ちょっと気になる中世
ー中世の北欧は深くてアヤシイー

(第六話)中世の北欧は深くてアヤシイ

 ナンパ、こましはお手の物……オーディン神についての考察

 「中世」といえば、お城、騎士、お姫さま、十字軍、救世主、大聖堂……。でもって、ちょっと暗いかなあなんて言われておりますが、明るく能天気な中世(それは北欧だ)の英雄たちについてお話ししたいと思います。それは今まで誰も言わなかった、筆者の独断と偏見です。

 北欧、スカンジナヴィアの神話にオーディンという神がいます。どんな神かということは後回しにして、彼はこんなことを言った(らしい)と伝えられています。

「男も女には不実なもの。偽りを心に満たしながら、口はきれいごとを語る。賢い女もそれにはだまされる」(エッダ・グレティルのサガより)

 どーです? こういうやつ身の回りにいませんか? このことばは、八世紀から十三世紀にかけて成立した「エッダ」という神話と英雄伝説の物語の中にあります。

 オーディン神がなじみでない? そうだった、彼は地方によっていろいろな呼び方をされているのですが、そのうちの一つウォーディンは、実はwednesday(水曜日)の語源となっています。ウォーディンの日というわけです。エッダの成立した時代はヴァイキングが活躍した時代でもあります。

 オーディンは少々喧嘩っ早い、勇猛な戦士の守護神であり、魔術の神でもありますが、女の心の機微を知るまでに随分苦労したようです。ある女性に誘われてこっそり夜出かけたものの、だまし討ちにあいかけた挙げ句に、彼女から毒舌を浴びせられたりなんかもしています(ほんとに神かい?)。

 エッダの中でも、「オーディンの訓言」という章は痛快です。女のおしゃべりは信用するな、気の利いたことを喋れないんなら黙っておれ、人たるもの死を迎えるまで明るく快活であれ……オーディンの言葉にはつい「うん、うん、そーなんだよねえ」とつぶやいてしまう説得力があって、でも説教臭くはないのです。(オマケに彼の息子が、究極の美形キャラなのだ!)

 もしも世界の神々とお近づきになれるのなら、私は迷わずオーディンか、その息子バルドルに直行しますう!

 オーディンはこうも言っています。

「女の心を得たければ、きれいごとを口にし、贈り物を惜しむな。娘の美しさをたたえよ。お世辞を使えばそれだけのことはある」

 万能の神が、女心をつかむために贈り物をし、お世辞を言う……なんて涙ぐましいのでしょう。今に通じるものがありますねえ。神様だって苦労してるんだ、世の男性がんばれ! そして女の子は、甘い言葉にご用心(いったいどっちの味方なんだ?)。て、わけで、北欧中世は熱く楽しいですよお。

 次回は、同じく「エッダ」から、とってもひょうきんな女装した神トール(だけど本人はいたってまじめです)をお送りしたいと思います。お楽しみに〜 (1998.3.24)