ちょっと気になる中世
ー中世の愛は明るくてアヤシイー

(第四話)中世の愛は明るくてアヤシイ

 今回は、中世の愛についておもしろ悲しく(ン?)語っていきましょう。どうかしばしの間、おつきあいを。

 いきなりですが、中世ドイツの多くの地方では、荘園領主に「初夜権」! というオイシイ権限があったと言われています。いったいこれは何なのでしょうか? 
ちょっとのぞいてみましょう。

 村の若い男女の婚儀があいととのい、親類縁者、近所の人々が集まってどんちゃん騒ぎをしています。ちなみに、婚約期間は最低四十日となっていたようです。ノアの箱舟で有名なあの洪水の期間と同じです。そのくらい経ったら、ものごとの正否がはっきりするだろうということです。

 季節は麦刈りの終わった秋ってとこでしょうか。長い冬がきてからでは、どんちゃんやってられませんから。村の外からも、笛吹きや道化師がおこぼれに与ろうと来るわ、来るわ。そこへ何やらいかめしい旦那の登場。極上の葡萄酒を携えた従者を伴っています。こころなしか鼻の下を長くしているような。そうです、彼が領主様です。

「無礼講じゃ」とか何とか言ったかどうかわかりませんが、従者に酒をつぎ回らせてご満悦の表情。花嫁は髪に花かんざしをつけて、恥ずかしそうにうつむいています。
……ところで初夜権って、何?

「へっへっへ、くるしゅうない、もそっと近う」(領主)
「りょ、領主様、おたわむれを」(花嫁)
「あ、ぼくのハニーに何を!」(花婿)

……なあんて想像したのは誰だ?

 実は、初夜権とは、新郎が領主から買い取るという形の、婚姻税なのです。幸せなんだからいいじゃないか、っていう、どさくさに紛れた税金です。いやですねえ。清貧を尊ぶキリスト教では、結婚すら必要悪と考えられていた時期があって、それで税金の口実としては十分だったのではないかと思います。

 ところ変わって、もっと北のほう、キリスト教の浸透の比較的遅かったノルウェーとアイスランドに伝わる神話を見ると、こちらの恋愛観はちょっと感じが違います。

「女の心を得たければ、きれいごとを口にし、贈り物を惜しむな。娘の美しさをたたえよ。お世辞を使えばそれだけのことはある」      エッダ・グレティルのサガより 北欧の神オーディンの訓言のひとつです。オーディンは地方により、ウォーディンとかヴォータンとか呼ばれ、水曜日(Wednesday)というのも、オーディンの日というのが語源です。万能の神が、女の心をつかむために贈り物をし、お世辞を言う……なんて涙ぐましいのでしょう。神話と言っても、伝承という形で残っていたものが書き記されたのは中世なので、中世の人々の人生観、世界観が十分に反映されていると考えていいと思います。八世紀から十三世紀頃成立したというのに、今に通じるものがありますねえ。神様だって苦労してるんだ、世の男性がんばれ! そして女の子よ、甘い言葉に騙されるな。(いったいどっちの味方なんだ?)て、わけで、中世の愛は熱く楽しいですよお。
                                (1997.11.22)

参考文献:
ちくま文庫 中世文学集3「エッダ グレティルのサガ」松谷健二訳