1.弁理士とはどういう資格ですか?

 のっけから情けない話です。初対面の人と出会って自分の職業を紹介した経験からすると、たいていの人は「弁理士」という存在を知りませんし、何分か時間を費やして説明してもなかなか理解してもらえません。弁理士は、国家試験で与えられる資格の中でいちばん人数が少ないそうですから、一般の人の周囲に弁理士がいる確率は非常に低いことが影響しているのでしょうか。また、弁護士や医者は一般の市民を対象としますが、弁理士が(現在のところ)主に対象としているのが企業のエンジニアであるからでしょう。
 厳しい言い方をすると、マスコミも弁理士という存在を余り知らないように思われます(知らない理由の一端は我々にも責任があると思いますが)。近年、知的財産権に関する記事が新聞、雑誌を賑わせていますが、コメントを求められるのが「知的財産権に詳しい○○弁護士」であって、弁理士が登場する機会はほとんどないに等しい状態にあります。
 一般の人になじみのない弁理士の職域については弁理士法という法律に定めてありますし、この法律には弁理士以外の人が行ってはいけない(罰則まであります)事項まで定めてあります。しかし、そんな堅苦しい話をするのが本稿の目的ではありませんので、ここでは非常にアバウトな表現をしておきます(いずれ、連載を読んでいただければその大体の輪郭はつかんでいただけるでしょう)。つまり、弁理士とは、特許庁に提出する書類を人さまから金をもらって作成できる唯一の職業である、と。
 「なんだ、結局のところ行政書士と大差ないではないか」と思われる方も多いでしょう。実際のところ、弁理士は行政書士の登録ができます。しかし!(ここは強調しておきたいところです)弁理士が弁理士たるゆえんは、法律的知識のみならず技術的知識を十分に生かせる職業である、という点にあります。具体的には、特許・実用新案の出願をするには、自分で製作した機械などの現物を特許庁に持ち込むのではなく、その要旨を文章で(これがいちばん面倒くさい)表現し、書面、および必要ならば図面を添付して出願する必要があるのです。この書面作成の段階で、法律的知識と技術的知識を総動員し、できるだけ発明者に有利な形での権利取得を考えた書面作成をする事が、弁理士の最も基本的でかつ最も重要な業務であります。ですから、弁理士の業務は法律と技術の総合芸術とでもいえるものかもしれません(この言葉は私が勝手に名付けました)。言い替えれば、弁理士は特許庁に対して法律という共通言語を用いて技術を説明して、発明者が創作した発明の最大限の保護を図り、一方、発明者に対して発明者の頭脳の中にある技術に法律的な肉付けを行って、特許庁との手続きを円滑に行う 職業です。
 ただ、技術畑の人にとっては法律は縁遠いものであり、法律畑の人にとって技術は根っから嫌いなものであるかもしれません。しかし、それだからこそ弁理士という職業の専門性および独自性があるのではないか、と密かに自負しています。


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