会社代表者の死亡で会社と個人の債務はどうなる

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2013.11.8mf更新
弁護士河原崎弘


質問
父が末期癌で入院しました。 本人は仕事に復帰するつもりでおりますが、医師の説明によると 余命は半年以内だそうです。
父は、会社を2つ経営しており、現在、この不景気の中、かなりの 経営難に陥っているそうです。母は主婦で、私は○○社、妹は△△社で働いております。
私たちには、次の点が心配です。
  1. 一つの会社は、不動産関係の仕事、これは、父がほとんど一人でやっている ような会社なので、さほど、問題はないかもしれません。ただし、取引途中の不動産があり、これから引渡し、登記などをする必要があります。

  2. もう一つの会社は、水処理の会社で、ほとんどベンチャーのような仕事です。 代表取締役は父ですが、入院している今、人に任せてあります。資金的にかなり厳しく、かろうじて黒字決算です。
    この会社は銀行借入が 6000 万円ほどあり、父が保証人となっています。資産も同程度あります。
    親が債務を負ったまま死亡した場合、私たち残された家族が債務を相続することになるのでしょうか?

  3. また、父は、個人でお金を 1000 万円ほど借りています。私たち家族に 返済の義務はあるのでしょうか。
    ちなみに、私の家の財産は、私たちが住んでいるマンション(時価 3500 万円)だけです。貯金も治療費にほぼ当てています。

  4. このような状況の中、もう一つ、父の会社は、バブル時代に、○○○○リゾートというハワイのリゾート 開発にかかわりました。 10社ほどで共同開発したものと思われます。しかし、うまく行かず倒産しました。
    その件で、一緒にそのリゾートを開発した父の会社および保証人である父個人を含む約10名(約10社)が 東京の裁判所で被告として裁判になっています。 これはもう何年も前から弁護士に依頼し、裁判が継続して います。
    このような状況で、父が死亡した場合、残された 家族に、なにか義務が発生しますのでしょうか?
回答
  1. 不動産取引は、事情を聴き、契約通りに履行すれば問題はないでしょう。 問題はお父さんが死亡した場合、会社の代表者を選ぶ必要がある点です。これは、次のいずれかの手続きでできます。 小さい会社の場合、手続き的には、書類を作成するだけですから、上記 1 の手続きで、代表者選任はすぐできます。しかし、面倒なら、お父さんが生きているうちに、お母さんも代表者にしておいた方がより便利でしょう。登記手続きもすぐできます。

  2. お父さんが 保証債務を負ったまま死亡した場合、残された家族は、相続放棄しない限り、 保証債務を承継(相続)します。
    現在、会社の経営を実際にやっている人が信用できる人なら、会社の全株式を、その人に譲渡し、その代わり、債務を引き受けてもらったら、どうでしょう。債務引受には、免責的債務引受(従前の債務者の責任はなくなる)と、重畳的債務引受があります。免責的債務引受は、貸し手である 銀行の承諾が必要です。
    その人が信用できる人なら、会社の債務を自らの責任で返済するでしょう。
    あなた方は、株式を手放す代わりに、煩わしい債務から開放されます。株式の譲渡価額は、会社の資産と負債が、ほぼ、同額なら、安い金額でよいでしょう。

  3. 相続放棄しない限り、相続人は債務を承継します。あなたの場合、債務より高額なマンションがありますから、相続し、最悪の場合は、マンションを売ったらよいでしょう。
    親の債務が大き過ぎて支払えない場合は、相続放棄をするか、限定承認をするしかありません。

  4. 訴訟上の地位は、父が死亡しても会社が存在しています。問題は代表者がいないことです。このような場合は、当事者の請求で裁判所が特別代理人を選任します(民事訴訟法35条、36条)。従って、裁判が煩わしいのなら、何もしなくても大丈夫です。当事者が会社ですから、あなた方が責任を負うことはありません。しかし、裁判で、会社が負けると、保証人も責任が発生することを考えると、やはり、従前の代理人(弁護士)に依頼することが得策です。10社の責任ならあなたのお父さんの会社の負担部分はたいした金額ではないでしょう。
    保証人として父親が死亡時点で負った債務(死亡時点での会社債務)は相続により、あなた方が承継します。不安なら相続放棄をするしかありません。

東京都港区虎ノ門 3-18-12-301(東京メトロ神谷町駅1分) 弁護士河原崎弘 3431-7161
登録 2009.6.17