離婚まで夫名義の家に住み続けることができますか
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2015.6.11mf
弁護士河原崎弘
相談
夫は3か月前に家を出て、アパートを借り、別居中です。私は、現在、結婚後購入した夫名義の家(マンション)に子供と共に住んでいます。
私は、家庭裁判所に、離婚調停を申立るつもりです。
私は、現在、仕事もパートのみで収入も少なく、子供の学校のこともあるので、できるだけ今の住居で生活をしたいと考えています。
離婚が成立するまで、夫名義のマンションに住み続けることができるでしょうか。
回答
大丈夫です。住んでいられます。裁判所は、次の2つの理由から明渡しを認めないでしょう。
1つは、- 夫名義あろうとも、この家は、婚姻中に購入しているので、実質的に夫婦の共有財産 です。妻にも潜在的持分があります。共有物につき持分を有する者に対する明渡請求は認められないからです(下記最高裁判決)。
- しかし、家が、(妻が持分を持たない)夫の特有財産であったとしても、
離婚するまでは、夫は妻子を扶養する義務があります。
ですから、あなたは、夫名義のマンションに住むことができます。問題はありません。夫が、あなたに対し建物明渡しを求める裁判をしても、裁判所は認めないでしょう。
下に判例を挙げます。
なお、妻から(有責配偶者である)夫に対する明渡し請求を認めた判決はあります。
妻が、夫名義の家に居住している場合、夫は、明渡を拒否され、困っているのです。そこで、妻としては、明渡を武器に、有利な離婚条件を引出すのも一つの方法です。
判例
- 札幌地方裁判所平成30年7月26日
判決
4 争点3(権利濫用の成否)について
(1)本件マンションの明渡請求について
婚姻期間中に形成された財産関係の離婚に伴う清算は財産分与手続によるのが原則であるから、本件マンションの帰趨は財産分与手続で決せ
られるべきであり、このことは本件マンションの住宅ローンの負債額が原告及び被告の総資産額の合計を上回っている場合であっても変わらな
い。このような意味で、被告は、財産分与との関係で、本件マンションの潜在的持分を有しているところ、当該持分はいまだ潜在的、未定的な
ものであっても財産分与の当事者間で十分に尊重されるべきである。
よって、原告が、近々財産分与申立事件の審判が下される見込みである中
(上記前提事実(5)オ)、同手続外で本件マンションの帰趨を決することを求めることは、被告の潜在的持分を不当に害する行為と評価すべ
きであり、権利濫用に当たるというべきである。
さらに、上記帰結が原告に与える影響を検討しても、現在、原告は釧路市に居住しており本件マンションに居住する必要がないことや、本件
マンションの維持に伴う経済的不利益は、後記のとおり、被告が原告に賃料相当損害金を支払うことにより一定程度緩和されることに照らすと、
原告に酷な結果をもたらすことになるとは認められない。
以上によれば、原告の各種主張等を考慮しても、本件において、原告が、被告に対し、現時点において、本件マンションの明渡しを求めるこ
とは、権利濫用(民法1条3項)に当たり許されない。
- 東京地方裁判所平成18年1月31日判決(出典:判例秘書
)
原告が,離婚を機に(離婚判決後),夫であった被告に対し,被告が占有している特有財産である建物を,所有権に基づき明渡を求め,認められた事例
1 争いのない事実等(2)によれば,本件保険金は,訴外亡Aが保険金受取人として指定した原告が受け取ったものであり,相続財産には当たらないし,原告が婚姻
中自己の名で得た財産であるから,原告の特有財産に他ならない(民法762条1項)。被告は,原告自らの出捐によって得た財産ではないから特有財産には当たらない
と主張するが,独自の見解であって,採用することはできない。
2 そして,証拠(甲4,5,7ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,本件建物の購入資金としては,原告が本件保険金のうち2000万円,訴外Cが3120万7
500円を拠出したものと認められ,同人はその支払能力があったものと認められる(甲17ないし24)。他方,証拠(甲10,11)及び弁論の全趣旨によれば,訴
外亡Aの死亡時点で約600万円の預金があったものの,相続債務の支払に充てられたのであり,本件建物の購入資金になったとは認められない。
3 以上によれば,被告が本件建物につき実質的な共有持分を有するとの主張は前提を欠くものであり,これに基づく占有権原を認める余地はない。
第4 結論
1 以上によると,原告が本件建物につき共有持分権を有している事実,被告が本件建物に居住し占有している事実が認められ,他方,占有権原があるとの被告の主張
(抗弁)は理由がない。
2 したがって,原告の請求は理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負担については民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
- 東京地方裁判所平成6年8月23日判決
別居中の夫から妻に対する夫婦共有財産である建物の占有権に基づく明渡請求が排斥された。
本件建物は、原・被告(妻)が婚姻により取得した財産で、かつ、それぞれが共有持分を有する共有財産であり、被告は前記のとおり本件
建物から退去して原告(夫)と別居したにも関わらず、被告の家財道具等が本件建物内になお残置された儘の状態であるということに鑑みる
と、被告が原告に無断でかつ行方も告げすに本件建物から出て別居したこと、その後、原告が本件建物を事実的に支配し占有を継続し
ていたという事実により、直ちに被告の本件建物に対する法的な権限や被告の占有が消滅したものと認めることは困難であるといわざ
るを得ない。
しかも、原告の本件建物に対する現在の事実的支配の状態は、いわば被告が本件建物に立ち入ることを排除するというような態様と
方法で取得されたもので、平穏かつ円満な状態で本件建物の事実的支配を取得して居住占有を継続しているとは到底認めることはでき
ないし、原・被告は、現に、相互に相手方の本件建物の占有使用を非難し、その権限の有無を争っているのであって、原告が、前記の
ように居住し本件建物を事実的に支配し占有を継続していたにもかかわらず、原・被告間においては、夫婦間で解決されるべき問題の
一つとして、本件建物の権利関係や占有使用関係についての確執が未だ残っていると認められ、本件建物の占有に関する秩序の攪乱が
一応収まるとか消滅する等して、原告が社会的な秩序として保護されるべき確立した事実的支配を有するに至ったものと認めることは
できない。したがって、原告の本件建物に対する占有のみが社会的な秩序として一方的に保護される利益を有し、被告の本件建物に対
するそれが排除されるべきであるとする合理的な理由を認めることはできないので、原告は、被告に対する関係においては、被告が自
己の意思で本件建物を出て行ったこと、その後、原告の本件建物に対する占有の状況や原告のその他の主張する実を総合して勘酌して
も、原告の事実的支配の状態が、占有訴権によって、あるが儘に保護されるに値する占有であると認めることはできないというべきで
ある。
- 東京地方裁判所平成3年3月6日判決
婚姻破綻状態にある夫婦間において、一方(妻)の建物所有権に基づく他方(夫)への建物明渡請求が認容された(判例タイムズ778-55)
三 右に認定したとおり原告(妻)と被告(夫)とは平成元年11月13日以降別居状態にあることからしてその間の婚姻生活は既に破綻状態
にあるものと認められ、今後の円満な婚姻生活を期待することはできないものといわざるを得ず、しかも、右に認定した事実によれば
右婚姻生活を破綻状態に導いた原因ないし責任は専ら被告にあることが明らかというべきである。
以上の認定判断に徴すれば、本訴において被告が本件建物についての居住権を主張することは権利の濫用に該当し到底許されない
ものといわなければならない。
- 東京地方裁判所昭和61年12月11日判決
別居中の妻から夫に対する所有権に基づく住居の明渡請求が認められた(判例時報1253ー80)
ところで、夫婦の一方の同居請求(民法752条)に対して、他方に同居を拒む当事由がある場合には、その者は、同居拒絶権を行
使できるものと解されるところ、相手方の脅迫、虐待等、相手方の責めに帰すべき事由によって婚姻生活が完全に破綻し、以後の同居
の継続が困難である事由の存する場合にはこのような正当事由があるものと認められる。
そこで検討するに、前記認定の事実関係によれば、原・被告(夫)の別居の原因は、被告の嫉妬心、猜擬心に基づく、原告(妻)に対する執拗な
心理的又は肉体的な圧迫、脅迫であり、しかも原告が被告の行動を恐れ、忌避し、昭和59年9月24日以降別居の状態にあること、
原告と被告は別居ないし離婚をしばしば合意していること等を総合すれば、今後の円滑な夫婦生活はとうてい期待できないことは明ら
かである。
したがって、原告の同居拒絶には正当な理由があると認められ、被告は本件建物の占有権原を有するものではなく、これを原告に明
渡す義務がある。
- 最高裁判所第1小法廷昭和41年5月19日判決(出典:判例タイムズ193号91頁)
共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない
共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経な
いで当然に共有物(本件建物)な単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計
すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、
当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基
づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡
を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
しかるに、今本件についてみるに、原審の認定したところによればAの死亡により被上告人らおよび上告人にて共同相続し、本件建物について、被上告人Bが3分の1
、
その余の被上告人7名および上告人が各12分の1ずつの持分を有し、上告人は現に右建物に居住してこれを占有しているというのであるが、多数持分権者である被上告
人らが上告人に対してその占有する右建物の明渡を求める理由については、被上告人らにおいて何等の主張ならびに立証をなさないから、被上告人らのこの点の請求は失
当というべく、従つて、この点の論旨は理由があるものといわなければならない。
登録 Sept. 8, 2008
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