退職金は相続財産か、特別受益か

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2011.12.5
弁護士河原崎弘

相談
国家公務員である夫が亡くなりました。残されたものは、自宅(時価5000万円)と死亡退職金約3000万円です。夫との間には子供はなく、夫の先妻の子供(独立している)と私が相続人です。
(1)誰が退職金を受け取るのでしょうか。
(2)遺産分割はどのようにするのでしょうか(退職金は特別受益か)。
相談者は、弁護士事務所を訪れました。

回答
(1)相続財産か
退職金が遺産(相続財産)であるかについては問題があります。退職金を賃金の後払いと考えると遺産ですが、遺族の生活保障と考えると遺産ではなく遺族の固有財産と考えられます。

国家公務員の退職手当については、国家公務員退職手当法2条、11条、11条の2が受給権者を「遺族」とし、受給権者の範囲と順位を決めています。受給権者の範囲と順位が民法の相続人の規定と異なっています(大きな特徴は、内縁の妻が受給権者になる場合があることです)から、この規定は公務員の収入に依って生活していた遺族の生活を保障する目的として受給権者を定めたものと解釈できます。従って、公務員の退職金は遺産ではありません。
なお、地方公務員の場合は条例で決まっていますが、国家公務員に準じる場合が多いです。
民間企業の退職金も就業規則などにより受給権者が決まっています。
従って、あなたの場合、退職金は遺族であるあなたの固有財産であることになります。 判例も同様です。

(2)特別受益か
あなたが、退職金を受取ると、これを特別受益(民法903条)として遺産分割するかが、さらに問題となります。
退職金を賃金の後払いと考えると特別受益に当たり、遺族の生活保障と考えると特別受益に当たりません。
これについては基本的には次のように考えるとよいでしょう(法曹会、「遺産分割事件の処理をめぐる諸問題、P262」)。

  1. 法律、条例、就業規則などにより死亡退職金の定めがあり、受給権者の範囲が相続人と異なっており、その定め方から生活保障の趣旨であり、その取得につき被相続人の意思が入り込む余地がない場合は特別受益に該当しない。

  2. 遺族の生活保障の趣旨がない場合は、被相続人から相続人に対する遺贈と同様に考え特別受益とする。
判例は、特別受益とするもの(下記判例3、7)と、特別受益でないとするもの(下記判例4、5、6)に分かれています。

各場合におけるあなた(配偶者)の相続分を計算すると次のようになります。
相続財産法定相続分1/2特別受益さらに取得できる金額
特別受益に当たると
3000万円(退職金)および5000万円(自宅)
の合計8000万円
4000万円3000万円1000万円
特別受益に該当しないと
5000万円2500万円02500万円

結論は、はっきりしません。もし、争いになったら、「特別受益ではない」と主張し、さらに2500万円請求してみたらどうでしょう。

判例
  1. 最判昭58年10月14日(裁判集民事140号115頁、判例タイムズ532 号131頁)
    県が死亡退職金を条例に基づき妻に支給すべきものと主張した事案につき、前記昭和55年の最判を引用し、死亡退職金の受給権 は、受給権者たる遺族固有の権利であり相続財産には属しない旨判示している。

  2. 最判昭55年11月27日(民集34巻6号815頁、本誌434号169頁)
    死亡退職金の支給等を 定めた特殊法人の規程に、死亡退職金の支給を受ける者の第1順位は内縁の配偶者を含む配偶者であって、配偶者があるときは子は全く支給を受け ないことなど、受給権者の範囲、順位につき民法の規定する相続人の順位決定の原則とは異なる定め方がされている場合には、右死亡退職金の受給 権は、相続財産に属さず、受給権者である遺産固有の権利である旨判示した。

  3. 福島家裁昭和55年9月16日審判(家裁月報33巻1号78頁)
    被相続人と先妻との間の子が、後妻及びその間の子に対して遺産分割を求めた事案において、後妻が取得した死亡退職金、生命保険金及び被相続人が後妻名義で積立てた定期積立預金につき、これらは、いずれも被相続人が相手方両名の生活保障のためのもので、右両名による共同での特別受益にあたり、結局右両名の具体的相続分はない

  4. 東京高裁昭和55年9月10日決定(判例タイムズ427号159頁)
    東京都職員である被相続人の死亡により都条例に基づき都からその妻に支給された退職手当及び地方公務員共済組合法に基づき東京都職員共済組合がその妻に支給した遺族年金、並びに被相続人が被保険者、その妻が保険金受取人となつている生命保険契約に基づき妻に支払われた生命保険金がいずれも相続財産にも特別受益にも該当しない

  5. 東京家裁昭和55年2月12日審判(家裁月報32巻5号46頁)
    受給権者が固有の権利として取得する死亡退職手当、遺族年金又は生命保険金は、いずれも文理上民法903条に定める生前贈与、遺贈に該当せず遺留分減殺の対象にもならず、また、受給権者らが別に相続分に応じた相続財産を取得しても、それは被相続人の通常の意思に沿うものと思われること等を考慮すると、特別受益にはあたらないとするのが相当である

  6. 大阪家裁昭和53年9月26日審判(家裁月報31巻6号33頁)
    共同相続人の一人が取得した死亡退職金等については、原則として民法903条に規定する遺贈に準じ特別受益と考えるべきであるが、相続人の地位、共同相続人間の身分関係、被相続人と相続人との生活関係の実態等諸般の事情を勘案すると特別受益とすることがかえつて共同相続人間の実質的公平を欠き、死亡退職金等の有する受給権者の生活保障機能を没却するような場合には、特別受益性を否定するのが相当である

  7. 大阪家裁昭和51年11月25日審判(家裁月報29巻6号27頁)
    生命保険金請求権は、保険金の受取人と指定された相続人の一人の固有財産に属するものと考えられるが、相続人間の公平という見地から被相続人がその死亡時までに払い込んだ保険料の保険料全額に対する割合を保険金に乗じて得た金額をもつて特別受益とすべきであり、また、死亡退職金については国家公務員退職手当法2条及び11条の趣旨からすれば、同規定による受給権者は固有の権利として右退職金を取得すると解するのが相当であるが、共同相続人間の実質的公平の見地からすると、やはり特別受益になるものと解すべきである

国家公務員退職手当法

2条(適用範囲)
この法律の規定による退職手当は、常時勤務することを要する国家公務員(以下「職員」と言う。 )が退職した場合、その者(死亡による退職の場合は、その遺族)に支給する。
・・・
・・・
・・・
11条遺族の範囲及び順位)
第2条に規定する遺族は、左に掲げる者とする
配偶者(届出をしないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)
子、父母、孫、祖父母、 及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
前号に掲げる者の外、職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していた親族
子、父母、孫、祖父母、及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの
前項に掲げる者が退職手当を受ける順位は、前項各号の順位により、 第二号及び第四号に掲げる者のうちにあっては、同号に掲げる順位による。 この場合において、父母については、養父母を先にし実父母を後にし、 祖父母については、養父母の祖父母を先にし実父母の祖父母を後にし、 父母の養父母を先にし父母の実父母を後にする。
退職手当を受ける同順位の者が二人以上ある場合には、その人数によって等分に支給する。