煌めくアナログサウンド 全段真空管増幅の夢を実現!

12AX7イコライザーアンプ製作記

1999.09.15更新

 

 

真空管アンプをキットを含めて3台自作しました。CDプレイヤーからの信号を直結して聴く場合が多いのですが、アナログレコードは、テクニクス製のプリメインアンプのPHONO入力をRECOUTから出力した信号、もしくは、SONY製の電池タイプのイコライザーEQ−2を接続して聴いてました。両方ともまぁまぁの音でしたが、真空管のイコライザアンプの音はどの様なものか聴いてみたかった事と、どうせ管球式にするならば、信号の入り口から出口まで真空管で統一してみたかった訳です。それで、実用真空管ハンドブック(誠文堂新光社初歩のラジオ編集部編)に出ていた12AX7の解説ページに出ていたNFB型のイコライザーアンプの回路図を参考にして組み立ててみた訳です。

真空管は、ロシア製のSOVTEKブランドを使用しました。

回路構成はシンプルで、初段及び出力段を12AX71個でまかない、2個でステレオ構成にしたものです。例によって基盤上に真空管やCR類等総ての部品を配列し、ケースに収める方式を採りました。スペースの都合上、電源回路とイコライザー回路を一個の基盤上に組み立てました。12AX7は直流点灯しなければ雑音が出るので、ブリッジダイオードとコンデンサで整流回路を構成しました。電源トランスは、最初は、大阪高波のオートトランスで100V200Vに昇圧したのちに、管野製作所のトランス200Vから6.3Vに減圧する方式を採用しましたが、後で大きな問題を起こす事になります。

左の写真が最初に完成した内部写真です。電源トランスの影響をさける為に12XAを出来るだけ離したつもりですが、やはり放射ノイズの影響を受ける事になってしまいました。右のトランスは、オートトランスと言って単巻のものです。従って100V電源と内部回路には、導通がある訳で、今から考えてみれば非常に危険でした。最初の接続試験の時は、ノイズは大きいものの、一応動作していたので、今度は、本式にコンポに接続したら....

 

3度もブレイカーが落ちる羽目になりました。ブレーカーはスイッチを切った状態でも落ちました。スイッチが切れていない側から電流が内部に流れ、接続されているLPプレイヤーのアースを経由してショートしたと思われます。ブレイカーは屋内にあるやつでなく、外部の電線から引き込み側にある大元のもので、相当危険な大電流が流れた様です。その後、図書館で「アースの話」(伊藤健一著、日刊工業新聞社)を読んで、オートトランスの危険性について改めて認識しました。

 

その後回路の安全性等の見直しを行い。ノグチトランスのPMC35-Eを取り寄せ、230VDC30MAを整流後流していますが、ブレイクダウンは起こらなくなり、無事動作しています。また、何よりも良かったのは、ノイズが大幅に減少した事です。今では、パワーアンプの出力を最大にして、スピーカーの近くによると、なんか聞こえるかなと言う程度に減りました。また刺激的なノイズでは無く、極く低い音域のハム的なノイズです。

左は改良後の内部写真、トランスが一つになりすっきりした。伏型のトランスなので底部をスペーサが持ち上げてあるが、ネジ穴の長さが合わず、やむなくトランスの上部にボルトを出して、ナットで止めてあります。(不細工ですね。)

試聴後印象ですが、残念ながら、中高音は、澄んでおり、しかもキレも良くむしろ普段聴いているCDの音よりもデジタル的ですが、低音の量感が今ひとつです。

NFBの回路に使用しているコンデンサや抵抗の定数をいじって見て調整して見ようと思います。

 

それとノイズを完全に抑えるには電源部を完全に分離する必要がある様で、最終的には、電源トランス等を外して、その部分にフラットアンプ基盤を増設して、セレクターとトーンコントロール回路を追加するつもりです。また、他にも応用可能な電源ユニットを作る計画ですが、まず、音色の改良が先ですね。

今回の製作費用は、後でトランスを購入した費用を加えると真空管を含めて合計で、1万5千円位でした。(意外に高くついてしまった。)

グレードアップ大改造!

その後、この管球式イコライザーアンプに、RIAAカーブ以外にffrr、初期コロンビア盤、SP盤の3種類のイコライザカーブを選択するセレクタ及びL+Rのモノラル切り替えスイッチ、大型筐体に入れる大改造を行いました。心臓部のイコライザ回路は、前作のをそのまま転用しました。ケースもかなり大型のリード社製のUX-310を使用しました。これだけでプリアンプ並みの大きさがあります。それでも電源回路やセレクタ部分、NFBイコライザ素子の選択回路等を設置すると結構、スペースはこれで埋まってしまいます。このケースにセレクタとフラットアンプ、トーンコントロールを詰め込んでプリアンプ化しようとする野望もありますが、それにはやや窮屈な大きさです。左上がステレオ・モノラル切り替えスイッチ、下が電源スイッチ、右の金色のつまみがセレクタです。セレクタの選択部分の文字のレタリングが本来は欲しい所ですが、制作者しか使用しないので今の所はこのままにしています。大きさはミニコンポ並みでこれでイコライザの機能しかないです。この様な機械は自作でしかみかけないでしょうね。

内部は、パワートランスと内部回路の間にはシールドが設けてありますが、これでかなり雑音は減りましたが、L+R切り替えスイッチがデザイン上、電源シールドの内側にセッティングしたのでノイズの影響を受けて、対策に往生しました。現在は、アルミ箔で覆う事でノイズをほぼ退治しましたが、やはり、筐体と内部回路のレイアウトの検討は回路設計以上に気を使わなければ、良いオーディオ製品は出来ないと思います。

初期LPの再生試聴印象

 

このイコライザアンプは、現在と言うか、LPの最終録音特性であるRIAAカーブロールオフ周波数2120Hz、ターンオーバー500Hz以外に初期デッカ盤に使用されていたffrr(ロールオフ3000Hz、ターンオーバー500Hz)、初期コロンビア盤(同1570Hz、ターンオーバー500Hz)SP盤(同フラット、ターンオーバー500Hz)の3種類のイコライザカーブを選択出来ます。

私は初期のコロンビア盤はあまり所有していないのですが、ffrrのモノラルLPはたくさん持っています。まだ、LPレコードしかなかった時代、往年の巨匠達の演奏に興味を持ち、栄光のMZシリーズ等のモノラル廉価盤を買い漁りました。現在でも良く楽しんでますが、RIAAカーブで再生するとやや、高音に特有の癖があり、「これがffrr録音」とのイメージを持っていました。その後、CDでこれらの名演奏が復刻されましたが、どうもLPの演奏とイメージが異なる地味でしかもややハイ上がりで低音が思った程出ていない音質を意外と感じたのでした。フルトヴェングラーのフランクの交響曲ニ短調の有名の録音をRIAAで再生すると、ドンシャリ型の音に聞こえてそれなり、迫力があり、こちらの方が良いと思ってました。

 

このアンプが完成した事で、ffrr録音のコレクションを片っ端から聴いてみましたが、実に自然に高音域は延び延びと低音も余裕を持って再生されます。ワルター指揮フェリア、パツァークのマーラー「大地の歌」を聴いてみましたが、こちらはCDに近い音質は意外であったけれど、弦楽器の余韻やトライアングル、マンドリン等の音が生々しい。フェリアの歌唱は、こちらで聴いたら、更に音程のずれとか「下手だなぁ」との印象を受けたが、同時に高音を伸ばした時の美しさ、歌詞がハッキリとしかも生き生きと聞き取れる。このアンプで「大地の歌」を聴いて、この作品の文学性とも言うべき要素を改めて痛感させられました。

25センチ盤もいろいろ持っていますが、ロンドン盤でチェロがフルニエ、カールミユンヒンガー指揮、シュトゥットガルト室内管弦楽団のクープランのチェロと弦楽合奏のための演奏会用小品集やヴィバルディのチェロコンチェルトホ短調を聴きました。RIAAのステレオで聴いた印象とモノラル再生でffrr再生で聴いた印象とは全く異なるものでした。若き日のフルニエの瑞々しいチェロが一際鮮やかにしかも、バックの弦楽合奏からはっきりと浮き出して聞こえます。更に譜めくりの音とか初期LPにこんな音まで入っているのかと言う事まで聞き取れます。

先ほどのフルトヴェングラーのフランクの交響曲ですが、RIAAで演奏した場合に比べると、高音域、特にヴァイオリンのハイポジションの音が鮮やかにしかもウィーンフィル特有の特長を持ったやや弾力ある音色が聞き取れます。また、金管楽器が以前はわめいているだけであったのが、フルトヴェングラーごのみの凄みと暗さ、重厚さを兼ね備えた咆哮に聞こえてきます。良く聴けば、フルトヴェングラーが指揮台を動き回っている様子、フレーズ毎に入る呼吸と足音等が聞こえて来て、フルトヴェングラーのモノラル演奏がこれ程説得力を持って演奏されるのを初めて聴きました。

 

全体の印象としては、真空管で再生するLPレコードと言うのは、こんなに優しく、暖かく、独特の憂愁を持ち、心に訴えかけてくるのに関心しました。最後にアナログ期の最終時期のカラヤンベルリンフィルのマーラーの交響曲第9番のアダージョ楽章をかけてみましたが、低音弦の雄大さ、まさに死の淵を思わせる無限の寂寥感がなんの技巧もなく響いてきて、カラヤンと言うのは、人工的だと言われていたが、実に自然な指揮をする指揮者であったと改めて思いました。、

 

今後、更に美しいLP音楽を聴くためにも更に改良を重ねていくつもりです。

 

このイコライザアンプは、本格的プリアンプへ発展しました。

 

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自作の教訓とお願い 製作記事を読まれて実際に作られた場合、発生した危険、事故については責任を追いかねますのでご了承願います。特に真空管の場合は、高圧電流が流れるので、感電や火災の危険性もあります。十分に危険防止を考えて製作に取り組みましょう。

色々と試聴の印象を書いていますが、感じ方は人それぞれです。もし、同じ様な機械を制作されていて試聴した印象が異なった場合には、それぞれの感じ方が自然なんですから、それなりに楽しんで下さい。また、ノイズが少ないと書いてますが、電池式のイコライザーに比べるとかなりのレベルのノイズがあります。真空管の限界がどの程度かと思いますが、組み立てる時、常にノイズの少ない配線処理、結線方法、電源トランスの選択などに留意される事が大切だと思います。