有責配偶者が婚姻費用の減額請求ができるか
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2011.4.12mf更新
相談
父( 51 歳)は愛人と生活しており、母( 48 歳)は、私( 25 歳)、 弟(23 歳)、妹(21 歳、大学生)と生活しております。
父は15年前愛人ができ家を出て、新しく家庭を作りました。母は専業主婦であり、父は自営業で収入も多かったので、母と私たちに送金してきました。母は離婚に同意せず、戸籍上籍を抜かず、父と夫婦関係を続けてきました。
父は、これまで夫婦間に扶養義務はないと言い、子供の養育費として仕送りをしてきました。これは現在では母の生活費となっていました。弟が大学を卒業すると、父は、
4 月より、突然、その金額を約 3 分の 2 に減らし、「今後更に減額していく」と言ってきました。
母は妹が就職する 1 年後には、慰謝料請求のうえ、離婚も仕方ないと考えていますが、それまでは、これまでと同じ金額の仕送りを請求したいと考えています。
今後も婚姻費用分担を請求できるでしょうか。また別居生活中に受けた精神的な打撃に対する金銭的な請求は、法律上離婚して初めて妻から夫に請求できるものなのでしょうか。
相談者は、弁護士会に電話したところ、弁護士会の担当者は、「簡単な相談なら、弁護士による電話法律相談 があります」と、教えてくれました。相談者は、電話で、弁護士のアドバイスを聴きました。
アドバイス
子供が生まれて扶養家族が増えた、子供が就職したなどの事情の変更があると婚姻費用の金額の増減を請求できます。子どもが就職した後、(有責配偶者であろうとも)お父さんが生活費を減額請求することはやむおえないでしょう。ただし、手続きが必要で、一方的にはできず、両者の合意、家裁での調停、審判が必要です。
慰謝料は、離婚しなくても請求できます。お母さんの側に立てば、お母さんは離婚しないで婚姻費用を請求し続けた方が良いでしょう。
ただし、最近の判例の傾向として、相当な生活費を送り、相当な期間が経過した場合、 有責配偶者も、離婚請求 できます。未成熟な子どもがいない場合、相当な期間とは 8 年位です(この期間は明確ではありません)。従って、お父さんの離婚請求は認められることになります。
お父さんから離婚の調停申立てがあった場合は、お母さんは、これに対抗して、すぐ婚姻費用分担の調停申立をするとよいでしょう。お母さんも未だ働けますから、婚姻費用の金額を決める場合、お母さんが働けること(稼働能力)も考慮されるでしょう。ただし、みなし収入は、年60万円から100万円程度です(下記判例)。
判決
- 名古屋高等裁判所平成28年2月19日決定
(1) 事情変更の有無について
ア 婚姻費用の分担額の減額は,婚姻費用分担の程度若しくは方法について協議又は審判があった後,事情に変更を生じたときに認められる
ものであるところ(民法880条参照),上記「事情の変更」とは,協議又は審判の際に考慮され,あるいはその前提とされた事情に変更が生じた
場合をいい,協議又は審判の際に既に存在し,判明していた事情や,当事者が当然に予想し得た事情が現実化したにとどまる場合を含むものではな
い。
イ 上記2の認定事実(補正して引用した原審判第2の1。以下同じ)によれば,抗告人(父)は,前件調停成立後に出生したG,I及び□□を認
知し,その扶養義務を負うに至っており,前件調停成立後,抗告人が扶養義務を負う未成年の子の数に変更が生じたことが認められ,これは,婚姻
費用の分担額の減額を認めるべき「事情の変更」に該当するものである。
これに対し,相手方(母)は,重婚的内縁関係から派生した婚外子の存在を考慮するのは,信義則に反すると主張するが,G,I及び□□は,
長男及び二男と同様,抗告人から等しく扶養を受ける権利を有するから,上記主張は採用できない。
また,相手方は,Fが,前件調停時に既にGを妊娠していた可能性があるから,同人の出生が,抗告人に予見し得た事情にとどまると主
張するが,Gは平成22年□□月□日に出生したものであり,前件調停が成立した平成21年□□月□□日の時点で,抗告人が,Fの妊娠を認識し
ていたとはいえないから,上記主張は採用できない。
したがって,抗告人がG,I及びJに対する扶養義務を負うことを前提に,その分担すべき婚姻費用額を算定すべきである。
ウ また,上記2の認定事実によれば,前件調停が成立した平成21年□□月□□日当時,長男は10歳,二男は7歳であったことに加え,
相手方が,心療内科に通院していたことから,前件調停においては,相手方が無収入であることが前提とされていたものと推認される。
しかし,本件申立てがされた平成26年□月□日の時点では,長男は14歳,二男は12歳であり,長男及び二男を養育する必要から,
相手方の就労が困難であるとはいえない。また,上記2の認定事実によれば,相手方は,精神疾患が平癒しているとはいえないものの(乙4,11)
,不定期ながら託児の仕事を請け負って収入を得ており,稼働能力がないとはいえない。
これは,前件調停の成立後,当事者が前提としていた相手方の稼働能力の点に変更が生じたものであるから,婚姻費用の分担額の減額を
認めるべき「事情の変更」に該当するものである。
そして,相手方は,精神疾患が平癒したとはいえないこと,抗告人との同居期間中は基本的に専業主婦であったこと,平成26年□月の
本件申立て当時44歳であったことを考慮すると,相手方には,平成26年賃金構造基本統計調査報告第3巻第13表「短時間労働者の年齢階級別
1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」産業計・企業規模計・女子40歳〜44歳の年収額119万9582円(1時間当たり
の所定内給与額1023円×1日当たりの所定内実労働時間5.4時間×実労働日数17.5日×12か月+年間賞与等3万9500円)の半額程
度(60万円)の収入を得られる稼働能力があることを前提に,抗告人が分担すべき婚姻費用額を算定すべきである。
東京都港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所 弁護士河原崎弘 03-3431-7161