「1、2、3、ダァーッ!」とビンタ・パフォーマンス

 「ダァーッ!」という雄叫びと伴に、拳を高く突き上げるという猪木の姿は以前から見られる。いわば猪木の勝利のポーズであった。
 それが「1、2、3、ダァーッ!」として生まれ変わったのが、1990年の東京ドームである。鶴田、谷津、天龍、タイガーマスク(三沢)といった全日の選手が出場、北尾がデビューした2度目のドーム大会で、満員を目標としたケロちゃん(田中秀和リングアナウンサー)が「6万人でダァーッ!を」と呼びかけていた。
 猪木は坂口と組み、橋本、蝶野と対戦した。試合前、橋本が「時は来た」と言い、猪木は「もし負けたら・・・」というアナウンサーのインタビューに「闘う前から負けることを考えるやつがいるかよ」とビンタを食らわした。
 橋本の容赦ないキック攻撃に苦しめられ、何とか卍固めで蝶野を下したものの、もはや全盛期の猪木の姿はなかった。
 そして試合後、ケロちゃんの要請を受けてマイクを持った猪木は、鼻血を流しながら「彼らも強くなった。今日は立っているのがやっとです」と言ってしまった。そして「ご唱和願います。1、2、3でダァーです」と音頭を取った。これが大受けして猪木のパフォーマンスとして、新日本の締めとして定着した。
 私は、もう昔の猪木ではないと覚悟して猪木の試合を観ているのだが、素晴らしい闘いをしてくれたときは、思わず、昔のままの猪木じゃないかと思ってしまうが、試合後これをやられると「あー、やっぱり・・・」と思ってしまう。しかし、試合後でなければ、大好きなパフォーマンスである。
 ビンタ・パフォーマンスは、予備校に講演に訪れた猪木に予備校生が「受験に合格するように気合いを入れて下さい」とビンタを頼み、猪木がこれに応えた。その映像がテレビで報じられ、予備校生は受験に合格したというエピソードもあって、またたく間にファンの間に浸透した。
 私も気合いを入れてもらったことがあるが、まず猪木が自らに気合いを入れ、手加減せずに殴るので、ものすごい迫力だし、かなり痛い。でも、大勢の人を殴る猪木の方が大変だと思うし、それでも手を抜かないというところに感動する。