婚約破棄の慰謝料を、婚約者の母親に請求できるか
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2015.5.31mf
相談
婚約しましたが、私と婚約者の母親との仲がしっくりいっていませんでした。式場も決まりましたが、ある日突然、婚約者から電話があり、「結婚を止める」と言われました。彼の話では母親が反対しているようでした。
私は、母親に対して損害賠償請求ができますか。
相談者は、市役所の法律相談室 で弁護士に相談しました。相談は無料でした。
回答
正当な理由のない
婚約破棄
は、不法行為ないし債務不履行です。
第三者(母親)も共同不法行為者として責任を負います。
しかし、この責任は一次的には、婚約当事者が負うべきものであり、当事者以外の者については、婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られるというべきです。
判例では、不法行為として、婚約破棄に加担した、婚約者の親族(母親、父親)の責任が認められています。
婚約破棄を不法行為として認めるどの説も、
損害の範囲は、婚約を信じたことにより生じた損害としています。婚約披露費用、仲介人への謝礼、
婚約によつて勤めを辞めたことによる逸失利益などは損害としています。
交際中の費用、見合い費用嫁入道具を購入した費用などは、損
害に含まれないとする考えもありますが、これを損害とする判決もあります。
この(下記徳島地裁の)判決は、婚約者(男性)の婚約破棄は不
当であり、原告(女性)の生活上の利益に対する故意に
よる不法行為であり、婚約者(男性)
の婚約破棄の決意を誘発し、その形成に寄与し
た母親も共同不法行為者としての責任を負
うべきであるとしています。
損害賠償として、嫁入道具購入代金の
7割に相当する額の損害約161万円、勤務先
退職による逸失利益約123万円(再就職まで約1年間の減収分。給与月額の12か月分)、慰藉料40
0万円など合計779万円余の損害賠償の支払
を命じました。
勤務先退職による逸失利益は、1年間の給料から約30万円をマイナスして認定しています。詳細は不明です。
あなたのケースでは、婚約破棄につき正当な理由がないようです。彼と母親に対して慰謝料を請求したらいかがでしょう。
当サイト内の婚約に関する記事
判決
- 東京地方裁判所平成18年11月14日判決
婚約当事者は互いに誠意をもって交際し,婚姻を成立させるよう努力すべき義務を有し,婚姻後夫婦として共同生活を期待すべき地位にあり,かかる地位は法の保護に値する。そして,一たん婚約した者が婚約を破棄した場合や当事者以外の者が婚約当事者に対して婚約を破棄することを決断させたような場合には,婚約当事者のみならず,当事者以外の者も,婚約の相手方に対して損害賠償責任を負うことになる。しかしながら,かかる責任は一次的には,婚約当事者が負うべきものであり,当事者以外の者については,婚約解消の動機や方法等が公序良俗に反し,著しく不当性を帯びている場合に限られるというべきである。
そこで,上記認定の事実により,被告の不法行為の成否について検討するに,本件婚約の破棄は,Aが,被告に対して好意を持つようになり,原告との婚姻を考えることができなくなったために行ったものと認められる。そして,Aと被告の交際は,Aの被告に対する積極的な申入れから始まったものであり,被告が,Aに対し,積極的に交際を申し入れたり,本件婚約の解消を促したり迫ったりした事実は認められないから,被告が,Aに対し,本件婚約を解消するよう決断させたものと認めることはできないし,その動機や方法等が公序良俗に反し,著しく不当性を帯びているものと認めることもできない。
- 東京地方裁判所平成15年5月22日判決
慰謝料について
(1)以上から,原告の主張のうち,被告Aについて婚約を不当破棄したことによる不法行為の成立は認められ,被告B(被告Aの父)及び同C(被告Aの母)が前記婚約破棄に加担した事実並び
に被告らの原告に対する堕胎の強要,認知の強要及び養育費の不払いによる不法行為の成立は認められない。
(2)前記説示したことを前提に慰謝料について検討する。原告は,被告Aとの婚姻を前提にEを出産していること,被告Aは,Eの出産の直後,一方的に婚姻を破
棄し,その後Eの養育を一切行っていないとの事情が認められる一方で,原告と被告Aとの間には事実婚類似の関係があったとまでは認められないこと,婚姻の期日,
婚姻後の生活方法までは明確に合意していないこと,被告Aは司法試験受験生であり無職であること,二人の年齢等の事情を総合すると,被告Aによる婚姻の不当破棄
による原告の精神的損害は150万円というべきである。
- 徳島地方裁判所昭和57年6月21日判決
被告らは結納交付後ともに本件婚姻につき消極的態度に変じたものであるとこ
ろ、被告花枝(母親)の右態度が強度であったのに対し、被告太郎(婚約者)のそれは同花枝の働きかけを受けながらもむし
ろ優柔不断なものであつて、婚約破棄の意思表示を敢てした当の4月28日朝に至るまでの間は結婚式を
実際にとりやめるまでの決意には至っておらず、仮に被告花枝が同太郎に対し婚約の履行をすすめなかっ
たまでも、かくまで反対の意思を強調することがなかつたならば、同被告において、なおいくらかの浚巡
を呈しつつも、本件婚約を破棄することなく婚姻していたものというべきである。
かかる場合被告花枝の
右各行為、すなわち被告太郎に対する婚姻反対の働きかけ、原告の欠点の指摘、4月28日の丙村への電
話並びに被告太郎と同行したうえの婚約解消の依頼等の各行為は一体となって被告太郎の婚約破棄の決意
を誘発せしめ、右決意の形成に寄与したものというのが相当であり、ひっきようこれらは被告太郎による
婚約破棄と相当因果関係を有すると解すべきである。
それ故被告らは共同不法行為者として原告に対し右婚約破棄によって生じた損害について連帯して賠償
の義務を負うものである。
- 大阪地方裁判所昭和43年11月12日判決
甲男は、被告が昭和39年8月ないし10月ごろ訴外丙に宛てて、原告はかつて石川県片山津温泉にお
いて売春婦をしていたことがあり、盗癖を有し、枕探しをしたことがあるなどと書き送った葉書を読むに至って原告に対する態度を一
変させ、そのようなことをする女は子供の教育上よろしくない、たとえ嘘であつても子供には知られたくない、火のないところに煙は
立たないと云って原告を責め、加えるにいささか酒乱の癖があったところから、酒を飲んでは被告の右葉書をたてに取って難詰し、暴
力を振い、出て行け呼ばわりをし、はてには自ら家を出て帰宅せぬまま、電話で汚らわしい女がいる間は帰らないと告げたりし、昭和
40年2月3日には結婚4ケ月にして原告をして実家に帰ることを余儀なくせしめ、以後両者は別居したまま互に婚姻を継続する意思
を全く喪失したものであることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。右事実によると原告と甲男との内縁関係はすでに解
消しており、これが解消するに至ったについては、被告の訴外丙に対する右の葉書が相当な原因を与えたことが明らかである。
(二) そして、〈証拠〉によると、原告は初婚に破れた後石川県片山津町で旅館女中をしていたがやがて来阪し、旅館女中や旅館
主の妾になったりしているうちに被告と知合い、昭和37年12月ごろ以降は被告に妻子あることを知りながらこれと情交関係を持つ
に至り、金銭を受けることを反対給付として被告の妾となったものであること、ところが昭和38年5月ごろから被告より経済的に得
るところが少くなったのみでなく、被告には他にも古くからの妾が居ることが分ったため、被告と別れようと思料するに至り、昭和39年夏ごろ、その旨を被告に対し告知したところ、その同意の意思表示を得ることはできなかったけれども、同年8月ごろから被告の
足が遠のいたため、被告との関係はほぼ清算できたものとして、当時から話が始まった前記甲男との結婚の方に動いたものであること、
しかるに被告は原告と別れる気はなく、そのため原告の結婚話をこわしてやろうと考え、8月から10月にかけて、訴外丙をはじ
め四名の者に対し、前(一)項認定のような事実を記載した葉書や封書を到達せしめて原告を中傷したのであるが、これは事実として
は虚偽の事実であり、かつ右四名の者を選んだのは、これらに宛ておくと原告の結婚話の相手に告口されて、結婚話がこわれることを
予想したからであったことを認めることができる。そうすると被告が訴外丙に対して原告を中傷する葉書を送った行為は、
原告との妾関係という違法な関係を継続せんがために、原告の結婚話をこわすことを意図した違法な行為であると解すべく、かかる行
為は、結婚話が成立してすでに内縁関係に入つた者に対し、Δその内縁関係を破綻せしめる形において損害を生ぜしめたとしても、
特別な事実の主張、立証のない本件においては、なおその間に因果の関係を認むべきことは云うまでもない。
三、以上のとおり、被告は原告との間の妾関係という違法な関係を維持せんがため、原告に生じた結婚話をこわそうとして誹毀文書を
送付し、その結果原告の内縁関係を不法に侵害したものである。而して右内縁関係の破綻についての甲男に関する有責事由その他特別
の事実については、二項中に認定したもの以外は主張、立証がないので、これ以外は全て被告に帰責せられる。このようにして、本件
に表われた一切の事情を考慮するとき、原告が被告の右不法行為によって蒙つた損害は、20万円をもって相当とすると解すべきで
ある。
- 最高裁判所昭和38年2月1日判決(出典:最高裁判所民事判例集17巻1号160頁)
内縁の当事者でない者であっても、内縁関係に不当な干渉をしてこれを破綻させたものが、不法行為者として損害賠償の責
任を負うべきことは当然であって、原審の確定するところによれば、本件内縁の解消は、生理的現象である被上告人の悪阻による精神
的肉体的変化を理解することなく、懶惰であるとか、家風に合わぬなど事を構えて婚家に居づらくし、里方に帰つた被上告人に対して
は恥をかかせたと称して婚家に入るを許さなかつた上告人らの言動に原因し、しかも上告人A(内縁の夫の父)は右被上告人の追出にあたり主動的役割
を演じたというのであるから、原審が右上告人Aの言動を目して社会観念上許容さるべき限度をこえた内縁関係に対する不当な干渉と
認め、これに不法行為責任ありとしたのは相当である。
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