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神は沈黙せず



はい、山本弘さんです。
久しぶりに、しかも大人を含む全年例層向けに書かれている、この本を読んで思ったのは、

「ああ、あのころ感じた思いは幻じゃなかったんだなあ」
と、いうことでした。
思い出の中で、過剰に美化されたりしてたわけじゃなかった。ということで。

私が最初にこの人の作品に触れたのは高校生のころ、角川の「妖魔夜行」という
作品シリーズでした。
説明しておくと、妖魔夜行シリーズは、テーブルトークRPGを中心に活躍していた
ゲーム集団「グループSNE」が、そのTRPGワールドの一つとして生み出した世界観を
シェアワールドしてエピソードを重ねていっていた小説シリーズでした。

私は高校生くらいのころから、「なんか どの小説を読んでもピンとこなくなってきた」
ような感覚を感じていて、ただその中で、この山本さんの書いた妖魔夜行の小説は
群を抜いて気持ちよく読めていた記憶がありまして。
そのルサンチマンに彩られた、エモーション溢れる叙述文は、リーダビリティもアブ
ソープションも異常に高くて、当時の私には本当に気持ちよく読めていたのです。

無駄にばら撒かれる情報量の数々も、「前頭葉マッサージ効果」とでも言いましょうか(笑)
映画やアニメにおいてCGを多用して作った、「隅々までよく動く」系のフィルム、あるいは
シューティング・ゲームで言うところの弾幕系、のような魅力がありました。
(私にはあれは、「リアリティを演出するため」の物にしては、かなり過剰であるように
思われます(^^;))


私こと、藤海が2004年の上半期に書いていた小説(タイトルは「The Wintering Buds.」)は、
テーマが『高校時代の自分に捧ぐ』といった感じの物だったため、文体や空気感などに
あのころ感じた感覚を甦らせようと、(記憶の中の)山本弘さんのスタイルをイメージし
ながら書いておりました。

で、この「神は沈黙せず」を読んでみたら、山本さんのそういった作風が全く変わらずに
残っていたので嬉しくなってしまいました(笑)
同時に、私の変わってしまった部分、 The Wintering Buds. の中の山本的でない部分を
強く意識させられもしたのですが……


私の話はいい。
この本の感想です。
えーと。

一般的にこの本は「時間を忘れて一気に読み終えました」みたいな書評が多いのですが……
確かに、先に言ったように、それだけのリーダビリティもアブソープションもある。
しかしそれでも、私はこの本はどちらかというと、朝の通勤電車の中で毎日 一章ずつ
読んでいく系の本だと思います。

一つには、原稿用紙1200枚クラスの長さは、一度に読むには長すぎるということ。
二つには、それだけ長いと起承転結のライジング・カーブがゆるすぎて、「えー?! ねぇ、
まだ来ないのー? クライマックス」という気分になってしまって、段々ダレてくる、と
いうこと。
そして三つめは、エモーションが強すぎて、それ一色に全編が塗りつぶされてしまっていて、
読んでいて一調子な感じがしてくるということです。
段々疲れてくる、というか、あちこちの感覚が麻痺したようになってくるというか。


部分部分は激しく面白い小説なんですけども。
私はいらいらして、途中で先に結末だけ読んでしまいましたよ。ミステリの文法で進ん
でいくストーリーなのに(苦笑)

ただ、その後あらためて途中だった続きを読んでみても十分楽しめますけどね。
それぐらい盛り沢山な小説だと言えるかもしれません。

2004.10.03.