相談
私(32歳)には、妻(31歳)、子供(2歳)がいます。結婚して5年です。年収は、400万円です。
私は、不貞行為(浮気)をしました。妻は、興信所を依頼し調査し、私の不貞行為を知りました。
私は、妻の実家に呼ばれ、叱責されました。 妻の実家で、私は、謝りましたが、妻の父と妻に殴られ、誓約書(下記)を書かされました。
誓約書〇〇 〇子 殿 私 〇〇 〇〇男は、次の通り誓約する。 1 私は、自己の不貞行為を認め、謝罪する 2 私は、自己の不貞行為の慰謝料、財産分与、養育費として、貴殿に対し、今後20年間にわたり分割で、合計金3000万円を支払う。 3 私が再度不貞行為をした場合は、慰謝料、財産分与、養育費として、上記金額の2倍を支払う。 4 前条の支払いを遅滞した者は期限の利益を失い、そのときの残金にそのときから年20%の割合による損害金を付加して支払う。 2011年〇〇月〇〇日 住所 氏名 印
その後、一時別居し、同居しましたが、妻とはうまくいきません。妻は、また、興信所に依頼し、私を尾行しました。私は、軽い気持ちで、このときは、わざと、女性とホテルに入りました。このときは、私は、女性とは肉体関係を持ちませんでした。
妻は、怒り、今度は、家庭裁判所で離婚調停の申立をし、現在調停をしています。
妻は、私が「誓約書での約束を破ったから、再度の不貞だから」と言って、6千万円を請求しています。この念書は、有効でしょうか。夫婦の財産としては私(夫)名義の預金500万円あります。
自己破産をすれば、債務が免除されますか。
男性は、弁護士会を訪れ、法律相談を申し込みました。
回答
このような文書が、そのまま効力は認められにくいです。 殴られた状態で誓約書を書いたのですから、脅迫に基づく取消しを主張することができます(民法 96 条 1 項)。
さらに、3000万円が、適正に計算した慰謝料、財産分与、養育費の合計額から余りにも離れた金額(3倍を超える)なら、この契約は公序良俗に反し無効です。
さらに、誓約書を書いた際、あなたには、真実は支払意思がなかったとして、この種の契約は、心裡留保で無効 とも言えます。 破産法
他方、取消も無効も認められない場合は、破産法253条により、 自己破産申立をし、免責決定を受ければ、養育費、財産分与の一部を除き、債務が免責される可能性があります。
ただし、妻に対する暴力などがあると、「悪意の不法行為」に該当し、免責されません。
もちろん、養育費の将来分は、免責されません。しかし、妥当な金額を支払うという貴殿の希望には反しません。
結論として、第1に、「脅迫による取消し」、次に、取消に応じてもらえない場合は、「自己破産」すると、説明してください。 そして、慰謝料として300万円、財産分与としてと250万円(預金の2分の1)、養育費として月額5万円程度で調停を成立させるとよいでしょう。
判決
- 千葉地方裁判所佐倉支部平成22年7月28日判決(出典:判例タイムズ1334号97頁)
被告は原告に対し,平成20年3月以降20年以上前に離婚した元妻と関係した慰謝料3000万円を一貫して要求して原告方に押しかけ深夜まで 長時間怒鳴って原告の顔を殴り,深夜の利根川河川敷に連れ出し竹刀で殴打し包丁の箱を指すなどの暴行脅迫を繰り返し,このような脅迫の開始から本件公正証書作成ま での期間が3か月半ほどあるとはいえ,執拗に同一内容の脅迫を続けていたものであって,一時的中断も原告が警察に相談して警察が介入した結果に過ぎず,その後も同 年6月下旬から同一内容の脅迫を再開して本件損害賠償債務を承認する本件公正証書を作成させ本件土地建物に抵当権設定とその登記がなされたものであって,これを全 体として見ると,上記認定のような被告による長期間にわたる一貫した強迫行為により原告を畏怖させ,原告の自由な意思形成に重大な影響を及ぼし,その結果被告にい われるがままに慰謝料3000万円を前提とした本件損害賠償債務を承認する本件公正証書作成・本件土地建物の抵当権設定とその登記をしたものであるから,本件損害 賠償債務を承認する原告の意思表示は,被告の強迫によって形成された瑕疵ある意思表示であって,公正証書作成の手続を経て原告の意思が公証人によって確認されてい るものの,これをもって強迫状態から脱したとはいえず,被告の強迫による瑕疵ある意思表示であるといわざるを得ない。
原告により本訴状をもって,上記強迫による本件債務承認行為を取り消されたので,本件公正証書は効力を持たず,これによる強制執行は許されないし,また本件抵当 権設定も効力がなくその旨の登記の抹消も免れないといわざるを得ない。