話は牧師さんにでもしろ!
(ヴィンスがハワードの後ろに隠れたところで、けたたましくゲイリー・ニューマンの「カーズ」のイントロがヴィンスの携帯から鳴る。すごい高音波で、ガラス瓶が割れ、ナブーが派手な音を立ててぶっ倒れる。)
フォッシル:ぎゃー!なんだこりゃ!出て行け、このクソ馬鹿!ナブー!ナブーリオ!
(ヴィンス、携帯の音を止める。)
ヴィンス:とにかく、俺たちゃサルの格好なんてしないからな!
フォッシル:この野郎、しなきゃ降格してやる。
(ハワードとヴィンス、例のトガリネズミ・ダンス。)
フォッシル:コ、ウ、カ、クだぞ!
(ハワードとヴィンス、オフィスから出て行く。)


 ハワードとヴィンスの部屋

(ハワードが旅の準備をしている。ヴィンスは巨大なイカの被り物)
ヴィンス:な、ハワード。俺は準備できたぞ。
ハワード:俺はイカの格好なんてする気はないからな。
ヴィンス:じゃぁ、何着るんだ?おれ、この被り物作るのに一晩かかったんだぞ。
ハワード:知るか。とにかく俺はごめんだ。
ヴィンス:それで、フォッシルはどうする?あいつ、怒り狂うぞ。
ハワード:フォッシルの遊びに付き合う気はない。だろ?わが道を行く。一匹狼だからな。
ヴィンス:それで、どうするわけ?
ハワード:俺に計画があったろう?
ヴィンス:そうだっけか。
(立ち上がる)
ハワード:その格好で迫るな。脱げよ。
ヴィンス:
(被り物を脱ぐ)どんな計画だっけ?
ハワード:北極圏に行くんだ、ヴィンス。ディクソン・ベインブリッジよりも先に行くんだ。
     そして、エッグ・オブ・マントゥンビを持ち帰るのだ。
(二人でひとしきり酔いしれてから)な、どう思う?
ヴィンス:いかすね!
ハワード:エッグを持ち帰れば、俺は主任飼育員だ!
ヴィンス:そしたら、俺はその相棒!
ハワード:完璧。
ヴィンス:じゃ、休暇を取らなきゃな。
ハワード:違う、こいつは休暇じゃないぞヴィンス。これは危険なミッションだ。
ヴィンス:ああ、なるほど。
ハワード:北極圏ってのは、とっても危険な場所だ。聞けなどうぶ津もいる。シロクマもいるぞ。
ヴィンス:シロクマなら大丈夫じゃん。
ハワード:そうはいくか。ヤツはカモフラージュの上手い殺人者だぞ。
     シロクマは白い雪原の環境で、白い体をしているんだ。完璧だな。体の中で、花だけが黒い。
     狩りをするとき、シロクマは鼻にカバーをするんだ。こうなったら、やつがどこに居るかわからない。
     やつが襲い掛かってくるまで、どこに居るかわからないんだぞ、ガオーッ!
ヴィンス:目はカバーしなくていいの?
ハワード:うるさい。


 一面の雪原,猛吹雪

字幕:2週間後
ハワード:
(毛皮で完全防備。立ったまま、格好つけて録音機のスイッチを入れる)
       ハワード・ムーン・ジャーナル四日目。多くの人がエッグ・オブ・マントゥンビを探してきた。
       多くが失敗した。しかし、一人の男が成功するだろう。それこそこの私。ハワード・ムーン。
(格好良く録音機を止めたとたんに、顔面に雪球が飛んで来て、ヴィンスの笑い声が聞こえる。雪原にヴィンス登場。体にぴったりフィットした、ピカピカで派手な赤白スキーウェアーと、ピンク色のレッグウォーマー。)
ハワード:やめろ。何がそんなに可笑しい。
ヴィンス:すげー爆笑ものじゃん。
ハワード:可笑しくない。もう一回やったら猛禽類攻撃するぞ。
ヴィンス:はいはい。もう行こうよ。エッグはないみたいだし。
ハワード:やめろ。おれのミンクのコートを引っ張るな。何所へも行かないぞ。
      エッグはこの辺りにある。俺には分かるんだ。
ヴィンス:ミンクって言った?穏やかじゃないな。お前、動物の飼育員だろう?
ハワード:それが北極圏ってもんだ、ヴィンス。違うルールに従うべき所だ。やるか、やられるか。
ヴィンス:でも、ミンクはどうなるんだよ。
ハワード:この辺りじゃ、ミンクはでかいんだ。このコートだってミンク一匹分。この一揃いが。本当だ。
ヴィンス:馬鹿言え。俺、雑誌読んだぞ。
ハワード:だから?何が言いたいんだよ。
ヴィンス:「月刊ミンキー」さ。本屋の前面に平積みになってる。それによれば、婦人用の小さな手袋一つに、
     90匹ものミンクが使われるって。
ハワード:縫い代にクソでもついてたんだろう。
(笑い出す)…なんてどう?
ヴィンス:
(笑いながら)まぁ、悪くない。ところで、俺のこの極寒地衣装はどうよ?
ハワード:なんつーか、人間コーラ缶か?
ヴィンス:グラム・ロック・スキーウェアさ。
ハワード:北極圏では、ファッションは重んじられないんだ、ヴィンス。だろう?
      ツンドラを甘く見てはいけない。ここでは正気でいられない。人として何が出来るか、分かっているか。
ヴィンス:いや。
ハワード:見てみろ。何が見える?
(ヴィンスに双眼鏡を覗かせる)
ヴィンス:何も?
ハワード:その通り。まさに無の世界。白の世界。終りなき世界…な世界。
     人の想像力を掻き立てる。魂を荒廃させてゆく。オー・マイ・ガーッ!!!

(ハワードとヴィンス,踊りながらツンドラ・ラップ,スタート!)
ハワード:♪氷の激流,行く当てもない!白いツンドラに行き先も見えない!トンガリネズミのカギ爪ガリガリ
ヴィンス:俺はジョニー・フロストバイト(霜かじり?)辺りをうろつき、お前をカチンカチンにごごえさせてやる
      明かりのともったテントを切り裂き 北極圏の無限の夜に野垂れ死に 
ハワード:ツンドラ・ボーイと呼んでくれ 北極トカゲみたいに動くからさ
      猛吹雪の夜に妄想のように消えうせる 後にはテントの杭がキラリと残るだけ
ハワード&ヴィンス:ブーシュ、ブーシュ!ムースより強い! カギをかけたら屋根から入るぞ
             キョロキョロしないでおちつけよ ブーシュは放たれ 俺たちゃ新鮮そのもの
             氷の激流 行くあてなし!白いツンドラに行き先も見えない ワウーーー!!!♪
(ラップとダンス終了)

ハワード:…な?
ヴィンス:オーライ。歌で言いたい事は分かったよ。
ハワード:ここではもっと真面目にやるんだな。
(顔面に雪球直撃)


 フォッシルのオフィス

ベインブリッジ:この鉛筆でもって、スペインの国王のために、ユダヤ人レパードの割礼をほどこしてやった。
フォッシル:わぁお、すごい!
ベインブリッジ:こいつは誰だ?
フォッシル:ああ、これはナブー。
ベインブリッジ:どうしてじっとしているんだ?
フォッシル:彼はフシギの相棒君なんだ。相棒いる?ベインブリッジ。
ベインブリッジ:いや。私はひとりでやる。それこそが我が行く道。
フォッシル:なるほど。ぼくも。お前は、クビだ、ナブー。
(一瞬、ナブーがフォッシルを見る)なに?クビにするんだよ。
       
(またナブーがフォッシルを見やる)よせ、おお、股間パワーよ!…え、まじ?なぁ、見てよベインブリッジ。
       ハワードとヴィンスは北極圏に居る…だって。そしてエッグ・オブ・マントゥンビを探しているんだ。
       ニワトリのおしりからもみつけらんないくせに!な、ベインブリッジ、聞いてる?
(ベインブリッジ、オフィスから出て行く)


 北極圏ツンドラ

(突っ立って双眼鏡を覗き込んでいるハワードの後ろで、ヴィンスが穴を掘っている)
ヴィンス:あのさ、なんで俺、穴なんて掘ってるわけ?
ハワード:食える魚を取る為さ。
ヴィンス:でも、どうして「俺」なの。テントも建てたし、穴も掘って。俺は穴掘りポニーかよ。お前何した?
ハワード:俺はこの地域の大気放電障害を調査しているんだ。旅の記録のためにな。
      体を動かせば、体温が上がっていいぞ。俺の仕事の方がきついんだから、お前の穴掘りなんて大したことない。
ヴィンス:
(小声で)このシャベルでぶん殴ってやる。
(ヴィンスが雪をどけると、凍りついた地面の下から、男の顔が出てくる)
ヴィンス:ギャー!!
ハワード:どうした?!
(駆け寄る)
ヴィンス:氷に俺の姿が映ったんだ。真っ青でヒビだらけ!最悪の顔だよ、ハワード!!
ハワード:
(地面を覗き込む)お前の顔じゃないよ。
ヴィンス:は?
ハワード:人が氷の下に閉じ込められたんだ。
ヴィンス:ああ、よかったー。俺かと思っちゃったよ。
ハワード:ヴィンス。これが誰だか分かるか?
ヴィンス:いいや。
ハワード:ビッギー・シャックルトンだ。俺たちはとうとう見つけたぞ。
ヴィンス:俺が、見つけたんだ。
ハワード:俺たちゃ、チームだろう?
ヴィンス:ああ、そうだな。
ハワード:ヴィンス、彼に何が起こったか分かるだろう?
ヴィンス:凍っちまった?
ハワード:更に悪い。これはブラック・フロストの仕業に違いない。
ヴィンス:誰だ、それ。
ハワード:古いエスキモーの伝説によると、瞬時に、一気に凍結させる冷気を持っているんだ。
      人を一秒で凍死させる。叫ぼうにも、叫ぶ間も与えない。ブラック・フロストは叫び声でさえ空中に凍りつかせる。
     「うわぁーーー!」…口からほとばしり出た言葉が、氷のかたまりになる。
ヴィンス:ハワード、見ろよ。彼の口のところから、何か出てる。氷の塊になってるぞ。
ハワード:彼の最後の言葉が凍っているんだだ、ヴィンス。凍結のまさにその瞬間だ。俺たち、とうとう見つけたぞ!
ヴィンス:俺が、見つけたの。
ハワード:それ、言うな。オーケー?俺たちはチームだ。
ヴィンス:ああ、はいはい。
ハワード:言葉の所を掘り出せるか?俺はストーブを用意してくる。
ヴィンス:オーライ。お茶の用意しておいてよ。
ハワード:お茶じゃなくて、ビッギー・シャックルトン最後の言葉を解凍するんだよ。それから、記録もしなきゃ。
      
(録音機のスイッチを入れる)ハワード・ムーン・ジャーナル,六日目。
      とうとう、ビッギー・シャックルトン最後の言葉を発見した。
(ヴィンスが辺りに居ない事を確認)
     俺が、自分で発見した。ヴィンスは寝てた。起して知らせてやらねば。
(ハワードの背後に、足だけ羊の着ぐるみを着たヴィンスが走ってくる。手には「俺が見つけた」というプラカード)


 フォッシルのオフィス

フォッシル:ああ、こんなに寂しいなんて…。ナブー、言っておく事があるんだ。秘密だぞ。誰にも言わない?
       そりゃそうだな。喋らないんだから。これぞ、美しき陰謀。
       ベインブリッジと居ると時々、どうすれば良いのか分からなくなる。彼のところに走って、言ってしまいたい。
       『ヘイ、凧あげしない?』そして彼の鼻にキスするのだ!どうすれば良いんだ、ナブー?ヒヨコ豆でも買ってこよう!
(ドアからジョーイ・ムースが入ってくる。)
ジョーイ:フォッシルさん、あの…
フォッシル:どけ、このコアラ頭!
ジョーイ:なんだよ。俺がなんかしたか?
ナブー:彼はただ、自分はゲイだと。言いふらしてきて。


 ツンドラの夜,吹雪の中の、ハワードとヴィンスのテント

(ハワードとヴィンス,火にかけた鍋を囲んでいる)
ハワード:今世紀の科学的大発見だ。最後の言葉の、はじめをよこせ。
ヴィンス:ちょっと待てよ。順番に並べているから。
ハワード:言葉並べゲームじゃないんだから、はやくよこせよ。
ヴィンス:これが、最初のやつ。
(ハワードがヴィンスから氷の破片を受け取って、鍋に投げ込む。と、水蒸気とともに声が沸きあがる)
声:エッグ・オブ・マントゥンビは…!
ハワード:うまく行ったぞ!
ヴィンス:エッグの事を言っているんだ!
ハワード:よし、次だ。
ヴィンス:オーケー。これが次の。
声:見つかるであろう…!
ヴィンス:「見つかるであろう・・・!」だって。変な声だな。
ハワード:凍りつきながら言ったんだから。その次は?
ヴィンス:ちっさいやつ。
声:その洞穴の名は…
ハワード:エッグ・オブ・マントゥンビは、洞窟で見つかる。その洞窟は…
ヴィンス:よし、コレだ!最後の一つ。オーケー!
(破片にキスするして、ハワードに渡す)
(ハワードもキスしてから、破片を鍋に入れたちょうどその時、ヴィンスの携帯が鳴ってしまう)

ハワード:聞こえない!!
(ヴィンス、大慌てで右往左往の末、テントから放り出される。ハワード、テントの入り口を閉めてしまう。)
ヴィンス:
(テントの外で携帯を止め、済まなそうに)ハワード…?
ハワード:
(テントから顔だけ出して)失せろ。(テントに引っ込む)
ヴィンス:ハワード、外は寒いよ…
ハワード:有効に使え。お前は寝ずの番だ。
ヴィンス:寝ずの番?
ハワード:北極圏は危険な所だ。
(テントから顔を出して)寝るなよ、どうなっても知らないからな。
(ハワード、テントに引っ込み、閉めてしまう。ヴィンス、赤い毛糸の帽子を被り、辺りを見回すが、すぐにその場で寝込んでしまう。すると、どこからともなく何かがテントに迫り、ヴィンスに向かって唸り声を上げる。ヴィンス、飛び起きる)

ヴィンス:うわぁ!


 ツンドラの朝.猛吹雪の中のテント

ハワード:
(テントの中からあくび)ヴィンス?おいヴィンス。お湯を沸かすぞ。おい、ふてくされるなよ。
     
(テントから出て、外を見回す)ヴィンス?
(ヴィンスの帽子と、白熊の足跡だけが残されているのを発見。モーツァルトのレクイエムが流れ始める。)
ハワード:どうしよう、ヴィンス!俺、何をしたんだ?お前、白熊に食われちまったのか?!
     お、俺のせいだ!ヴィンス、ヴィーンス!
(猛吹雪の中を走り出す)

(穏やかな雪原で、能天気な音楽に乗って楽しく踊るヴィンスと巨大白熊)

(吹雪の雪原を彷徨うハワード)

(能天気な音楽の中、バドミントンを楽しむヴィンスと白熊)

(転びながら吹雪の中を進むハワード)

(能天気な音楽の中、ソファーに腰掛けて、楽しくアルバムを見ているヴィンスと白熊)

(あいも変わらず彷徨うハワード)



 夜のツンドラ

ハワード:
(座り込んで、録音機に吹き込む)12日目。ヴィンスは死んだ。全てが失われ、おれは一人ぼっち。
       風だけが友達だ。
風:お前なんか嫌いだ!
ハワード:うっさい!風のくせに!黙れ!
(突っ伏して泣き出すが、人の気配で顔を上げる)ヴィンス?ヴィンス、お前か?
(突然、パーカ[フードつきの毛皮ジャケット]を着た、非常に背の低い人物が現れる。顔はフードの中で全く見えない。)
パーカ男:
(非常に低い声で)パーカの中を見よ。
ハワード:えっ?
パーカ男:パーカの中を見るのだ。お前が夢にも思わぬ、あらゆるものがある。
ハワード:例えば?
パーカ男:ルビー。
ハワード:夢に見たことある。
パーカ男:レズビアンのハム。
ハワード:あんたの変な夢には興味ない。友達が死んでしまったんだ。俺はここで死を待つ。放っといてくれ。
パーカ男:パーカの奥底を見るのだ。お前の夢を見せてやろう。
(突然パーカの中から鋭い光が差し、ハワードの顔を照らす。神々しい音楽が流れる中、パーカの中に巨大なサファイアの姿が浮かび上がる。)
ハワード:エッグだ!


 夜の穏やかなツンドラ

(ヴィンスと白熊が並んで座り、星空を眺めている。)
ヴィンス:ゲイリー・ニューマン好き?
白熊:だれ?
ヴィンス:ポップスターさ。でも、パイロットの資格も持っているんだ。凄くねぇ?
(二人、しばらく黙っている)
ヴィンス:
(立ち上がる)あのさ。俺、もう行かなきゃ。ハワードを探すんだ。ちょっと心配になってきた。だから…
      でも、本当に楽しかったよ。凄く素敵だった。また、きっと会えるよな?
(立ち去ろうとする)
白熊:抱きしめて。
ヴィンス:
(振り返る)えっ?
白熊:なんでもない。
ヴィンス:抱きしめて、って言ったの?
白熊:いいや。
(ヴィンス、ゆっくりと白熊の隣りに戻ると、おずおずと手を白熊の背中に回して、そっと抱きしめる。白熊もヴィンスに寄りかかり、二人で流れ星を眺める。)


 夜の洞穴

(大きなテーブルがあり、沢山のパーカ男が取り囲んでいる。その中に、ハワードが混じっている)
ハワード:俺たちは一緒に動物園で働いていたんです。彼は動物と会話ができました。
      彼はモーグリみたいなもので…ご存知ありませんよね。まあ、可笑しな話で…。
      
(大きなため息)残念です。彼は勇敢な男でした。その、勇敢というか、実際は馬鹿みたいで…。
      状況把握ってものが出来ない奴で…
パーカ男たちの長:興味深い話だ。しかし、食事の時間だ。お前は我々と共にせねばならぬ。ここの流儀に従うのだ。
(ハワードの隣りに座っていたパーカ男が、皿にゲロを吐き出す)
ハワード:その…あまり腹は減っていなくて…。
パーカ男たちの長:お前が食わねば、我々は機嫌を損ねるぞ。
ハワード:(雰囲気に押されて)まあ、ちょっと試してみます。
(スプーンで少しだけゲロを舐める)うーん…
パーカ男たちの長:おお、食事が来たぞ。
(サンドイッチが運ばれてくる)サンドイッチ。私の好物だ。
(ハワード、見つからないように口の中のものを吐き出し、サンドイッチを手に取る。)
パーカ男の長:これはもう片付けろ。食事の時間は終わりだ。囚人を縛り上げるのだ。
ハワード:
(後ろ手に縛られる)何をする?!
パーカ男の長:お前は生け贄なのだ。
ハワード:何の話だ?!
パーカ男の長:お前は私たちから盗もうとした。
ハワード:盗むって、何を?!
パーカ男たちの長:我々はエッグ・オブ・マントゥンビの番人なのだ。
(神々しい音楽と共に、洞穴の奥に柱が現れる。柱の頂上には、エッグ・オブ・マントゥンビが燦然と輝いている)
ハワード:あ、いや、結構です。俺、エッグには興味ありません。
パーカ男たちの長:これはどう説明するのだ。
(ハワードの録音機を再生する)
録音機の声:エッグ・オブ・マントゥンビを手にする日を待ちきれない。
ハワード:俺の声じゃない。
録音機の声:そして私,ハワード・ムーンは金持ち,かつ有名になるのだ。
パーカ男たちの長:さあ、みなの者。ルーガルーを召還するのだ。
ハワード:誰をだって?!
パーカ男たちの長:ブラック・フロストだ。
(パーカ男たちはハワードを残して、エッグの柱に集まり、ルーガルーの名を唱え始める。もう一人のパーカ男が、怯えるハワードに迫ってくる。)
ハワード:殺さないでくれ!何でもやるから!
(迫ってきた男がパーカを脱ぐ)
ヴィンス:俺だよ!
ハワード:ヴィンス!生きてたのか!
ヴィンス:しーっ!そうだよ。
(パーカ男たちは呪文を続けている。ハワードの縛めを解く)
ハワード:白熊はどうしたんだ?
ヴィンス:もう、ばっちり。
ハワード:白熊とばっちりな訳がないだろう?
ヴィンス:俺たちは意気投合なの!さあ、行こうぜ。
(洞穴から逃げ出す)
ハワード:ヴィンス、ヴィンス、ヴィンス。ヴィンス、ヴィンス!
(ヴィンスを引き止める)見ろよ、エッグがあんな近くに。
ヴィンス:おい、でも…あいつら、どうするんだよ
ハワード:今、トランス状態だ。分かりゃしないよ。
(パーカ男たちは必死にエッグの柱に向かって、呪文を唱え続けている。ヴィンスが柱に近づき、エッグを手に取る。ハワード、ガッツポーズをするが、突然警報ベルがけたたましく鳴り響き、我に返ったパーカ男たちがハワードとヴィンスを取り囲む)
ヴィンス:俺が言いだしっぺじゃないよ。


 暗いの洞穴の中

(エッグを頂いた柱に、ハワードとヴィンスが背中合わせに縛り付けられている。二人とも意気消沈。)
ハワード:こうなっちゃったな、ヴィンス。近くにありながら、手が届かない…。
ヴィンス:最後の言葉、どうする?
ハワード:なんだって?
ヴィンス:ブラック・フロストがお前を凍え死にさせるときに、なんて言葉を残すかって事さ。
ハワード:多分、詩かなんかじゃないかな。俺の70年代とかのさ。
ヴィンス:『蛾の詩』とか?
ハワード:そうかもな。それで…お前は?
ヴィンス:多分…仕返ししてやる…って…。
ハワード:そう…
ヴィンス:ハワード?
ハワード:うん?
ヴィンス:俺、死にたくないよ。
ハワード:おい、しっかりしろよ。どうにかなるさ。
ヴィンス:本当?
ハワード:いや…。俺たち、氷付けにされるんだろうな。この上なく恐ろしい手段で…。
でも、大事なのは、俺たちが楽しく生きた事だろう?な?
ヴィンス:そうだな。
ハワード:動物園を覚えているか?
ヴィンス:もちろん。
ハワード:トゲウオの事、覚えているか?
ハワード&ヴィンス:
(トゲウオの歌を歌い出す)
           ♪トゲウオ、トゲウオ、金持ちトゲウオ 演芸場のカチカチ皮
             中国の尻軽娘みたいに 走り回る
             ウン,パタ,マサラ、 ウン,パタ,マサラ
             ケンティッシュ タウン,ケンティッシュ タウン,イエー!
             ケンティッシュ タウン,ケンティッシュ タウン,ノー!♪
(二人して笑うが、すぐに静かになって、ため息をつく)
ハワード:ヴィンス。あのさ。その…すごく言いにくい事だけど…でも、ちゃんと言わなきゃな。
      愛してるよ、ヴィンス。
(ヴィンス、何も言わずに笑い出してしまう)
ハワード:どうした?
ヴィンス:べつに。
ハワード:笑ったな?
ヴィンス:いいや。
ハワード:笑う奴があるかよ。
ヴィンス:お前が笑かすからじゃん。
ハワード:すげぇ侮辱。
ヴィンス:びっくりしたんだよ。出し抜けに言うもんだからさ。
ハワード:俺は愛してるって言ってんだぞ!それを笑いやがって。
ヴィンス:俺も愛してるよ。
ハワード:愛してないくせに。
ヴィンス:違うよ、本当に愛してるってば。
ハワード:愛してないくせに!
(洞穴に毛皮を着込んだベインブリッジが入ってくる。)
ベインブリッジ:感動的だな!
ヴィンス:誰だ?
ハワード:ベインブリッジ!
ベインブリッジ:こいつは頂くぞ。それから、サンドイッチを食べて、ずらかるからな。
ヴィンス:俺たちのこの縄、解いてよ。
ベインブリッジ:お断りだ。お前ら二人を見つけたなんて、最悪だ。取り残してやるから、ここでくたばれ。
         私が死ぬ前にだぞ。さよならの歌でも歌ってやろう。
ハワード:死なすのには置いてけぼりだけで十分だろうが。
(ベインブリッジ、“トータル・エクリプス”を歌い始める。そこに、奥からブラック・フロストが現れる。)
ハワード:ヴィンス!
(ブラック・フロストがベインブリッジに迫り、彼を凍りつかせる。次に、ハワードとヴィンスに迫るが、一瞬姿が消える。)
ハワード:どこへ行った?
ヴィンス:消えた。
(二人が振り返ると、そこにブラック・フロストが居る)
ハワード&ヴィンス:ぎゃー!!
(突然、ヴィンスの携帯が、高音波を発する。その音でブラック・フロストが爆発してしまい、赤いカウボーイ・ブーツだけが残る。)
ヴィンス:あれ、いただき!


 夜の雪原

(ハワードとヴィンスが、背中合わせに縛り付けられたまま、歩いていく。)
ハワード:よし、動物園に帰るぞ。
ヴィンス:俺を前にしてくんない?
ハワード:だめ。そうはいくか。
ヴィンス:俺のこと愛してんじゃなかったっけ?
ハワード:お前、それを誰かに言ったら速攻で殺すぞ。ところで、誰が電話を鳴らしたんだ?
ヴィンス:なんだって?
ハワード:誰かが電話してきたから、助かったんだろう。
ヴィンス:着信記録があるだろ。


(終)
 
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