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夜のピクニック



ああおもしろかった。
やっぱり恩田さんはお話がうまい。
そしてこの作品は、恩田作品の中でも、1・2を争ってエンディングが気持ちいいお話
でした。
はい、よかったです。素直に。
この人の一方の傑作ができたと思う。


この人は、一般的には「ミステリ的な文法の中でお話を作っている作家」という
位置に分類されているのだと思うけれど、実際には謎解きの爽快感が成功している
作品は、たぶん「木曜組曲」位なのではないだろうか。(まだ全ての作品を読んで
みたわけではないのですが……すみません)
むしろ、謎が解かれることによって「あれっ? これだけ気を持たせておいて、そんな
真相だったの?」という気持ちになってしまったり、解明された理由が「本当に
そんなにうまくいくかなぁ?」というような物が多い気がする。


それはつまり、この人の作品の持ち味が、謎が深まっていく過程や、「非日常的・
超自然的、な 『何か』がじわりじわりと自分達の生活圏の中に侵入してくる感じ」
の中にこそあったということなのだと思う。
そして、この人は言葉も綺麗で心象風景を書き記すのも上手な人だから、そういう
ゾクゾク感を表現させると本当にうまい。

のだが。
それだけの序盤中盤の『ゾクゾク』をさらにひっくり返すような「オチ」というのは
なかなかやっぱり、難しいのだろうか。あるいは「なーんだ」感すらも意図的な物
なのか……


そういう意味では、この人は「ミステリ」というよりは、ホラーや(広いの意味での)
ファンタジー、あるいはSFといった「不思議なお話」という物を愛している方なの
だと思う。
なので、私などは「謎が解明されないままに物語を解決してしまう」ような、純然
たるホラー作品にしてしまった方が、いっそすっきりするのでは? と、思うことが
よくあった。(すごく好きな空気だっただけに……!)


……で、この作品。
ホラーなゾクゾク感はほとんどなく、謎解きな要素もほとんどない。(と、いうか
ストーリーのかなり早い段階で結末は分かってしまって、そこまでどうやって
辿りつくのか、を楽しむストーリーだと思う)そして、大した出来事も起こらない。

なのに、すごくきもちよく読み終われる。
登場人物の、回想や身の上話に付き合って、心象風景に心地よく揺られている
うちに、気持ちのよい解決に運んでもらえる。
全体を覆うようなゾクゾクした空気がないぶん、作者のストーリーテーリング
能力がいかんなく発揮されたということなのでしょうか。
心象風景能力とか。


あと、個人的にはメインの主人公が女の子だったのもポイント高かったかな。
「ネバーランド」とか「月の裏側」とか、男の人がメインを張ると、どうも
気持ちよく感情移入しきれなくなる。
なので一読み手としては、この人には主人公は女の子にする、ということに、
できればもっとこだわって欲しいと願っていたりもするのだ。

2004.09.26.