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 中国を自転車で走ろう。

 そう思い立って、ふらりと出かけたのは1995年の夏のことだった。

 ルートは内蒙古自治区の包頭(ぱおとう)から呼和浩特(ふふほと)の間、約150キロだ。ルート上には、外国人が勝手にうろうろできないことになっている未開放都市が含まれているため、本当に実現できるのか若干の不安を抱えつつ、7月28日、私たちは日本を後にした。

 大阪南港から上海へ船で入った私と友人西野は、上海からウルムチ行の火車(日本で言う汽車)に乗って、大陸を西へ西へと進む。車中二泊三日の旅は兵馬傭で有名な西安を越え黄河の上流へと遡っていく。私たちは蘭州という街で下車。ここから北東へ回っていく火車を捕まえて、自転車旅行の出発点である包頭へと向かうのだ。

 中国で火車の切符を手配するには随分と時間と根気が必要だった。硬座と呼ばれる指定券の無い座席は別にして、寝台席の硬臥と軟臥は全席指定にもかかわらず、始発駅でないと切符が発行されないのだ。発券状況がオンラインで繋がっていないからである。一時間やそこらの乗車ならともかく、一泊二泊が当たり前の列車の旅では、指定席が取れるか取れないかでは大きな違いだ。自転車旅行を前にして、無座(指定席ではないこと)の椅子に座りっぱなしで車中数泊し、徒に体力を消耗させることもなかろう。

 結局、包頭までの切符を手に入れるのに、丸三日かかったのだった。


 8月6日夕方、包頭に着いた私たちは、まず市街地図を買ってから宿を取り、出発前にできる準備をしておこうと考えた。主な準備項目は四つある。

・換金
・自転車を手に入れる
・『外国人旅行証』の交付を受ける(未開放都市に入るために必要な書類)
・移動中の食料入手

 この中でも書類の交付が一番の心配だ。何日も時間がかかるようでは、先の予定に響いてくる。とりあえず商店が遅くまで開いているのを幸いに自転車を買っておこう、と話しつつ、包頭賓館に宿をとった。

 ところがこの宿、蘭州の宿よりも遥かに高い値段設定で、外国人料金と思わぬ高額な保証金を要求され、私たちは文無しになってしまった。あわててTCの換金のために銀行を探すが、既に営業時間を回っている。

 わたしの手元には四角、西野も二十元少々しか持っていない。今晩の食事を摂るのが精一杯だ。銀行への道を教えてもらったホテルのドアボーイですら、わたしがあらゆるポケットをさぐっても四角しか持っていないのを見て、顔をくしゃくしゃにして「うひゃひゃ」と笑ったくらいなのだ。とても新品で一台三百元から四百元もする自転車を買える状態ではない。

 準備は明日に持ち越しとなった。呼和浩特までの距離を考えると、午前中にはぜひとも出発したいものだ。

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