有責配偶者の離婚請求/愛人から入籍を迫られている夫

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2015.5.22mf更新

弁護士河原崎弘

相談:離婚したい

私は、 1990 年から商社の駐在員としてエジプトにいます。当初は、妻と子供 2 人と一緒におりました。日本に居たときから同じ会社の 10 歳年下の部下と交際するようになり、彼女がエジプトに尋ねてきたことから、交際が妻に知られ、 1995 年妻は子供を連れて日本に帰ってしまいました。妻は、現在、社宅に住んでいます。交際相手の女性は会社を辞め、現在、私と同居しています。 有責配偶者の離婚
彼女は、最近、「籍を入れて欲しい」と言うようになりました。私も、妻と別れて、彼女と結婚をしたいので、妻と電話で話しましたが、妻は、電話を切ってしまい、話しができない状態です。
現在、私は、日本に居る妻には毎月 40 万円送金していますが、これは私がエジプトに居住しているからできるのであって、日本に帰ったらこの金額の送金はできません。妻が話し合いに乗るように仕向けるために、送金額を減らそうかとも考えています。
私の請求は認められるでしょうか。
相談者は、法律事務所を訪れました。

回答:有責配偶者の離婚は認められない

日本の裁判の現状では、真実の認定がされないことも多いです。特に民事の裁判では偽証や嘘の陳述が横行しています。
裁判官も普通の人間です。労力を省いた裁判の進行を選びがちで、他から非難されない判決を書く傾向にあります。そこで、誰が見ても当たり前の事実認定を好みます。
あなたが、彼女は愛人でないと主張すると、裁判所は、なかなかあなたの不貞行為を認定できないでしょう。彼女が尋ねて来ても、あなたは、愛人であることは否定できたのですが、現在では否定できないでしょう。

かって、不貞など一定の有責事由がある場合のみ、他方の配偶者が離婚請求できる方式がおこなわれていました(有責主義)。しかし、夫婦関係が破綻した場合には離婚を認めようとする方式に変わってきました(破綻主義)。
日本の民法は破綻主義を採用していますが、有責主義が若干、残っています。
妻ある夫が他の女性と関係を持ち、それが原因で婚姻生活を破綻させた場合、有責配偶者として扱われ、夫からの 離婚 請求は認められませんでした( 最高裁昭和27.2.19判決 )。ただし、婚姻生活が完全に破綻した後、夫が他の女性と交際しても、それを理由に離婚請求が排斥されることはありません( 最高裁昭和46.5.21判決 )。
従って、あなたの場合、現在は、奥さんが同意しない限り離婚はできません。
現状で、奥さんの同意をとる方法は、現在の月 40 万円の生活費(婚姻費用)を保証し、さらに、相当な慰謝料ないし財産分与を支払わないと難しいでしょう。
送金額を減らすのは、よく使われる戦術ですが、妻が 婚姻費用 の分担を請求をした場合は、結局、払わざるを得なくなるでしょう。相当、泥試合になるでしょう。判例に従えば、それは裁判ではあなたにとって不利な事情になります。しかも、自分で婚姻生活を破壊しながら妻子供に対する送金額を減らすことは、あなたも気持ちのうえで抵抗を感じるでしょう。
もし、 40 万円が高すぎるなら、弁護士に依頼し、 婚姻費用分担額の減額 を求める調停を家庭裁判所に申立てて話し合ったらいかがでしょう。それが、普通のやり方であり、また、その席で、離婚についての奥さんの考えも聞くことができます。 あなたが大企業勤務であり、おとなしく、実直であり、恋人がいますので、これは奥さんの攻撃性を高めるでしょう。
恋人が入籍を求めているようですが、彼女をなだめることがまず第 1 にすべきことです。彼女は、妻子があることをわかっていて、あなたと交際したのですから、納得するでしょう。
納得しない場合、彼女が、今後あなたが交際を続けるに相応しい相手かどうか疑問です。彼女のあなたの妻子に対する仕打ちと同様な仕打ちが、いずれ、あなたに対してもあるでしょう。

将来は、認める傾向

将来の見通しを述べます。多くの人が、あなたのような状況に置かれ、お金と時間を使ってもうまく解決できませんでした。
従来、裁判所は、有責配偶者からの離婚請求は、全く認めませんでした(下記  1、2 の判決 )。最近、少しずつ、判例が変わってきました(破綻主義、下記 3 以降の判決 )。有責配偶者の離婚請求を(下記判例、 3 から 9 へと)認める方向にあります。

有責配偶者と妻との間に未成熟の子ども(高校生以下)が居ない場合は、誠実に生活費を送り、相当な期間( 8 年以上)が経過し、離婚の際に相当な財産を分与すれば離婚できます。9の判決では6年の期間経過で離婚を認めています。
未成熟の子が居る場合は、明確ではありませんが、子が高校生の場合、13 年 11 か月の別居期間で離婚を認めた 判決(8) があります。有責配偶者が不誠実な場合は、子供が成人して別居期間が17年になっても離婚は認められません。

あなたの場合、現在は無理ですが、相当な期間生活費の送金を続け、子どもが成人すると、裁判所で離婚請求が認められる可能性が大きいです。
いずれにしても相当お金と時間が必要です。

日本の裁判所は、有責配偶者の離婚請求を認めませんが、先進国では認める傾向です。例えば、アメリカ合衆国カリフォルニア州では有責配偶者の離婚請求を認めます。
California : Family Code: Sec. 2310 などでは、裁判所は、有責配偶者の申立でも、「夫婦関係が修復不可能あるいは配偶者が回復不能な精神異常( Family Code Sec.2310 )」であれば、離婚を認めます( No-fault divorce )。
参考:New York State Consolidated Laws, Domestic Relations, Article 10, Section 170
日本も、いずれ、配偶者と子の保護を前提に、完全な破綻主義になるでしょう。
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