執筆裏話
聴罪師アドリアンの初期設定

(第三話)聴罪師アドリアンの初期設定

 「聴罪師アドリアン」で私の趣味が思いっきり出てしまったのですが、そうです。私は「薔薇の名前」や「修道士カドフェル」というような修道士の話が大好きなんです。さて、今日はアドリアンのキャラクターの誕生秘話です。

 最初、アドリアンは「ナンパで型破りな翔んでる司祭」という設定だったのです。
そしてコメディ・ホラーを書きたかったんですが、どうも私の作風に合わないと言われて……(担当氏にですが)それでいろいろ考えて路線を変更し、「西欧中世の雨月物語」を目指すことにしたのでした。しみじみとしたホラー。そういうわけで、アドリアンが最初の計画とは正反対に近い性格設定になってしまいました。

 性格が変わっていちばん困ったのは剃髪の問題。

 ナンパでいい加減で型破りだからこそ剃髪しなくてもすんだのに、まじめな司祭となるとそうはいかないので、彼が剃髪していない理由は何かと懸命に考えました。

 いっそ剃髪については触れないで通り過ぎようかとも思ったんですが、担当氏が「それでは読者が納得しない」と言うので、「それなら剃髪させましょう」と言うと、「それもだめです」と。どーすりゃあ良いんだよ、と悲しくなった私ですが。これをどう処理したかは、まあ、本文を読んでいただければわかります。

 しかし、アドリアンが剃髪していたら、イラストを描かれるなるしま先生がとても困っただろーなあ、とイラストを見てから思いました。美形はどんな髪型でも美形だと思ったんですけどね。邦画「ファンシィダンス」ではモッくんが丸坊主でも美男子だったし、映画化された「薔薇の名前」では、若い修道士アトソンは頭頂を剃髪していても美青年だったので、「剃髪させましょう」と言ってみたのですが。しなくてよかった。

 アドリアンの性格設定が変わってもうひとつ困ったこと。それは、ビアンカとの関係が全然進まないことです。ピエモスというライバル役を動かしていろいろと刺激は与えているんですが、そのたびにアドリアンが「誠意を示す努力を怠ってはいけない」とか、「真に愛し合っているのでなければいけない」とかきれいごとを並べてピエモスに説教をするので、ますます手が出しにくくなってしまうというジレンマ。初期設定では、初対面でキスもしちゃうような軽い男だったのになあ……。

 こうして見ると、今まで書いたキャラクターの中で、いちばんオクテでガキんちょだった「マスカレードの長い夜」のフォルカがいちばん手が早かったということになります(それでもキス止まりですけど)。

 ともかく、話が思いきりシリアスになってしまったので、アドリアンは今日もストイックな男を演じています。こらこら、見つめ合って終わるなあ……っ。ふう。

 というよーなわけでアドリアンとビアンカが急接近するのは決まって悪霊との対決の時。どさくさにまぎれて……と言うような気もしますが、せいぜい、暴れていただきましょう、悪霊&ピエモスくん。                  (1997.12.6)