<1>
ボスからのメッセージ
「ええ...」支折が言った。「クラブ須弥山の弥生さんが、サンドイッチとコーヒーを用
意してくれました。小休止にしたいと思います...」
政治部の青木昌一が、編集モニターの方で手を上げた。
「あ、はい!青木さんの方で、何かあるでしょうか?」
「ボス(岡田)がインフォメーション・スクリーンで待機います、」青木が、壁面のインフォメ
ーション・スクリーンを回復した。「こちらの方の準備が整いましたので、小休止をしな
がら、“国民主権の戦略的展開”について、ボスの話を聞きたいと思います...」
「あ、ボス、おはようございます!」支折が言った。「今年も、よろしくお願いします!」
「うむ!あいさつは抜きだ!さっそく始めよう!」ボス(岡田)が、スクリーンの中で言っ
た。
「はい!それじゃ、おねがいします!」
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「私の言いたいのは...一言だけだ...
何年前になるかな...細川さんが、“細川・新党”を立ち上げたのは...それが
“日本新党”になり、すぐに政権をとった...しかし、拙速だったのか、“日本新党”
は、十分には育たなかった。国民が期待したほどには、機能しなかった...ともかく
自民党を倒すということで、あせりがあったわけだ...
私は...細川さんが、テレビで“細川・新党”を立ち上げると宣言した、その数日後
には入党したと思う。あの、“細川・新党”の頃は、良かったねえ...私のような者で
も、必ず声をかけて呼んでくれた。私も何度か参加した。それから、“日本新党”になっ
たわけだが、しかし、私は政治的な野望はなかったので、次第にその中心から離れ
ていった...
そして、つぎに私が、直接政治に参加しようと思ったのは、前回の参議院選挙だ。
が、やはり、本来政治向きではないということで、断念した...この判断は、良かっ
たと思う。私はやはり、この時代に生まれた1人の思想家として、多方面の事にコメン
トしているのが似合っていると思う...」
「はい...」青木が言った。「その経緯は、十分に承知しています」
「うむ!そこでだ...何が言いたいかというとだ...」
「はい、」
「私は、この日本に、もう一度...今こそ、“日本新党”が必要だと思っている...当
時“日本新党”に参加し、政治家になった人々は、皆日本の政治の泥沼に飲み込ま
れて行った。それは、まさに、すさまじいものだ。
むろん、当時の“日本新党”は、今はなく...中には敵対していた自民党へ流れた
政治家も多い...結果として、変節してしまったわけだ...皆、一体、どうなってしま
ったのか...まさに、日本の政治の構造がおかしく...個人の力では、どうしようも
なかったのだろう...」
「はい...それは、まさに私たちも今、感じています」
「さて、そこでだ...
私は...政治家にはならなかったゆえに...“細川・新党”、そして“日本新党”
の精神を、今も純粋に受け継いでいる思っている...そこで、再び、党名を変えて、
“新党・日本”を提唱し、その精神を再生したいとおもっている...」
「はい!旗揚げするわけですか?」
「いや...
私は、この時代に生まれた1人の思想家だ...政治家としての、旗揚げはしない。
その仕事を、政治的理想に燃える人にやってもらいたい。とにかく、若い人にやっても
らいたい...私は、思想家として、そのバックアップの仕事なら、微力ながら出来ると
思う」
「はい...それが、ボスの夢でしょうか?」
「政治的野心は、もともと私には無い。むしろ、静かに暮らしたい人間だ。ただ、一人
の思想家として、この時代を眺めていると、あまりにも乱れに乱れている。1人の日本
国民として、やるべき事は、やらにゃならんだろうという事だ...」
「はい...」
「党の名称は何でもいい...ともかく、新時代の政治家の卵に、この“日本の政治を
一新する仕事”に立ち上がって欲しいと思っている...この日本の政治を、あの“日
本新党”発足当時のように...今度こそ純粋に、真の民主政治に変えて欲しいと思
う...私の言いたいことは、これだけだ」
それだけ言うと、ボスは自分の方からスクリーンから消え去った。
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「ええ...」青木が、緊張した面持ちで、眼鏡の縁に手をやった。「ボスからのメッセ
ージは...“日本新党”を、名称はともかく、“その精神”を、再び立ち上げて欲しいと
いうことですね。やはりこの国は、政治が変らなければ、変っていかないのだと思いま
す」
「はい、」支折が言った。
「ええ...このボスのこの意見を踏まえて...、“国民主権の戦略的展開”の中で、
“政治の世襲問題”を考察してみようと思います...
何処から手をつけても同じですが、“官僚の天下り”と同じで、“政治家の世襲”が、
諸悪の根源になっています。その“世襲・議員”が、日本の政界では、肩で風を切って
歩いているわけです」
「あの...ボスの、この意見というのは、どうなのでしょうか...急なものだったので
しょうか?」
「いえ、それは、当然の流れだと思います...」青木は、また眼鏡の縁に手をかけ
た。「だからこそ、何年か前、細川さんが“細川・新党”を立ち上げたのですから...
細川さんは、日本の政治を変えようとしたのです。今は、当時とは比べ物にならないく
らい、切迫した状況で、まさに“細川新党”を必要としているのです...」
「はい。まず、取り上げるのは、政治の世襲問題ですね、」
「“世襲”が...なぜ問題かということを、ここで改めて、一言いっておきます...
“世襲”で問題なのは、個人が議員を世襲するというよりは、利権構造が代々受け
継がれていく事が、大問題なのです。これは、民主主義社会をいびつにし、閉塞感を
加速させます。小泉・首相の“人生色々発言”で、それは如実に示されていると思い
ます。小泉さんは、まさに3世・議員ですからねえ...
それから、“NHKに対する政治的圧力”が、あったとか、無かったとか、で騒いで
いる自民党の安部さんも、やはり3世・議員ですね。まあ、面白いのは...安部さん
の主張とは裏腹に、騒げば騒ぐほど、それそのものが政治的圧力になっているという
事です...それそのものが、政治的圧力の風景なのです。口先で勝っても、戦略で
負けているとは、このことです...
こういう3世・議員や2世・議員が、政界では肩で風を切って闊歩しているわけです
ね...世襲・議員などはむしろ、肩身が狭い様でないといけません。いや、世襲・議
員などは、本来、あってはならんのです...」
「はい」
「これは“天下り”と同じ意味で、全面禁止にするべきです。政治家として、親と同じ道
を歩みたいのであれは、利権構造の無い、遠く離れた選挙区から出馬すればいいの
です...
ええ...では、始めますか...」
「はい、お願いします。この問題では...」支折は、茜の方に小さく頭を下げた。「進行
役は茜さんに、お願いします。私は、小休止をとりますので、」
「あ、どうぞ、」茜が言った。
<2>
旧・日本新党の版図を起動!
「コホン...ええ...世襲問題を...」茜が、コブシを握り、正面から青木を見つめ
た。「“国民主権の戦略的展開”の中で、考察するということですね?具体的に、どう
いうことなのでしょうか?」
「はい...」青木は、一瞥し、彼女の強い視線を肩で受け流した。「これは、至って単
純明快です...“主権の戦略的展開”の1つとして、国民全体が、“世襲・議員”に投
票しなければいいわけです。そうすれば、“世襲議員”は確実に落選します...そう
ですよね?」
「もちろん、そうですわ!」茜は、首を反対側にかしげた。「それが、“主権者の力”で
す!小さな力ですが、結集すれば、この国の全てを動かします!」
「しかし...」青木は言った。「それだけでは、うまく行きません...つまり、“代わりに
選択すべき人”が、そこには居ないからです。そこで、ボスが、わざわざメッセージをよ
こしたわけです。そして、“日本新党”の意思を継ぐ、“新党・日本”を提唱したので
す」
「はい...そういうことですか...」
「そういうことです!」
「何故、“日本新党”なのでょうか?」
「何故...“日本新党”の意思、を継ぐ必要があるかといえば、そこにはすでに“道”
が出来ているからです。これは、国民の財産です。“日本新党の作った道”が、“掛け
声1つ”で容易に活性化します。たちまち“日本新党”を上回る、巨大な政治勢力の結
集が可能です。
つまり、国民には、その準備ができているということです。災害訓練と同じで、しっ
かりとその訓練を積んでいるということです。当時は、他にも新党が幾つも出来ました
からねえ。国政選挙の無いこの1年をかけれは、十分に準備が出来ます...
むろん、決死の努力無しに、これが達成できるとは思いません。しかし、為せば成
る努力...いや、日本を復活させるためには、どうしても成さねばならない努力なの
ではないでしょうか、」
「そうですか...」茜は、指を組み、無言で青木を見つめた。「希望が持てそうですわ
ね。それから?」
「それだけです!後は、行動あるのみ!
まず、“新党・日本”を旗揚げし、
“日本新党”の版図を活性化します。そして、“日
本新党”と同じように、来年以降の国政選挙に備えるのです。“日本新党”の“ノウハ
ウ”も、“情熱”も、日本全国にまだ脈々と生きているはずです。今こそ、この政治勢力
を、再結集し、さらに大きく発展させる時です。
この準備をした上で、“主権の戦略的展開”として、国民全体が“世襲・議員”には
投票しなければいいわけです。“政治家、総とっかえ”の大波の再来です。この新勢
力が、世襲問題だけでなく、この日本に“平成維新”をもたらしてくれるものと思いま
す」
「はい!」
公共放送・NHKは、日本のミニチュア! 
NHKの健全化は、国家健全化の
“
バロメーター” !

「アッブロード後の推敲中です/内容は、変わりません」
「さて、以前にも言いましたが...」津田が言った。「NHKは、まさに“日本のミニチュ
ア”の様です...開放系システムとして、日本という国家と非常によく似ています。そ
して今は、国家財政と同じように、“浄財”という財政面で、国より先に破綻しつつあり
ます...NHKはまさに、国家健全化の“バロメーター”の役割を、精妙に果たしつつ
あります」
「はい!」支折が、うなづいた。「ええ...高杉・塾長、何か一言...」
「うーむ...そうですねえ...
NHKは、まさに国家健全化のバロメーターとして、国に先行して走り始めていま
す。我々はまず、健全な公共放送を主権者である国民の手に取り戻すことで、この国
の大改造が可能になります。
それから、政治は、“小さな改革”を積み重ねて行くのは得意ですが、“社会のパ
ラダイム”そのものを劇的に変えて行く能力は、著しく不足しています。そのような、大
政治家が出現しなかったと言うことでしょう。
したがって、結局それを実現するのは、“哲学”であり、“思想”であり、ルネッサン
スを動かしていく“国民のエネルギー”...という事になります。最近、このことがしだ
いにはっきりとして来たのではないでしょうか」
「はい。大政治家の不在ということですね...それがこの国を不幸に陥れたと。茜さ
ん、お願いします」
「ええ、現在の日本は...」秋月茜が、作業テーブルにヒジを立てた。「奇妙なこと
に...立法府である政治と、行政府である官僚組織が、“時代”から置き去りにされ
つつあります。彼等の“世襲”と“天下り”は、“モラルハザード”という腫瘍として、歴史
の中に塗り込めていくしかありません。私たちは、新しい政治形態、新しい行政組織
を模索する必要があります。
それから、これは最近特に顕著になってきたことですが...大企業が、この国の
主権者である国民と、対立を深めて来ています。“富の寡占”が進み、国民生活が極
端に悪化して来たことが、何よりの証拠です。そういうことであれば、結局、大企業も
“時代”から置き去りにされて行くということです...
“富”は、社会システムが生み出した“果実”です。それは社会を構成する国民1人
1人に、“正しく公平に再配分”されなければなりません。大企業や、一部の人々が、
独占していいものではないのです。国民は、それに対して、反撃を開始するということ
です...
“情報公開”、“国民参加型・評価システム”、そして“富の正しく公平な再配分”、こ
れが私たちの描く、“新・民主主義社会”の青写真です...」
「はい、茜さん、ありがとうございます」支折が言った。「ええ...青木さんは、今、ちょ
っと、席を外しております...」

「さて、高杉さんの言うように、」津田が、言った。「NHKは、“国家健全化のバロメー
ター”として、精妙に機能しています...
NHKの官僚的体質、天下り体質、浄財による潤沢な資金での放漫経営...それ
から、モラルハザード...いい番組もあり、必死で文化を立て直そうとしている人たち
がいる反面、公共放送の戦略そのものを見失っています。システムが動脈硬化を起こ
し、もはや末期的症状ですね...
いい番組もあるのですが、どこかピントが狂っている...それは、本来の任務を忘
れているからです」
「最近、ようやく改革に動き出しているようですけど、」支折が言った。
「そうですね...
この状況は、日本国家の現状に、まさに“先行”しています。まあ、しかし、何度も
言うことですが...官僚的非効率が支配する国と同じように、どこか陳腐で、全体が
ズレていて、非常に高い能力を持ちながら、何故か自浄作用が無いわけです...
今回は、“改革の掛け声”にごまかされることなく、公共放送の本来の任務まで遡
り、是非、解体再編成まで視野に入れて欲しいのです。公共放送を、“国民主権”とシ
ビリアンコントロールで、どのように立て直すか...まさに、主権者である日本国民
と、21世紀の日本の民主主義が試されています...」
「これが、“日本再生の露払い”になるわけですね」支折が言った。
「そういうことです...我々は、大いに期待しています。
NHKは、“悪い意味”でも、品揃えは豊富です。しかし、国民からの“浄財”が断た
れ、切羽詰っています。ここは、公共放送のあり方も含めて、抜本的な改革と、再編
成が必至でしょう」
「それで、具体的にどうなるのでしょうか、公共放送は、」
「私はとりあえず、公共放送は、複数あっていいと思っています。それを“個人の浄
財”で支えて行けばいいわけです。多チャンネル時代ですから、色々あって言いと思
います...そうした中から、“新しい公共放送の形態”が生まれてくると思っていま
す。こうした時代ですから、今から形にはめるというのは無理だと思います」
「はい。これは、日本文化の再編成にもなるわけですよね」
「そうです...
ともかく、慣習法を復活させ、“勤勉”、“努力”、“勇気”、“優しさ”などを評価し、社
会を安定させなくてはいけません。そして、将来に対し、“夢と希望”を示し、その“道
筋を保証”しなければなりません。それで、誰もが、将来を展望できると言うものです。
そうでなければ、努力のしようがないでしょう。教育問題も、犯罪発生率の問題も、
経済の問題も、社会の全ての“原点”は、そこにあるのです」
「まさに、その通りだと思いますね」高杉が言った。


<3>
NHKのシステムダウンに備えて
「ええ...秋月茜です...
“崩壊寸前の日本社会”ということですが...津田・編集長、事態はそこまで切迫
しているのでしょうか?」
「そうです...
それは国民自身が、すでに社会全般で感じていると思います。中でも、凶悪犯罪が
多発し、治安の面でも、いよいよ大改革を断行しなければ、どうしようもない所まで来
ています。
つまり、社会のトップから...“政治の世襲”や“官僚の天下り”を禁止し、“マスメ
ディアの私物化・陳腐化”を正して行かなければ、どうにもならないと言うことです」
「はい、」
「しかし、今回、ここで改めて言うのは...いよいよ“社会の主要システムの1つ”が、
ダウンするということです。
つまり、公共放送のNHKのシステムダウンです。ともかく、金が回らなくなりますか
らね。これは、非常にダイナミックなものになると思いまます...年金システムなども
破綻していますが、影響はまだ先の話です...しかし、NHKは、即今、資金が回ら
なくなります」


「編集長、」秋月茜が言った。「NHKは、これからどうなっていくのでしょうか?」
「うーん...そうだねえ...」津田は、両手を組み合わせた。「国民の聴視料の保留・
不払によって、NHKは経済的に動かなくなっていくでしょう。
まあ、公共放送としては、すでにあまり役立ってはいなかったので、表面的にはあ
まり影響ははありません。娯楽番組や、教養番組が主で、後はニュースやスポーツ
や、技術開発などですから...
本来の任務である、“公共放送としての社会の啓蒙”や、“社会正義と民主主義の
牙城”、“日本文化の守護神”の仕事は、ほとんど積極的にはやらなかったのです。た
だひたすら、潤沢な資金で“好きなこと”を大雑把にやってきたわけです。だから、こん
な国になってしまった。しかも、長年、それを放置しつづけてきたのです。
国や社会が、こんなことにならないようにするために...政治的にも財政的にも中
立な、国民から“浄財”を集める、公共放送のシステムを創ったのです。その、設立当
初の精神は、いったい何処へ行ってしまったのでしょうか...そのための、社会健全
化のシステムが、まるで機能していなかったのです...そして、まさに、社会が壊れ
てしまいました」
「はい...」茜が、小首を傾げた。「NHKは今、改革を叫んでいますが、それはまだま
だ、非常に薄っぺらなものだと思います...
国民が求めているのは、“社会正義と民主主義の牙城”、“日本文化の守護神”な
のです。“海の向こうの野球選手”を連日追いかけていて、“日本文化の守護神”と言
えるのでしょうか?“犯罪被害者”や、“中国からの帰国した残留孤児”の支援をほっ
たらかしておいて、“社会正義と民主主義の牙城”と言えるでしょうか...
私たちは、マスメディアの中立性のために、NHKに“浄財”を出しているのではな
いのです。メディアとしての中立性はもちろんですが、もっと突っ込んだ、“公共放送と
しての社会の啓蒙”や、“社会正義と民主主義の牙城”として、“日本文化の守護神”
として、まさに富士山のように、毅然とそびえていて欲しかったわけです」
「そうですわ!」支折が言った。「それなのに、わずかなお金や、権力のために、堕落
したりして...
それで、編集長、NHKがシステムダウンになったら、何が問題なのでしょうか?」
「私は、関係者ではないので、詳しいことは分りません。しかし、NHKには、非常時の
役割等も相当量あると思います。システムダウンしてしまうと、万一何かが起こった場
合、大変な事態になります。したがって、その“万一”に備えて、そのための準備を始
めて欲しいと言うことです。
つまり、リスク管理ですね。何処と、何処と、何処が、非常時の公共放送として必要
不可欠か。人員、予算、バックアップ体制はどうするか...そのための検討と、訓練
を開始して欲しいと言うことです」
「うーん...」支折が、髪を揺らした。「それは、NHK内部ですることでしょうか?」
「当然、NHK内部で、“公共放送の核”として、継承する部分があります。それから、
民間でサポートできる部分があると思います。
国民の意思で...あえてNHKをシステムダウンさせる以上は...当然、それを
自覚し、それなりの覚悟と準備が必要です。したがって、可能な限りの、バックアップ
体制をとっておく事が大事です。その上で、NHKの解体と再編成を、すみやかに進め
るということです。
これは、オンラインシステムのコンピューター停止し、主要ソフトと周辺機器を再編
成するのと似ています。臨時のバックアップ体制を敷き、できるだけ早く、新しいシステ
ムに切り替えることです。私は、システムの専門家ではないので、具体的内容のこと
は言えませんが、すぐにも検討を始めて欲しいと思います。病気の治療は、早ければ
早いほどいいのです」
「はい...NHKの内部と、それから民間のサポートですね。インターネットが、大い
に役立ちそうですね」
「そうです...
それから、各行政機関の広報を強化する必要があります...非常時に備えて、厚
生労働省や、国土交通省などは、ラジオ、テレビ、インターネット等、複数の広報活動
を充実させて欲しいですね。
それから...NHKの規模は縮小して行くことになると思います。したがって、例え
ば、文化的な事業などは、文化庁へ移管していくことも必要になってくると思います。
そして、最も肝心なことは、“公共放送の再編成をどうするか”ということです。“インタ
ーネット時代のスタンダードとしての公共放送”を、どう確立するか...国民参加で、
しっかりと議論を進めて欲しいと思います」
〔3〕
“
維 新 ”
への準備を!! 

「ええ...高杉・塾長...」秋月茜が、ノートパソコンから目を上げ、高杉を見た。
「はい、」高杉が答えた。
「NHKが、聴視料の保留・不払運動によって、財政的に行き詰まりつつありますね。
公共放送の、システムダウンです。このことの、周辺企業への影響や、国民生活への
影響、さなに国家体制への影響はどうでしょうか?」
「うーむ...もちろん、非常に大きいと思います...
特に、NHK本体や、周辺企業、そこで働いていた大勢の人たちが、直接的な影響
を受けます。しかし、これは他の企業でも同じことで、倒産や再編成は日常茶飯事の
ことです。ただ、今回は非常に規模が大きいことと、今までのような放漫運営は許さ
れないと言うことです。
まあ、NHKには、非常にいい番組も多く、独自の技術力もあるわけですから、それ
を今からどのように切り替えていくか、しっかりと計画を立てて欲しいと思います。もち
ろん、切り捨てて行くぶん、切換えて行くぶんも、多くあると思います...」
「はい...国民生活や、国家体制への影響は、どうでしょうか?」
「うーむ...
“国民の意思で、“公共放送・NHKをシステムダウン”させる”
この国の“主権者は国民”であるということを、これほど如実に示した例は、過去に
はなかったことです。“この国のことは、主権者である国民が決める”ということです」
「そうですね...
麻生・総務大臣は、“聴視料の保留・不払”を処罰すべきかどうか検討する、という
ような発言をしていますね。しかし、この国の“主権者の動向”を、誰がどのような権
限で処罰できるのでしょうか?」
「まあ、本末転倒ですね...
むしろ、“厳重に処罰されるべきはNHK”です。主権者である国民によって、厳重
に処罰されると言うことです。それから、そんなことでNHKの予算を承認してきた政治
家が、厳重に処罰されると言うことです。
それを実行するために、国民が立ち上がって、“伝家の宝刀”を抜いたわけです。
“シビリアンコントロールの直接行使”に踏み切ったわけです。もはや、この方法しか、
この国を変えることが出来ないと考えたからです」
「はい...
国民から“浄財”を集めながら、公共放送として機能せず、好き勝手なことをしてき
たのはNHKです。まさに国民が、NHKを厳重に処罰する権限を有するということだと
思います。そして、最も肝心なことは、政治も行政も、公共放送に口出しすべきでは
ないと言うことです」
「うむ、」
「そのためにこそ、」茜は、語気を強めていった。「NHKは、予算も人材も、政治や行
政から独立しているのです...それがいつの間にか、政治に弱くなり、ベッタリにな
り...ついに“浄財”を出している庶民のことなど考えなくなりました。
そして、設立当初の“公共放送の本来の任務”はすっかり忘れ、潤沢な資金で、好
き勝手なことをやっている団体になってしまったわけです」
「これは、立法府という団体も、非常によく似ていますね。国会もまた、機能しなくなっ
ていますから...」高杉は、苦笑した。
「そうですね...」茜は、微笑をこらえ、パソコンに目を落した。「...これは、本末転
倒です。麻生さんというのは、そういう人だったのでしょうか?」
「まあ、言わされたんでしょうが...そう言ったわけですからねえ...
政治家は、言ったことには、責任を持たなければいけません。吉田茂・元首相の孫
だということですから...まず保守勢力の筆頭なんでしょう...」
「うーん、そうですか...
ええと...NHKのシステムダウンによる、他への影響はどうでしょうか?これは、
“維新”につながるのでしょうか?」
「それは...」高杉は、津田の方を見て、笑った。「私より、編集長に聞くべきでしょ
う...」
津田は、白い歯をこぼして、うなづいた。
「そうですね、」茜が微笑した。

「まず、NHKの再編成の動きを受けて...」津田は、片手を立てた。「それから、ライ
ブドアの株での殴りこみで...民間をも含めて、メディアも再編成が加速するでしょ
う。
これと並行して、“大改革”の国民運動を盛り上がって行くと思います。改革のエネ
ルギー、新時代建設のエネルギーは、国民が常に供給していかなければなりませ
ん。見習うべきは、“明治維新のバイタリティー”でしょう。
日本は、世界史の奇跡といわれた、“社会の鮮やかな一大変身/明治維新”を成
し遂げた国家です。この成果で、日本がアジアで唯一、世界の列強に参入したので
す。そして100年後の今日でもなお、自他ともに認める先進国となっているのです。
しかし...昨今の日本は、世界の嘲笑と、冷笑をかっている分野が、少なからず
あります。そして、それが次第に拡大し、未曾有のモラルハザード社会に陥りました。
このていたらくは、どうしたことでしょうか...
原因は、“清濁を合わせ呑む”ことが、社会的に公認されたことによります。これ以
降、社会はしだいに“清”が駆逐され、“濁”に染まっていったのです。このトップでの
“濁”は、“政治”、“官僚”、“マスメディア”のモラルハザードを加速し、その“システム
の私物化”を許してきたのです...
これは...三国志の“天下三分の計”にも似ていいるし...鉄壁のトライアングル
にもなっていて...なかなか突き崩すことが出来ません。そして、当該の人たちは、
この事態を丸く治めるために、日本社会に“新しい身分差別を導入”しようとしていま
す。このこと事態は、思い当たるフシがあると思いますがね、」
「はい!」茜が、コクリとうなづいた。「私たちも、“人権指数”や“辛口時評”で告発し
てきました!」
「そうですね...
しかし今、“公共放送の破綻”により、ようやく鉄壁のトライアングルの一角が、シス
テムダウンしようとしています。ここまで言えば分かると思いますが、もはや“政治の
世襲”も“官僚の天下り”も、構造的に総崩れになるということです...」
「うまく行くでしょうか?」高杉が言った。
「“国民の覚醒”が全てのカギになりますが、うまく行くと思います。中心軸さえ崩さな
ければ、」
「はい。“情報公開”、“国民参加型・評価システム”、そして“富の正しい公平な再配
分”...これが崩れなければ、きっと日本の明るい未来社会の基礎が出来ます」
「さて、そこで...
“新しいメディアのスタイル”、“新しい政治のスタイル”、“新しい行政のスタイル”と
いうものを、準備しておく必要があります。これを今から、しっかりと議論を重ねて欲し
いと思います。これが、“新時代の日本の骨格”になります。
日本における第2ステージの民主主義/新・民主主義のスタートです。その上に、
“21世紀ルネッサンス”を走らせ、肉付けして行くことになります」
「うーん...いいわねえ...」支折が、むこうから歩いて来ながら言った。自分の椅子
を引いて、席についた。「いよいよ、その準備を開始するわけですね...」
「そうです!」津田が、大きくうなづいた。「いよいよ“維新”が胎動が感じられます!」