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            魚を襲う凶暴な藻類フィエステリア・・・とは?

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No.1  フィエステリア・ピシシーダ 1999. 9. 7
No.2  フィエステリアの生態 1999. 9.15
No.3  フィエステリアの被害        1999. 9.23

  

                                                No.1   (1999.9.7)

     フィエステリア・ピシシーダ ( Pfiesteria piscicida )

                             参考文献.....日経サイエンス1999年10月号

                           魚を襲う凶暴な藻類フィエステリア J.M.バークホルダー                    

                                                                私が最初にこの微生物のことを知ったのは、新聞の記事でした。

                                                                 それから、日経サイエンスの10月号で、再度詳しく接することができました。

 

 

   1.フィエステリアとは・・・

 

  この微生物は、アメリカ大陸の東海岸/メリーランド州やノースカロライナ州の河

口で魚の大量死を引き起こすなどの大被害をもたらしています。また、そこから発生

する有毒ガスは、人間にも深刻な被害を及ぼすようです。しかもこの微生物は24種

類以上もの異なった相に、ごく短時間で変身できるといいます。したがって大きさ

も、 5μm〜750μm(1μm=1マイクロメーター/100万分の1m)と、最大で

は125倍にも巨大化した形態をとるといいます。このぐらいの大きさになると、肉眼

でもかすかに見えるといいます。

  このフィエすテリアは、一面きわめて脅威的な微生物ですが、生物学的には逆に

きわめてダイナミックで魅力的な生物という側面を持ちます。上記の論文から、その

驚くべき生態をスケッチしてみます。

 

  さて、フィエすテリアは、渦鞭毛藻類(渦鞭毛植物門)に所属しています。この藻類は、

生活環の中のある相で、遊泳用の鞭毛を持つもので、数千種もの大グループから

なっています。また、この中には、世界中の沿岸水域を荒らしまわってきた“赤潮”

の真犯人も含まれているといいます。しかし、規模で脅威的な赤潮とは異なり、この

フィエステリアは“したたかさ”で郡を抜いているのです。

 

                                                                     (1999.9.15)

    2.フィエステリアの生態・・・

 

  最初に、このフィエステリアの脅威的な生態を発見したのは、ノースカロライナ大

学の獣医学部だということです。水槽の中の魚が次々と謎の死を遂げたので、原因

を調べてみたわけです。そして、渦鞭毛藻類のフィエステリアを発見しました。ところ

がこの微生物は、魚が死に始める直前に急激にその数を増やし、魚が全滅してし

まうと、完全に姿を消してしまったのです。ところが、水槽に生きた魚を入れると、再

び姿を現しました。

  実は、これは微生物の相が変異していたのです。最初に新聞記事を読んだ時、

私はびっくりしました。しかし、多少でも微生物の生態に精通している者なら、驚く事

も無かったのかもしれません。ある種のアメーバなども、環境によっては“グレック

ス”のように、相が変異するわけですし、相の変異そのものは珍しい事ではありませ

ん。

 

<グレックス:>

 ある種のアメーバは、環境が悪化すると4000もの個体が集まって、グレックスという

ソーセージ型の共同体を形成します。この共同体は、独立した1個の生物のように行動

します。さらに、乾燥して環境が悪化すると、グレックスは選ばれた少数の仲間を残す

ために、驚くべき戦略を展開します。グレックスは、その1部で地面にしっかりと張った

茎を作り、その茎の上に頑丈なカプセルを載せるのです。つまり、このカプセルの中の

少数の仲間を残すために、ほとんどのアメーバは自ら犠牲になるのです。人間の社会

でも、ぜひ見習いたいような有徳な行為です。

         < うーん .....微生物の相の変異とは少し内容が違うかもしれません.....>

 

  ところが問題は、このフィエステリアは少なくとも24種類以上の異なった相に、ごく

短時間で変身できることです。つまり、漫画の変身ロボットのように、相手によって、

または環境によって、様々な形態に変身できるというわけです。それも、24種類以

上に、ごく短時間に変身を完了するのです。大きさも、125倍ぐらいにまで巨大化で

きるといいます。このダイナミックさは、まさに漫画の変身ロボット以上です。生命体

というものの、底知れない多様性を感じさせます。

 

  それにしても、このフィエステリアは、なぜこんなに変身にこだわるのでしょうか。

それは、この微生物は完璧な“好機利用種”だからです。つまりこの変身は、あらゆ

るチャンスに、きわめて機動的に対応して行くためのシステムなのです。たとえば私

たち人間の体が、24種類もの形態に変身し、125倍にも巨大化できるとしたらどうで

しょうか。およそ自然界では、あらゆる敵を倒し、どのような環境にも対応して行けそ

うです。少なくとも、生存率は飛躍的に高まります。

 

(1) アメーバ/遊走子/シスト  


  24種類以上といわれるフィエステリアの相(形態)は、大きく分ければアメーバ/

遊走子/シストの3つのタイプに分かれます。また、通常は、この3つのタイプのどれ

かをとり、無毒です。たとえば、無定形のアメーバは、水底の泥の中で、他の藻類な

どの獲物を飲み込んで生きています。それから、水の中を泳ぎ回る遊走子のタイプ

があります。さらに、シストと呼ばれる3番目のタイプは、休眠状態であり、苛酷な環

境に耐えるのに適しています。シストはかなり頑丈なもので、実験では35日間乾燥

状態に置いたり、高濃度の酸や水酸化物に30分間浸したり、漂白液に1時間浸し

た後でも、20%が生きていたといいます。

  

(2) 変身/殺戮者の姿                   


  さあ、論文の中の言葉を借りれば、“「ジキルとハイド」的な変身”を引き起こすの

は、そのフィエステリアの縄張りに魚が入ってきた時です。それも大きな罠を仕掛け

るのは、魚の大群が押し寄せてきた時です。無毒の遊走子はたちまち有毒になり、

強力な毒素を放出します。また、アメーバとシストのタイプをとっていたフィエステリ

アは、数分から数時間で遊走子を生じ、これも有毒に変身します。これらの遊走子

は、強力な毒素を放出しながら、魚までの最短距離を泳いで行くといいます。魚は、

この目に見えない微生物の毒素の攻撃を受け、感受性の高いものだと数分で死ん

でしまいます。しかも、この毒素の影響は魚介類全体に及び、数時間以内にはたい

ていの動物が死んでしまいます。赤潮の例でも分かるように、この間に微生物はい

っきにその数をも増やしているわけです。

 

  さて、この微生物、渦鞭毛藻類のフィエステリアの驚くべき実態は、猛毒で魚介

類を殺戮した後に、これらを食べていたということです。もともと渦鞭毛藻類の中の

有毒なものは、60種類ほど見つかっていました。しかしこれらの強力な毒素を持つ

種は、特に明白な目的があって毒素を生産しているわけではなかったといいます。

それに比べフィエステリアの場合は、殺戮と捕食という明白な目的を持ち、強力な

手段として、きわめて機動的に毒素を使っているのです。 

  この毒素は魚の皮膚を剥ぎ取り、神経系や器官を損傷させ、魚を逃げられなくし

ます。そして、この傷つき出血した皮膚から、フィエステリアは血液や体液を吸い込

んで食べます。さらに、水の中を泳ぎやすい遊走子の状態から、無定形のアメーバ

に変身し、本格的に食べ始めるといいます。このアメーバへの変身は、大量に食べ

るための変身なのです。

 

  こうなってくると、その影響は他の動物にとっても脅威になり、人間社会にとっても

脅威になり得ます。事実、このフィエステリアの実態がわかるまでに、かなりの人々

が被害を受けているようです。また、現在このフィエステリアを扱っている研究室は、

バイオハザード・3の扱いになっていて、宇宙服のような防護服の着用が必要とな

っています。また、日経サイエンスに掲載されている写真を見ると、船に乗ってのフ

ィールド調査でも、この防護服を着用しての作業になっています。これは、こうした毒

素に汚染された水の上の空気も、毒素の影響が深刻な状況である事を示していま

す。もっとも、これは物理的な空気の汚染であり、強力なウイルス感染とは状況が

異なるようです。要するに、空気や水に直接触れないようにすればいいようです。

 

  ちなみに、エイズ・ウイルスを扱う研究室の安全対策は、レベル・3でも、これよりも

下です。また、この上のレベル・4となると、エボラ出血熱で知られるエボラ・ウイルス等

を扱う所であり、人類にとってきわめて脅威となるような相手を扱う施設になります。

 

  ウイルスの核酸は、DNA型とRNA型があります。現在、人類にとって脅威となってい

るのは、RNA型のウイルスであり、これはDNA型の100万倍もの速さで変異するといい

ます。そのために、ワクチンの開発が追いつかなくなるわけです。したがって、克服もき

わめて困難です。インフルエンザ、エイズ、エボラ...中でも最強最悪なのが、エボラ・

ウイルスです。