「ええ、マチコさん!よろしくお願いします!」津田が、大きな声で言い、ドサッ、と椅
子に腰を落した。
「あ、はい!」マチコも、半分立ち上がり、椅子に掛けなおした。
「ポン助君も、よろしく!」
「おう!」ポン助が、胸をたたいた。
≪パニック・暴動の回避を!≫
「さて、日本は、いよいよ大不況に突入し始めました!
7月1日に、日銀が6月の短観(企業短期経済観測調査)を発表し、株価上昇などで期待
感を表明しました!まあ、2日、3日も、株価は上昇しています!
しかし、国民としては、これからいよいよ苦しくなりそうだというのが、実感ではない
でしょうか!職業安定所の周辺は、日増しに人が増えてきているのを感じます!」
「はい!ボスも、そんなことを言っていました!」
「もはや、理屈ではなく、この時代を生き抜くのが、大変な状況になりつつあります!
政府が、緊急に、何らかの手を打つべき時が来ています!そうしないと、“パニック”
が発生する可能性が出て来ました!」
「そんなに、状況が緊迫しているのでしょうか?」マチコが聞いた。
「...はい、」津田が、息をつき、大きくうなづいた。「ニュース報道などを見ていると、
“切れた”とような異様な犯罪が、ここしばらくずっと続いています。そして、最近になっ
て、急にこうした犯罪が、多発・凶暴化しています。また、大きな交通事故なども、急
増しているようですねえ...」
「うーん...」マチコが、両手を組んで、うなづいた。
「言ってみれば、“自殺”も、個人的な“パニック”の極致とも言えるわけです...
政治や行政の怠慢のツケが、自殺を急増させているなどは、もってのほかの事態
です!いったい、この国の指導者たちは、何をやっているのかと言いたいですね!」
「はい!」
「ともかく...もはや国民全体が、“異様な空気”を感じているのではないでしょう
か!このままでは、いずれ、“パニック”が各所で発生します!早急に、手を打つ必要
がありますね!対応は、早ければ早いほどいいわけです!」
「はい!それじゃ、何をしたらいいのかしら?」
「まず、一番困っているのは、失業者でしょう...生活困窮者は大勢いると思います
が、収入のない失業者は、生活基盤の衣食住が吹っ飛んでしまいます。これが、“社
会の不安定要素”として、すでに相当に蓄積されています。
しかも、日本は文化が崩壊していて、人の心が非常に切れやすくなっています。そ
の上、しっかりとした宗教の基盤が無い有様です。つまり、日本の社会状況は、全般
的に、非常に危険な状態に突入しているということです」
「政治はさあ...昔から、色々議論してきたけど...いったい何を議論してきたのか
しら?こんな状況になるなんて...」
「まあ...戦闘機の、“空中給油器”を取り外せというような、バカげた論戦をやって
来たわけです。宗教の問題でも、教育の問題でも、戦争放棄や自衛隊の問題でも、
本当の議論は何ひとつやらなかったのです...これは、今でもそうですが...」
「政治の責任よね、これは...」
「ともかく...実際に、食べていけない人が急増しています。失業者の“人数の増加”
とともに、“時間的経過”も、非常な重圧になってきているわけです。いずれにしても、
失業者に、急場の仕事を与えることが急務でしょう...」
「でも、どんな仕事があるのかしら?」
「仕事を、とにかく、創るのです。例えば、自治体が失業者を大規模に雇用し、街の総
合的な美化や、パトロールに当ててもいいと思います。あるいは、大きなイベントを企
画してもいいわけです。
それにかかる費用は、それこそ銀行に投入した“2兆円”、“10兆円”というような
財源を、こっちの方に投入することです。それは、もともと国民のお金であって、将来
に対する借金なのですから、国民も納得するはずです...
ただ...1つ肝心なことは、街を総合的に美化し、パトロールをし、安全で住み良
い、希望の持てる社会を、この過程の中で組織化し、実体化していくということです。
地域という器と住民が一体化し、理想的な温かい社会を実現することです。その
ための予算や財源なら、これは非常に有効で、安い支出と言えるのではないでしょう
か...
...こうした、将来に残るものが無ければ、これは単に、“穴を掘って、穴を埋める
作業”になってしまいます...ここが、非常に重要です」
「はい。そうすれば、みんなうまく行くんじゃないかしら!」
「ともかく...パニックや暴動は、絶対に回避すべきだということです。パニックや暴
動になっても、いいことは何もありません。それどころか、国家や社会の財産が大きく
失われ、社会が非常に不安定になり、無法化して行きます...
“デモ行進”や“集会”など、組織だって抗議するのは、いいことだと私は思ってい
ます。行政やマスコミが動かないのなら、これが“国民主権”の発動の形になります。
しかし、パニックや暴動は、更なる混乱を招くだけです。これは、絶対に避けなければ
なりません。
つまり、現在の日本の状況は、このまま放置しておけば、暴走しかねない、“非常
に危険な要素”をはらんでいると言うことです。それに火が付けば、“デモ行進”や
“集会”などといった、組織だった抗議の段階を飛び越え、一気に暴発してしまいま
す。
しかし、怒りに任せて暴発しても、いいことは何もないということです。結局、この国
は、私たちの国であり、これから先も、私たちが治めて行かなければならない国家な
のです...」
「はい!」マチコが、うなづいた。「あの、それで...パニックや暴動が起こるかも知れ
ない、現在の日本の“非常に危険な要素”というのは、何なのでしょうか?」
「ああ、はい...
それは、不況に加えて...“モラルハザード”と“政治が機能不全”に陥っているこ
とです。さらに、この状況に対し、マスコミが“国民的な大討論”を開始していないとい
うことです。
つまり、“不況脱出”、“日本再生”の青写真がなく、“出口が示されていない”とい
うことです。そして、まさにこの中で、国民が食えなくなってきているわけです。
これは、まさに、何かの実験をしているような観があります。ちょうど、“原子炉”の
温度と圧力がどんどん高まり、ただひたすら、“メルト・ダウン(炉心溶融)”を待っているよ
うな状況です...いったい、この国は、何故こんな“危険な火遊び”をやっているので
しょうか...
このことに対して、こうした状況を作り出している、“政治”、“行政”、“マスコミ”に
対して、国民はもっと“怒る”べきなのです。目の前に大きな危機が迫っているのに、
あえてそれを認めようとしない、“貪欲な豚の群”れような状況になっています。
...だから、政治担当の青木昌一が、日本は“悪霊”に取り憑かれているのでは
ないか、この状況を打破できるのは、“陰陽師(おんみょうじ)”しかいないのか、と嘆いて
いるわけです...」
「津田さん、このままだと、“パニック”になるんでしょうか?」
「このままだと、なりますね...
“失業の増加”と“時間”が相乗効果で加わってくれば、これはもう“パンク”するし
かないでしょう。現在の、社会構造全体の“インチキ性”からしても、国民は相当に頭
に血が上っています。ただ、黙って、うなだれているだけではないと思います。
だから、私としては、その前に、“デモ行進”や“集会”などを積極的に始めて、“国
民が訴える形”というものを整えておくことが必要だと思っています。これは、市民運
動や、労働運動などの担当する仕事になるのでしょうか...」
「はい...」
「まあ、私は...組織もなく、調査機関もなく、詳しい分析資料も持っていません。し
かし、日本の社会は、非常に危険な水準に、刻々と近づいているのを感じます...
まあ...杞憂(きゆう/取り越し苦労)であってくれれば、いいのですが...」
≪政治・マスコミは、国民との信頼関係を取り戻せ!≫


≪政治≫
「ええ、津田さん...
“パニック”や“暴動”は、回避できるのでしょうか?それから、その先は、どうなる
のでしょうか?」
「はい!
ともかく、政治とマスコミは、国民との信頼関係を取り戻すことが急務です!
まず、政治ですが...現在、衆議院から辞職勧告され、拘置所に収監されてい
る、鈴木(宗男)議員、及び坂井議員等は、議員歳費は絶対にストップすべきだと思い
ます。何で、こんなことが許されているのでしょうか?すでに議論は尽くされているの
で、あえて詳しくは述べませんが、国民との意識の乖離(かいり)は、甚だしいものがあ
ります。
日本の政治は、完全に、国民をなめきっています!
それから、保守新党の松波議員の問題も、同じようにスッキリしないものがありま
す。こうした問題を、全てスッキリさせてこそ、さあ“日本の現在の不況にどう対処し、
将来をどう設計していこうか”、という課題に移っていけるのではないでしょうか。
この程度の問題を処理できずに、正常な国家の舵取りなど、出来るは
ずがありません。
...そう思いませんか?」
「はい!本当は、国民に顔向けできないわよね!
でも、さあ...逆に厚顔で、医療費を上げるとか、消費税を上げるとか言っている
わよね!」
「その通りです!だから、日本の現在の政治は、“国民をなめきっている”と言うので
す」
「うーん...とにかくさあ...国会議員は犯罪発生率が高いし...そして、不道徳
の集団よね...どうして日本は、こんな不道徳な人たちが、国を動かしているのかし
ら?これじゃ、国がメチャメチャになってしまうのは、当然よね!」
「まあ、だから、メチャメチャになっているわけです...
しかし、このまま、もう少し放っておいたら、日本は確実に三流国家になってしまい
ます...ともかく、早急に、何とかしなければなりません...」
「はい!
でも、津田さん...基本的な問題なんだけど、どうして政治家は、“悪いこと”をす
るのかしら?普通、私たちは、“悪いこと”はしないわよね?」
「うーむ...厳しい所を突きますねえ...まさに、そこに病根があります、」
「はい、」
「まあ...“インチキ”や“悪いこと”をしなければ、自分の目的を達成できない人間と
いうは、本来は非常に“非力な人間”なのです。このような、犯罪を犯すような、本質的
に“非力な人間”は、まず国を指導する政治家であってはいけないし、なるべきでもな
いのです」
「はい...」
「まともに、あらゆる事で、堂々と勝負し、また切磋琢磨していけるような人間でなけ
れば、この国の指導者として、手を上げるべきではないのです。いったい、現在の国
会議員の中で、このような王道を歩いている人が、はたして何人いるでしょうか...」
「うーん...そうよね、」
「それから、ヤクザがナイフをちらつかせるように、“権力”をチラつかせる議員もいま
す。しかし、国民は、そんなことのために、“特権”を与えているわけではないのです」
「うーん...親和性というのかしら...暴力団と政治家は、仲がいいわよね!やっ
ていることも、よく似ているって言うし...」
「まあ...全員ではないですがね...
ともかく、国会議員の犯罪発生率の高さを考えれば、“悪事”や“インチキ”をしなけ
ればやっていけない“非力な人間”が、非常に多く集まっているということになります。
一見、それは威勢がよいように見えますが、そういう人間は“烏合の衆”で、“ピーマ
ン”のように中身がないですね...
まあ、別の意味で、それなりに苦労はしているようですが、そんなことで、この国の
舵取りが出来るはずもありません...」
「はい!次の選挙では、しっかりと考えるべきですよね!」
「ま、その通りです!
しかし、事態は切迫しています!この国を“V字ターン”で破局から救うには、早急
な対応が必要です!国民をなめきっている現在の政治状況は、ともかく、一掃しなけ
ればなりません!」
「はい!」
≪マスコミ≫


「それから、マスコミは、“自分自身の問題”はほとんど言いませんが、日本がここま
で大混乱に陥ったのは、マスコミの責任が非常に大きいわけです。マスコミは、互い
に批判しあい、切磋琢磨(せっさたくま)していってもらわなければ、とてもいい国は出来
ません。
一口にマスコミと言っても、ここも玉石混合で、色々な人がいるのだと思います。し
かし、全体として大所高所に立ち、“民主主義社会の守護神”であって欲しいと思い
ます。“言論の自由”などは声高に叫んでいますが、文化を衰退させてしまったと言う
こともあり、やはり国民は厳しい目で見ていると思います。
“新世紀維新”が成就し、この国のシステムが明治維新のように大復活しても、マ
スコミが外野スタンドで眺めていたのでは、結局、この国は何も変らないわけです。私
は、マスコミの内部事情は何も知らない人間ですが、マスコミもまた、大改革か必要
なのではないでしょうか...
それこそ、マスコミには、プロの論客が、山ほどいるのでしょうが...」
「津田さん...」マチコが、少し不安そうに言った。「日本で、本当に“パニック”や“暴
動”が起きるのでしょうか?」
「はい!
その予兆は、少しづつ出てきています。しかし、衆議院選挙と参議院選挙が近々
ありますから、それが終るまでは、大規模な暴動というのは無いと思います。しかし、
事態は深刻なわけです。実際に、食えなくなっている国民が、益々増えてきているわ
けです...」
「うーん、」マチコは、首を横にし、ポン助の頭に手を置いた。
「失業者や生活困窮者には、国の補償で、“無利子で一時金を貸し出す”というよう
な特別措置も、必要なのではないでしょうか。ともかく、そうした人たちの手元に、当
座の現金が届くということが、最も大事です。りそな銀行よりも、“主権者である国民
の命”の方が、はるかに大切なのですから...」
「うーん...そうよね!でも、回収は可能なのかしら?」
「国民の場合は、年金などで、徐々に回収して行くということも可能です。また、消費
税の増税で、穴埋めだって出来るわけです。銀行のように焦げ付かせて、誰かが得
をしたというものでもないわけですから、」
「ふーん、」
「この大不況の中で、楽に食べていられるのは、政治家も含め、官僚や公務員など、
税金で給料が支払われている人たちです。しかし、本来は、この人たちが、国をここ
まで大混乱させた張本人です。天下りは、中央官庁の官僚だけでなく、地方公務員ま
で、すべてにあるわけですからねえ...
しかし、ともかく、公職にある人達は、その意識が非常に低いですね。だから、こん
な状況下でも、巨大な抵抗勢力になったりしているわけです。したがって、これを動か
していくのは、結局は国民の“示威行動”と、選挙の折の“主権の行使”しかないわけ
です。
“パニック”や“暴動”になる前に、国民が、政治や行政やマスコミを動かしていくこ
とが、非常に重要な要素になってきます...」
「はい!」
「ともかく、マスコミは、“パニック”や“暴動”を起こさせないためにも、“国民的な大討
論”を開始すべきです。そして、大量の情報を流していくことが大事です。それが、“パ
ニック”や“暴動”を未然に防ぎます。
それから、2年後、3年後の、“日本国家”のデザインを創出していくことが、重要な
要素になります。そして、それに向かって、国家全体が着実に前進していることを、は
っきりと国民に示すべきです」
「うーん、はい!」マチコが、うなづいた。
「マスコミ全体が、このままデフレ・スパイラルに目をつむり、打開の処方箋も示さず、
知らぬ顔をしていれば、社会は必ず大混乱に陥ります。
その好例が、数ヶ月前、中国の広東省や北京で起こった、新型肺炎・SARSのパ
ニックです。中国当局は、WHOの活動を妨害し、国民には“マスクなどはいらない”な
どと言っていたわけです。そのために、世界中にSARS感染が拡大しました。
日本の、この構造的な不景気も、SARS同様に、世界中に影響を及ぼしていま
す...そのことを、政治やマスコミは、もっと自覚すべきです。何もしないで、ただひ
たすら株価の上下だけを見ているのは、ナンセンスと言うものです...」
「そうよね!」
「うーむ...
くり返しますが、日本のマスコミは、この現状に“国民的な大討論”もせず、放置し
ているわけです。旧ソ連では、“ペレストロイカ”の掛け声が、時代を動かしたのです。
ベトナムでは、“ドイモイ”が、硬直化した国を建て直したのです...
しかし、当時、それを高見の見物をしていた日本は、いざ自分がそれを実行する巡
り合わせになった時、政治とマスコミが、“滅びの美学”を演出し始めたような観があ
ります...あるいは、先ほども言ったように、目の前の巨大な危機に対して、あえて
それを認めようとしない、貪欲な豚の群れのようになっています...」
「うーん...“滅びの美学”ですか!」マチコが首をかしげた。
「それとも...“既得権”を持つ人たちは、現在の延長線上に、再び栄光の時代が戻
って来るとでも思っているのでしょうか...そうやって、ローマは滅び、中世ヨーロッ
パを支配していたカトリックも、衰退して行ったのです。また、平家が壇ノ浦(源平合戦の
最後の戦場)で滅んだのも、やはり同じように、時代を読みきれなかったからなのです」
「はい...悲しいわよね!
パニックや暴動を起こさないためには...“国民的な大討論”を開始するということ
ですね。それから、“国家大改造のロード・マップ”を作っていくということですね。そし
て、当面の問題として、“失業者や生活困窮者の緊急的な救済”が、必要だというこ
とですね?」
「そういうことです。
くり返しますが、失業者に対応するのは、一番身近な地方自治体がいいと思いま
す。失業対策の仕事を創るのが、いいと思います。これは、さっきも言いましたように、
町の美化でも、公園の建設でもいいわけです。あるいは、県レベルでの、山林の枝打
ちや、山のゴミ拾いだっていいわけです。川や海の清掃だっていいわけです。仕事
は、創ろうと思えばいくらでもあります...」



「はい!」マチコが言った。「ええ、最後に...ポンちゃん、一言お願いします!」
「とにかく、“ここは日本だ!”、ということだよな!」ポン助が言った。「こんな時こそ、
“日本人でよかった!”、というような政策をして欲しいよな!」
「そう!まさに、ポン助君の言う通りです!」津田が言った。「はやく、景気を回復し、
日本の社会全体も、大改造して欲しいですね!
まあ、これは、誰かに“丸投げ”して、やってくれと言うのではなく、私たち国民1人
1人が、“総意を結集して”、“やり遂げる”と言うことです。ここが、一番大事なとところ
です!」
「はい!」
