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アヤシゲ翻訳 シークレット・ポリスマンズ・ボール The Secret Policeman's Ball (2006)


ナレーション:レディース&ジェントルメン,ザ・マイティ・ブーシュ!
(ハワードとヴィンス登場)
ヴィンス:ヘイ!元気か?エラソー野郎ども!俺の名前はヴィンス・ノワー。こっちのおかしな兄ちゃんは、ハワード・ムーン。
ハワード:やぁ。やめ…触るな。
ヴィンス:はぁ?
ハワード:触るんじゃない。
ヴィンス:ジョークな。こいつはいつもこうなんだ。
ハワード:ジョークじゃないぞ。
ヴィンス:はぁ?
ハワード:俺には二度と触るな。ここでも、どこでも、ハンモックを買いに行った先でも触るな。とにかく触るんじゃない。
ヴィンス&ハワード:はは〜ん?!
(ヴィンスがハワードに触れる)
ハワード:触るな。
ヴィンス:さてと、皆さんのためにどえらいものを見せてやるからな。ああ、俺たち誰をとっ捕まえたんだっけ?
     デイリー・トンプソンだぜ。そのうち出てくるか。あいつ、計算機をノコギリで真っ二つにしてたぞ。
     どこに数字が入ってるのか見たいんだとよ。デイリー!
ハワード:俺はロシアを舞台にした短い脚本を書いてきたよ。ここは一つ、みなさんにお見せするために、上演しましょう。
ヴィンス:そう…それよりも先にさ、あの…思ったんだけどさ、これってパーティ,お祭りじゃん。
     ほら、みんな立ち上がって、ほら彼女なんかあんな顔して、みんなハイだろう?だからさ、もっとなんつーか…
ハワード:なんだよ。
ヴィンス:だからさ、景気付けっつーか、ウォーム・アップなんてどうだ?ゲームとかさ。
ハワード:ゲーム?
ヴィンス:そう!ゲームさ、いいだろう?俺、ゲームを考えてきたんだ。
ハワード:今夜のために?
ヴィンス:そう!
ハワード:オーケー。説明してみろよ。
ヴィンス:よっしゃ、まず最初にそうだな、ゲームの名前は「白いデカ顔ウサギ攻撃」(*注)って言うんだ。な?
     名前からして天才的だろ!説明はこれからだぜ。まず、みんなここに居るだろう、どこに居たっていいや。
     風車小屋に居たって構わないんだから、な?そこに、巨大ウサギが来るんだよ。
     まじで馬鹿でかくて、顔もでかい。でさ、「うぉお〜!」とか、すげぇ怖いわけ、な?
     ウサギが走ってくるだろ?そしたらこっちは一目散に逃げるか、ピーナッツを投げつけるか、
     ブーツを脱いでそれでウサギの頭をぶん殴るかするんだ。でも、ウサギに捕まっちゃったとするだろ、
     そしたら床に叩きつけられて、ゴーカンされるってわけ。
(会場大うけ。ハワードとヴィンスの間には微妙な空気。)
ハワード:ええと…それって、全然ゲームじゃないよな?ただのドタバタの連続だ。恐怖のドタバタ連続ゴーカン攻撃。
ヴィンス:まぁな。でも、ただのゴーカンじゃいぜ。ウサギのゴーカン。恐怖のバニー・バッコンバッコン!
ハワード:それでも全然ゲームになってない。作戦ってものが無いじゃないか。
ヴィンス:でも考えても見ろよ。ウサギがいつ現れるのかは分からないんだぜ。ウサギが生きている間中なんだぞ。
     気長にやろうぜ。よくあるショーとは違うんだ。ウサギは10分以内に来るかも知れないし、1年以内かも知れない。
     それか、2週間だったり、14分以内に来るかも知れない。
ハワード:ウサギが病気の時は?
ヴィンス:そっくりな弟がいるの。
ハワード:はぁ。
ヴィンス:弟はもっと凶悪だぞ。兄貴よりは小さいけど、絶倫野郎だからな。弟に会ったら、座り込んで降参した方が良い。
ハワード:オーケー。じゃぁ、そのウサギが…もしくはウサギの弟が来るのを待つ間、
     俺が今晩のために用意したパワフルで胸を打つ劇をやらないか?な?
ヴィンス:いいよ。オーケー。任せな。じゃぁ、どうしようか?
ハワード:そうだな、まぁ役になり切ってもらえばいい。
ヴィンス:マジかよ!
ハワード:演技できるか?
ヴィンス:演技?実は出来ないんだな。と〜か言っちゃって、これが演技!おおぉ〜う!
ハワード&ヴィンス:♪オゥ、オゥ、オゥ!グルグルねじ巻き オゥ、オゥ、オゥ!グルグルねじくれ ネジ締め
              ねじ上げ、コブラみたいに締め上げちゃうぞ 笛の音楽でダンスも踊っちゃうぜ、
              ふえッ、ふえッ、ふえッ!笛こそ人生!ハヒ〜ア〜ヒ〜ア〜ヒ〜ア〜!最高!♪
ハワード:オーケー。お前、準備してこいよ。
(拍手と歓声)
ヴィンス:なに?
ハワード:お前が準備している間に、俺が作品紹介するから。
ヴィンス:よし、分かったよ。しっかりな。
ハワード:まかせろ。
(ヴィンス、袖に入る前に立ち止まる)
ヴィンス:なぁ、ジュリアン。
ハワード:なに?
ヴィンス:じゃなくてハワード…
ハワード:ハワード。俺のキャラクター・ネームだ。四つ目の壁で益々遅れる。打ち破ってもらおうか。
ヴィンス:なぁ、ハワード。
ハワード:何だ?
ヴィンス:ちょと飲みすぎた。そうじゃなくてさ、ははは…
ハワード:今夜もちゃんとドレスアップできてるじゃん。
ヴィンス:まぁね。お前が「スーツを着るぞ」って言うから、俺はお前がミラーボール・スーツを着るのかと思ったよ。
     まぁいいや。なぁ、こういう退場のしかたはどうだ?オオー!足はカチカチ!手はサルサル!
     カチカチ足とサルサルおテテ、究極の取り合わせアルよ!
(ヴィンス、一旦退場)
ハワード:オーケー。ええ…さて。この寸劇は、私自身が書きました。ええ、ペンで書いたんですよ。
      舞台は、ああ…ロシア、世紀の変わり目の頃です。ええ、皆さんがお考えの事はわかります。
      …そうは考えないでいただきたい。つまり…その、これは暗く、かつ胸を打つ作品なのです。
     それでは、私の作品をお楽しみ下さい。題はシンプルに…「パイ」。

(ハワード退場。重々しい音楽と共に、黒い布を頭から被ったヴィンスが出てくる。)

ヴィンス:すげぇバッカみてぇ…
(ヴィンスがステージの定位置で座り込むと、コートに帽子のハワードが、パイを片手にやってくる。)
ハワード:
(ロシア語風に)パイはいかが〜?
ヴィンス:いらな〜い。
ハワード:美味しいパイだよ〜?
ヴィンス:それでもいらない。前にあんたがパイを持ってきたとき、ちっさなパイ・カッターで切ったら、
     すげぇ数の鳥が飛び出してきて、目だのこめかみだのにバシバシあたって…イタズラ・パイじゃんか!
ハワード:なんで俺のパイが嫌なわけ?
ヴィンス:いま、言ったろ!
ハワード:なんで俺ののパイが嫌なんだよ〜?!
ヴィンス:わぁぁあ〜!
ハワード:なんで俺ののパイが嫌なんだよ〜?!
ヴィンス:いっつもパイばっか!
ハワード:なんで嫌なの〜?!
ヴィンス:いっつもパイば〜っか!
ハワード:なんで嫌なの〜?!
ヴィンス:なんでパイなんて持ってくんだよ!
ハワード:なんで嫌なの〜?!
ヴィンス;毎日、毎日、しょーもないパイパイばっかー!
ハワード&ヴィンス:わぁあぁぁあああああ〜!!
ハワード:
(帽子を取って)どうもありがとう。

(歓声と共に、ヴィンスも立ち上がる。ハワードが帽子をヴィンスの頭にのせる。)

ハワード:どうもありがとうございます。この作品で、私が伝えたかった事は皆さんにお分かりになったと思います。
ヴィンス:この帽子いいね。ピート・ドハーティみたいじゃん?あれぇ〜?俺のバンドはどこいったぁ〜?
     よう、あんたはフロントマンだろ?バンドは後ろに居るじゃんよ!
     あ、ほんとだ、サンキュ!
(ヴィンス、右手で左腕を叩きながら、帽子を袖に放り投げる。)
ハワード:それ、なんだよ。
(右手で左腕を叩いてみせる)
ヴィンス:あ?ああ、ピートがジェスチャー・ゲームをしてるところ。
ハワード:なるほど。感銘を受けただろう?
ヴィンス:そうでなきゃいけないわけ?
ハワード:なんだって?
ヴィンス:感銘ってなんだよ?
ハワード:はぁ?
ヴィンス:なんか、暗くなかった?
ハワード:何が言いたいんだよ?
ヴィンス:引いてたじゃん。ほら、あの人見ろよ。目にサラダ・スプーンを突っ込んでるじゃん。
ハワード:そうか?その目で見たものをどう理解すれば良いか分からないからだろ。そうじゃなくて…
ヴィンス:涙で下半身を濡らそうとしてんだよ。
ハワード:いいか、俺の作品にケチつけるんじゃない。
ヴィンス:じゃぁ、どうすんだよ。
ハワード:俺だってお前をけなすからな。
ヴィンス:へぇ。
ハワード:そうさ。
ヴィンス:マジで?
ハワード:手加減しないぞ。
ヴィンス:ふぅん?
ハワード:容赦なし。ハゲタカよろしく。いいか、おまえ…どんどん追い詰めるからな。
ヴィンス:お前、そんな機敏な動きしたこと無いくせに。
ハワード:するぞ。
ヴィンス:お前の動きなんてさ、すげぇ軟弱そうじゃん。香油かなんか、デリケートなもんをすり込んだみたいにさ。
ハワード:そうか。俺は新しいアクションをゲットしたんだ。
ヴィンス:へぇ。
ハワード:すっかりお馴染み。
ヴィンス:それ、どっかから取り寄せたのか?
ハワード:うん。今朝届いた。
ヴィンス:へぇ。第一便?二便?
ハワード:第一便。効き目一発第一便!フェンシングで、いざ勝負!
(剣を取り出す)
ヴィンス:そう来るか。
ハワード:そ。
ヴィンス:やるか?
ハワード:やるぞ。
ヴィンス:そっか。俺も、そのアクション、ゲットしてるもんね。いざ、勝負!
(剣を抜くが、効果音がずれている。)
ヴィンス:何やってんだよ!
(ハワードが効果音と共に剣を振る。)
ヴィンス:
(効果音係に向かって)準備オッケー?

(ヴィンスが滅茶苦茶に剣を振り回すと、わき腹を押えて苦しみ始める。)
ヴィンス:いててて…あぁ、すい臓がずれてしまったぁあ〜
ハワード:大丈夫か?
ヴィンス:体の中をゴロゴロ動き回ってる。
ハワード:診てやろうか?
(ハワードが近づいてきたところで、ヴィンスが打ちかかる。何度か剣を交わし、二人は距離をとる。)
ハワード:中々やるな。このラッセル・ブランドのモノマネ上手。アーゥ、チカチカー!
ヴィンス:そういうお前も、悪く無いじゃん。偽ショーン・ビーン。
ハワード:はぁ?ショーン・ビーンなんて、全然俺に似てないぞ。
ヴィンス:何言ってんだよ。お前が女を口説いてるの聞いたぞ。
     よーう、イケてる牝牛ねぇちゃん!俺の芝刈り機に乗ってかなーい?行こうぜ、俺の手押し車で、雌狐ちゃんよ!
ハワード:あの晩は飲みすぎてたんだ。行くぞ。
ヴィンス:だろうね。俺も酔ってたから、手押し車には俺が乗ってたんだもん。
(改めて打ち合いを始める二人に、拍手喝采。)
ハワード:分かっているだろう?俺には絶対に勝てないぜ。
ヴィンス:そうかい。なんで?
ハワード:お前が知っている事は、俺が全て教えてやったからさ、ぼうや。
ヴィンス:俺が知ってる事は全て、お前が教えてくれたんだろうけど、
     お前が知っている事を全て、俺に教えたわけじゃないだろう?
(ハワード、暫し考え込む)
ハワード:そりゃどういう意味だ?
ヴィンス:俺にもわかんねぇ。
(打ち合い再開。やがてハワードがヴィンスの剣を叩き落す。)
ハワード:はっはー!さぁ、今すぐに謝れ!
ヴィンス:くそー、嫌なこった。ところで何か忘れてるだろ。
ハワード:何だ?
(ヴィンス、ハワードの股間に一発パンチを食らわす。)
ヴィンス:コック(=急所のこと)・パンチング!困った時には、コックニー・コック・パンチャー!
     一直線にパンチ!あっちにもパンチ!対角線上にもパンチ!この技術で、コネクト・フォー・ゲームもお手の物だ!
     さーてと。お前に助けなんて来ないもんね。
(ハワードの背後から剣を振り上げると、突然警告音が鳴り響く。)
ヴィンス:クソっ!立って、立って!逃げろ!あっちだ、早く、早く!
(袖から、ウサギのきぐるみ一団が現れる。ハワード、立ち上がると、ヴィンスと一緒に走って逃げ出す。)
音楽:♪白いデカ顔ウサギ攻撃!攻撃!攻撃!ウサギ攻撃、ウサギ攻撃!♪
(ハワードとヴィンス、客席に飛び込み、走り回るが、ウサギたちもそれを追いかけてくる。)
ヴィンス:わぁ、くるぞ!クソー!
(ハワードとヴィンスが、会場中央のステージに倒れこんだところに、ウサギが重なって襲い掛かってくる。ウサギたちが勝利を宣言し、暗転。)
ナレーション:ザ・マイティ・ブーシュでした!


*注:このヘンなゲームのタイトルに、Peltという単語が入っています。動詞としては「投げつける,浴びせかける」,
   名詞では「強打・乱射」であり、もう一つ「動物の生皮,毛皮」という意味もあります。
   恐らく、これら全ての意味を含めてのタイトルなのでしょう。


(終)
 
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